DJ KYOKOと言えば“エレクトロ”の人だと勝手に思っていた。ミックスCDシリーズとして異例の高セールスを記録した『XXX』4部作は、旬のテクノやエレクトロが詰まったものだったし、デビュー当初からの盟友であるデックス・ピストルズやロウブロウズらとエレクトロ・ムーヴメントを牽引してきたイメージもあったので、最近クラブの現場にあまり足を運ばなくなったおっさんがそう勘違いしてしまっていたのも少しは同情の余地があるはずだ。が、DJ KYOKOの最新ミックスCD『Time’s Fool』は、これがまーーーーったくエレクトロではない。例えるならなんだろう、ファンキーなテック・ハウスを得意とする英国ハウス・シーンの良心ラルフ・ローソン、あるいは北欧の〈ムード・ミュージック〉周辺を思わせる、ディープでいながら、強烈な中毒性を持ったDJミックスが展開されているのだ。腰にまとわりつくような淫靡なベースライン、いちどハメられたら逃れることのできない中毒性の高いイーヴンキック、思わず「ひょー!」と声を上げたくなる男前でクールな切り替えしや展開……、僕はいまやすっかりこのミックスの虜で、自宅でほぼ半裸状態となり、大音量で聴いては踊っている。
収録曲もツボをついている。アナログ機材の音に徹底的にこだわったテック・ハウスを展開するディスコ・ナイトリスト、ヘンリック・シュワルツとジェシー・ローズによるブラック・ローズ、テッキーなブロークンビーツを得意とするベン・モノ、ベース・ミュージックとハウスを繋げるUKの注目株ゾンビ・ディスコ・スクワッド、奇妙なテイストのUKベースで知られるマーティン・ケンプ、さらにはドイツの最先端のテック・ハウスなどなど。様々なフィールドから集められた先鋭的な楽曲がDJ KYOKOというひとつの線で結ばれていく様は、「お見事!」と言うほかない。『Time’s Fool』を聴いているせいで僕はいまクラブに行きたくてしょうがない。しばらくクラブから遠ざかっていたおっさんのハートにまで火をつけてしまったDJ KYOKO。彼女の最新インタビューをさっそくお届けしよう。
Interview:DJ KYOKO
――ご本人を目の前にして言うと、かなり嘘っぽいかもしれないですけど、最新作の『Time’s Fool』、めちゃめちゃ好きでした。
かなり嘘っぽいですねー(笑)。
――いやいや、本当に。ご本人的な手ごたえはいかがですか?
だいぶ気に入ってます。
――おお!! 今回はその新作の内容についてもお話したいんですけど、まずは前作『PAPER TRAIL OF NIGHTS』からおよそ1年ぶりのリリースということで、前作以降、つまり2012年を振り返るところからお話をはじめさせていただけたらと思います。DJ KYOKOさんにとっての2012年とは、どんな1年でしたか?
いい1年だったと思います。『PAPER TRAIL OF NIGHTS』のリリース・ツアーからはじまり、年間通していろいろな場所でDJをさせていただき、とても楽しく過ごさせてもらいました。「いつも楽しく」というのが自分のポリシーなんですけど、幸運なことに、毎年、楽しく過ごすことができています(笑)。みなさんのお陰です。
――素晴らしいポリシーですね(笑)。そんな2012年で印象に残っている出来事などはありますか?
んー、印象に残っているパーティはいろいろありますけれど、2012年に関して言えば、クラブだとSOUND MUSEUM VISIONでDJをすることがとても多かったような気がします。多いときは月に3、4本やらせてもらっていたかな……。SOUND MUSEUM VISIONはパーティによって集まるお客さんもいろいろなので、こちらもやっていて楽しいし、常に新しい刺激をもらいますね。
――そんな楽しくも多忙な1年を送りながら、新作『Time’s Fool』のことはいつ頃から考え始めたんですか?
『PAPER TRAIL OF NIGHTS』をリリースした段階で、もう次作に向かってのことは考えはじめていましたけれど、具体的にいろいろ作業に取り掛かったのは夏過ぎくらいからですかね。
――夏過ぎ! 年に4回という驚異的なペースでリリースされた『XXX』シリーズなど、これまでもかなり早いスパンで作品を出してきましたけれど、今回もまた早かったですよね。年明けのリリースから制作開始まで約半年くらいという。しかもツアーもあったり、DJ出演の数もハンパない中でのことですからね。
そうですね、なかなかすぐでしたね(笑)。
――現在のクラブ・ミュージックのトレンドってすごい速度で変わっているわけですけれど、そうしたシーンのトレンドのスピード感にあわせてのこのリリース・ペースという部分もあるんでしょうか?
いつもは完全にそうなんですが、今回はあまり意識していないですね。新譜が好きなので勿論新しい曲が多いですが、むしろ今回の『Time’s Fool』に関しては、新しいサウンドやスタイルを提示するというよりは、ミックス自体の流れや展開のようなものに重点を置いて作っています。
――ズバリ、『Time’s Fool』で狙ったコンセプト、方向性とはどういったものだったのですか?
ズバリ、売れなさそうなものを作る、ですね。
――!! 売れないもの?
派手な感じではなく、抑制の効いたミックスができたらなーと思っていました。巷ではEDMが流行ってますし、たしかにEDM系はフロアでも盛り上がりますけれど、敢えてそうしたものを入れずに、どれくらいできるのかなって。とことん地味で、暗い路線で攻めたいなーと。
――暗い路線!! どうしてそうした路線でいきたいと思ったんですか?
いまの自分の好みがそういう方向性に向いていることもあるし、いまフロアの主流がEDM系の派手でアッパーなものなので、真逆の路線でいったら面白いかなって。ライセンスなどの関係もあり、最終的には思い描いていたものよりはポップになったなと思っていますけれど。
――EDM!! EDM系はお嫌いなんですか?
いや、もちろん好きなものもありますけれども、いま自分がプッシュしたい音楽ではないと思っています。
――DJの中には同じジャンルのサウンドを長年かけ続けるDJもいますが、DJ KYOKOさんの場合は、変化を恐れないというか、むしろどんどん変わり続けていますよね。変化することに恐れや戸惑いはないですか?
基本的な部分は変わっていないと思っていますが、まったくないですね。わたし自身がいろいろなジャンルのサウンドが好きなので、様々なスタイルのミックスをしてみたいと思うし、逆に何かにずっと固執するほうが窮屈に感じますね。
――前作の『PAPER TRAIL OF NIGHTS』で、すでにそれまでのエレクトロ路線を離れ、ハウスやテック・ハウス寄りにシフト・チェンジをされた印象があったのですが、本作はそれをさらに推し進めたというようにも感じました。ご本人的にはいかがですか?
『PAPER TRAIL OF NIGHTS』に関しては、エレクトロ以外のサウンドを使ったミックスをしたかったという狙いもありましたけど、これまでのひとつの集大成というか、あくまで『XXX』シリーズから地続きな感じで作ったものだったんです。で、今回はそうしたこれまでの一連の流れから離れ、新たなスタートを切ったという感じです。そうした心境は選曲やミックスの流れなんかにも現れているのかなと。