――お2人の音源をiTunesに取り込んだとき、2枚ともトラック名が“トラック01”からの連番になっていて、それぞれの曲が交互に流れ続けるという形になったんです(笑)。
ミッツィー CORNELIUS(コーネリアス)がよくやるパターンですね。一緒にかけるとちょうど1つになるっていう。さぞかし聴きづらかったと思うんですけど、新しい聴き方ですね。2枚買いでも繫がるというアピールにもなる(笑)。
――81年生まれの僕にとって、世代的にど真ん中なのはミッツィーさんのミックスであるわけですけど、フクタケさんの方は新しい音楽を知ることが出来るアーカイブとしての意味が大きいと感じました。
ミッツィー 曲の並びを2人で相談したんですよ、「こっちの方が売れるんじゃないか」って。フクタケさんは、まだ僕のミックスは未聴ですかね。おそらくこの先に聴くこともないだろうと思いますけど、想像でもいいので感想を聞かせてもらいましょうか。
フクタケ 赤坂の某スタジオに行ったときに、いい感じのミックスが掛かっていたけど、この選曲リストを見ると、もしかしたら聴いていたのかもしれないですね。感じたのは、これは売れようとしているなと。女性にモテそうな音というか。チャラすぎず、キャッチーなところをしっかりと押さえていて、日常のBGMにしたくなる感じでしたね。耳障りなく気持ちよく聴ける。
ミッツィー 分かっちゃいましたか。雑貨感覚で聴いてほしいという想いがありますね。
フクタケ IKEAって感じですか。
ミッツィー でっかい倉庫の中から、高いのか安いのか分からないようなテーブルを買う。そんな感覚で聴いてもらえればと。
――では、売れるミックスCDを作るために、〈ユニバーサル〉の豊富なアーカイブの中からどんな曲で構成しようと考えましたか。
ミッツィー 後付けのコンセプトですけど、ターゲットは働く女性に定めているんです。自分にとって、今のJ-POPのど真ん中は何だろうと考えたんですよね。女性の世界でいうと、アイドルとかいっぱいいるんですけど、男性で面白いのは、長い間活動をしていて、セールスの実績をしっかりと上げている方。ファンに対して誠実で、きちんとファンを獲得している。そういった人たちが自分の中でフィットして、今回〈ユニバーサル〉さんと他社さんの音源を使う中で、スガシカオさんとか、山崎まさよしさんはJ-POPの中心という感じがしたんです。
――スガシカオさんと山崎まさよしさんを嫌いな女性ってあまりいない印象がありますね。
ミッツィー それがOL心をいかに捉えるかなんですよ。自分が思うOL心のど真ん中からスタートするっていう。最初の2曲でグルーヴ感、ソウル感のあるものを出せたので、後ろにある泣き歌と称されるものも違った聴き方を出来るというか。フクタケさんのミックスは7インチレコードでやっていて、ライブ感、男の生き様感がありますよね。お互い別ものだけど、共通項はライブミックス。僕の場合は女性の気持ちになるために多少、金玉の1つや2つ抜くことも考えましたからね。
フクタケ ホルモン注射ぐらい打っておかないと。
ミッツィー それぐらいに意気込んでた。売れたいというのはそういうことですよね。フクタケさんのミックスは僕と時代も違うので、綺麗に混ぜるより、毎回聴くごとに振り返らなきゃいけない感覚を重視しているというか。「これでもか、これでもか」と畳みかけるサディスティックな感じがしますね。自分の方が45歳で年上ですけど、それでも分からないグループサウンズとかを入れているんですよ。本来は一枚にまとめちゃダメですよね(笑)。もうケイオスだと思います。
これらが1枚のMIX CDに!
――たしかに(笑)。プロレスラーの藤波辰爾さんも並列になっていますよね。
フクタケ 藤波辰爾さんの曲は洋楽のカバーだけど、どうしても藤波辰爾さんが歌っているということで面白いものとして扱われているんですよ。でも、楽曲としてはかっこいいんです。それを「クラブでかかる曲としてかっこいいでしょ」という切り口で入れていますね。
ミッツィー あと、野坂昭如の“天国”。これは下ネタ的なダブルミーニングがあるの?
フクタケ まあ、歌詞は何かを暗示させるような(笑)。
ミッツィー ディスコパンク歌謡って書いてありますけど、セックスオマージュみたいな感じですか?
フクタケ ありますね。でも、クラブミュージックにそういうセクシャルな要素は必要。そういう夜遊び感は自然と出てくるんじゃないですかね。
ミッツィー インパクトありますね。おそらく、ある程度年齢のいった方が処女を犯すみたいな話ですよね。
フクタケ まあ、そうとも読み取れる。仲畑貴志さんが歌詞を手掛けていて。
ミッツィー コピーライターの方ですよね。割と処女好きなのかな。
フクタケ おそらくはバージンキラー。そう考えると、この歌詞でサントリーのCMとして流れていたってすごいですよね。当時何気なく聴いていたものを改めて聴いてみると、音的にも歌詞的にも深い。それが歌謡曲の良さでもありますよね。再発見の意味も少なからずあると思います。
ミッツィー あとは、フクタケさんは「和物」っていう言葉を嫌がりますよね。
フクタケ あぁ、「和物」っていう響きが古いっていうか。ライトメロウなAOR感のあるものにどうしても寄りすぎなイメージがあるんですよ。そうじゃないということを示すのも、このミックスでやりたかったことではありますね。もっと多様なグルーヴ感が歌謡曲にはあって、歌謡曲の貪欲なところというか、いろんなグルーヴやビートが潜んでいる面白さが1枚の中に凝縮出来ていると思います。歌謡曲のすごくディープな世界に興味を持った人が手に取る一枚として、すごくオススメできますね。逆に困惑して、底なし沼なのか! と戸惑ってしまうかもしれない(笑)。