――講座とはいえ、長年の経験で得てきたそんな大事なことを簡単に伝えちゃっていいんですか?

もちろんです。上の世代の人たちの中には「苦労をしないと・・・」みたいに言う人もいるけれど、おれは全く逆の意見で。ショートカットできるところはショートカットして更に先に進むべきだと思う。例えばあるDJが30年かけてやっとわかったことを1日で学べるなら、それはそれでいいじゃないですか。後輩たちは同じように30年苦労する必要はない。もっともっと先に進まないと。

――今回の講座で生徒のみなさんにもっとも伝えたいことは何ですか?

オリジナリティや変態性の探究ってことですかね。

――変態性って(笑)。

大事なことですよ。この国のクラブ・シーンにもっとも欠けているものはそれだと思っていて。模倣から入ることは重要だと思うけど、それを超えられなかったら意味がないと思う。もっともっと自由な発想で、ぶっとんだものが出てきてもいいと思う。色々な海外のクラブを見てきたけど、日本のクラブの水準は間違いなく高いと思う。昨年、友達がヨーロッパのあらゆるクラブを見て周っていたけど、そいつが日本に帰ってきて言ったのは「やっぱWOMBはすごいね」って(笑)。そういうことって日本にいるとなかなか気付けなかったりするけど、日本のクラブに関わる人たちやアーティスト、オーディエンスたちがもっともっと自信を持って、自分自身を思い切って表現するようになればシーンはもっと面白くなると思う。そして何よりもまずは、音楽やクラブ・カルチャーを楽しむってことが大事ですけどね。それらをより楽しむためには、技術や知識が必要。この講座をやりながら、僕自身も学びたいと思っています。とにかく、まあ、寿司屋ですよ。

――お寿司屋さん(笑)?

寿司屋さんって、まず「魚とは何ぞや」というところから学び、魚をさばく方法、さばくための道具、さばき方、またどういうお店でどういうお客さんを呼び込み、どういうネタを握るか……そういうことを考えると思うんです。また季節によっても趣向が変わってくるだろうしし、日によって順番や握り方、シャリの硬さや量なども変わってくると思う。DJのやることって、そうしたことにすごく似ているんです。パーティに集まったお客さんを喜ばせるってことって、実はトータルなプロデュース能力や細かな専門知識の集積がすごく重要なんですよね。

――なるほど。そうしたことを体得するために、どんなカリキュラムが用意されているのですか?

基本、座学なんですが、ある回はCDJの使い方初級編、次の回はゲスト・スピーカーを呼んでメディア論をやったり、パーティのオーガナイザーを呼んで話をしてもらったり、音響工学の講があったり、でかいスピーカーを使ってMP3やアナログの音を聴き比べたり、いろんなコースを作ろうと思っています。

――おおー、面白そうですね!

自分も学びたいから、自分が知りたいことや訊きたいこともどんどん取り入れていきたいですね。それが現場に必要なことだと思うし。あと企画しているのは「小躍り教室」(笑)。

【インタビュー】DJ MAARがDJ講座を開設。日本のクラブ・シーンを牽引し続けてきた彼の新たなる野望とは? feature130923_dj-maar_8

――なんですか、「小躍り教室」って?

ダンス・スクールまでガチじゃないけれど、フロアでちょっとかっこよく踊れるコツのようなものを学ぶ(笑)。これってクラブを楽しむために、すごく大事じゃないですか。昔、16歳くらいでゴールドに遊びに行って、とにかくそこに集まっている人たちの佇まいというか、ちょっと踊る感じとかがすごく様になっていて、めちゃくちゃかっこいいなって思って憧れたんですよね。ニューヨークに遊びに行った時も、普通のおばちゃんとかもクラブにいるんだけど、本当に普通のおばちゃんなのにめちゃくちゃ踊りが上手くて。ボーっとフロアに立っていたら、「踊らないならそこ(フロア)からどけ!」って突き飛ばされたくらいで(笑)。逆にDJする時も、ちょっとした仕草でかっこよく見せられるコツってあるんですよ。ツマミやフェイダーのいじり方とかで(笑)。そういうこともやっていきたいです。

――だははは、いいですね。すごく実践的ですよね。

下手なナンパを憶えるよりも、小躍りを極めたほうが絶対にモテますよ。小躍りがうまい人が増えれば、結果として日本のクラブももっともっとかっこよくなるし。ディープハウスとかで女の子がいい感じで踊っていたら、完全に5割増しくらいで綺麗に見えちゃいますよね。

――わかります(笑)。そういう意味では「小躍り教室」には男女年齢を問わずに参加してもらいたいですね。

その通りです。