奇想天外な音楽ユニットというのはこういうことだろう。
DJ・プロデューサーの大沢伸一によるソロプロジェクト、MONDOGROSSOと、ラッパーの森、プロデューサーのチョモからなる2人組、どんぐりずがフュージョンし、DONGROSSOなるプロジェクトがスタート。1stアルバム『ANTI SOCIAL SOUNDSYSTEM』が完成し、4月23日(水)に配信スタート。5月21日(水)にはCDがリリースされる。
MONDOGROSSOとどんぐりずが兼ねてより繋がりがあり、過去に共作を発表してきた経緯があり、その活動がきっかけとなって今回の取り組みに繋がっている。彼らが表現したのは、現代に対するアンチの心。世の中に言いたいことを言わんとする強烈なメッセージが、DONGROSSOらしいウィットに富んだ表現で落とし込まれている。今作について、どのように制作を進めたのかたっぷりと話を訊いた。
INTERVIEW
DONGROSSO(大沢伸一×どんぐりず)

みんなが言いたいことを代弁するパンクなプロジェクト
──まず、DONGROSSOがスタートした経緯を教えてください。
大沢伸一:どんぐりずの2人と出会ったのは、2022年にMONDO GROSSOでリリースしたアルバム『BIG WORLD』に参加してもらったときでした。知人に紹介してもらって、自分からお誘いしたんですよ。そこで「B.S.M.F」を作ったんですけど、その制作がすごく楽しかったんですよね。数か月後には「RAVE (HUNGRY DRIVER)」を作ったり、僕のステージに飛び入りで参加してくれたりと、みんなでわちゃわちゃして面白い時間を過ごしたんです。そういうのもあって、1つのまとまった作品を作れればもっと面白いんじゃないかという考えになったんです。それが発端ですね。

──コラボ作が増えていく段階で、何か決定打になるような出来事があったんですか?
大沢:以前、森と僕が〈Red Bull 64 Bars〉に出演して「YAZAWA」という曲を披露したんですけど、そのときにうちのスタジオで擬似パーティーみたいなことをやって、それを映像にしたんですよ。その曲もそうですし、その前に作った「RAVE (HUNGRY DRIVER)」の時点で、リリックに「DONGROSSO」というワードが入っていたので、思えばその頃からDONGROSSOが始まっていたのかもしれないですね。でも、僕としてはわりと自然に3人での制作がスタートしたように感じています。
チョモ:そうですね。最初に「B.S.M.F」を制作したときは緊張しながらスタジオにいきましたし、大沢さんの制作や機材も含め、すべてに衝撃を受けたんですよ。そこから始まって、今ではファミリーとして、一体感を持って制作できるようになって、すごく嬉しいし楽しいです。
大沢:最初はお互いに緊張感があったけど、夜遊んだり、現場で出会うことが多かったからね。そうなるとお互いに酔って破茶滅茶にやっている姿を見せることになるわけなんで、一気に距離が近くなった感じがあると思う。
森:自分としては、そのレッドブルの撮影が大きかったです。あの後にライオン(渋谷のクラブ、不眠遊戯ライオン)でパーティーをやって、そこで飛び入りで「YAZAWA」を歌ったんですよね。まだ曲が世に出る前に。
──3人でいくつもの夜を乗り越えてきたわけですね。
森:そうですね。特に、大沢さんには自分が酔っ払っている姿を見られてきたと思います(笑)。

──そのような関係の中で、アルバムの制作はどう進んでいったんでしょうか?
大沢:これねぇ(笑)。本当に自由な感じなんですよ。3人でお昼ご飯を食べにいって、冗談を言ったことがそのまま曲になったりするケースが意外とあったりとか。
チョモ&森:あるある!
大沢:タイトルが『ANTI SOCIAL SOUNDSYSTEM』なんですけど、DONGROSSOは、みんなが言い出せないようなことを代弁して発信するというパンキッシュな側面を持ったプロジェクトでもあるんです。そこで思い立った「これを言いたい」っていう言葉を起点に制作がスタートすることがけっこうありますね。
森:けっこう日本人感を大事にしているところもありますよね。
大沢:そうだね! 3人とも、自分たち日本人のアイデンティティって何だ? という感覚が良くも悪くもあって、「日本人、しっかりしろ!」という内容の曲もあれば、「俺ら日本人だぜ」っていう内容の曲もありますね。
──そうしたアンチの思想や怒りを作品に落とし込んでいこうというのは、何か3人で話し合ったことだったりするんですか?
大沢:そこは僕の中にけっこうあったんですよ。もともとポストパンクやニューウェーブを聞いて育ってきて、時代に対して自分の考え方を表現する方法を探し続けてきたんですけど、DJをやりながら歌うってことはなかなか想像がつかないじゃないですか。そうなると、誰かと一緒にやりたくなるわけなんですけど、どんぐりずと「B.S.M.F」を作ったときに、自分が発言したかったことを形にできるなって思って。みんなが世の中に対して言いたいことを代わりに言っちゃおうよって。DONGROSSOなら、このモヤモヤした世界に対して中指を立てることをシリアスになり過ぎずに発信できるんじゃないかって思うんです。

相反する矛盾を歌うのがDONGROSSOらしい
──そのアンチの表現について、リリックを書くにあたって意識していることはありますか?
森:いや、俺は歌っていたら自然とアンチになっていることが多いので、あんまり意識していないですね。多分、根っこの部分にアンチがあると思うんです。意識していたら出てこなくなるタイプなので。
──それこそアルバムラストの楽曲「MTHRFCKR」なんて、〈ふざけるなよ〉という歌詞をリピートするわけなので、すごくDONGROSSOらしい怒りを感じたのですが……。
大沢:そうですね(笑)。2人に説明した曲の方向性としては、令和のヘッドバンキングができる、めっちゃ遅い曲をやろうっていう感じだったんです。そこにはっきりとしたメッセージ性のあるアイコニックな叫びを入れたいよねって話をして、3人で各々フックを書いたのが曲になってるんですよ。なんか作っているうちに笑けてきちゃって(笑)。特にチョモのパートはリアルで面白いので聴いてほしいですね。なかなかこの曲みたいに言いたいことを自由に言ってるのもないと思うので、1日の終わりにどこかで聴いてスッとしてくれたらいいなって思いますけどね。
森:それ、めっちゃいいっすね。
──それでもただふざけているわけでも言いたいことを叫んでいるだけでもないところにDONGROSSOならではのユーモアを感じます。
大沢:チョモも森も、僕が知っている若者の中で1番知的でコンテクストの中で生きていると思うし、それぞれに違った発想から生まれる言葉があるので、インテリジェンスを感じるんですよ。すごくレベルが高いと思いますね。ここは声を大にして言いたいです。
森:バレちゃいましたか。もうバカなふりするのも疲れてきましたからね。
一同:(笑)。

──一方で「BOUROU」も途中でビートダウンするというか、これも頭を振れるポストパンクなアプローチがカッコいいと思いました。
森:ビートダウンするところは自分のパートですね。あそこはエナジー×3って感じで解放するイメージです。もともと俺もチョモもハードコアだったりロックがルーツにあるので、その側面が出ている感じだと思います。
──そこでいくと「SUKIYAKI」もロックしていますよね。
大沢:そうですね。チョモにも手伝ってもらってトラックを作ったんですけど、あの曲はDONGROSSOを始めようって話をして最初に入ったスタジオでサクッと出来ちゃったんですよ。
──「SUKIYAKI」のタイトルは、坂本九さんの名曲とも関係があるんですか?
森:俺、知らなくて。
大沢:知らんかったんかい(笑)。またそれがいいんですよ。何度聴いていくうちに「SUKIYAKI」でしかないと思うようになってきたので。
森:この曲は最後にチョモが叫んでいるんですよ。
チョモ:ラストの〈くそったれ Japanese〉は自分が叫んでいるんですけど、その後に〈日本 I like you〉って歌っちゃっているところが、まさにDONGROSSOらしいんじゃないかなと。
大沢:本当にそうだよね!
チョモ:そんな反抗期というか、矛盾があるところがDONGROSSOの面白いところなんじゃないかと思います。
大沢:そんな風に言葉から始まる曲が詰まったアルバムでもあります。重要なのは瞬発性ですね。その日に思ったことを歌っているような曲が多いです。
──全体を通して遊び心も伝わってくるしすごくエネルギッシュなアルバムですね。
大沢:そうですね。僕ももういい歳なんで、彼らと一緒のときぐらいしかふざけらんないので助かってます(笑)。10代のときにやれなかったことをDONGROSSOに乗っけているような部分があります。
──ちなみに、DONGROSSOとしてのアートワークはAI生成によるものなのだとか。その辺りにはどんなこだわりがあるんですか?
大沢:これは僕がそうやろうと判断したんですけど、アートワークやアー写にしても普通じゃないことをやりたいと思ったんですよね。そうなったときにAIが1番手っ取り早かったというのがあります。あと、僕自身がAIに対して警鐘を鳴らす部分はありつつも、AIで作られたものを叩く風習に対してはアンチなんです。つまり、アンチ・AIではなくてアンチ・プロヒューマン(人間主義、AIと共存)として人間を肯定しているんです。そんな立ち位置でAIを使っています。
──そういったアートワーク制作は大沢さんが1人で行われているんですか?
大沢:いえ、アレックス・ミッチェルというプロンプトデザインに詳しいアーティストと一緒にやっています。彼は自分が手を施すものとAIのハイブリッドで、どこまで非現実的で面白い作品を作れるか、ということをやっているんですけど、彼が深くDONGROSSOのことを理解してくれていて、クオリティの高いものを出してくれるんですよ。そこから選んだものをどんぐりずの2人に見せて判断してもらうことが多いですね。
森:選ばせてもらっていますけど、結局みんなの判断は大体一緒になるというか。不思議と行き着く先は大体一緒ですね。
──どんぐりずのお2人は大沢さんとの制作を経て、何か新たに得たものや表現できたことはありますか?
チョモ:システムが違うというのは当然あったんですけど、大沢さんの、ぶっ込む力みたいなものをすごく勉強させてもらいました。今までぶっ込みたいけどできないみたいなことが多かったんですよ。特に衝撃を受けたのが「SUKIYAKI」もそうだと思うんですけど、最初のノイズかシンセっぽい音を、全然関係ない歌謡曲みたいなところから持ってきていませんでしたっけ?
大沢:そうね。ネタを使うときも人と被りたくないから、みんなが絶対に使わないソースを持ってきたりとか。
チョモ:そのソースの持ってき方が衝撃だったんですよ。歌謡曲の間奏部分を短くループさせて音を作ったり、それを鍵盤にあてて弾き直して音階をつけたり。そうやって独自の音を曲にぶっ込むんですよね。ここまで大胆に音を足していっていいんだっていう発見があったし、そうじゃないとこういう音になんないんだなって気づきがありました。
大沢:いや、そう言ってくれると嬉しいです。僕もチョモくんから勉強させられる部分は多いし、一緒にやることでDNAの交換が行われていると思うから、本当に吸収させてもらっています。

──DONGROSSOは実際にやっていて、3人に良い作用をもたらすシステムとも言えますか?
大沢:ええ、楽しいことしかないですね。制作についても、森はたまに寝坊して来なかったりするんですけど、それでよかったりするんですよ(笑)。3人揃っていないとできないことではなくて、その場にいなくとも森が発した言葉が曲のテーマになったりするので。本当に不思議ですし、楽しいですね。
──ちなみに、冒頭に話していただいた「お昼ご飯を食べにいって」できた曲というのは、どの曲なんですか?
大沢:「MY HARDCORE VALENTINE」など何曲かあるんですけど、今作に入れられなかった「ANTI SOCIAL SOUNDSYSTEM」という曲もそうです。そして、この曲こそ、僕らにとって渾身の1曲で、これぞDONGROSSOって感じの曲なんです。諸事情でアルバム収録は叶わなかったですけど、ある意味それも面白いというか。ライブでは披露すると思うので、この曲を是非聴いてほしいんです。
森:俺も1番好きな曲です。みんなで歌えるし、みんなが知っているワードですし。なんとかして出せないかって最後まで言ってました。
大沢:まだ諦めてないですからね。この曲が話題になって夏にシングルでリリースできたらカッコいいんじゃないかと。
──そうなると、「ANTI SOCIAL SOUNDSYSTEM」を現場で聴くしかないですね! リリパの予定はいかがでしょう?
大沢:むしろリリパをやりたいので、このインタビューを以て募集したいです。1年間やろうと思っているので、DONGROSSOを呼びたいという方、ご連絡ください!

INFORMATION
ANTI SOCIAL SOUNDSYSTEM
2025.4.23(水)
DONGROSSO
Track List:
1.JAPLISH
2.NIPPON
3.MY HARDCORE VALENTINE
4.ANTI SOCIAL INTERLUDE
5.SUKIYAKI
6.BREAK A HABIT
7.UYFB
8.DRUG
9.BOTTO NIGHT
10.BOUROU
11.HUNGRY DRIVER with RHYME
12.CHAS with RHYME
13.BSMF
14.MTHRFCKR
15.MTHRFCKR(Halfplugged) *CD bonus Track
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