さる2022年7月14日、15日、待望の初来日(BLUE NOTE TOKYO)を果たしたアメリカのヴィンテージ・ソウルバンド、ドラン・ジョーンズ&ジ・インディケーションズDurand Jones & The Indications)。バンドの二枚看板は、陽気でダイナミックな表現力を持つ黒人シンガー、ドラン・ジョーンズDurand Jones)と、ドラマーとしてリズムを支えながら最高のファルセット・ヴォイスでドランと人気を二分するアーロン・フレイザーAaron Frazer)だ。わずか2晩(4セット)の公演ではあったが、全米各地をくまなくツアーして鍛えたバンドの演奏力とエンターティナー性、そして音楽マニアならではのセンスの良さで観客は魅了された。

そんな彼らと、彼らを取り巻く現行のヴィンテージ・ソウル/チカーノ・ソウル・シーンを敬愛し、同年代のアーティストとしてのシンパシーを表明しているのが、日本のソウルバンド、思い出野郎Aチームのリーダー、「マコイチ」こと高橋一(ヴォーカル&トランペット)。来日時、彼らに自らの思いの丈をぶつけるべく、ドランとアーロン、マコイチによる特別対談が行われた。サウンドの秘密への疑問やソウル・ミュージックの社会性に至るまで、率直な言葉を交わし合った貴重なやりとりをお届けする。

特別対談:
ドラン・ジョーンズ&アーロン・フレイザー&高橋一(思い出野郎Aチーム)

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高橋一(マコイチ)  こんにちは。僕は「マコイチ」です。

ドラン・ジョーンズDJ)  はじめまして! (2枚の7インチを見て)これは?

マコイチ 僕のバンドのシングル(“ダンスに間に合う”“繋がったミュージック”)です。プレゼントします!

DJ ワーオ! 超クールだな。ありがとう!

──では、対談を始めましょうか。

マコイチ まず聞きたいのはサウンド作りについてです。日本のレコーディング・スタジオではなかなか再現できないサウンドがあるから。ファースト・アルバム(『Durand Jones & The Indications』2016年)はごく限られた予算での制作だったそうですが。

DJ そうなんだよ(笑)。

マコイチ だけど、僕らの耳には、レアなヴィンテージ機材を使ったリッチなサウンドに聞こえるんです。いったいどんな魔法を使ってあのサウンドを録ったんですか?

DJ アーロンの住んでたアパートの地下室で録ったんだ。それがつまり魔法(笑)。ファーストに関して言えば、アルバムにするつもりもなく、ただ曲を書き溜めてただけだった。バンドを組んで最初の2年は、毎週日曜日に集まってソウルのシングル盤を聴きまくってるだけだったんだよ。そのうち、だんだん自分たちでも曲を書くようになっていった。〈Colemine Records〉のテリー・コールからオファーがあって、そのときにできていた曲をまとめて録ったら、あのアルバムになった。

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アーロン・フレイザーAF) 僕らは〈Daptone Records〉の作品に強く影響を受けている。Daptone〉を設立したゲイブ・ロスが何年か前にこんなことを書いていたんだ。「小汚いものは美しい」って。僕にとっては、その言葉を実現しようとしたことが魔法だった。大事なのは「小汚いものは美しい」だよ。

マコイチ 僕らも〈Daptone〉はもちろん、〈Big Crown〉、〈Colemine〉といったレーベルの作品に漂う、モダンかつヴィンテージなサウンドを真似しようとしてずいぶん東京のスタジオでいろいろ試すんですけど、どうしてもそんな魔法は起きないんです。

AF アメリカ人としての意見だけど、日本の音楽カルチャーは正確さや清潔さにすごくこだわるよね。きれいなものを求めすぎてる気がする。レコードで言えば「VG+(まあまあ)」じゃダメで「Mint(最高にきれい)」しか要らない、みたいなね。アメリカ文化って、もっと荒削りであることを受け入れているんだ。いろんな人種や育ちの人間が一緒にいるから、資質がちょっと物足りなかったとしても、まずはみんなにやらせてみる、ってところから始まるんだよ。

DJ いいぞ、もっと言ってやれ、坊や(笑)。

AF 僕らアメリカ人の歴史から生まれた気質っていうのかな、状況に放り込まれて、何かやらざるを得ないところから生まれる荒っぽさに美が宿るんだよ。つまり、あのファーストの音は、歴史や状況からサバイバルして出てきたものだと言える。

マコイチ レコーディングはみんな同じ部屋で、一緒に「せーの!」でやるんですか?

DJ&AF (うなづく)

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マコイチ 最新作『Private Space』(2020年)でも、そうだったんですか?

DJ そうだね。スタジオに入ったら基本的に別録りはしない。

マコイチ 往年のソウル・ミュージックの伝統を感じつつ、いっぽうでシンプルで洗練されたアレンジも感じます。バンドのアレンジは誰がイニシアチブを取ってるんですか?

AF 僕らみんなでアレンジのアイデアを出し合ってるよ。

マコイチ 同じ空間で一緒に音を出したりアイデアを試したりすることはとても重要だと思うんですけど、このパンデミックでの影響はなかったんですか?

DJ それはもうデカかった。2020年3月22日にシカゴでショーがあったんだけど、あの夜は忘れられないよ。シカゴのダウンタウンに、まったく誰ひとりいなくて、街全部が廃墟になったみたいだった。そのショーが終わって、みんな自分の家に帰り、そこからはもう全米がロックダウン(※2020年4月に予定されていた来日公演も延期)になってしまった。

だけど、離れていた間にも、ギタリストのブレイク・レインが作ったトラックをメールでみんなにどんどん送ってきたんだ。アーロンも送ってきたよな、あれ何てタイトルだった?

AF “Cool Breeze”だね。

DJ そう、それがのちに“Witchoo”になった。

Durand Jones & The Indications – Witchoo(Official Video)

AF 僕にとっても、ロックダウンはすごく興味深い期間だった。最初の3ヶ月くらいは何も曲が書けなかったんだ。バンドではそれぞれ個性の違うメンバーが助け合えるだろ? でも、これからはひとりで音楽を作らなくちゃいけなくなったんだ。そんな時期に、自分の音楽を前に進めようと思って、ピアノでの作曲を始めたんだ。それまで鍵盤の類を演奏したことは一度もなかったから、すごくヘタクソだったけどね(笑)。

でも、そのキーボードでの作業から、『Private Space』に入る“Love Will Work It Out”や“Witchoo”のデモができたんだよ。誰かが言ってた言葉だけど、「ギターの弾き方をよく知ってる人は500種類のコードだけを操れる。ギターの弾き方を知らない人には無限のコードを弾く可能性がある」がある。まさにあれはそういうことだったと思う。

マコイチ 僕らのバンドもパンデミックのなかでショーができなくなってとても落ち込んでいたんです。そんなとき、あなたたちの新作が出て、とても勇気をもらったし、何よりも驚いたのが苦境があったのにバンドとしてのバラエティが拡張され、新境地が感じられたことでした。今の話を聞いて、苦境もさらにバンドの糧になったと聞いて感動しました。作詞にもパンデミックの影響はありましたか?

DJ そりゃそうさ。パンデミックの前はとにかくツアーばかりの毎日だったし、年に100本以上やってた。それがパンデミックで急停止した。でも、俺個人の曲作りに関して言えば、あの期間は今までの日々を振り返ったりするチャンスになった。いろいろ気がついたことが多かったし、曲作りにも大きく役立ったと思う。時間的な余裕が生まれて、作曲にもグルーヴが出たと思うよ。

テキーラ、タバコ、リラックスできるものを用意して、頭のなかに入ってくる電波みたいなものをキャッチする。捕まえたらすぐにボイスメモに吹き込んで、歌詞をメモ書きして、そのままどこかに出かけて歌う。同居してる家族がいるから、午前4時に家のなかではあんまり歌えないからね(笑)。ポーチに出て歌いながら曲を仕上げていったりした。そんなことも楽しみながら曲を書けたのが、俺の自粛期間だった。

Durand Jones & The Indications – Love Will Work It Out(Official Video)

AF 僕の音楽面でのヒーローであるカーティス・メイフィールド(Curtis Mayfield)やギル・スコット・ヘロン(Gil Scott-Heron)は、社会のシステムを変えようとして、かつて“We The People Who Are darker Than Blue”や“Whitey On The Moon”みたいな素晴らしい曲を書いた。だけど今、ニュースを見ていると、世の中は全然変わってないよね。

僕らも2018年に“Morning In America”(※セカンド・アルバム『American Love Call』収録曲。アメリカ社会に蔓延する貧困や孤独を題材にしている)を書いたとき、「もうこんな曲は必要のない時代になってほしい」という希望を込めた。だけど、やっぱり今も社会は変わっていない。だからそこで僕らも気がついたんだ。音楽は物事を変えたりはしない。でも、音楽は人々に力を与えることはできる。そして人々は社会を変えることができるんだ。

マコイチ その通りですね。

AF 僕のソロ・アルバム『Introducing…』(2021年)には、ラブソングもいっぱいあるけど、社会的なテーマを持つ曲もある。世間の状況を鑑みて、リリースを延期することも考えたんだけど、やっぱりそういう曲は必要だと考え直した。毎日普通に起きて仕事に行くために、曲が役に立つことがきっとある。それもまたよい世界を作ることにつながるんじゃないかな。

DJ アーロンのソロでは、俺は“Bad News”が好きだね。すごく賢い曲作りをしているよ。

Aaron Frazer – Bad News(Official Video)

マコイチ 僕も好きです。

DJ この地球という惑星を俯瞰した視点から人間たちに向けたメッセージを歌っている。最高の仕事だよ。

──ラブソングのようにも受け取れるけど、実際はこの病んでいる世界を嘆いているという意味の広がりを持つ歌詞ですよね。

マコイチ 僕らがソウル・ミュージックから学んだいちばん大切なことは、社会の問題に対して立ち向かっていく姿勢なんですよね。なおかつ、それが歌としても美しく聴こえて、踊れる曲としても成立してることも大事。あなたたちにはそれができているし、僕は勝手にパワーをもらってこの数年間やってこれたんです。

DJ そんなふうに言ってもらえるなんてうれしいよ。ソウル・ミュージックにはパーティーも必要だし、ラヴソングも付き物だ。でも、社会的な問題に意識を向けさせるのもソウル・ミュージックの役目だからね。俺たちがやっているのは、そのレガシーを前に進めること。マーヴィン・ゲイの“What’s Going On”がそうであったように、今この時代を反映させることが大事なんだ。

マコイチ まだまだ歌い続けなくてはいけないですよね。何も解決していないんだから。僕ら日本のバンドは、アメリカのサウンドばかりを真似して、精神性を取り入れるところまでなかなか辿り着いていなかった。それに日本のミュージシャンはファンが離れることを恐れて政治的な題材を避ける傾向がある。だけど、これからもあなたたちと一緒の方向を向いて音楽をやっていきたいと思っているんです。

AF 「パンクはアティチュードだ」って言う連中がいる。でも、ソウルだってやっぱりアティチュードだし、生き方の表明なんだよ。

DJ 自分らしさをさらけ出していかないとね。みんなの前で魂を素っ裸にすることをおそれてちゃいけない。それができるようになれば、人に何て言われようが構わない。まずは素っ裸になってみることだよ(笑)。

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Interview, Text by 松永良平
Photo by Miki Yamasaki

INFORMATION

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DURAND JONES & THE INDICATIONS
『PRIVATE SPACE』

2021.07.30 ON SALE【世界同時発売】
■品番:DOC227JCD[CD/国内流通仕様]
■定価:¥2,500+税
■発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
■その他:世界同時発売、解説/歌詞/対訳付(予定)、その他付帯物未定

TRACKLIST
1. Love Will Work It Out
2. Witchoo
3. Private Space
4. More Than Ever
5. Ride or Die
6. The Way That I Do
7. Reach Out
8. Sexy Thang
9. Sea of Love
10. I Can See

詳細はこちらからDL/ストリーミング

思い出野郎Aチーム 出演情報

STARS ON 22

2022.10.09(日)
岡山県 中世夢が原(岡山県井原市美星町)
OPEN 10:30/START 11:30
前売入場チケット(会場駐車場付)¥9,000(税込)/前売入場チケット ¥8,000(税込)
ローソンチケット 【Lコード:63336】 一般販売チケット発売日:2022年8月20日(土)19:00から
出演:思い出野郎Aチーム/水曜日のカンパネラ/toe/YOGEE NEW WAVES/YOUR SONG IS GOOD/and more
詳細はこちら:http://stars-on.jp

KAKUBARHYTHM 20years Anniversary Special Vol.10 Final

2022.11.23(水・祝)
OPEN・START 12:00
前売:7,000円(税込)※全自由 整理番号付き
LIVE:YOUR SONG IS GOOD/キセル/二階堂和美/cero/片想い/VIDEOTAPEMUSIC/スカート/思い出野郎Aチーム/在日ファンク/mei ehara/Hei Tanaka/Homecomings/Ogawa&Tokoro
DJ:MU-STARS
詳細はこちら:https://kakubarhythm.com/live/post/10269

Durand Jones & The IndicationsAaron Frazer高橋一