Dyna(Laptop/Bass)、Peggy Doll(Guitar/Vocal)、Zen(Guitar/Vocal)の3人からなるego apartmentは、2021年に入って本格的に始動。全員が作曲と編曲を手掛けられることや、ハイトーンのPeggy Doll、低音の効いたZenのツイン・ボーカル、ソウル/R&B、ヒップホップ、ボサノヴァ、エレクトロニカといった豊かな音楽的背景をときにナチュラルに、ときに強引に織り交ぜていくことで生まれる、オリジナルなサウンドスケープやグルーヴなどを強みに、今後のポップ・ミュージック・シーンを席巻するであろう注目のバンドだ。

今回Qeticでは、彼らがメディアそのものにもまだほとんど顔を出していないこともあり、まずは3人のルーツ、バンドの成り立ちからその魅力を紐解き、さらに“1998”、“SUN DOWN”、そして最新の“NEXT 2 U”と、これまでのリリースした3曲を掘り下げるインタビューを行った。

INTERVIEW:ego apartment

3人組ユニット・ego apartmentが追求する自分たちにしかできない音作り|ルーツ、音楽家のめざめ、そして出会い interview210820_ego-apartment-03

レッチリ、マーヴィン・ゲイ、ツェッペリン
それぞれ異なるルーツ

──ego apartmentというバンド名は直訳すると“自我のアパート”。実際に曲を聴いてみても、まさに3人それぞれの豊かなバック・グラウンドが色濃く反映された集合体のようなイメージがあるので、まずはみなさんのルーツについてお伺いします。Dynaさんはベーシストでありトラック・メイカーで、ソロでも活動されているとのことですが、そもそも音楽を作るようになったきっかけを教えていただけますか?

Dyna(Laptop/Bass) メンバー全員が同い年で、22~23歳の年なんですけど、僕が最初に曲を演奏するようになったのは中学生の頃。友達とコピーバンドを組んだことがきっかけでした。当時はやりたい音楽があったというよりバンドを組んでみたいという気持ちが先にあって。父親の好みで家でよく流れていたBOØWYとかを演奏していました。しばらくして自分でいろんな音楽の情報を積極的に集めるようになって、そこでもっとも衝撃を受けたのはレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers/以下、レッチリ)ですね。

──レッチリのどの時期ですか?

Dyna ちょうどアルバム『The Getaway』(2016年)が出たタイミングだったんですけど、僕がハマったのは『By The Way』(2002年)。なかでも“Don’t Forget Me”のライブ映像で、フリー(Flea)がベースで和音を弾いているところを観て、めちゃくちゃかっこいいしおもしろいなって。

──ANYEED名義で一人の作曲家/ビートメイカーとしても活動され、「CHILL/AMBIENT2020 supported by TuneCore Japan」では入賞もされていますが、ソロで曲を作り始めたのはいつ頃からですか?

Dyna DAWを使って打ち込みの曲を作るようになったのは5年くらい前だったと思います。レッチリとかと並行してエレクトロニック・ミュージック、ハウスやEDMなども聴くようになったんです。

それまではバンドが好きで生演奏主義というか、打ち込みの音楽には抵抗があったんですけど、アフロジャック(Afrojack)の“Do Or Die”を聴いた時に衝撃を受けました。ロック・バンドのサーティー・セカンズ・トゥー・マーズ(Thirty Second To Mars)とやったロック色の強いサウンドとエレクトロが見事にはまった曲で、「こういうやり方もあるんだ」って、自分の世界が広がったんです。そこから一人で曲を作ってみたくなって、DJもするようになりました。

──Peggy Dollさんはどうですか?

Peggy Doll(Guitar/Vocal) いろんな音楽を聴くようになったのは中学生の頃。なかでも昔のソウルやR&Bが好きだったんです。情報源はインターネットで、YouTubeの関連動画などを辿っていくうちに、マーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)とかダニー・ハサウェイ(Donny Hathaway)に惹かれました。

──それでファルセットも効いたソウルフルな歌声になったと考えていいのでしょうか。

Peggy Doll 当時受けた影響は今も変わらず強く残っていると思います。

──ギターを弾くようになったのはいつ頃ですか?

Peggy Doll 高校生になってからですね。アコギを持っていたんですけどしばらくは放置していました。でも歌うことは好きだしライブがしたいと思って、弾き語りの練習をやりながら曲も作るようになりました。

──どんな曲を演奏していたのですか?

Peggy Doll 質の悪いジャパニーズ・ソウルみたいな感じで、当時のことはあまり振り返りたくないです(笑)。

──次はZenさん、お願いします。

Zen(Guitar/Vocal) 僕も音楽にハマっていったのは中学の頃ですね。最初はファイスト(Feist)や70年代のハード・ロック、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin/以下、ツェッペリン)などを好きになったことがきっかけで、友人からギターを借りて弾くようになりました。

少しの間、ギター教室にも通っていたんですけど、そこでウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)とかジャズのギタリストにも出会いました。あとは父の持っていたレコードのなかから、アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)のようなボサノヴァにも影響を受けたり。歌は高校に入ってからで、最初に組んだバンドではギターは弾いていなく歌だけでした。音楽性はツェッペリンそのままみたいな。

3人組ユニット・ego apartmentが追求する自分たちにしかできない音作り|ルーツ、音楽家のめざめ、そして出会い interview210820_ego-apartment-02
Dyna

作曲・編曲ができるからこそ生まれるトライアングル

──そんな3人はどこで出会い、どんなところで意気投合したのでしょうか。

Dyna Zenは妹の高校の先輩で、「曲とか作ってるならDMしてみたら?」って勧めてくれたことが出会いでした。それが2年前で、一緒に作った最初の曲が今年の8月4日にリリースしたばかりの“NEXT 2 U”なんです。

ego apartment – NEXT 2 U

──ego apartmentの最初のリリースは2021年5月19日の“1998”。そこから“SUN DOWN”、今回の“NEXT 2 U”と立て続けにきたわけですが、そこに至るまでにけっこう間があったんですね。

Dyna Zenと二人で曲は作っていたんですけど、なんやかんやで外向きにアクションを起こすことはなくて。“NEXT 2 U”もリリースしたい気持ちはありつつ納得がいかない部分もあって、躊躇したまま2年くらい経ってしまった。でもある日、Peggy DollのInstagramを見つけたことで景色が開けました。そこでDMを送ってみたら一緒にやれることになったんです。僕らだけだと行き詰まっていた曲に彼ならではの展開を付けてくれたことで、世に出したいと思える曲になりました。

3人組ユニット・ego apartmentが追求する自分たちにしかできない音作り|ルーツ、音楽家のめざめ、そして出会い interview210820_ego-apartment-05
Zen

──ここまでお話になられた3人のルーツとモダンな要素の融合。それがego apartmentなのだと改めて思ったのですが、“新しさ”についてはどう考えていますか?

Dyna 新しい曲を作ることは強く意識しています。でも、トレンドを意識したことはないですね。そこは3人とも現在進行系のバンドやアーティストから昔のものまで、とにかくいろんな音楽をディグすることが好きで、「この曲よくない?」みたいな感じで聴かせあうことが日常になっているので、自然とカバーできているように思います。

──3人にしかわからないスポットのようなものがオリジナリティになっている。

Dyna そうですね。信頼している仲間同士の語らずともわかるフィーリングがあるからこそ、僕らにしかできない新しい音楽を作ることができるんだと思います。

──スキルの面でも、3人の絶妙なバランスを感じます。

Dyna 3人とも作曲や編曲ができることは大きいと思います。Zenは音楽的背景に加えて、マッドやサイコといったジャンルの本やドキュメンタリーが好きな側面もあるんです。そういった要素を理屈より先に感覚でアウトプットしていくから大味なところがあって。

それに対して、Peggy DollはZenのような感覚肌ならではのグルーヴや味は理解しつつ、緻密に音や構成を練っていくこともできる。僕は二人よりDAW歴が長いこともあって、抽象的なイメージを音にすることができます。ちゃんと住み分けができていると思いますし、ときに個性がぶつかったとしてもそれはそれでおもしろい曲になるので、すごくいいバランスですね。

──素晴らしいトライアングルですね。あとは低音の効いたハスキーなZenさん、さきほども言ったように高音が綺麗でソウルフルなPeggy Dollさんのツイン・ボーカルであることもかなり大きいと思います。

Dyna そこは最大の強みだと思います。二人の声が活きる曲を作るとなると、声質がぜんぜん違うから難しくて悩むことも多いんですけど。

Zen 悩むと言っても、ツイン・ボーカルという前提が曲作りの制約になっているのではなくて、Peggy Dollという僕とは異なるタイプのボーカルが入ってくれたことで、明らかにリーチが長くなったような、作れる曲のレンジが広がったような感覚。その感覚が広がったことで、何をどうすればベストなのか見えなくなることもあるんですけど、それはすごくいい悩みだと思っています。

Peggy Doll 僕とZenで1番と2番を分けて歌ったとして、それだけで同じメロディでも展開が生まれることも強みだし、二人で歌ってみても馴染まなければ“SUN DOWN”のようにZENが一人で歌って僕はギターに徹することもできる。曲にとって何がベストなのかを探っていく作業はすごく楽しいです。

──歌詞についてはどうですか?

Dyna 基本的には英語詞でやっていきたいと思っているなかで、言葉単体でメッセージを持ったものもあれば、意味よりもサウンドありきで言葉をはめていったものもあります。

ここまでに出した3曲はどれも後者寄りで、“1998”はセクシー、“SUN DOWN”はロマンチック、“NEXT 2 U”はデート、歌詞自体に強いメッセージがあるわけではないんですけど、言葉をどう刻めばよりおもしろくなるか、そこにはすごくこだわりました。

Peggy Doll 仮歌とか鼻歌の段階で生まれた言葉のリズム感がいちばんよかったりもするし、そこはできるだけ崩したくないよね。

Dyna Peggy Dollの持ってくるデモはいつも歌詞がなくて、英語でも日本語でもない言葉、僕らは“ペギ語”って呼んでいるんですけど、それがすごくいいんですよ。

3人組ユニット・ego apartmentが追求する自分たちにしかできない音作り|ルーツ、音楽家のめざめ、そして出会い interview210820_ego-apartment-04
Peggy Doll

J-POPを作っているつもりはないけど、
日本でしっかり聴いてもらいたい

──では、ここまでにリリースされた3曲それぞれについても聞かせてください。ファースト・シングルの“1998”は、90年代ヒップホップの要素を感じつつ、ラップはヒップホップ由来ではない気がして。

Dyna この曲はPeggy Dollがデモを作って3人で色付けしていきました。ヒップホップにもいろいろありますけど、大きく言えば僕らが3人とも共通で好きなジャンルです。

でも“1998”はそれを強く意識したわけではなくて、僕らはドラマーがいないからリズムをループさせることが必然的に多くなる。その部分のインパクトが強いからそう思われたのではないかと。ラップや歌については、振り返ってみると僕らのレッチリ好きが出てきたんじゃないかと思います。どう?

Zen うん、そう思う。

──サビ前のギターとベースのフレーズは映画『Mission: Impossible 2』からの影響のような気が。

Zen 曲を聴いた友達が「〇〇っぽいよね」とかよく言ってくれるんですけど、今まででいちばんしっくりきました。それを下地にちょっと変えたとかではないんですけど、確かに似てますね。

──そこにSFっぽい要素も乗っている気がして、レイドバックしたダンサブルな曲調のなかに絶妙な塩梅でスリルが散りばめられている。そしてサビのメロディが、Dynaさんがおっしゃったようにセクシーでいつまでも耳に残ります。

Dyna 親がよく口ずさむんですよ。恥ずかしいし、もう嫌と言うほど聴いたから止めてほしい(笑)。

Peggy Doll 日本のなかでやっていくのか、世界に出たいのか、目指すところがどこであれ、メロディのいい曲、キャッチーなメロディは大切にしたいんです。だからDynaの親がそうなっているのなら、僕のやりたいことは伝わったっていうことだから嬉しいです。

Dyna Peggy Dollの勝利ですね。

ego apartment – 1998

──次は“SUN DOWN”。この曲は、Zenさんの渋い歌声とギター・ワークが沁みるビンテージなソウルやブルースの香りがするストレートな歌ものに、シンセ・ベースや小刻みなハイハットなどモダンなサウンドがマッチしています。

Dyna これは僕とZenで作った曲ですね。最初はフランク・オーシャン(Frank Ocean)のような、曲によっては要素が雑然としていても、それが彼にしかないミクスチャー・センスとして成立しているみたいなイメージがありました。僕らなりのそういう曲を作ろうとしたんですけど、最終的には思ったよりすっきりしたストレートな曲になりました。

──フランク・オーシャンのような10年代以降のニュー・スタンダードというよりは、もっと広い時代感覚における王道を貫く曲を現代的にしていったような気がしていたのですが、逆だったんですね。

Dyna 逆ですね。例えばこの曲はサビにあたる部分で歌わないんですけど、そこはEDMでいうドロップを採り入れました。そういう新しめの発想に、クラシックなギターの音をはめていったんです。僕のイメージを半ば無茶振りでZenに弾いてもらって。

──その楽器のプレイヤーではない人のイメージをもとにしたらよくなったパターンですね。

Dyna ライブではPeggy Dollが弾くんですけど、「これをZenに注文したの? 難しすぎるわ」って、ちょっと怒られました(笑)。

──最新曲の“NEXT 2 U”はZENさんのルーツでもある軽快なサンバ/ボサノヴァの要素を感じるパーカッシブな曲。

Zen コードが綺麗な曲で、弾いていてすごく気持ちいいですね。

Dyna 当時は折坂悠太さんやトム・ミッシュ(Tom Misch)にはまっていて。

──確かに、トム・ミッシュや折坂さんの“坂道”に近いテイストがあります。

Dyna 動機は不純というか、ちゃんとバック・グラウンドのある爽やかでグルーヴィーな曲に、折坂さんだったらフォークの香りがするとか、その人ならではの歌が乗っている曲を作ったらモテるかなって(笑)。でも、最初に話したように、僕とZenだけでは今の半分しか展開がなくてリリースするには迷いがあった中、Peggy Dollが入ってくれたことで納得できる形になりました。

──実際にモテたんですか?

Dyna はい、モテ期がきてます(笑)。

Peggy Doll そうなの? 僕は「曲も作って歌も歌ってギターも弾けたらモテるでしょ?」とかよく言われるんですけど、実感したことないです(笑)。音楽をやっているだけでそれがアドバンテージになることってある?

Dyna 実際は僕がおだてられて転がされているだけなのかも(笑)。

──モテるかどうかは置いといて(笑)、主に海外の音楽から影響を受けたなかで英語詞の曲を作って日本で活動されているということは、まずは日本で地盤を固めて世界に出ていきたいということでしょうか?

Dyna 今の時代、どこでどう火が付くかはわかりませんし、J-POPを作っているつもりはないんですけど、日本でしっかり聴いてもらいたいという気持ちは大きいです。

──であれば、現状の日本で受け入れられやすいように、日本語詞でJ-POPではないにせよ、よくあるサビに帰結する曲を中心に作ろうとは思わないのですか?

Dyna そのイメージは破りたいと思っているというか、自ずとそうなっていくと思うんですよね。今は昔みたいにテレビが主流じゃない。ミュージシャンもリスナーも、それぞれのやり方でいろんな情報を得ているから、日本もより個性が重視されていく流れが強くなっていくと思います。

そのうえで、僕らの曲は海外のプレイリストとかにも入れてもらえてるし、そこに入っている曲と比べてみても遜色のない音作りはできているという自負はあります。だからこのまま、自分たちにしかできないことを突き詰めていきたいですね。

──ノスタルジックな生音の響きが大きな持ち味でもあるので、アナログ盤も出してほしい。

Dyna それも実現させたいことの一つです。現段階で曲のストックもけっこうあるのでそう遠くないうちにアルバムを出して、その頃にはツアーもしっかり組めるようになっていたら嬉しいし、まずはそこからですね。

ego apartment

Text:TAISHI IWAMI

PROFILE

3人組ユニット・ego apartmentが追求する自分たちにしかできない音作り|ルーツ、音楽家のめざめ、そして出会い interview210820_ego-apartment-main

ego apartment

Laptop/Bass 担当、サイパン島出身リーダーの Dyna(ダイナ) Guitar/Vocal 担当、大阪市堺市出身 Peggy Doll(ペギードール))そして同じく Guitar/Vocal 担当、シドニー出身 Zen(ゼン)の3人組ユニット「ego apartment」日本語英語を混ぜ合わせた歌詞、変幻自在な2ボーカルスタイル アナログ感を残すが新しさを感じさせるサウンド。 悲しさと楽しさを同時に放つ Dyna のトラックに哀愁かつ美しい唯一無二の声を持つ Zen、 そして非凡なメロディセンスと歌声で認知度を高める Peggy Doll からなるエゴアパ。

RELEASE INFORMATION

3人組ユニット・ego apartmentが追求する自分たちにしかできない音作り|ルーツ、音楽家のめざめ、そして出会い interview210820ego-apartment-06

NEXT 2 U

2021年8月4日(水)
ego apartment

Spotify
YouTube

3人組ユニット・ego apartmentが追求する自分たちにしかできない音作り|ルーツ、音楽家のめざめ、そして出会い interview210820ego-apartment-07

Wrong with u

2021年9月15日(水)
ego apartment

EVENT INFORMATION

3人組ユニット・ego apartmentが追求する自分たちにしかできない音作り|ルーツ、音楽家のめざめ、そして出会い interview210820ego-apartment-08

OSAKA Grooving Night 01
〜MINAMI WHEEL EDITION〜

2021年9月1日(水)
心斎橋JANUS
開場17:30/開演18:00
前売 ¥2,800
一般発売日:2021年8月21日(土)
出演:claquepot/ego apartment
※Dannie May、ステエションズはメンバーの新型コロナウイルス感染により出演辞退となりました。

詳細はこちら