INTERVIEW

エレナ・トンラ(Ex:Re)

Text by 黒田隆憲

     

Cocteau Twins(コクトー・ツインズ)やLush(ラッシュ)、This Mortal Coil(ディス・モータル・コイル)らが築き上げた耽美的かつ幽玄なサウンドスケープを彷彿とさせ、「初期4ADの意志を由緒正しく継承するバンド」として今や絶大な人気を誇る、ロンドン出身の3人組みDaughter(ドーター)。その紅一点であるヴォーカル&ギターのエレナ・トンラがソロ・プロジェクト「Ex:Re(エックス:レイ)」を始動し、昨年末にセルフ・タイトルのアルバムを突如リリースした。

リヴァーブやディレイの靄がかかった「ドーター」という深い森の一部であったような、エレナのヴォーカルが本作では一転。シンプルかつオーガニックなバンド・アンサンブルの中で、儚げながらも凛とした存在感を放っている。「regarding ex(元カレについて)」 と「 X-Ray(X 線)」というダブルミーニングを持つそのプロジェクト名が象徴するように、自らの過去や内面と向き合いながら、その闇の中で一筋の光を見出そうとする「祈り」にも似た歌声が、聴く者の心を捉えて離さない。

本インタビューは1月23日、〈Revue〉と銘打たれ開催された4ADショーケース・ライブの翌日に行われたものである。深淵で静謐なアルバムの空気を内包しながら、より躍動的なパフォーマンスを披露してくれた彼女にソングライティングのプロセスなどを尋ねたが、ヒリヒリとした歌詞の内容とは裏腹に、チャーミングで優しい笑顔と歌うような話し方がとても印象的だった。

Interview:エレナ・トンラ(Ex:Re)

──昨夜のライブ、素晴らしかったです。

エレナ・トンラ(以下、エレナ) ありがとう(笑)。

──どの曲も音源より躍動感があって新鮮でしたが、特に最後に演奏した“Romance”は、PVの舞台がナイトクラブということもあって音源よりもダンサンブルでしたね。やはりライブと音源は「別物」というふうに考えているのですか?

エレナ そうね、“Romance”は歌詞もクラブでの体験を歌ったもので、他の曲よりもコンポーズの段階からダンスミュージックを意識したものだったわ。あの曲以外は、なるべく音源のムードをライブでも再現しようとは思っていたのだけど、やっぱり機材面での制限がある中、生のアンサンブルだから、そのまま再現するのは難しいところがあるのかもしれない。

──昨夜のサポートメンバーは、レコーディングでも参加していたファビアン・プリン(ドラム、パーカッション)と、以前ドーターの曲のアレンジを担当した作曲家のジョセフィーヌ・スティーブンソン(チェロ)だったのですか?

エレナ そう。ジョセフィーヌはベースとコーラスも担当してくれた。それと、ギターとベースで参加してくれたのはジェスロ・フォックスを加えた4人編成ね。

──そもそも今回、エレナさんがソロ・プロジェクトを立ち上げた経緯を教えてくれますか?

エレナ ドーターはもう8年くらいやっていて、ちょっとお休みを取ることにしたの。その間、音楽以外のことを楽しもうっていう話になったのだけど、結局私はそのまま音楽をやり始めていて(笑)。でも、ソロでやるならドーターとは違うコンセプトを打ち立てようと思って、それで自分の人生について表現するプロジェクトにしたの。だから基本的には一人きりで、1年かけて作曲をしてる。で、アルバム1枚分の曲が揃った時点でフェビアンに手伝ってもらって仕上げたわ。

──プロジェクト名「エックス:レイ」には、「元カレについて」という意味が込められているとか。

エレナ そう。最初は本当に、歌詞も元カレについて書こうと思ったのだけど、作り進めていくにつれて結局これは、「彼が不在する世界」についての歌詞だから、自分自身についての作品なんだなって気づいたの。とはいえ発端は、「元カレに宛てた手紙のような作品」というコンセプトだったから、名前もエックス:レイのままにしているの。

──かなり赤裸々な歌詞ですが、過去に起きた辛い出来事を作品として昇華させることは、ある意味セラピー的な要素がありましたか?

エレナ そう、まさにセラピーだった(笑)。作曲を通じて自分の心の中に溜まっていたものを出し切ることが、この時の私には必要だったのだと思う。

──以前、あなたはイゴール(ドーターのリーダー)と恋人同士だったと聞いていたので、「これってひょっとしてイゴールのことを歌っているのかな」って思ったんですが。

エレナ うふふふ。イゴールとは随分前に付き合っていて、確かドーターのファースト『If You Leave』(2013年)をリリースした直後くらいに別れたから、彼が恋人だったのはかなり昔のことなの(笑)。エックス:レイで歌っている人は、イゴールとは全く関係ないのよ。

──そうだったんですね。恋人関係を解消した後もこうしてずっと、イゴールとはバンド・メンバーとして苦楽を共にしているわけですよね。それって素敵なことだなと思いました。

エレナ 私もそう思う。彼とはバンド・メンバーとして出会い、クリエイティブな部分での強い結びつきがあって。最初はそれに圧倒されて恋心も芽生えてしまったのだけど、今はそこも通り越して再びクリエイティブな部分をお互いに尊敬し合う仲になれた。それで本当に良かったと思っているわ。

──ドーターとエックス:レイでは、サウンドのテクスチャーのどんなところに違いがありますか?

エレナ そうね、ドーターもエックス:レイも私の書いた歌詞を私が歌っているという意味では、共通点もたくさんあるのだけど、エックス:レイは「記憶」を手繰るように作っていく音楽だったので、サウンド面でもちょっと映画っぽいというか、映像的な感覚があると自分では思う。聴いた人がどう感じるかはまた別の話だけど。

──実際に何か、既存の映像作品を思い浮かべたり、リファレンスにしたりしたのでしょうか。

エレナ うーん、特定の映像作品がこの作品に直接影響を与えたということはなかったのだけど、一昨年ドーターがビデオゲーム『Life Is Strange: Before the Storm』のサントラ(『Music From Before the Storm』)を手がけた時に、初めて自分たちは「映像に音を合わせる」という作業にチャレンジしたの。その時の経験が、結構自分の中では大きかったのかも知れない。マインドがシフトしたというか。しかも、それはエックス:レイの制作に入る直前にやっていたことだったので、本作のテクスチャーにも影響を与えていると思う。

──とても興味深いです。確かにエックス:レイのサウンドはシンプルで、音の隙間を大事にしているというか。極限まで音をそぎ落とすことによって、聴き手の想像力を投影しやすい音楽だと思ったんですけど、それはどこかサントラ的な要素があるからなのかも知れないですね。

エレナ 例えばエックス:レイは、ドーターと比べるとリヴァーブやディレイのような空間系のエフェクターをあまり使わず、そこで鳴っている音をダイレクトに届けるようにしたの。だから、あなたの言うように行間を楽しめる音楽なのかも知れない。そこまで意識したことはなかったけど、素敵な意見だわ(笑)。

──実際のソングライティングはどのように行ったのでしょうか。どの曲も美しく、最初に言ったようにドーターよりも抑制されたループの繰り返しが多いですよね。

エレナ そう。今回、曲を作るにあたって毎日スタジオへ通うというルーティンにして。まずはギターで簡単なリフを作ってから、それを繰り返しループさせて、その上に思いつくメロディを感情の赴くままに乗せていったの。

──同時に、あなたのルーツであるNeil Young(ニール・ヤング)やJeff Buckley(ジェフ・バックリー)、Bob Dylan(ボブ・ディラン)などがより浮き彫りになったように思います。

エレナ 今回の作曲に関しては、最初はギターとピアノのみというクラシックなやり方から始めたので、確かに自分のルーツがドーターよりも前面に出ているかも知れない。歌とギター、もしくは歌とピアノがより密接に絡み合っているというか。で、曲の骨子が出来上がったところでファビアンと一緒にアレンジを構築していく中で、どんどんシネマティックになっていったの。あと、さっき「記憶」を辿ると言ったけど、曲を作っている時には自分がティーンエイジャーに戻ったような感覚があった。それもきっと、ルーツを強く感じさせる曲になった理由なのかも。

──今、僕が挙げたアーティスト以外で、今回あなたに影響を与えた音楽はありますか?

エレナ どうかしら。今回は、自分に起きたストーリーを体験し直す作業が多かったから、過去に交わした会話の一部を使ったり、街を歩いている時に飛び込んでくる音や、その場の雰囲気などを楽曲に取り込んだりしようとは思ったけど。ドーターの場合だと、私たち3人が普段聴いている音楽のテイストが色々混じり合って、ああいうサウンドになっているんだけど、今回は「シーン」を「キャプチャー」するという感じだったから、そういう意味でもかなり違ったものになったと思う。

──今回、4ADのショーケース的なイベントでの来日でしたが、あなたにとって、そしてドーターにとって4ADはどんな存在ですか?

エレナ 4ADに関しては、実はレーベルのことを意識する前からレッド・ハウス・ペインターズのアルバムを持っていたの。まだその時は、レーベルっていう概念もまだなかったのだけど。ただ、とっても好きで大切にしていたレコードだったし、ロゴも「かっこいいデザインだな」とは思っていた。それから10年くらいして、幸い私たちは4ADとサインを交わしたのだけど、窓口だった人がとってもいい人だったのよね。その人柄に惹かれたというか……音楽を大事にしているし、自分たちのレーベルに誇りを持って、どんなレーベルカラーを打ち出していけばいいのか、明確なビジョンを持っていたの。きっとそういうところが、自分たちにしっくりきたのかも。

──まずは、人と人とのつながりが大切ということなんですね。

エレナ もちろん、音楽的にも素晴らしいレーベルだと思う。最近は本当に様々なスタイルのバンドが所属しているけど、どこか共通点を感じさせるというか。「質感」みたいなものがちゃんとあるの。なかなか言葉ではうまく言い表せないのだけど、例えば今回のショーケースでも、3組とも全く違う音楽性なのに、一夜のイベントとして成立するわけじゃない? そこが4ADの面白さだし魅力だと思うわ。

──アートワークも独特ですけど、もっとも好きな4ADのレコードジャケットを聞かせてもらえますか?

エレナ 難問ね。ええと……待って、いま頭の中で部屋のレコード棚を一枚一枚確認しているから(笑)。何かしら。コクトー・ツインズもピクシーズも好きだし、新しいところだとベイルートとか。でもたくさんありすぎて分からない。うーん、でもやっぱり、コクトー・ツインズのヴィジュアルは大好きよ。

──これからまたドーターの活動も始まると思うんですけど、エックス:レイも継続してやっていく予定ですか?

エレナ エックス:レイは、これで完結したと思っていて。なのでセカンド・アルバムは作らないと思う。「元カレについて」がテーマだから、逆にこれ以上作らずに済むことを祈るわ(笑)。実はすでにドーターの曲作りが始まっているので、それを引き続き進めながら、今年はエックス:レイのツアーをもう少しやる予定よ。

エレナ・トンラが語る「Ex:Re」の始まりと終わり。記憶を巡る日々と元彼への想いとは? music190205_elenatonra_01-1200x750

text by 黒田隆憲

RELEASE INFORMATION

Ex:Re

エレナ・トンラが語る「Ex:Re」の始まりと終わり。記憶を巡る日々と元彼への想いとは? music181228-exre-02-1200x1199

2019.02.01 Release

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