<FUJI ROCK FESTIVAL’23>(以下、フジロック)において、約3,800組の応募の中から15組が選ばれる「ROOKIE A GO-GO」のステージに立った、神奈川県逗子出身のソウルポップアーティスト・Eminata。その際の映像はフジロック公式でUPされているので、まだの方はぜひ観てほしい。

初出演とは思えないほどに堂々と、神々しく、ステージで羽ばたくEminataの姿を。

EMINATA – Selfish(FUJI ROCK FESTIVAL’23 “ROOKIE A GO-GO”)

そのEminataが、待望の1stアルバム『Red』を5月1日(水)にリリース。
そしてリリース記念のワンマンライブを、6月22日(土)に渋谷・TOKIO TOKYOで開催する。

インタビューを終えた結果、Eminataはフジロックを終えた後に、アーティストとしてもひとりの女性としても、激動の日々を過ごしていたことがわかった。

その中で向き合い、溢れ出た、”赤“の感情。その純粋なまでの喜怒哀楽が紡ぐ情景と人間模様が、『Red』ではまるで1本の映画を観ているかのようなストーリーで綴られる。

Eminataはいかにして自分と向き合い、音楽に昇華したのか。

そしてEminataは今、何色に染まっているのだろうか──。

Interview:Eminata

【INTERVIEW】 Eminata|向き合い、溢れ出た、赤の感情 1stアルバム『Red』 interview240606-eminata9-1

CleanでSimpleなものほど人には伝わる

──まずは前回のインタビューの続きから伺えればと。あのときはフジロック直前でした。

前回のインタビューのときはたしか、フジロックで着る衣装を作っていた段階でした。そのときに『デイジー・ジョーンズ・アンド・ザ・シックス』っていう70’sのアメリカのバンドを描いたテレビシリーズを見て、デイジーの白いダイナミックなキラキラした衣装がカッコいいなと思って作ったら、お母さんに「ジュディ・オングみたい」って言われて。アハハ! 実際にフジロックのステージに出る前はけっこう緊張したけど、会場には家族や友達がたくさん観に来てくれて、空気感をつくってくれたので本番は楽しかったです。あっという間に終わってしまいましたね。

──フジロックのステージでは、弟さんへのサプライズで“Brother”を初披露しましたね。

はい、歌う前は正直けっこう緊張しました。あと、泣いちゃうと思って弟の顔を見ないようにしたんですけど、最後の最後にグッときてしまいましたね。ただそれ以上に、弟は大号泣してましたけど。

──“Brother”には「数年前、弟との大きなすれ違いがなかなか解決できず、そのとき感じていた想いを歌っています」というコメントが添えられ、完成したミュージックビデオにもサプライズが。

あれも弟には“Brother”のミュージックビデオとは言ってなくて、「〈slugger PRODUCTION〉(注:Eminataが所属する、岩間俊樹が主宰のレーベル)で映像素材が必要だから出てくれる?」みたいな感じで言いました。弟は「絶対やだ」みたいな感じだったけど、いざ現場では「よろしくお願いします!」みたいな感じで「ええ〜!?」みたいな。

Eminata – Brother

──ミュージックビデオ後半の“自転車2人乗り”でかなりもうグッときてるのに、さらにそのあとフジロックでの初披露&弟さん大号泣のシーンが流れて……もう自分はがっつり泣きましたね。

あれは事前に「(ライブ中の)弟を録っておいて」とは言ってなかったんです。でもオープニングで「“Brother”は今日来ている弟のために書いた曲で、サプライズで初披露します」って言ったら、終わったあとに「弟さんのビデオを録ったよ」みたいな感じで送ってくれて、その中のひとつをミュージックビデオに入れさせてもらいました。

──“Brother”という曲を通して、弟さんとの関係を乗り越えることができたんですね。

小さいころから弟に対しては過保護で。ずっと仲が良かったし、なんのフィルターもなく言い合える関係性だったけど、あるときに些細なことで喧嘩になって、弟は母とも自分とも話さなくなった時期がありました。それは失恋よりもつらかったし、一緒に住んでいても弟は自分の部屋にずっとこもるか、キッチンに食べ物を取りにくるか、お風呂に入るかみたいな状況になってしまって。“Brother”の《Dark place, no space Breath out to me》っていう歌詞は、どちらかと言うと私は当時の弟の部屋のことについて書いたけど、弟は曲を聴いて「自分のマインドのことだと思った」って言ってました。ああ、たしかにそうでもあるねって。

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──曲作りに関して“Brother”は、サックスプレイヤーのYu Hagiwara さんとのCo-produceで、初の一からディレクションを共にした曲とのことですが、制作はいかがでしたか?

「サックスの人と一緒に曲を作りたい」っていうことを岩間さんに言ったら、ハギ君を紹介してくれました。まずは口頭で曲のイメージをハギ君に伝えてリファレンスを送ろうとしたら、ハギ君は私が送ろうとしたリファレンスと一緒のものを送ってきたのでこれはやばいと思って。結果的に、スタジオに入って3時間で曲ができました。

──Eminataさんはギターで曲を作るときも含めて、「3時間で曲ができた」みたいなエピソードが以前もありましたね。“機が熟す”とアウトプットは早いタイプなのかなと。

時間が掛からないアイディアの方が結果的にいい作品になることが多いし、発表したときの評判もいいかもしれません。練って考えていろいろしすぎちゃうと良くないっていうのは、どんなアートにも当てはまるのかなって。最初に自分の直感で出た、CleanでSimpleなものほど人には伝わるし、自分的にもそれが合ってる気がします。

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最初のときのFreshでRawのままがいい

──5月1日(水)に1stアルバム『Red』がリリースされました。昨年のフジロックで披露した“Selfish”や“Brother”、そして3月に先行リリースされたリード曲“赤い恋の歌”など、全13曲が収録されています。何かの番組で「フジロック以降にギアが上がってきた」と仰ってました。

周りからは「この1年間だよ」って言われましたし、自分でもそうだなって。今振り返るとフジロックが決まる前はなんとなくゆったり音楽と向き合っていたけど、そのあとに私生活でいろいろうまくいかない時期があって。ただそういう状況のときにフジロックが決まったことで、これからは自分のことに集中しようって思えました。

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──『Red』に添えられていたメッセージの中に、「太陽、女、火傷、情熱、怒り、唇、充血の目、愛 – 自分の感情を上手く出しきれないふとした時にペン、または親指が動き、詩が溢れ出す 読み返してみると私の「赤」が綴られていた」とあったのですが、“うまくいかなさ”のようなものが原動力に?

今回のアルバムは、つらかったときのテンションで作った曲が多いですね。つらかったから曲も書けたし、〈slugger PRODUCTION〉をはじめ周りの方がたくさん協力してくれる中で、自分も100パーセントじゃ足りないなと感じました。今は150、200パーセントぐらいの勢いでやって、返ってくる結果が80だったとしてもいいかなって。

──『Red』の収録曲は赤に象徴される感情が決してポジティブなものだけではなく、むしろネガティブを乗り越えていくような印象を受けていたので、今の話を聞いてすごく腑に落ちました。

そうですね。私は下がるものがないと曲が書けない。画家とかもいいことばっかりだといい絵を描けないだろうし、痛みほど人を動かすものはないと思う。ただし、痛くてつらいからそこで下がって終わるのか、それとも自分を良くする経験としてアウトプットしてシェアするのか。それがアーティストとして大事なところで。今回はセクシーでカワイくてキャッチーみたいな曲もありつつ、痛み、怒り、ジェラシー、火傷のような赤い感情の曲が多いです。

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──関わる人も含めて、『Red』はこれまでと比べて制作面での変化はありましたか?

今まで以上にギターにたくさん触ったし、あとは岩間さんやプロデューサーのタケちゃん(pedestrian)の家に行って1日中ずっと相談しながら作るとか、自分の時間をより制作にdedicateするようになりました。フランスではパリにいるのが気持ち的につらいときは、南のマルセイユまで行って、友達のアパートを借りて制作しました。日中は仕事して海に行って、帰ってきてエリカ・バドゥを2時間ぐらい聴いて曲を書くとか。そうやってできたのが“Goooood”です。今回は「やらなきゃいけない、やろう」じゃなくて、環境を変えて作りたい曲や出したい歌詞になるまで、自分の状態をどうやったらいい方向に持っていけるのかを意識して制作しました。今思い返すと、楽しかったです。

──1曲目の“Waves”は大きな舞台に映えそうな壮大で爽快な曲で、アルバムのスタートとして素晴らしい役目を果たす曲だと感じました。Isogai Kazukiさんとの制作はいかがでしたか?

あの曲は途中まで自分の中で、「この歌い方でいいのかな」とか「このメロディでいいのかな」ってしっくりきていなくて、けっこうフラストレーションがありました。でも岩間さんから「磯貝くんはディレクションが上手いから」って聞いていたし、最後のRECのときに「引っ張ってください!」ってお願いしたら、まさしくIncredibleで。「音程は気にせず感情で歌ってみたら」とか「ハーモニーをこんな感じでもう1回やってみよう」とか、いろいろアドバイスをくれて、そうしたら自分からもいろいろ提案が出てきて。本当に“Waves”という曲名の通り、波に乗ってできた曲。磯貝くんとだからこそ曲の骨組みがいいものになったし、あれは本当に素晴らしいレコーディングでした。

──あと先行リリースで、Studio KiKiのYouTubeでアコースティックライブも披露したリード曲“赤い恋の歌”はたしか、Eminataさんにとって少し昔の恋の歌ですよね。

そうですね。日本に住んでいた自分が、オーストラリアに行く前。ハートブレイクのときにベッドで書いた曲で、当時はギターのスキルもあんまりだったから周りの反応も良くなかったんです。でも今回のアルバムを制作するときに改めて聴いてみて、岩間さんに送ったら「めっちゃいいじゃん」って言ってもらって。今やってみてギターは少し上手くなって、大人の歌い方になりました。ただあの曲は自分の中でもブリッジが合ったほうがいいのかなとか、サビがあったほうがいいのかなとか考えたこともあるけど、やっぱりあの曲は最初のときのFreshでRawのままがいい。

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飛び散らせた赤と、ブルーが溶け込むダークな紫

──ひとつ聞きたいことを思い出しました。『Red』のアー写のイメージカラーは赤ですけど、ジャケ写は白で、さらにRedの文字が青。野暮かも知れませんが、それはなぜですか?

でもまさしく、そうやって聞いてもらうためかも。なんで「『Red』なのに白? 文字は青?」って会話になる。『Red』だから赤はつまんないし、もちろん意味はあるけど、あんまりオシャレなことは言えないかも。見て印象に残るもの、疑問に思ったり、解読したくなったりするものを作りたい、みたいな気持ちは常にあります。

──こういうインタビューだと「今後はどうしたい?」みたいに聞くことも多いのですが、Eminataさんは現在進行形の感情を大事にしている印象があるので、あまり先のことは考えませんか?

だからプロダクションは困っちゃう……ハハハ。次、どうしよう。ひとまず6月22日に渋谷のTOKIO TOKYOでワンマンがあるので、それを終わらせたら少しだけ休みたいです。クリエイティブな人たちと集まってアーティストレジデンシーみたいなことをやったり、制作のために違う場所に行ってみたり。たぶんこの忙しい時期が終わると一回ダウンに入ると思う。ブルーな時期に入ったときに、どこかに行って曲を書くのがいいのかなって思います。

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──また取材したいという気持ちを込めて、今回も最後に Eminataさんの“今の色”を聞きたいです。前回は「後ろは情熱的なレッドで、手前はまだネイビーブルー」でした。

今は何色だろう……パッと出てきたのは、映画とかで首を切られて飛び散る鮮血のような、濡れたペイントをものすごいスピードで飛び散らせたときにつくような赤。それともうちょっと紫に近い、ブルーが溶け込んで紫に近くなった、あまりはっきりしないダークな紫がブワっと広がっている……それが今の私の色だと思います。

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Interview&Text by ラスカルNaNo.works
Photo by Kana Tarumi

INFORMATION

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Eminata

神奈川県逗子出身のソウルポップアーティスト。2021年、slugger PRODUCTION加入後に自身初となるEP「ame」をリリース。2023年からフランスに拠点を移し、FUJI ROCK FESTIVALʼ23の「ROOKIE A GO-GO」に出演。日本語と英語に囚われないシームレスな言葉選びと美しい歌の世界観は周りの人々を幸せにする。
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【INTERVIEW】 Eminata|向き合い、溢れ出た、赤の感情 1stアルバム『Red』 music240315-eminata1

Red

2024.05.01(水)
Eminata
〈slugger PRODUCTION〉
収録曲:
1. Waves
2. 99
3. Selfish
4. Yoru
5. Rebels to the City
6. Japanese
7. Goooood
8. PBJT
9. Sunglass
10. Nalaʼs Song
11. 赤い恋の歌
12. Brother
13. Slowly

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Red
Eminata One Man Show

2024.06.22(土)
開場17:30 開演18:00
TOKIO TOKYO
企画・制作(slugger PRODUCTION / HOT STUFF PRESENTS)

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