2018年10月15日〜20日にかけて開催された今年のAmazon Fashion Week TOKYO。その会期中に催されたAmazon Fashionの独自プログラム“AT TOKYO”に、モデル・鈴木えみ氏が手掛けるブランド・Lautashiが参加。ブランドにとっては初のプレゼンテーションである今回、東京の「今」を象徴する各ブランドのクリエイションを発表する場“AT TOKYO”でLautashiはどんな世界を表現したのか。プログラム開催直前に敢行された鈴木えみ氏とメディアアーティスト・落合陽一氏による特別対談から、その実態を紐解いていく。
Interview:鈴木えみ(Lautashi)×落合陽一
1999年にモデルとしてのキャリアをスタート。以降、ファッションアイコンとして第一線に立ち続ける鈴木えみ氏が、2017年に立ち上げたオリジナルブランド・Lautashi(ラウタシー)。“日常着”をコンセプトに、自身にとって長年の夢であったという服づくりへの情熱とモデル業を通して培った感性、「飾りとしての服はいらない。身につけることで自分が持っている以上のものを引き出せるものづくりを」という哲学が反映されたクリエイションは、2017-18FWのデビューコレクション以来強い存在感を示してきた。
そして今回、Amazon Fashion “AT TOKYO”参加によりブランド初のプレゼンテーション実施が決定。日本のファッションやデザインのコミュニティーへの継続的な支援を目的とし、音楽/アート/テクノロジーを取り入れたファッション表現の新たな可能性を披露する場として展開される“AT TOKYO”には、Amazon Fashionが選出した東京の「今」を象徴する全6ブランドが参加。各ブランドが独自のプレゼンテーションを展開するなか、Lautashiは一般公開のインスタレーション形式で最新コレクションを発表。その経緯について、鈴木氏は以下のように語っている。
鈴木えみ(以下、鈴木) 「最近は一般の方が参加できるファッションイベントも増えてきましたけど、ファッションショーは関係者の方に向けて発表する場っていうイメージがまだあって。本来は誰もが体験できるものであるべきだと思うし、“AT TOKYO”参加に向けて『パリコレ会期中の街全体の盛り上がりを東京でも』という話が出たときに、一般公開にしようと決めました。来ていただいた方に『こんな環境でファッションを見られるんだ』ということをシンプルに味わっていただければ、ブランドとしてはそれだけで十分です」
プレゼンテーションでは、サウンドアーティストのKAITO SAKUMA a.k.a BATICが音楽を担当。空間演出は、“現代の魔法使い”と称されるメディアアーティスト・落合陽一氏が手掛けた。鈴木・落合両氏の付き合いは、半年ほど。「たまたま同じ美容師さんに髪を切ってもらっていたのがきっかけで、友だちになりました」という少し意外な出会いを機に意気投合。今回のプロジェクトに向けて動きだすまでに時間はかからなかったという。
鈴木 「落合さんと初めて食事をさせていただいたときに、“エッジがはっきり見えるすごく好きな曇り空がある”という話をしたんです。そしたら『ああ、これでしょ』ってすぐに理解してくれて。今回“AT TOKYO”への参加が決まったとき、Lautashiが提案させてもらっている『日常着としてのファッション』を見せたいと考えるなかで、落合さんとお話した曇り空や光と影の話を思い出して。それで『光のタイムマシーンをつくってほしい』ってお願いをしました。365日、いろんな光を再現したい。そのなかでの生身の人間が洋服を着ている日常を表現できたらいいなって」
落合陽一(以下、落合) 「Lautashiの服は、日常服でありながらにしてシルエットが美しいしデザインに遊び心がある。だけど、立ったり座ったりしたときの見え方とかテクスチャーや素材へのこだわりがすごいんですよね。素材感って着てみないとわからないと思うし、ひとつの照明のなかを歩いただけではわからないことっていっぱいある。夕日のなかできれいな服もあれば、朝日のなかできれいな服もあって。それをどうやって時間のなかで表現していくのかっていうのがテーマです」
架空の星座が描かれた総柄ワンピースや鈴木氏自身が好きだという石のモチーフが施されたドレス、重厚感のあるセットアップスーツなど、豊かな素材使いと流動的なシルエット、独創的なテキスタイルで彩られたLautashi 2018-2019 FWコレクション。「星座」「地層」といったデザインソースは、空間演出にもインスピレーションをもたらしたという。
鈴木 「Lautashiは毎シーズン、テーマを設けてはいなくて。これからも設けることはないと思うんですけど、今回のコレクションに関してはなんとなく“星座”と“地層”っていう二台柱がイメージとしてありました」
落合 「星座と地層を『天と地」に置き換えると、今の工業社会の地ってコンクリートだし、僕らは人工照明の下で生きているわけで。人工物でありながら天と地があって、それらが持っている美しさとか組み合わせをどうやってつくっていこうかなと。最初にえみさんから『曇り空が好き』って聞いたときに、育ってきた東京の都市とか工業社会とかが面白いなと思ったんです。工業的社会が持っているテクスチャーをどうやって活かしていくかが今回の裏テーマだったりします」
ファッションに関する空間演出は今回が初だという落合氏。本インスタレーションでは、自らが街角で撮影した映像を分解・再構築しLEDパネルで再生することにより刻々と変化する都市の光と影を再現。光が与える敏感な印象の差を追求することで物体としての服に宿るたおやかさを引き出し、KAITO SAKUMA a.k.a BATIC による都市の胎動を連想させる音とともにLautashiのコンセプトである“日常着”の在り方を提示した。
落合 「今回“AT TOKYO”という意味で、『日本・東京』というもののコンテクストの再発見をしたいなと。世界の人が見たときに日本っぽいけど日本のものが使われていないことってあるんですよ。今回もファッションとしてテクスチャーやテキスタイルにジャパンは入っていないんだけど、『美しいな、日本的だな』って感じられるものに出来ればいいなって。えみさん自身、ジャパンなんて意識したことがないと思うんだけど、Lautashiのバックグラウンドにも原宿だとかストリートだとか、ファッション業界で生きてきた鈴木えみという人から出てくるエッセンスとかが込められていて、それは非常にジャパン的ではあるんです。今回はそれが強みになるような魅せ方にもなっていればいいなって思います」
落合氏との製作活動について「アーティストとしてとても優れているし、私の抽象的なイメージを全部理解してくれる人もなかなかいないので、すごくうれしいです」と語った鈴木氏。お互いへのリスペクトと理解を深めるなかで生まれたアイデアを熟成させ、それぞれの視点とクリエイションを掛け合わせた今回のプレゼンテーションは、いちブランドのコレクション発表という域を越え、“AT TOKYO”のプログラムテーマである『ファッション表現の新たな可能性』を体現し、観覧者にも新しい視点をもたらしたのではないだろうか。