その日、恵比寿LIQUIDROOMは物々しい低音とカオスなシンセサイザーの波動で充満していた。熱狂の輪の中心にいたのはファット・ドッグFat Dog)。今年9月に〈Domino〉からデビューアルバム『WOOF.』をリリースし、瞬く間にサウス・ロンドンのライブシーンで熱狂的な支持を得た彼らは、その狂騒を満杯のLIQUIDROOMに丸ごと召喚したのだ。スペシャル・インタレスト(Special Interest)やマンディー・インディアナ(Mandy, Indiana)といった現行のインダストリアルなダンスパンクにも通じる重量感、彼らの“狂犬”たる所以が表現された一夜であった。

来日公演の数時間前、フロントマンでありバンドの首謀者であるジョー・ラブJoe Love)にインタビューをすることができた。夜に行われるライブが熱狂的なものになることは明明白白、ならばジョー自身が体験してきたライブの記憶をじっくり訊こう……そう思い彼のルーツについて質問すると、『マインクラフト』や『スーパーマリオ64』といった意外な単語が飛び出してきた。ケミカルな激しさを伴うファット・ドッグの魅力、その補助線として読んでいただければ幸いだ。

INTERVIEW
Fat Dog

Fat Dogの首謀者、Joe LoveにロンドンのライブハウスとNINTENDO64の話を訊く interview241220-fat-dog1
ジョー・ラブ(Joe Love)

──ファット・ドッグの話をする前に、まずはジョーさん自身の音楽体験について聞かせてください。最初にライブハウスへ行った日の事は覚えていますか?

15か16歳の時、確かロンドンのサウスバンク・センターだったかな。友達がアメイジング・スネイクヘッズ(The Amazing Snakeheads)っていうパンクバンドのライブに連れていってくれたんだ。ファット・ホワイト・ファミリー(Fat White Family)にも参加してたギタリストのバンドで、デビューしてから1年くらいで解散しちゃったんだけど、それがとにかく良かった。ステージの横から男がふらふら出てきて、そのままマイクを握って歌って、最後は客席の柵を飛び越えて暴れてたんだ。とにかく生々しかったし、初めてのライブで大当たりを引いたと思ったよ。その時に、もし自分がバンドを組んでレコード会社と契約するなら(アメイジング・スネイクヘッズが所属していた)〈Domino〉が良いと思ったんだ。

The Amazing Snakeheads – Flatlining (Official Video)

──ずっと激しいバンドが好きだったんですか?

いや、俗っぽいダンスミュージックばっかり聞いてたよ。アヴィーチー(Avicii)とかデッドマウス(Deadmau5)とかね。それと、当時は『マインクラフト』にハマってたから、そのサウンドトラックもよく聞いてたね。

──そういえば“Wither”のMVはPCゲーム風でしたよね。ファット・ドッグの作品にはそういったゲーム作品やチップチューンからの影響もあるのでしょうか?

そうだね。『Stickman RPG』って知ってる? インターネット初期のオンラインゲームなんだけど、サウンドトラックがマジで良くて。思わずサンプリングしたよね(笑)。あとは『バンジョーとカズーイの大冒険』とか『スーパーマリオ64』も大好き、NINTENDO64でずっと遊んでたよ。ふたつともゲームのサウンドトラックがサンプルパックになってて、誰でもダウンロードすることができるんだ。ちょっと聞くだけでノスタルジックになるよね。

Fat Dog – Wither (Official Video)

──レディオヘッド(Radiohead)やエイフェックス・ツイン(Aphex Twin)をNINTENDO64風のサウンドでカバーする動画もありますもんね。

そうそう! ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Neils)のカバーとか最高だよね。MIDIでああいうサウンドを構築するのは本当にクレイジーだし、色んなバリエーションがあるよね。

Mariohead – Super Creep 64

Nine Inch Nails – Head Like A Hole (Super Mario 64 Remix)

──ジョーさんの中で、そういった音楽と今の激しいライブのスタイルはどのように重なっていったのでしょうか?

インターギャラクティック・リパブリック・オブ・コンゴ(The Intergalactic Republic Of Kongo)っていうバンドが好きだったんだ。8人組のバンドで、エレクトロニックミュージックとパンクのサウンドを融合させたようなライブをしてた。彼らのスタイルは今のファット・ドッグのベースになってると思うよ。

THE INTERGALACTIC REPUBLIC OF KONGO LIVE IN PARIS 2018

僕は「エレクトロニックミュージックとパンクの融合」っていうスタイルがとにかく好きなんだ。例えばデス・グリップス(Death Grips)とか、あとはNYのリップ・クリティック(Lip Critic)っていうバンドとかね。(リップ・クリティックは)ツインドラムでギターがいなくて、その代わりにキーボードでディストーション・ギターみたいな激しさを演出するんだ。めちゃくちゃ好きだし、音色をコピーして自分のバンドに組み込もうともしたよ。そういう意味では、バイアグラ・ボーイズ(Viagra Boys)からも影響を受けたね。彼らみたいな曲を書こうとしたことがあるよ、好きな曲をコピーしたがるのは僕の癖なんだ。

Death Grips – Get Got

Lip Critic – The Heart (Official Video)

Viagra Boys – Troglodyte (Official Video)

──様々なプロジェクトから影響を受けている最中だとは思いますが、今の時点で判明している「ファット・ドッグらしさ」とはなんですか?

そうだな……まず、僕は色々なものをコピーするけど、それを単なるパクリにとどめる気は全然ない。例えば、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)は様々な作品の手法をコピーして、そこから自分らしい音楽に落とし込む天才だったと思うんだ。自分のやってることはそういうことだと捉えるようにしているよ。

その上で、「ファット・ドッグらしさ」っていうのは、国とかエリアによって解釈が異なるものなんじゃないかな。例えばポーランドだと、自分たちと近いハイエネルギーなバンド──『ユーロビジョン』に出場するようなバンドだね──が80年代から広く聞かれているから、ファット・ドッグはあまり新鮮ではないのかもしれない。ただ、ウィンドミル(注:ファット・ドッグが拠点としているサウス・ロンドンのヴェニュー)では別の解釈をされる。そういうズレこそが音楽のエキサイティングな部分でもあると思うよ。

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──なるほど。デビューアルバム『WOOF.』の曲はパンデミックの最中にジョーさんの家で書かれ、それがライブハウスで多くの人に開かれていくというプロセスを経ましたよね。今話していた「音楽の聞かれる環境」という話題に関連づけると、部屋に籠って作る音楽とダンスミュージックとしてオーディエンスが一つになって踊る音楽は、ある種の対極にあるとも思うんです。この二つはジョーさんの中でどのように繋がっているのでしょうか?

パンデミックの最中はとにかく孤独だった。だからこそ、一人で静かに聞くような音楽じゃなく、みんなで楽しく踊ったりとかできるような曲を書きたいと思ったんだ。自然な流れだと思うよ。

ただ、ロックダウンが明けた後のロンドンはライブ中に着席する必要があったんだ。少しでも客席から立ち上がったら、セキュリティに即注意されるんだ。僕はそんな状況に全く合わない音楽ばかり作ってしまった、ちょっと後悔したよね(笑)。

──日本でも同時期にライブ中の着席が強制されましたね。

あぁ、2021年だったかな。その後に状況が緩和されて、最初に普通の状態に戻った時のライブはよく覚えてるよ。小さい会場だったんだけど、みんなが観に来てくれたことが本当に嬉しくて。つい興奮して客席に降りていったら、もみくちゃにされて、足首を捻ってね(笑)。それが2曲目だったから、残りの曲は何事もなかったようにやり過ごしたけど、それから10日ぐらいは歩けなかったよ。ただ、その怪我をするだけの価値はあったね。

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Fat Dogの首謀者、Joe LoveにロンドンのライブハウスとNINTENDO64の話を訊く interview241220-fat-dog2

──ファット・ドッグのライブはステージと客席がとても近いですよね。単純な疑問なんですけど、客席に入るときって何を考えているんですか?

ステージからだと、オーディエンスとアイコンタクトが取れない。だからみんなとコミュニケーションをして、より踊らせるために客席の中に入ってるんだ。ただ、最近はパンパンなフロアが多くなったから、あんまり降りれてないんだよね。この前のロンドンのライブなんか、最後の曲で完全に押しつぶされて、もう散々だったよ(笑)。

──そういう激しいスタイルと『マインクラフト』とか『スーパーマリオ64』が繋がっているのも、「ファット・ドッグらしさ」の一つだと個人的には思います。

そうだね。『マインクラフト』のサウンドトラックってアンビエントでリラックスできるし、もしかしたらファット・ドッグの2ndアルバムもそうなるかもね(笑)。

Interview & Text:風間一慶
Photo:pei the machinegun
通訳:長谷川友美

INFORMATION

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WOOF.

2024.09.06
Fat Dog
TRACKLISTING:
01. Vigilante
02. Closer to God
03. Wither
04. Clowns
05. King of the Slugs
06. All the Same
07. I am the King
08. Running
09. And so it Came to Pass
10. Land Before Time *Bonus track

詳細はこちらFat Dog