アグレッシブでありながら洗練された音楽性で話題を呼び、サウス・ロンドンのミュージック・シーン”史上最凶のカルト・ヒーロー”という異名を持つファット・ホワイト・ファミリー(Fat White Family)。パンク・スピリットを全開にした圧倒的なライブ・パフォーマンスで、ロンドンだけでなく世界中の注目を集める中、楽曲「Whitest Boy On The Beach」が一昨年公開の映画『T2 トレイスポッティング』のサウンドトラックに収録されたり、アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)、フランツ・フェルディナンド(Franz Ferdinand)ら擁するインディー・ロックの名門レーベル〈Domino〉に移籍したりと、脚光を浴びているバンドだ。そんな彼らがレーベル移籍後初めてのニューアルバム『Serfs Up!』を4月19日(金)にリリースした。本作は元Templesのサミュエル・トムズ(Samuel Toms)が加入したことで、サイケデリックな印象が一層際立った唯一無二な内容となっている。

Fat White Family – Feet(Official Video)(Explicit)

今回は最もクローズアップされているとも言えるサウス・ロンドンのミュージック・シーンを代表する彼らに、サウス・ロンドンで活動を続ける上での心境や混迷を極めるイギリスの政治情勢について、そしてそうした状況を踏まえて制作された本作『Serfs Up!』への想いをメンバーであるLias Saoudiに語ってもらった。

Interview:Lias Saoudi(Fat White Family)

――こんにちは。今日は宜しくお願いします。今はどちらに?

サウスロンドンのアパートにいるよ。

――シェフィールドにはもう住んでないんですね?

あれはアルバムのレコーディングのためだったからね。アルバムが完成したから、ロンドンに戻ってきたんだ。

――どれくらいシェフィールドに住んでたんですか?

2年間。

――なぜシェフィールドだったのでしょうか?またシェフィールドに移ったことが新作に大きな影響を与えたと考えていますか?

俺のもう一つのプロジェクト、ムーンランディングスを通して既にシェフィールドで活動している人たちを知っていたから。そのスタジオも安かったしね。ロンドンの一部屋の家賃でシェフィールドでは家一軒が借りれるくらい。影響かはわからないけど、5年間のツアーのあとでちょっと休憩が必要で、気分転換になった。ロンドンからちょっと離れる必要があったんだ。

――なぜまたロンドンに戻ろうと?

南ロンドン出身ではないけど、14年間住んでるからロンドンは俺にとってホームグラウンドみたいなものなんだよね。だから戻ってきたのさ。

――今、日本ではロックもジャズも含めて、南ロンドンに注目が集まっています。その盛り上がる前から南ロンドンをベースにしていたあなたたちから見て、今の南ロンドンはどのように映りますか?

俺たちがスタートした頃は、あまりサウスロンドンにはDIYシーンがなかったと思う。音楽はイースト・ロンドンの方が盛んだったし、それとちょっと違う俺たちは皆に阻害されながらも自分たちがやりたいことをやっていった。そしたら、ゴート・ガール(Goat Girl)とかシェイム(SHAME)とかそういったバンドたちが俺たちに続いて出てきたんだ。彼らは俺たちにとって弟や妹みたいな存在だね。

Goat Girl – The Man

Shame – One Rizla(Official Video)

――今出てきたシェイム、ゴート・ガールを含めブラック・ミディ(black midi)といったバンドがあなたたちを追うように登場してきていますが、彼らにシンパシーを感じますか? 特にブラック・ミディはあなたたちの影響を受けていると思うのですが、いかがでしょうか?

音楽とか世界観にはあまり共通点はないと思う。シンパシーを感じるのは、音楽の作り方だな。業界に流されず、自分たちが作りたい音楽を作ってる。今出てきている若いバンド達もそれを感じて嬉しく思っていてくれてるといいけど。ブラック・ミディが俺たちに影響を受けているかはわからないな。俺にとっては、彼らはもっとノイズ・バンドな感じがするから。俺たちは彼らよりもポップミュージックを書いていると思う。もしかしたら前回のアルバムは少し通じるところがあったかもしれないけどね。それはもしかしたら俺たちからの影響かもしれないな。

black midi – crow’s perch

――南ロンドンの音楽シーンは、前から存在しているのに今注目されるようになったのだと思いますか?それとも今話題になっているのは南ロンドンの音楽シーンが今盛り上がってきたから?

ここ5年でグンと大きくなったと思う。良くなっているのか悪くなっているのかはわからないけど。俺たちがスタートした時は20代半ばだったけど、今出てきている若いバンドたちは19とかなんだよね。そんな若い時から経験を積むわけだから、彼らのうちの何人か、何組かはこれからすごく良いミュージシャンやバンドになっていくと思うよ。俺たちが彼らにテンプレートを与えたんだと思う。自分たちを信じて音楽をやっても良いんだっていう自信を与えたというのはあるんじゃないかな。自分の世界を楽しむってことを提示して、たくさんのバンドに扉を開いたと思うね。

――自分たちがスタートした時は今のバンド達よりも大変な環境だった?

かなりね。皆、精神的な問題もあったし、金も全くなかった。全てを自分たちでやらないといけなかったから、そのステージを抜け出すまでに今の若いバンドよりもかなり長い時間がかかったと思う。今の俺たちはだいぶ良くなったよ。バンド内でもめることもなくなったし、サイドプロジェクトをやったりもして自分たちの音楽の幅を広げることができてる。だから、前よりももっとリラックスして活動が出来るようになったんだ。

――前作から3年が経過しての新作となりますが、その間にはまずBrexit(ブレグジット)があり、ロンドンとマンチェスターではおぞましいテロも起こりました。そして、現在もEU脱退を巡って混迷を極めています。そんな3年間、あなたたちはどのように過ごし、何を考えていたのでしょうか?

さっきも話した通り、俺たちはシェフィールドに住んでアルバムを作ってた。俺は今の変化は起こるべくして起こってるんだと思う。俺は脱退じゃなくて残る方に投票したけど、Brexitが最悪なこととまでは思っていないんだ。これが起こっていることで、この国で何が起こっているかを皆が知ることができたわけだから。貧富の差、教育の問題、その問題が浮き彫りになって、自分たちの状態を見つめ直すことができている時期だと思うよ。

Fat White Family インタビュー|サウス・ロンドン史上最凶のカルト・ヒーローがBrexit以降に表現したセルフポートレート interview190419-fat-white-family-4

――そして、その3年間で、新作にもっとも影響を及ぼしたことはなんでしょうか?

自分が作っている期間で起こっていることから影響を受けないということは不可能だと思う。アルバムは、制作期間の記念碑みたいなものだからね。何か特定のことに影響を受けたというよりは、3年間の自分たちの経験がそのまま反映されて形になっている。アルバムは自分自身のセルフポートレートみたいなものだね。

――あなたのどんな部分が特にこのアルバムに反映されていると、または影響を及ぼしたと思いますか?

曲はメンバー全員で書いたから他のメンバーに関してはわからないけど、俺に関して言えば、フランス文学だね。セリーヌとか。最近のお気に入りなんだ。

――様々な音楽性が交差し、混沌としているのは新作でも変わりありませんが、ずいぶんと音が整理されて、聴きやすくなった印象を受けました。それは意図したものなのか、それとも参加した人による影響なのでしょうか?

さっきも話したけど、俺たちの音楽は常に“ポップ”であってきたと思うんだけど、それをやっている上で、リスナーや業界に対して攻撃的で反抗的なものではなく、人を惹きつけ、自分自身をもっと素直に表現したものを作れるようになっていったんだ。今回はそれを達成できたと思う。もっとコミュニケーションが取れる音楽を作れるようになってきたと思うね。

――リスナーとコミュニケーションをとることがもっと大事になってきた?

そうだね。自分自身を楽しませることも大事だけど、活動を続ける上で大切なのは人と繋がることだから。

――バクスター・デューリーが参加した経緯は?

バクスターは俺たちの昔からの友人で参加してもらうことになったんだ。彼には、あの詩や語りのような独特のヴォーカルをもたらして欲しかった。アルバムには、沢山のサウス・ロンドンのミュージシャン達に参加してもらっているんだ。チャイルドフッド(childhood)っていうバンドのメンバーのベン・ロマン、インセキュア・メン(Insecure Men)のアレックス・ホワイト、あとはスウェットっていうバンドのダンテとガマリエルとか。あとブリジットっていう女の子もストリングスで参加してくれている。ビッグ・チームだったよ。みんなプロだし、友達なんだ。バンド・ミュージックを作る道を選ぶなら、コラボはかなり重要。人によって得意不得意があるからこそバンドで音楽をやるということを選択すると思うんだけど、様々な素晴らしいミュージシャン達に自分たちにはないものをもたらしてもらってより良いものを作るというのはすごく良いことだと思うね。

Childhood – Blue Velvet

Insecure Men – Teenage Toy(Official Video)

――また、プロデューサーはなぜLiam D. Mayだったんですか?

セルフ・プロデュースしてたんだけど、最後の2、3個のセッションでLiamを起用した。最初は全部自分たちで全部やりたかったんだけどね。だからシェフィールドの安いスタジオで作業することにしたし、プレッシャーを感じたくなかったんだ。で、自分たちに出来ることは全部やったんだけど、やっぱり自分たちと違う目線で音楽を見てくれる人の意見も大事だと思った。彼はそれをもたらしてくれたんだ。頼んで良かったよ。彼にはダンスミュージックのバックグランドがあるから、グルーヴ、サンプリング、ドラムマシーン、そういったサウンドを加えてくれたね。彼にはそのダンスっぽい要素を持ってきて欲しかったんだ。

――曲作りやレコーディングで、これまでと異なる手法を試しましたか?

今回のアプローチは全然違った。メンバー全員が曲を書いたし、メンバーがお互いにオープンでもっとコミュニケーションが取れていたと思う。だからもっと色々なサウンドを試すことができたんだ。前よりも断然心地よかった。制作をより楽しみながら作業をすることができたね。

――本作で最も表現したかったこと、伝えたかったことは?

曲によってコンセプトが違うから、アルバム全体のコンセプトというのは特にない。言えるのは、どの曲も出来るだけ自分に正直に、誠実に書いたということだね。その曲のキャラクターが自分じゃないとしても、それは自分自身の経験に基づいている。全てが自分自身やその周りのことについてなんだ。

――ファンク、それも白人によるファンクの影響が伺えますが、何か理想としていた、もしくはよく聴いていた作品はありますか?

ファンクもあるしテクノもあるし、フォークもあるし、カニエっぽいのもあるし、影響は計り知れないよ。俺たちは様々な種類のレコードを聴くから。このアルバムにはそれが全部落とし込まれてる。よく聴いていた作品は、ワム!(Wham!)の“Blue (Armed With Love)”。あのレコードは俺たちが聴いていた中で最も重要な作品だと言えるね。あのレコードはかなり聴いてたし、すごくインスパイアされたんだ。是非聴いてみてくれ。あと、ジャ・ウォブル(JAH WOBBLE)もたくさん聴いてたな。

――また、8曲目の“Rock Fishes”はサイケデリック・ダブなアプローチを見せています。各曲ごとに音楽性が違いますが、メンバーそれぞれの音楽性を民主的に曲に落とし込んでいるんでしょうか?

そうだね。今回はより広がりがあると思う。あと今回は、それに加えてより洗練された、エレガントな曲も入れたかったんだ。

――一方で、“Oh Sebastian”のようなエレガントな曲もあります。ちょっと意外でした。

その驚きが良い驚きだったらいいけど(笑)。ずっとよりソフトな曲を作りたいとは思っていたんだ。今回はサイドプロジェクトの経験もあって、それが前よりも出来るようになっていた。だから、それをファット・ホワイト・ファミリーでもやってみることにしたんだ。

FAT WHITE FAMILY – Oh sebastian(’FD’ acoustic session)

――タイトルの『Serfs Up!』はビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)の『Surfs Up』をもじったものですか?

いや、ビーチ・ボーイズをもじったわけじゃないんだよね。たまたまあれに似たタイトルになったんだ。労働者階級がもっと自由になるために伸び上がるっていうのを表現したのがあの言葉。Brexit、トランプ、そういった現代の問題を総括したものがこのタイトルなんだ。

――前作収録の“Whitest Boy On The Beach”はトレインスポッティング2のサントラに起用されましたが、どういう経緯だったのでしょうか?

「出版から電話がかかってきて、あの映画が君たちのトラックを使いたいらしいよって言われて(笑)、お金ももらえるし、最高だと思った(笑)。映画は見たけど、映画ってやっぱり2を作るべきかわからない作品ってあるよね(笑)。『トレインスポッティング2』は作らなくてもよかったんじゃないかなと思う(笑)。ロボコップとかターミネーターはよかったけど。

Fat White Family – Whitest Boy On The Beach

――〈Domino〉に移籍した経緯と理由は?

メンバーが抜けたり色々あったんだけど、〈Domino〉のオファーが一番よかったから彼らに決めたんだ。

――最後に日本でライヴを観られる日を楽しみにしていますが、昨年の<Rock en Seine Festival>では8人での演奏でしたね。レコーディングされた音よりも、さらに攻撃的で生々しかったです。ライヴを行なう上で、最も大切にしていることは?

一番大切なのは、自分がステージで何をしているのかをきちんと意識して把握すること。自分を完全に表現しきるということだね。ステージに上がる前は未だにかなり緊張するけど、演奏を始めるとそれが吹っ飛ぶんだ。

――ありがとうございました。

ありがとう。日本には一度も行ったことがないから、このアルバムで来日できるといいな。

このインタビューを通して、彼らの中にある音楽を作る上での強固な意志、そして地元サウス・ロンドンへの深い慈愛を感じ取ることができた。そんな彼らの魅力が詰まったニューアルバム『Serf Up!』をぜひ一聴あれ。

Fat White Family – Tastes Good With The Money(Official Video)

Fat White Family – When I Leave (Official Video)

『Serfs Up!』

Fat White Family インタビュー|サウス・ロンドン史上最凶のカルト・ヒーローがBrexit以降に表現したセルフポートレート interview190419-fat-white-family-1

Release

2019.04.19

Tracklist

1. Feet
2. I Believe In Something Better
3. Vagina Dentata
4. Kim’s Sunsets
5. Fringe Runner
6. Oh Sebastian
7. Tastes Good With The Money
8. Rock Fishes
9. When I Leave
10. Bobby’s Boyfriend

Fat White Family

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