アトランタを拠点に活動する女性シンガー・ソングライター、フェイ・ウェブスター(Faye Webster)の新作『I Know I’m Funny Haha』(通算4作目)が6月にリリースされたとき、アルバム終盤に収録された“Overslept”のクレジットに驚いた。

featuring mei ehara」って書いてあるけど、これってあの〈カクバリズム〉のmei ehara? よく知ってる人だけど、どういう抜擢? 海を越えた交流がひそかに行われていたってこと?

曲を聴いて、さらに驚いた。“Overslept”では、ふたりのデュエットというよりお互いが交互にヴォーカルを取る。R&Bシンガーとラッパーのよう、とも言えるけれど、もっと淡々として飾り気のない親密さがあって、話している言葉は違うけれど交換日記のようなニュアンスがあった。とっくに親友みたいじゃないか。

サブスクリプションでフェイが“mei ehara”の音源を見つけたところから始まったというふたりの交流。おもにDMなどを通じたチャット的なもので、こうしてZoomで顔を見合わせてしゃべるのは初めての機会ということだった。本当なら進行役も通訳もいない親密な時間を用意してあげたかったが、まずは先に音楽を通じて知り合ったふたりのアーティスト同士の、あらためての「はじめまして」の記録としてお届けしたい。

Faye Webster – Overslept(feat. mei ehara)

対談:Faye Webster × mei ehara

──交流の始まりはどちらから?

フェイ・ウェブスター(以下、フェイ) 私が一方的に彼女のファンだった。Spotifyの「related artist(関連するアーティスト)」でmeiを見つけたのがきっかけ。それまであんなところ気にしたこともなかったのに(笑)。あのときはツアー中で、バンドと一緒にすごく長時間のドライブしててね。私はエマーソン北村を聴きながら、めちゃくちゃおしゃれ(chic)でクールだなって思ってた。そのとき、たまたま画面をスクロールダウンしたら“related artists”でmeiを見つけたんだよね。試しに33秒聴いただけで「これ超クール!」だって直感したから、興奮してバンドのみんなにも聴かせた。あとでちゃんと彼女の音楽をオンラインで見つけて夢中になって、Instagramをフォローしたんだ。

mei ehara(以下、mei) ちょうどその頃、フェイの音楽にすごくハマってた友達がいて「meiちゃん、フェイ・ウェブスターにフォローされてるよ」って教えてくれたんです。私はそれで気が付きました。フェイはストーリーにも、ツアー中に私の曲を聴いてる様子をアップしてくれてて。「彼女はいったい何者?」と思って、私も彼女の音楽を聴くようになり。そこからDMとかでちょこちょこ会話するようになって、友達になっていった。

フェイ そうそう、そうだった。

──フェイさんが最初に聴いたのはどの曲だったか、覚えてますか?

フェイ たぶん、最初に聴いたのは『Sway』。第一印象は、私のバンドとサウンドが似てるってこと。私が自分大好き人間だから彼女を好きになったってわけじゃないんだけど(笑)。でも、サウンドが似てるってこともあるけど、私がいちばん惹かれた理由は、使ってる楽器は同じようなものなのに、彼女がやろうとしてることが自分には思いつかないようなアイデアだったりして、曲から学ぶことがいろいろあったからかな。言葉で説明するのは難しいけどね。

mei ehara『sway』

mei 私も(フェイの音楽に対して)感じてることは近い。フェイの音楽を聴いてすごく好きになったたし、やりたいことと方向性が似てると思った。わりとシンパシーを感じてます。彼女は結構渋いことをやってるので、どういう音楽を聴いて育ったのかな、とかも思ったし。

──DMでのチャット以外にも、プレイリストのシェアとかもしていたそうですね。

mei はい。

フェイ やっぱり「どんな曲を聴いてきたのか」はすごく興味があること。プレイリストをシェアできたのは、いまでも私には最高にクールな出来事だった。二人の趣味はよく似てる。私は何度かメールもいきなり送りつけたりもしてたけどね。「こんなギター弾いてみたんだけど、見て」とか(笑)。

──こういうふうに海外のアーティストとやりとりすることって、これまでもありました?

mei マック・デマルコ(Mac DeMarco)とか、ジェリー・ペーパー(Jerry Paper)とか、来日したアーティストと会って仲良くなるってパターンはいくつかあったかな。でも、会ったことない状態で向こうから連絡をくれたっていう経験はあんまりないですね。それに、連絡をくれた人の音楽を聴いて私も好きだなと思えて、コミュニケーションとりたいと思うような機会もそんなになかった。フェイみたいな感じでネットを介して仲良くなれたのは初めてかもしれない。

フェイ 私もこれまで4枚アルバムを出しているけど、自分の曲で誰かをフィーチャリングしたのは1曲だけ。しかも、会ったこともない人と一緒にやるなんて完全に初めてだった。誰かとやるのは苦手だったから。

──今回フェイさんの新作『I Know I’m Funny haha』に収録された曲“Overslept”で一緒にやるのはmeiさんしかないという判断だったんですよね。それほどの存在だと感じたのはなぜなんでしょう?

フェイ あの曲には誰か私以外の参加が必要だと思ってた。パンデミックのなかであの曲を書くのはすごく苦しい作業だった。疲れて頭が働かないし、書く気力も出てこない。マネージャーやレーベルの人にも相談したら「誰かとコラボしたら?」って、有名なアーティストをいろいろ候補に挙げてくれたけどね。私より有名な人と共演したらストリーミングの再生回数も稼げる大チャンスだって彼らは言う。でも私はそんなことどうだってよかった。むしろこのアルバムを作ってる間、私が数え切れないほどmeiの音楽を聴いてたことを考えたら、私が彼女に「参加してくれない?」ってオファーしなかったら、私はフェイクだなって。だからmeiに直接聞いてみようと思った。

Faye Webster『Who Wants To Be A Millionaire』

mei もともと去年の秋くらいから「何か一緒にやりたいね」みたいな話はしてたんです。でも、その時点ではフェイの新作のためにやるとかじゃなくて、「曲ができたらお互いに送りましょう」みたいな感じ。私はあんまり曲が書けてなかったけど、フェイは新作の制作段階のデモとかもいろいろ聴かせてくれて。その流れのなかで「この曲で何かできる?」って、“Overslept”を一番だけ歌が入った状態で送ってくれた。「もちろんやりたい」って返事しました。

フェイ そうそう、そんな感じだったね。

──フェイさんは日本語で歌ってほしいというリクエストはしていたんですか?

フェイ 私からは何も特別な指定はしないで曲を送った。逆に、meiのほうから「どうしてほしい?」って聞いてきたかな。私は彼女のアートの大ファンだから「私のために何かを変えてほしくない。私なんか気にしないで普段通りに歌って」って感じでお願いした。

mei でも、英語と日本語どっちが正解なのかはすごい悩みました。“Overslept”は繊細な曲だったし。日本語になるとノリが変わってくる。でも、フェイが「日本語でいい」と言ってくれたので助かりました。

フェイ 代わりばんこに歌詞を書いていく感じのやり方だったね。デュエットしながら「私がAパート、次はあなたがBパート。ここ歌うの忘れちゃダメだからね」と言ってるみたいに。昔ながらのコラボレーションのやり方だったし、私にはすごくいい感じだった。

──フェイさんはmeiさんが歌ったパートの歌詞を読んでどう感じました?

フェイ 最初にGoogle翻訳で読んだんだけど、すごく詩的で美しかったな。私が書く歌詞はすごく直球であけすけなタイプでしょ。meiとは全然違うから、彼女がくれた詩的な歌詞と私の歌詞のバランスがすごくよくてうれしかった。

mei 1番だけの歌詞を最初にもらったとき、私も日本語に訳しました。でも直訳だけじゃわからない意味の取り方がいろいろあるのかなとも思ったんですよ。だけど、彼女に「これってどういう曲なの?」みたいに根掘り葉掘り聞いたりするのも違うかなと感じたんです。なので、こちらで訳したフェイの歌詞をもとに私が感じたことを、彼女の思いにできるだけ添うかたちで書こうかなと。だからと言って、彼女のテイストを寄せすぎず、普段私がやっているような、あんまり意味合いが取りづらいかたちの日本語で。英語の発音に近い音を探したいとも思いましたね。スローで淡々とした曲だったので、日本語で歌ってものっぺりしすぎない言葉を探して組み立てていった感じです。

フェイ 歌詞を書いたプロセスは初めて聞いた。うれしいな。“Overslept”をミックスしてるときも、エンジニアが「彼女の歌い回しやばいよね」って言ってたからね。meiの歌が音楽にぴったりハマる感じがあった。私にはなんて歌ってるのかちゃんとはわからないけど、言葉を口に出してる感じとかがこの曲にすごくピッタリだねってエンジニアと話してたんだ。きっとヴォーカルの録り方が似てるんじゃないかな。私は自分の声に余計なエフェクトをたくさんかけないし、歌うのも2、3テイクくらい。完成度を求めるより、2回目や3回目のテイクを採用することが多い。歌詞を大事にしてるからね。ソフトな発声で、リアルに生の声を聴かせたい。meiはどうなのかな?

mei 私もそう。何度も歌ってるとだんだん沼にハマってしまうので……。一回で歌い終わる時もあるし。だいたいそこはフェイと同じ感じかな。

フェイ 同じだね。レコーディングで録ってるサウンドもすごく近いものを感じたし、生の感情を大事にしてるってことも音楽の一部なんだろうな。

Faye Webster – In a Good Way (Official Video)

Faye Webster – Cheers(Official Video)

──この機会に、お互いに相手に聞いてみたいことってありますか?

フェイ あー、準備しとけばよかった(笑)。聞きたいことはいっぱいあるはずなのに、今はパッと思いつかない。

mei 私もそう。話したいことはあるんですけど。

フェイ ヴォーカル録りのマイクは何を使ってる?

mei あー! レコーディングではたぶん、ノイマンってメーカーのやつかな。

フェイ ノイマンってどういう綴り?

──「NEUMANN」ですかね。ドイツのメーカーですよね。

フェイ へー、勉強になる(笑)。私の曲でいちばん好きなのはどれ?

mei えー! なんだろ?

フェイ 正直に言って。

mei うーん、いろいろあるけど、新作からだったら“Better Distractions”かな。昔の曲から選ぶなら“Kingston”(2019年、アルバム『Atlanta Millionaires Club』収録)。

フェイ (いいね!)

──フェイさんが好きなmeiさんの曲は?

フェイ 日本語だから読めないんだけど、ヴァージョンが2つある曲のオリジナル。こんな曲よ(と歌い出す)。あれ、なんてタイトルなの?

mei “最初の日は”。

フェイ アルバムに入ったヴァージョンも好きだけど、最初のヴァージョンがすごい好き。あれは名曲!

Faye Webster – Better Distractions(Official Music Video)

Faye Webster – Kingston

mei ehara/最初の日は【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

──今回“Overslept”で一緒に曲を作ってみた手応えは大きかったと思います。またコラボする機会もありそうですね。

フェイ 私はそうしたい。できたらね。

mei 私も。「一緒に何かしたい」って話をしつつ、これまではフェイばっかりできた曲のデモとかを聴かせてくれたりしてるので、私も何か送らなきゃ。次は私発信で作りたいな。頑張ってやってます。

フェイ いいね! 二人での曲づくりは理想的なやり方だったから。レーベルやマネージャーには、すごくいい曲を書く人とのソングライティング・セッションを勧められてたけど、私は自分の感情を知らない人の前でさらけ出すのは無理だし、いやだった(笑)。だけど、meiとの作業は違った。私の曲をmeiにメールで送って、彼女が自分の分を足して返してくれる。私にとってこのやり方はパーフェクト。

mei 私も同じこと(ソングライティング・セッション)を提案されても無理かな……。

フェイ そうだよね。

──今は一曲を仕上げるのにすごくいろんな要素を詰め込んだり、Co-writeみたいに何人ものソングライターが一曲に関わるのが普通の時代ですよね。そんななかで、二人のやりとりはすごく伝統的なソングライティングを感じるものでした。時代の変化はあっても「曲を作る」ということのシンプルな楽しさが受け継がれているなと感じたんです。

フェイ そうね。meiとシェアしたプレイリストの曲からも、二人が似てるって感じてた。私が自分でも曲を書きたいって思わせてくれるような曲は、昔ながらのアーティストのが多かった。王道のポップスや古いカントリー&ウェスタンのラブソングで、「どうして私を好きになってくれないの」みたいな、ちょっとベタなやつ(笑)。そういうのから受けた影響は大きい気がしてる。

──アメリカと日本ではコロナ禍の状況も違うし、ミュージシャンたちの次のアクションも違う感じにはなってますが、お互いに次に作りたい曲や、この先の活動で考えてることはありますか?

フェイ 9月からツアーが始まる。12月くらいまで続くかな。アルバムをやっと作り終えたばかりだから、曲作りについては考えるだけで吐きそう(笑)。今は何も考えてないかな。

mei 私は去年コロナ禍でアルバム(2020年4月リリースの『Ampersands』)を出したけど、ライブもしてない。ライブした後にミュージシャン同士で無駄話したり、お酒を飲んで制作の話をしたりするみたいなことを全くしてないから、今は自分からどういう曲が出てくるのかはいまいち想像できてないな。新曲を作ってみてもまだパーツがバラバラな感じなんで、それをどうやってひとつにまとめるのか苦戦してるところ。頑張ってます。

フェイ 私も待ってる。その気持ちよくわかる。デモを私に送ってくれてもいいのよ(笑)。今日は話せてよかった。

mei サンキュー。いつかフェイと実際に会うときまでに英語を勉強しておきます(笑)。

フェイ へっへー。It’s OK!

Faye Webster – A Dream With a Baseball Player(Official Video)

Faye Webster – I Know I’m Funny haha(Official Video)

取材・文/松永良平
通訳/Yuriko Banno

あらためての「はじめまして」の記録──対談:Faye Webster × mei ehara interview2108-faye-webster-mei-ehara

フェイ・ウェブスター(Faye Webster)
小学校時代に独学でギターを学び、家族は伝統的なブルーグラスとカントリーのプレイヤーであったWebsterはミュージシャンになるべくして生まれた。僅か16歳でデビュー・アルバム『Run & Tell』をリリース。10代の現象であったJackson BrowneやLaura Marlingのように、作品は叙情的で芸術的な明快さを示していた。彼女は故郷、アトランタのカルチャーに深く根付いていた。L’il Yachtyはクラスメートで、高校時代にラッパー/プロデューサーのEtherealと友達になった。続けてAwful Recordsと契約。Father、Playboi Carti、Ethereal等とレーベル・メイトとなった。部外者にとっては少し奇妙だが、Websterは彼らと同じアート・キッズの精神を共有していたのだ。2017年にAwfulからリリースされたセルフ・タイトルのアルバムは、彼女をSecretly Canadian(ANOHNI、Porridge Radio、Whitney、Yoko Ono)との契約に導くのに十分な内容であった。2年後、彼女は『Atlanta Millionaires Club』をリリース、批評家達から高い評価を得た。「ペダル・スチールを備えたR&Bのアルバムはほとんど存在しない。ラップの機能を備えたオルタナティヴなアルバムもほとんど存在しない。Faye Websterの『Atlanta Millionaires Club』には、どういうわけかこれら全てが存在する。更に、彼女はこれらの明らかな矛盾を、まろやかで穏やかなフォーク・ポップとすることが出来る。Websterは特異だ。しかし、彼女の芸術的な個人主義は共通の価値を表している」とPitchforkはアルバムを評した。マルチな才能を持つWebsterはKiller Mike、Offset、D.R.A.M、Nikeといったブランドのキャンペーンの撮影を手掛けたフォトグラファーでもある。また、時々、モデルとしても活動し、フルタイムのヨーヨー愛好家でもある。

Faye Webster InstagramFaye Webster Twitterジャパン・オフィシャル・サイト

あらためての「はじめまして」の記録──対談:Faye Webster × mei ehara interview2108-faye-webster-mei-ehara-2

mei ehara
学生時代、自主映画のBGM制作のため宅録を始める。その後、歌唱を入れた音楽制作に移行。自主制作を経て2017年11月カクバリズムより1stAL「Sway」を発売。音楽活動の他、文藝誌「園」主宰、インタビュープロジェクト「DONCAMATIQ」、アーティスト写真の撮影やデザインなどの制作活動も行う。バンド編成とアコースティックの自主企画ライブイベント「カンバセイション」「間(あいだ)」を開始し、2018年夏には、FUJI ROCK FESTIVAL’18に出演。その後も7inchシングル「最初の日は/午後には残って」をリリース、2019年夏にはデモ音源集カセットプロジェクトを開始、他アーティストの楽曲にゲストボーカルで参加するなど、活動を続けている。

mei ehara HPmei ehara Instagrammei ehara Twitterカクバリズム HP

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FAYE WEBSTER
『I KNOW I’M FUNNY HAHA』

2021.06.25 ON SALE
発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
その他:世界同時発売、解説/歌詞/対訳付、ボーナス・トラック2曲のダウンロード・カード封入(初回盤のみ)

Tracklist
1. Better Distractions
2. Sometimes
3. I Know I’m Funny haha
4. In a Good Way
5. Kind Of
6. Cheers
7. Both All the Time
8. A Stranger
9. A Dream with a Baseball Player
10. Overslept(feat. mei ehara)
11. Half of Me
※初回盤のみボーナス・トラック2曲のダウンロード・カード封入
1. Better Distractions – Live From Chase Park Transduction
2. In A Good Way – Live From Chase Park Transduction

配信はこちらから

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あらためての「はじめまして」の記録──対談:Faye Webster × mei ehara interview2108-faye-webster-mei-ehara-3

mei ehara
『Ampersands』

2020.05.13(水)ON SALE
品番:DDCK-1067


Tracklist
1. 昼間から夜
2. 歌の中で
3. 優しく
4. どちらにピントを
5. 不確か
6. ギャンブル
7. 似合ってくる
8. 群れになって
9. 最初の日は
10. 鉄の抜け殻

配信はこちらから