失われた日常の中で、希望を見出し大きな成長を遂げたFickle Friends
ヴォーカルのNatti Shinerが語るニュー・アルバム『Are We Gonna Be Alright?』
UKブライトンで結成し、2018年のデビュー・アルバム『You Are Someone Else』がヒットしてから約4年近くを経て、Fickle Friends(フィックル・フレンズ)のセカンド・アルバム『Are We Gonna Be Alright?』が2022年1月14日にリリースされた。
“Fickle Friends Film Club”という映画クラブを定期的に開催する映画好きな彼ららしく、アートワークはクラシックなホラー映画風に仕上げたそう。
『Are We Gonna Be Alright』アートワーク
さて、UKでロックダウンが解除されてからの2021年、彼らは夏にいくつかのフェスに参加し、9月にロンドンのSebright Armsで開催したアルバムのティーザー・ショーは即ソールドアウトと成功を収め、ゆっくりと日常が戻ってきているようだ。
同年、コロナ禍の経験を反映させた『Weird Years』シリーズ2枚のEPのリリースに続く新作となる今作は、同じくパンデミックの間の経験が語られているが、「より希望に満ちた作品となっている。」とバンドのヴォーカル、Natti Shiner(ナッティ・シャイナー)は自信に満ちた目で語る。
『Weird Years Complete』
「人生で何が最も大切なのかを考えるようになった。」
「この数年のコロナ禍の状況は全ての人にとってターニングポイントになったのではないでしょうか。今までの普通だった日常が奪われ、例えば友人に思うように会えなくなってしまいました。」
アルバムに収録されている“Alone”はそのような状況下に作った曲で、「ロックダウンのアナウンス直前に、友達全員をハウスパーティーに招待して、ロックダウンになった途端に家に閉じ込めてみんなで過ごせたらよかったのに!」という彼女たちのユーモアが込められていて、思わず共感してしまう。
Fickle Friends – Alone(Official Video)
アルバムのオープニングを飾る“Love You To Death”は、Prince(プリンス)のヴァイブスを反映させたという爽やかなポップ・ソングだが、実はロックダウンの間に起きたNattiの長年の恋人との別れの経験から書かれた曲である。「それは自分にとって困難なことでした。」と彼女は当時を思い返す。「数ヶ月間、『私はなんということをしたのだろう?! あんなに良い人となぜ別れてしまったのだろう?!』と、激しい感情に囚われていました。私はその人のことを愛していて、その感情に殺されそうなぐらいでした。この曲はそれを乗り越えるためのプロセスでした。」
また、パワフルなロック・アンセムである“Yeah Yeah Yeah”はパンデミック初期のロックダウンの間に感じていた怒りやフラストレーションを叫ぶように歌っている。「当時の制御不能な感情を覚えています。」とNattiは思い返す。「どのようになっていくか誰もわからない状況で、自分自身どうすれば良いか、どのように計画を立てれば良いかわからないこの苛立ちを書き出すことは簡単でした。この曲はロックダウンの期間に何百回と思っていたことを1週間で全て吐き出したもので、リストのように歌詞を書き殴りました。まさに、誰もいな居場所で自分の叫びが反芻するような、グランドキャニオンで叫んでいるような状況で頭も痛くなりました。そして突然、この曲が出来上がったのです。」
Fickle Friends – Love You to Death(Official Audio)
Fickle Friends – Yeah Yeah Yeah(Official Video)
最後に、スローなテンポのアルバムタイトル・トラックでAre We Gonna Be Alright?(私たちは大丈夫だろうか?)と優しくリスナーに問いかけて今作は締めくくられる。このフレーズは彼ら曰く、「このパンデミックの間、自分たちに問いかけていた」質問だそう。「ここ数年の間、音楽に何の意味があるのだろう、私たちはどうしたら幸せになれるのだろう、何が怒りの気持ちにさせるのだろう、私たちはこれからどうしたらよいのだろう、と自分たちに問いかけてきました。」パンデミックが始まってからのこの数年間、私たちのかつての日常は日常では無くなってしまった。そのような状況で、Nattiは「人生で何が最も大切なのかを考えるようになった。」と言う。
このアルバムの中で、彼らは失われた日常の中での欲求不満や不安を吐き出しながら、人生や人間関係を見つめ直し、そして、今戻りつつある日常とバンドの帰還を喜び、幸福を噛み締めている。まだ終息が見えない状況下で、Are We Gonna Be Alright?(私たちは大丈夫だろうか?)という質問はこれからも問いかけ続けるだろうが、混沌とした中での困難を乗り越え、バンドとしてもDIYのルーツの原点に戻りながらさらに大きく成長を見せることができた今作は、彼らにとって一つの区切りの作品になったに違いない。
Fickle Friends – Are We Gonna Be Alright?(Official Visualiser)
『What TF is a Fickle Friend?』
Text by 栗原葵(Aoi Kurihara)
Fickle Friends
Fickle Friendsは2013年に英ブライトンで結成されたインディ・ポップ・バンド。メンバーはNatti Shiner(Vo.)、Harry Herrington(Ba.)、Jack Wilson(Syn.)、Sam Morris(Dr.)の4人。イギリスやヨーロッパを2年間ツアーし、53ものフェスティヴァルでプレイした後、メジャーの〈Polydor〉と契約し、Mike Crosseyのプロデュースによるデビュー・アルバム『You Are Someone Else』を2018年3月にリリース。アルバムはUKチャートの9位を記録し、日本や韓国でもヒットした。2019年10月、バンドは新曲“Amateurs”をリリース。2曲の新曲(2020年1月の“Pretty Great”と3月の“Eats Me Up”)を経て、2021年1月には5曲入りEP『Weird Years(Season 1)』、5月には4曲入りEP『Weird Years(Season 2)』をリリースした。