——アルバム制作時からラジオ向けを意識していたのですか?

うん、そこは確かに意識していたよ。オーストラリアからLAに来て録音したのもその狙いがあったからなんだ。LAでコラボをしたかった。アルバムにはそういったラジオ向けトラックもあれば、そうじゃないトラックも収録されていて、最終的にはそのバランスが上手く取れたんじゃないかなって思うんだ。

——ゲスト・シンガーを選ぶ基準というのは?

いろんなケースがあると思うんだ。ディーヴァ系のパワフルなヴォイスが欲しい時もあれば、アルバムに参加してもらったリトル・ドラゴンのようなタイプもあるし。(リトル・ドラゴンの)ユキミ(・ナガノ)の声は、大好きなんだよね。ずっと共演したかった人。その願いが叶って、凄く嬉しかったよ。

Flume – Take a Chance feat. Little Dragon

——フルーム自身も歌っている?

けっこう歌っているよ。ほとんどがバックグラウンドで歌っているから、よく分からないと思うけど。自分の声を使ってサウンドを特徴付けたりするんだ。「フリー」というトラックなどがそうだね。でも、ヴォーカリストじゃないから、人前でマイクを握ったりとかはしないけど(笑)。

——他の人が作っていないサウンドを作りたい、というのが大きな目標だったそうですよね。

それこそプロデューサーの醍醐味じゃないかと思うんだ。ユニークなタイミングやテクスチャーのサウンドを生み出したり。普段から音楽を聴いていて僕が一番興奮するのが、新しいサウンドや奇妙な音色を見つけた時なんだ。このアルバムを作る過程で次第に重要になっていったのが、一見突拍子もないような音色を使って、サウンドを上手く作り上げていくことだった。

——同じような作風のアーティストで共感できるのは?

アルカはいいね。FKAツイッグスやカニエ・ウェストの楽曲を手がけている。彼からは凄くインスパイアを受けている。彼が生み出すのは、まったく途方もない、誰も聴いたことのないようなサウンド。ソフィーにも言えてるよね。誰にも真似できない独特のスタイルをもっている。

Arca – Anoche

——アブストラクトなサウンドを重ね合わせつつも、最終的には曲として成立することを重視していますよね?

うん、僕の音楽の作り方って、曲を作る最初の時点では、機材を弄って奇妙なサウンドを作ったりとか、全然音楽的じゃないんだ。でも、そこから進めていくうちに、次第に曲の形が見え始めていく。最初は一部だけかもしれないし、ヴァースやコーラスだけかもしれないけれど。いつもサウンド面から取り掛かり、最終的に曲の形にしていく。いろいろ弄っているうちに出来上がるって感じかな。テクノロジーにすごく興味を持っているんだ。世界中の人が新しいプラグインを作ったりしているのに、ワクワクさせられるよ。ロシアにいる人が作ったプラグインを僕がダウンロードして、それを使って新しいサウンドを作り、レイヤー、エフェクトをクリエイトしたり。ひょんなことから素晴らしいものが誕生することもある。そうしたサウンド設計こそが、僕の最も興味あることなんだ。でも『Skin(スキン)』を制作する上での最大のチャレンジは、曲として成立する音楽を作るということだった。部屋にこもってソフトウェアや楽器を弄っているだけじゃなく、コーラスやブリッジなどを作って、曲を書くようにと自分を仕向けたよ。それは以前にはやっていなかったことなんだ。その結果、「グラミー賞」に結びついたわけで、僕にとってはとても励みにもなり、自信にもなったと思うんだ。

Flume – Say It feat. Tove Lo [Official Music Video]

——楽器の演奏に関しては?

学校に入る以前からずっとサックスをやっていたよ。だから音楽的な基礎知識は持っている。曲作りで、シンセでコーラスを作ったり、大抵はコード進行から入るかな。

——ダンス・ミュージックを作っているという意識はありますか?

元々僕はクラブ・ミュージックを作っていたんだよ。ハウス・ミュージックやテクノなど、エネルギッシュなクラブ向け音楽を作っていた。フルームに関しては、サイド・プロジェクトという感じで、あまりクラブ向けとか考えていなかった。創造性を発揮する場所という感じかな。でも、そっちの方が脚光を浴びたんだから面白いよね。フルームとして初めてフェスに出演した時は、物凄く不安だったよ。元々ダンスをするために作った音楽じゃなかったからね。でも初めてフェスをやった時「うわっ、これでみんな踊っちゃうんだ!」って驚いたよ(笑)。

Flume – Never Be Like You feat. Kai [Live at St. Jerome’s Laneway Festival Melbourne]

——メイン・プロジェクトだったクラブ・ミュージックに関しては、今後はどうするつもりですか?

クラブ・ミュージックを聴いてて思うのは、一定のルールがあるってこと。クラブで掛けてもらうには、そのルールに従って曲を作らなければならない。そんなのつまらないからクラブ・ミュージックを作るのは辞めてしまったよ。ハウス・ミュージックは今でも大好きだけど、キックドラムがここに一定間隔で挿入されて、とかいった制約に捕らわれないで、自由に曲作りをしたいんだ。

——例えばクラブ・ミュージックでは、どんなアーティストが好きだったのですか?

幅広いジャンルを聴いてきたから、時期によってかなり違っているけれど、今でもよく聴くのが『ミニストリー・オブ・サウンド』のコンピかな。あとトランスもよく聴くよ。最初にプロディジーを聴いた時にはぶっ飛んだよ。ずっと長い間、彼らからはインスパイアを受けてきた。特に彼らのアルバム『ザ・ファット・オブ・ザ・ランド』(97年)からは大きな影響を受けている。

——そもそもエレクトロニック・ミュージックに傾倒したきっかけは?

サックスは吹けたけど、僕の聴いていた音楽はそれじゃ演奏できなかったのと、他の人と一緒じゃなきゃ演奏できなかった。いつもそれが悩みの種だった。もっと壮大な音楽を作りたかったし、アイデアも持っていた。という時に、エレクトロニック・ミュージックに出会って、ぶっ飛んだよ。自分ひとりでベースラインも、リードも、コードも、ドラム・サウンドだって作れる。自由を手に入れた気分だったよ。以来、夢中になって、学校から帰ってくるや否やビートを作ったりして、趣味でやっていたんだ。

【インタビュー】ディスクロージャーやベック、ロードも一目を置く!?豪のトラックメイカー、フルームとは? Flume-LA-5-700x467

——EDMシーンの担い手という自覚はありますか?

EDMシーンに属しているとは、思ったことがないけれど、アメリカではエレクトロニック系の音楽は、すべてEDMと見なされているようなんだ。そういう意味では、僕もEDMかな(笑)。踊ることだってできるしね。でも、ヒップホップだって、エレクトロニック音楽であり踊ることもできるけど、EDMとは括られていないよね。よく分からないよね。

——EDM系に近いとされるDJやアーティストで共感できるのは?

ケイトラナダはいいよね。バウワーがやっていることも大好きだし、シュローモ(Shlohmo)もいいね。あとさっき挙げたアルカやソフィーも。

——フルーム風に似せたサウンドがあちこちで聴かれるようになっていますが、その先駆者としてはどういう気分ですか?

モロにパクリみたいなのを聴く度に、最初の頃はイラついていたんだ。でも、そのうち違うように思い始めてきた。そんなにパクリたいほど好かれているんだって、ちょっと誇らしく感じたり。パクリたいなら自由にどうぞって感じかな(苦笑)。僕は自分のやりたいふうにやるだけ。追従したりトレンドは追いたくないよね。

【インタビュー】ディスクロージャーやベック、ロードも一目を置く!?豪のトラックメイカー、フルームとは? Flume-LA-9-700x467

————ミュージック・ビデオやアート・ワークなどのヴィジュアルへの拘りについて教えてください。

凄く大切なことだと思うんだ。一緒に仕事をする〈Future Classic〉のネイサンなども、そういうことを大切に考える人なんだ。ヴィジュアルはジョナサン・ザワダというアーティストが手がけてくれている。彼もオーストラリア人で、彼の作品が大好きなんだ。花を撮ったが作品など、どこまでが実写で、どこからがデジタルなのか区別が付かない。いろんな意見を出し合って、アイデアを交換しているうちに出来上がった感じかな。母親が園芸家だから、子どもの頃から植物の手描きなどが家中にあったんだ。ジョナサンの母親も園芸家で、彼も植物を使った作品を考えていたようなんだ。ライヴ・パフォーマンスにおける映像も、彼が手がけてくれている。

#FLUMEworldtour

————将来的に映画やサウンドトラックの制作にも興味がありますか?

勿論だよ。映画やサウンドトラックにとても興味を持っている。中途半端なプロジェクトではなくて、全てを任せてくれるならやりたいね。ハリウッド大作だといいけど、短編でもいいかな。すごく興味を持っている。実は以前に、オーストラリアにいた頃、テレビCMの音楽を手がけたこともあるんだよ。父親が広告関係の会社で働いていて、テレビCMなどをたくさん手がけていたんだ。14〜15歳頃かな。住宅保険や銀行、毛じらみの薬のCMなんかを手がけたよ(笑)。映像に合わせて音楽を作ったのは、その時が初めてだったと思うな。確かに制約はあったけど、その制約の中で創造性を発揮するってことを学んだよ。

————特にお気に入りのサウンドトラックは?

スカーレット・ヨハンソン主演の映画『アンダー・ザ・スキン』だね。ミカ・レヴィというアーティストが音楽を手がけている(映画『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』でもアカデミー賞候補に)。

————音楽を手がけたい映画のジャンルは?

暗い雰囲気で、少しSF的な要素のある映画だね。『アンダー・ザ・スキン』のような不思議な感じがいいな。でもエイリアン的ではなくて、美しい映像の作品かな。

————日本文化も大好きだとか。もしかしてオタクだったり?(オタクの説明をすると)

アニメや漫画ファンではないけれど、自宅にいるのが大好だね。間違いなく、引きこもりだよ(笑)。いつもパソコンを弄っている。でも海の近くで育ったから、サーフィンはいつもやっていたし、自然に囲まれているのが大好きなんだ。

【インタビュー】ディスクロージャーやベック、ロードも一目を置く!?豪のトラックメイカー、フルームとは? Flume-LA-6-700x467

interview by 村上ひさし

RELEASE INFORMATION

Skin Companion EP II

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