今年5月、〈HIP LAND MUSIC〉がデジタルディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」を始めた。これは、ストリーミング時代のアーティストに向けて、従来レーベルが所属アーティストに提供してきたプロモーションやサポート、ディストリビューションを統合した新しいアーティスト支援サービスだ。

SNSプロモーションやプレイリスト、海外への楽曲配信など、新時代の手法が求められる一方、メジャーデビューやレーベル契約といった従来の音楽シーンの常識がこの数年で激変している。とりわけサブスクリプション登場以降、音源を独自配信するインディペンデントなアーティストを支援する動きが国内でも広がりつつある中で、レーベルに所属せずに楽曲配信からプロモーション、マネタイズを実現する「ディストリビューター」との関係性が注目を浴びている。

ストリーミングを目指すアーティストの理想的なディストリビューターとは何か? そしてプロモーションはどう変化していくのか? その答えを探るべく、「FRIENDSHIP.」でキュレーターリーダーのタイラダイスケと、キュレーターとして参加するThe fin.のYuto Uchinoに訊いた。

タイラダイスケ(FREE THROW)× Yuto Uchino(The fin.)対談|「FRIENDSHIP.」が目指す新しいアーティストサポートの形とは? interview1121_friendship-35

対談:
タイラダイスケ(FREE THROW)
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Yuto Uchino(The fin.)

━━〈HIP LAND MUSIC〉がなぜ今、デジタルディストリビューションを始めたのか、着眼点が面白いなと思ったのですが、開始までの経緯を教えて下さい。

タイラダイスケ(以下、タイラ) 以前から社内で、送られてきた音源を検討して、アーティストと契約するかを評価する「デモテープ会議」というものがあったのですが、自分は社外の人間としてそれに参加していました。ですが、だんだんとストリーミングにセルフリリースするアーティストが増えてきた中で、いつのまにかデモ音源を聴く会議なのに、アーティストにとって喜ばれるレーベル契約とは、という点について議論する機会が増え始めたのが、そもそものキッカケです。

これまでは、日本でレーベルと契約することは、アーティストにとってゼロか100かの2択から選択するようなものでしたが、でもその中間にも色々な音楽活動の可能性がまだあるはずです。今はインディペンデント・アーティストでも活動の範囲は広がっていますので、もっと柔軟性があるサポートを彼らに提案したいと模索していました。その議論の中で、デジタルディストリビューションを入り口として、自社契約以外のアーティストにも、僕らのレーベル機能やサポート体制をサービスとして開放していこうと考えました。

━━アーティストの立場としてYutoさんはFRIENDSHIP.の立ち上げをどうご覧になっていましたか?

Yuto Uchino(以下、Yuto) The fin.の活動初期にはCDでリリースしていましたけど、YouTubeやSoundCloudでも配信したし、The fin.の領域は元々デジタルの世界なんですよ。しかし、日本の音楽業界はレーベルもディストリビューターもCD販売を軸に動いている。だから、新曲のリリースを最重要視する風潮は昔から変わりがないんです。でも、誰もがセルフリリースできる時代に、その構造は壊れていると思うんですよ。そしてレーベルと契約するメリットとは何だろうと常に考えますね。

だから、俺らのような存在にとって、FRIENDSHIP.のようなレーベル機能の個別提供の組み合わせが、アーティストが現実的に望む活動を支援する理想なモデルだと思います。作品へのプレッシャーも無いし、参加するメリットも大きい。日本と比べると、海外はアーティストに自由がある環境が充実して、それがメインストリームな音楽活動の根幹でも根付いている。だからFRIENDSHIP.は日本の中でも、先進的なサービスだと思いました。

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━━ストリーミングに配信する場合、日本でも数々のディストリビューターが利用可能ですが、FRIENDSHIP.の特徴とは?

タイラ FRIENDSHIP.はレーベルではありませんが、レーベル機能を持ったデジタルディストリビューターです。デジタルリリースを前提に、個人の手の届かない部分をサポートするのが狙いで、日本でもあまり例がないアーティストサービスだと思います。本来レーベル機能はクローズドな領域で、外部との共有はNGじゃないですか。でも、FRIENDSHIP.ではアーティストにノウハウや手法をオープンにします。こうしたやり方も日本の音楽業界や次世代のアーティストにとってプラスになるのではないかと思っています。

もう1つ思うのは、FRIENDSHIP.の発案者がThe fin.のマネージャーの山崎さんだったことで、音楽ストリーミングや海外活動を軸にするアーティストの一番近い所にいて、海外の状況を理解する人からの案だったのは大きいですね。

━━FRIENDSHIP.は誰でも登録すれば利用できるわけではなく、キュレーターが音源を選びリリースするシステムです。選考基準では何を意識していますか。

タイラ 選考基準に関しては、今までの日本の音楽業界とは違う軸で評価しなければいけないと思っています。アーティストの活動パターンも多様化していますしね。例えば今は国内でも多種多様なフェスがあって、それはアーティストにとって大事なチャンスだとは思うんです。でも、大きいフェスに出る場合はそのフェスとの相性が問われるじゃないですか。

逆にそれ以外のジャンルのアーティストはフェスという意味だけで言うとチャンスが限られてしまうともいえますよね。なのでストリーミングで聴いてもらうという違う文脈で素晴らしいサウンドのアーティストにちゃんと光が当たったら良いなとも思っています。なのでジャンルは固定とかは無く、色んなジャンルのアーティストをサポートしたいですね。

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━━リリースを決めるキュレーターをアーティストが担当するのも新しいですね。

タイラ ディストリビューターですがレーベル的なカラーがあるのが良いなと。もっと言えば、カッコいい音楽だけやりたいんですよ(笑)。でも、自分たちが考える「カッコいい」の基準が外部から全く見えないとダメじゃないですか。なので、Yuto含めて音楽を俯瞰して評価できるアーティストたちに参加してもらうキュレーター制を導入しました。現在9名いますが、それぞれ異なる意見を持ち寄ってくれるので評価基準も広いですね。

Yuto アーティストとしてキュレーターをやるのはとても面白いですよ。年齢やジャンルも様々。予想していなかったジャンルの音源もあるし、新しい発見があって楽しいですね。

タイラ 特に、Yutoたちアーティスト陣は制作過程や音楽性、完パケのイメージなど、点ではなく面で楽曲を聴けることが評価では大きいんです。

Yuto 曲を聴く時は「ここを良くすれば、化けるな」とか。鳴ってない音をイメージしながら、伸びしろの部分を考えています。でも、キュレーター全員それぞれの考えは違うので、意見は必ず分かれますよね。

タイラ 満場一致はないですね(笑)。ただ、評価は多数決では決めないんですよ。送られてきた音源はキュレーター全員で全部聴きますし、1人でも良いというキュレーターがいれば、リリースされる場合もありますね。

━━新人アーティストや面白い楽曲は見つかりましたか?

タイラ 例えばヒップホップは、〈HIP LAND MUSIC〉では今まで強く取り組んでこなかったジャンルですが、Wez Atlas君のようなアーティストもFRIENDSHIP.であれば配信できるのは、今までのアーティスト契約のみという形からの大きな変化ですね。ヒップホップ好きなキュレーターも多いですし。

VivaOla, Jua, Wez Atlas – “Vise le haut”

他に、LITEはFRIENDSHIP.でディストリビューションしているバンド「んoon」を企画に誘ってライブをやっています。LITEの井澤君もキュレーターの1人ですし。今後もジャンルは絞らずに沢山アーティストは出したいですね。

━━ストリーミングの再生データやトレンドを分析して、市場の需要に適した楽曲を作るアーティストも最近は存在感を示していますね。

Yuto でも、例えば日本の音楽シーンは欧米のトレンドを後追いしている訳だから、SpotifyやApple Musicで海外のヒットを常にウォッチしておけば、日本に上陸した時にすぐ楽曲制作ができて稼げるはずです。こういう制作手法は、J-POPの作り方とも共通点を感じました。だから音楽プロデューサーでもデータを重要視する人が増える時代になると思います。

俺は再生数やデータは理解しているけど、自分が作りたいものをこだわって作るから、数字はあまり気にしないですね。

タイラ FRIENDSHIP.のアーティストの場合、マネージャーもスタッフもいない場合が多いから、本人が全てを管理するのが大事ですよね。でも、The fin.の場合はマネージャーの山崎さんがちゃんと見ているからね(笑)。

Yuto 俺が「気にしない」って言うのはあまり正しくないですね(笑)。

The fin. – Gravity (Official Video)

━━今後FRIENDSHIP.で実現したいアイデアはありますか?

Yuto 今思いついたアイデアですけど(笑)。参加アーティスト限定のパーティーとか、出会いの場所を増やしたいです。この中からコラボ作品が生まれてきて欲しい。さらに面白いアーティストが集まりやすくなると思うんです。ディストリビューションの定義に縛られず、表現者同士が集まれるハブになっていけば面白い。お互いを刺激し合ってコライトしたりコラボしたりすることが大事だと思います。

タイラ 確かにね。ハブ的な機能を持つことは今後重要になるはずです。人のネットワークが蓄積できれば、FRIENDSHIP.を通じてさらに一歩踏み込んでアーティストの悩みを解決して、楽曲制作や音楽活動を細かくサポートできると思っています。

対談の中で「FRIENDSHIP.」の理想がディストリビューションを越えたアーティストサービスである事が、何度も強調されたことが印象的だった。こうしたサービスは既に海外の音楽シーンでは常識となった。フェスのヘッドライナーを飾るヒップホップやロック、ポップスの著名アーティストから、バイラルヒットを実現する無名の新人まで、あらゆる国やジャンルで活用が進み、レーベルの影響力を持たずして数々の成功と、斬新なクリエイティブを世に残している。この流れは、今時代におけるアーティスト活動の新たな選択肢なのだ。

そして「FRIENDSHIP.」が示すビジョンもまた、日本のインディペンデント・アーティストにとって新しい標準を作っていくだろう。

Curated by FRIENDSHIP.

Photo by Haruna Aoi
Text by ジェイ・コウガミ

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FRIENDSHIP.とはカルチャーの前線で活躍するキュレーター達が厳選した音楽をデジタル配信する新しいサービス。
世界中から新しい才能を集め、それを世界に届けることが私達のできることです。
リスナーは自分の知らない音楽、心をうたれるアーティストに出会うことができ、アーティストは感度の高いリスナーにいち早く自分の音楽を届けることができます。

To Listener

FRIENDSHIP.の毎週更新されるキュレーターのプレイリストには、国内外・新旧問わず、キュレーターがいま届けたい、聴かせたい音楽が詰まっています。
Apple MusicやSpotifyなどのストリーミングサービスを通して、あなたの元に音楽を届けます。
そのほかキュレーター達が企画した音楽イベントなども開催し、新しい音楽との出会いの場を作っていきます。

NEW RELEASEPLAYLIST

To Artist

FRIENDSHIP.は世界187か国へのデジタル配信を通し、あなたの音楽活動をサポートします。
FRIENDSHIP.に参加したいアーティストは、
ぜひあなたの楽曲をキュレーターにサブミットしてください。
届いた楽曲はキュレーターが責任をもって全て聴き、審査をします。

審査を通過したアーティストは楽曲を配信するだけでなく、デジタルプロモーションもサポート。
また、音楽プロダクションHIP LAND MUSICのインフラを活用した
様々なオプショナル・サポートも利用可能。
アーティストのニーズに応じてのサポート内容をチョイス、アレンジする事で、
あなたの理想の音楽活動をFRIENDSHIP.がサポートしていきます。

01.DIGITAL DISTRIBUTION

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あなたの音楽をキュレーターがフィーチャーし世界に届けます。
世界187か国の音楽配信サービスにて配信。固定費用はかからず、売上入金額の85%をお戻しします。

02.SALES & PROMOTION

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あなたの音楽を宣伝します。
ウェブメディアへの情報発信やストリーミングサービスのプレイリストへのアプローチなどのデジタルプロモーションをはじめ、雑誌/ラジオなどの一般メディアへの個別プロモーション(オプション)など、アーティストと楽曲をより露出させ、新規ファン/リスナーの開拓を行います。

03.CREATIVE SUPPORT

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あなたの音楽活動をサポートします。
上記のほかに、パブリッシング(配信楽曲の出版管理)、海外プロモーション/海外ライヴブッキング、CDやマーチャンダイズの製造サポートなど、アーティストのニーズにあわせて様々なバックアップオプションをご用意しております。

詳細はこちら

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タイラダイスケ(FREE THROW)

DJ
新進気鋭のバンドと創り上げるROCK DJ Partyの先駆け的な存在であるFREE THROWを主催。
過去3枚のコンピレーションアルバムのリリースや、川崎で開催されているオールナイトロックフェス「BAYCAMP」のDJブースのディレクションを担当するなど、パーティーの枠を超え、活動は多岐に渡る。
DJ個人としても日本全国の小箱、大箱、野外フェスなど場所や環境を問わず、年間150本以上のペースで日本全国を飛び回る、日本で最も忙しいロックDJの一人。
過去にはライブハウス新宿MARZの店長/ブッキングマネージャーも務めた。

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The fin.

神戸出身、ロックバンドThe fin. 80〜90年代のシンセポップ、シューゲイザーサウンドから、リアルタイムなUSインディーポップの影響や、チルウェーヴなどを経由したサウンドスケープは、ネット上で話題を呼び、日本のみならず海外からも問い合わせが殺到している。The Last Shadow Puppets、Phoenix、MEW、CIRCA WAVESなどのツアーサポート、<FUJI ROCK FESTIVAL>、<SUMMER SONIC>などの国内大型フェス始め、アメリカの <SXSW>、UKの<The Great Escape>、フランスの<La Magnifique Society>、中国の <Strawberry Festival>などへの出演、そしてUS、UK、アジアツアーでのヘッドライナーツアーを成功させるなど、新世代バンドの中心的存在となっている。また8/25(日)からはバンド自身最大規模となる中国で全13公演15,000キャパシティ(全公演SOLD OUT)のツアーを行った。

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Wash Away

The fin.

配信中
01. Come Further
02. Crystalline
03. Gravity
04. When the Summer is Over
05. Melt into the Blue
06. Wash Away

[Format] DIGITAL DOWNLOAD/STREAMING

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EVENT
INFORMATION

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#thefin_03

2019年11月29日(金)
心斎橋ANIMA
GUEST:
ANCHORSONG
OPEN 18:30/START 19:00
ADV ¥3,600 (Drink代別)
チケット発売中

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