「シリアスなテーマをシリアスな顔で歌うのではなく、ユーモアを交えてポップに歌う。その方が、訴求力の高いメッセージになる得ると考えたの」
世界一美しい街と名高い、西オーストラリアはパース出身のシンガー・ソングライター、ステラ・ドネリー(Stella Donnelly)が、<FUJI ROCK FESTIVAL‘19(以下、フジロック)>3日目のRED MARQUEEに登場した。口いっぱいにヌードルを頬張った、デビューEP『Thrush Metal』のジャケ写が日本でも大きな話題となり、一連のミュージック・ビデオで見せる、キュートかつコミカルな演技に男女問わず多くのオーディエンスを虜にしてきた彼女。それもあってか、会場には多くのオーディエンスが駆けつけていた。
今年3月にリリースされたファースト・アルバム『Beware of The Dogs』には、セカンド・レイプについての楽曲”Boys Will Be Boys”や、不逞の男性を告発する”Old Man”、自身の中絶経験について綴った”Watching Telly”など赤裸々な楽曲が並んでいる。それを、レコーディングにも参加したサポート・メンバーとともに、コミカルな踊りなどを交えて楽しげに歌うステラには、冒頭で紹介した発言のような「意図」があったのだろう。形骸化したパンク・ムーブメントの後に登場したアズティック・カメラ(Aztec Camera)やオレンジ・ジュース(Orange Juice)のアコースティックなサウンドが最高にパンクだったのと同様、お団子ヘアで天真爛漫に歌う彼女の姿は、まさしく「新世代のライオット・ガール」というべき希望の光に満ちていた。
ライブ直後の彼女に、初来日の印象や使用ギターのこと、愛読書や大切にしている映画についてなど、ざっくばらんに話してもらった。
Interview:ステラ・ドネリー
──ライブ、めちゃくちゃ良かったです。
嬉しい!ありがとう。
──バックスクリーンに、子供の頃の写真を投影してましたよね?
うん。自分がどこから来たのか、忘れないようにするため。今、こうしてここに立っていられることへの感謝を込めてね。今回のライブで、初めて試してみたことだったの。<フジロック>のためにね!
──初めて日本のオーディエンスの前で演奏してみた感想は?
もう、めちゃめちゃ楽しかった。みんなとっても優しくてフレンドリーで……。昨日はものすごい雨だったけど、だからこそ今日の天気を楽しんで、よりハッピーに過ごせているんじゃないかしら。
──確かにそうですね。ちなみに昨夜はどうしてました?
私たち昨日、ロンドンからここまで来たのだけど、48時間ずっと寝てなかったから早めにホテルに戻り、メンバーとトランプやったりしてすぐ寝ちゃった。今回の滞在はとっても短くて、あまり色んなところへ行けないのが残念。12月にまた来るからその時は東京と大阪をゆっくり探索したいな。
──是非! で、今日は「ステラ・ドネリーを構成する要素」についてお聞きしたいなと思って。
OK。自分では大きく2つの要素があると思ってる。一つは「パンク・ミュージック」。色んなバンドを観て、その影響の組み合わせによって出来ているのだけど、中でもパンクからの影響がとても大きい。音楽的にはそう聴こえなくても、自分が思ったことを素直に表明する姿勢というのは間違いなくパンク精神よね。
もう一つは、「これまでの人生経験」。恋に落ちたり、別れたり。女性アーティストとして、この数年間で感じたこと……そのうちのいくつかは、あまりいい思い出ではないけれど、私に歌詞を書くモチベーションを与えたし、書くことによって自分のやっていることに対して自信が持てるようになっていったと思う。そんな自分を見て、若い女の子たちがギターを手に取ってくれるようになって欲しいな。
──今、ステラが使っているシェルピンクのストラトキャスターは……。
フェンダー・ジャパンよ! バンドのベーシスト、ジェニファーから安く売ってもらったの。ギターは全部で3本持っていて、アコギと、あと1970年製の赤いヴォックス・ストローラーを持ってる。指1本で持ち上げられるくらい軽くて(笑)アルバムのレコーディングでも使っているわ。
──もともとはアコギから始めたんですよね?
そう。私が8歳の時に父が買ってくれて、それでいくつかのコードを教えてくれた。そこから先は独学で覚えていったわ。ラジオから流れてくる曲を聴いて、どうやって弾いているのか必死に調べて。そのうち徐々に上達していったという感じ。
で、あるときアコギを車の中に置きっぱなしにしていたら、誰かに盗まれてしまって。仕方ないから、それまで全然触ったことのなかったエレキを手に取ってみたの。もしアコギを盗まれてなかったら、きっとまだエレキを弾いてなかったと思う。なので、あの時の泥棒には感謝してるわ。「(日本語で)ありがとうございます」あははは!
──(笑)。スリーフィンガーでエレキを弾いてるのは、アコギからの名残なんですね。
まさにそう!
──歌の中に笑い声やため息を入れたり、話すように歌ったりする表現は、どこから来たもの?
「正直であること」を、常に自分に思い出させるのにとてもいい方法なの。単にメロディをなぞるように歌っているのだと、アイドルと変わらないというか。自分のストーリーを、まるで話すように歌うことでよりリアルに表現できる気がする。
──ビブラート唱法も特徴の一つですよね。
ライブのビデオを見返したら「あ、やってる」って感じで、自分でも気づかないうちに習得していたみたい。思い返してみると、風邪を引いてあまり声が出なかった時に、無理やり出そうとしたら出来るようになった気がするな。ただ、エディット・ピアフ(Edit Piaf)は好きだけど、やりすぎは良くないと思っているので、ほどほどに取り入れているわ。
──ミュージック・ビデオではコメディエンヌっぷりも発揮してますよね?
本当に? でもそれはきっと、編集が上手いからだと思うな(笑)。キャラクターを演じるのは難しくて、最初は苦労したからそう言ってもらえて嬉しいわ。
──レオタード姿でユニークなダンスをしたり(”Old Man”)、死体やナースを演じたり(”Die”)、ああいうアイデアはどこから生まれるのですか?
“Old Man”は映像作家のフィオナ(・ジェーン・バージェス)が全体のテーマを考えてくれたのだけど、ダンスの振り付けは私が適当に思いついたものよ(笑)。ちょっと遊び心があって、奇妙な感じはフランスのヌーベル・バーグを意識してるの。ジャン=リュック・ゴダールとかね。撮影はアムステルダムで行ったから、オランダとフランスの要素がいい具合に混じり合っているんじゃないかな。
Stella Donnelly – Old Man
“Die”はスタジオ・ジラフの作品で、「死」というものを面白おかしく表現したかったの。ちょっとハリウッド映画を意識して、大きな霊柩車に乗ってみたり、棺桶に入ってみたり……(笑)。「死」って語ることをタブー視されているというか、忌み嫌われたものとされているじゃない? オーストラリアを含め、特に英語圏ではそうだと思う。でも国によっては、あるいは人によっては「死」についてオープンに語ったり、「生の一部」として捉えたり、むしろ明るく祝福するものと考えてさえいる。どちらも否定しないけど、私自身は後者の考え方に近いと思う。まだ死にたくはないけどね(笑)。
Stella Donnelly – Die
──僕も、メキシコの死の祝い方がとても気になっています。
「死者の日」ね!
──愛読書や、大切にしている映画を教えてもらえますか?
えーっと、そうだな。お気に入りの映画は、アルゼンチンの監督ダミアン・ジフロンの『人生スイッチ(Wild Tales)』(20014年)。「暴力」と「復讐」がテーマで、ありえないような出来事が次々と起こるクレイジーな物語なのだけど(笑)同時に風刺も利いた知的な作品なの。
愛読書は、オルガ・トカルチュクというポーランドの作家が書いた『Flights』。いくつかの短編で成り立っていて、様々な場所が舞台になっているからツアー中に読んでいると、すごく入り込める。2回読んだわ。映画は飛行機の中で観る程度なのだけど、本は大好きで、たくさん買ってしまうから常にスーツケースがパンパン(笑)。なるべく本屋には立ち寄らないよう気をつけてるわ。ちなみに今は、チャールズ・ブコウスキーの『On Love』という詩集を読んでいるわ。
──音楽や映画、読書以外で関心を持っていることは?
実は今、言語学(linguistic)をオンラインで勉強していて、近いうちにちゃんと大学に通おうと思っているの。私はウェールズ系のオーストラリア人なのだけど、「ウェールズ語」という素晴らしい言語が失われつつあることに心を痛めてるの。それをちゃんと勉強して、残していきたいなって。
──次のアルバムでは、どんなことをテーマにしようと思っていますか?
「テーマにしたい」と思っていることはまだ決まってないのだけど、テーマに「したくない」ものはもう決まっていて。とにかく「ツアーに関する作品」だけは避けたい。よくあるじゃない? デビュー作を携えツアーに出たミュージシャンが、それに感化されて《I’m on the road, blah-blah-blah〜》(と歌い出す)みたいな曲を作るのって、ありがち過ぎて。
──(笑)。
ツアーから戻って日常生活を取り戻し、「自分はどこから来て、どこへ向かうのか」にちゃんと向き合いながら曲を作りたいな。
──ライブの時のあの写真には、そういう意味も込められていたのですね。
その通りよ!
ステラ・ドネリー(Stella Donnelly)
オーストラリア・パース出身のシンガー・ソング・ライター。ソロ活動の傍ら、Bells RapidsやBOAT SHOWのギタリストとしても活躍。2017年にリリースした楽曲“Boys Will Be Boys”でオーストラリアの音楽見本市、Bigsound 2017のリーバイス・ミュージック・アワードを受賞したことで世界的な注目を集め、〈Secretly Canadian〉と契約。2018年、“Boys Will Be Boys””を収録した『THRASH METAL』EPにボーナストラックを追加しワールドワイド流通で再リリース。2019年3月にデビュー・アルバム『Beware of the Dogs』をリリースする。
Photo by Kazuma Kobayashi
Text by Takanori Kuroda