<FUJI ROCK FESTIVAL 2019>の1日目、26日(金)WHITE STAGEに登場したTycho。苗場の天気は例年通り不規則に変化し、雨が降ったり止んだりを繰り返していたが、時間になると雨は止み、会場は完全な静寂に包まれていた。そして日が沈み始めた頃に彼らのライブは始まった。

今回のトピックは、最新作『Weather』に大きくフューチャーされているセイント・シナーことハンナ・コットレルがライブに参加していることだろう。エレクトロニック・サウンドを基調としながらも、バンドセットでライブを行ってきたTychoにとってそれは大きな進化であり、中心人物のスコット・ハンセンは常にその可能性を探ってきたという。

印象的なシンセサイザーのメロディーと気怠いベース、タイトなドラムにゆっくりと引き込まれていく“A Walk”で幕をあけると、冷気の立ち込んでいた空間には瞬く間に神秘的な景色が広がる。電子音楽とオーガニックサウンドが大自然の中で融合し、Tycho独特の温度感が会場を包みこむと、ボーカルのハンナの声がそこに感情を流し込んでいく。雨が降り続いていたこの日、ライブの最中だけは雨具を滑り落ちる水玉をどこか温かく感じることができた。

ライブ直前のスコットはとても落ち着いた様子で、インタビューに応えてくれた。

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INTERVIEW:TYCHO

──〈Ninja Tune〉に移籍された理由はなんですか?

今回のアルバムは全く異なった作品にしたかったのが大きな理由の一つだね。〈Ninja Tune〉はすごく好きなレーベルの一つで、追求したい音を作るには持ってこいの環境だと思ったから。BonoboとODESZAにはずっと影響を受けてるよ。今回のアルバム『Weather』では違うチャンネルを使いたかった。今作を作る上で、ボーカルのHannah Cottrellをフューチャーすることで違った解釈を取り入れることがトピックだったんだ。

──今回のライブでもバンドで登場しますよね。最新作にはテーマとして人間性を挙げていますが、バンドで演奏することと「人間性」にはどのような関係があると思いますか?

2010年からフルバンドでメンバーも変わっていないんだけど、ライブでは生音でよりオーガニックなサウンドを意識してる。音楽も言ってみればかなりチルな音になっているから、視覚的にもインパクトがあるバンドで演奏しているんだ。

2011年に『Dive』のツアーでバンドで演奏したとき、レコードに比べて音の変化がめまぐるしかった。その変化を抽出して、音源したのが2014年にリリースした『Awake』で、ライブバンドの音をより多く取り入れた。バンドで演奏することによって、人間性が楽器を通じて現れてくるんだ。その音楽がどこからきたのか、それがいかに変化していくのか、より深く感じることができるよ。

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──TYCHOさんの音楽はクラブでも盛り上がるダンストラックとしての側面があると思いますが、それらを<フジロック>の大自然の中でプレイすると、響が変わってきますよね。

野外だと音もいいし、クラブのように暗い場所で演奏するよりかは自然の中で演奏する方が好きだよ。演奏する場所を考えるのは改めて大切だと思うし、その空間と音には切っても切れない関係がある。

──今回のパフォーマンスも含め、異なった場所で演奏することは次の作品にも影響がありそうですよね。

ボーカリストと一緒に回る今回のツアーでは、ライブの文脈の中でボーカルがいかにオーディエンスと繋がっていくかが重要な点になる。加えて1年半一緒に演奏していくことでバンドメンバーとの関係や毎晩オーディエンスとコミュニケーションしていくこと、それが演奏に反映されていくことで、次の作品に生きていくものがあることは間違いないよ。

──苗場はいかがですか? 天気が不規則に変わっていったり……。

最高だよ。僕の故郷であるサンフランシスコも天気が常に変わるんだ。1分晴れたと思ったらすごい霧が出て、大きな雲が来たり。それが僕の音楽、今回の作品『Weather』においても言えることで、自分がコントロールできないものを変えるのではなく、それを受け入れていく。ベストを尽くして、適応していくんだ。

2006年に初めて日本に来たときは驚いたこともあったけど、回数を重ねていつも楽しんでるよ。でも、今回大きい蛇を見たよ。変な虫は見ることはあったけど、蛇は見たことなかったな(笑)。

──最後に、一番好きな天気はなんですか?

雨だね。本当に美しいよ。雨が降ると、全ての景色が変わっていく。室内で作業している時も、雨を見るのが好きだよ。雨の中でハイキングに行くのが好きなんだ。今日の天気は完璧だね。

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Photo by 横山マサト
Text by Qetic・船津晃一朗

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Weather

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Tycho

スコット・ハンセン率いるエレクトロニックミュージック・プロジェクト、ティコ。2002年にセルフ・リリースされた『The Science of Patterns EP』でデビュー。レトロでローファイなエレクトロニカ〜アンビエント〜ドリームポップ〜ポストロックまでを股にかけるサウンドは多岐に渡るリスナーに支持されており、これまでにリリースされた『Dive』(2011)、『Awake』(2014)、米ビルボードのエレクトロニックチャートで堂々の1位に輝いた『Epoch』(2016)といったアルバム作品を通じて幅広いファンを獲得し、グラミー賞にもノミネートされた。2019年にはThe Cinematic OrchestraやBonobo擁する〈Ninja Tune〉へと移籍し、様々な点において今までのキャリアの集大成となった待望の最新アルバム『Weather』を7/19にリリースする。そして、今回のライブでは長年の共演者であるザック・ブラウン(ベース/ギター)、ロリー・オコナー(ドラム)、ビリー・キム(キーボード/ギター/ベース)、そしてボーカリストのセイント・シナーらがスコット・ハンセンと共にステージに上がることとなっている。

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