マスクを被った正体不明のアーティスト、GeTOを知っているだろうか? 2020年代的なアーティストとしてSNSを中心にネット上で話題になり、音楽好きの間で知られる存在となっている。当初は存在が一切伏せられていたが、2月にリリースした楽曲「化ケル」を契機に、マスクアーティストとして登場。4月にも「風来人」を発表し、自身が持つ音楽性の幅広さを表現している。現在、発表されている楽曲を聴けばわかるが、GeTOは、この2025年に一気に活躍していくはず。突如、音楽シーンに現れた変異体、GeTO。
一体、何者だ。そのルーツは何だ。何を歌い、どういう思いで音楽を表現しているのか。そんなストレートインタビューをぶつけてみた。
INTERVIEW
GeTO

幼い頃から音楽を分解して聴いて楽しんでいた
──いつ頃から本格的な音楽活動をスタートされたんですか?
GeTO:2023年ですね。1曲制作してネットにアップして、2024年からアーティストとしてどう活動していくかを具体的に考えるようになっていきました。
──そもそも、なぜ音楽を制作してみようと思ったんですか?
GeTO:理由は多々あるんですけど家族の影響は大きいですね。両親ともに音楽好きだったので身近な存在でした。幼少期はずっと歌っているような子供でしたね。もの作りがもともと好きで、絵を描いたりとか、自己表現して形にするというプロセスが好きだったんです。
──小さい頃は何を歌っていたんですか?
GeTO:父親がTUBEが大好きでよく流れていたので、それを歌っていました。そんな父親が小さい頃に無料版のDTMアプリを探してダウンロードしてくれて、それで遊んだりもしていたんです。自分が歌いたいと思う音楽を作りたいという思いが根底にあって、それが今に繋がっているんだと思います。
──ということは、小学生の頃から作曲をして遊んだりしていたんですか?
GeTO:いえ、「かえるのうた」とか、童謡を自分なりに編曲したりアレンジして遊んでいました。そんな風に音楽を分解して聴くクセが小さい頃からあって、どの音がどの楽器なのかを意識して、その組み合わせを変えたら、こんな音楽になるんじゃないかな、なんてことを考えながら音楽を楽しんでいたんです。

──音楽を分解して聴くというのは具体的にどういう感じなんですか?
GeTO:例えば、僕はGReeeeN(現・GRe4N BOYZ)が好きなんですけど、4人の声を聴き分けて、歌い分けてみたりとか。そういう感じで遊んでいたんです。
──そこから、実際にアーティストとして活動していくことを決心するに至ったのは、どういう経緯があったんですか?
GeTO:小さい頃からずっと音楽はライフワークだと思っていましたし、歳を重ねてからも1人で楽器を触ったりしていたんです。その頃から、これを仕事にできたらいいだろうなってことはぼんやり思っていました。その後、imaseさんなどをはじめ、TikTokやSNSから活動をスタートさせるアーティストの方が出てきて、彼らは自室で1人で音楽を作って世界に発信していたんですよね。その境遇が自分にも似ているような気がして、やれる可能性があるのであれば、やらない手はないと思って、活動していくことを決心したんです。
──imaseさんなど、SNSやネットで音楽を発信しながら活動していくアーティストに背中を押された部分があったわけですね?
GeTO:そうですね。デモの段階でも気楽に自分の音楽を発信している感じに衝撃を受けたんです。すごく自由に音楽を表現しているなと感じて、自分の創作意欲をかき立てられましたね。
──GeTOさんのSNSを見ると、自室で音楽を歌ったり演奏しているショート動画がアップされていますが、その辺りにも影響が感じられますね。ちなみに、音楽的ルーツでいうとどんなアーティストがいますか?
GeTO:J-POPは自分の大きなルーツの1つです。コブクロさんやスキマスイッチさんが入り口で、バンドだとRADWIMPSやMrs. GREEN APPLE、サカナクション、THE ORAL CIGARETTESとか。YouTubeでボカロもよく聴いていました。DECO*27さんだとか。あとは、そこから派生してEveさんや、ずっと真夜中でいいのに。さんからも影響を受けていますね。今ではヒップホップやジャズも聴きますし、GeTOの音楽にはいろんな要素がミックスされていると思います。1つのジャンルに特化することをなく、いろんなものを掛け合わせて面白いものを表現するというのが好きなんです。

感情の暗部を音楽で表現するのがGeTO
──GeTOさんにとって、音楽を表現するというのはどういう行為だと思いますか?
GeTO:僕の中で音楽を作るという行為は、心の中にある鬱々とした暗部を描くようなものでもあるんです。音楽だからこそ、自分の内側から出てくる暗い部分をはっきりと表現したいと考えていて、そうなると日常生活における自分とはちょっと乖離している感覚があるんですよ。そんな差がある状態で音楽を表現するうえで、マスクが重要だと考えています。これがあることで非現実的な感じがするし、自分がやりたいことをしっかりと表現できるんじゃないかと思っていますね。
──仰る通り、マスクは非常にアイコニックですね。デザインされたのは新鋭アーティストのYou2さんといういことですが、どういうマスクにするかなど話し合われたんですか?
GeTO:そうした暗い部分を曝け出すということがGeTOのアーティスト性だと考えていたので、怪獣や化け物っぽい感じを表現したいと思ったんです。それで、モチーフでもある角をつけて、口の部分が笑っているような形状にデザインしてもらいました。
ちなみに、口も目も部分にはギターのピックガードやノブを使用しているんですよ。あとは配色も白、青、黒の3色をベースにしたいということもお伝えしたうえで、こういう配色になっています。自分のリクエストを踏まえたうえで、You2さん的にはヒーローっぽいものが連想されたようで、ヒロアカ(漫画・アニメ『僕のヒーローアカデミア』)のデクくんがしているマスクっぽい感じがデザインの端々に現れているんですよ。

──たしかに! では、GeTOとして活動するうえでマスクは欠かせないものなわけですね。
GeTO:そうですね。あと、これは間接的な話なんですけど、もともと剣道をやっていて面の中から見る景色が馴染み深いので、僕としてはマスクをすると落ち着く感覚もあるんです。
──剣道をやってきたことから、音楽表現に影響を与えられる部分はありますか?
GeTO:めちゃくちゃあると思います。昔から日本ならではの文化が好きですし、日本の強みやルーツは何だろうってことを考えたりするので、その辺りが自然と音楽にも影響を与えているんじゃないかなと。
過去の自分が抱えていた感情を歌った「化ケル」
──そういった意味で、2月26日に発表された「化ケル」は、日本っぽさがありますね。
GeTO:そうですね。これは「化ケル」以外の楽曲にも共通することですが、日本の歌い方という部分は自分の中でも大事にしていて、面白い語呂合わせや駄洒落っぽい言葉遣いをうまく取り入れていくことを意識的に考えているんです。そういう意味で、歌い方やリズム感などに僕の中の日本っぽさを落とし込んで歌っています。
GeTO – 化ケル/Bakeru – Music Video
──「化ケル」は最後一気に盛り上がるような展開が特徴的ですね。どんな曲にしようと考えて制作されたんですか?
GeTO:当初、日本版Boon Bapを表現したかったんです。前半のドラムはそのイメージでグルーヴを重視しながら作っています。あと、聴こえにくいですが、サンプラーも多用していて細かい音を詰め込んでいます。後半で展開が変わる部分に関しては、曲の中で劇的な変化を生み出したかったのと、一聴して耳に残るパートを作りたかったからです。それで、前半と後半に分かれているような内容になったんです。
──リリックに関しては、〈怪物〉という言葉も出てきますが、どんな内容だと言えますか?
GeTO:けっこう個人的な内容ですね。思春期の頃、僕はどこにも属していないという疎外感を抱えて生きていて、周囲から〈何をしているのかわからないヤツ〉だと思われていたように感じるんです。音楽を作るにしても1人でパソコンに向き合ってやっているのでバンドメンバーがいるわけでもなくて。そういう感情が溜まったとき、急に帰り道に寂しさを覚えることもあったんです。そんな夕方の匂いが記憶に残っていて、最近では、そんな感情や思い出もだんだんと薄らいできていますが、忘れてしまうのも寂しく感じるんです。当時の記憶を辿って、あの頃の思いを歌にしたかったんです。前半の歌詞は昔の自分がずっと思っていたようなことで、後半は最近の僕が昔の自分に言ってあげたいことだったり、心境の変化を今の言葉で表現しているような内容ですね。
明るい曲調と歌いやすさを追究した「風来人」
──対して4月23日にリリースされた「風来人」は軽やかなリズムとメロディが心地よい楽曲です。
GeTO:これは、歌い出しが〈去ったのなら追いかけない〉で、この部分がテーマになった曲です。この一節は僕の中でのすごく重要な戒め的な言葉なんですよ。これまでの人生経験で、この言葉が重要だと思ったことは多々ありました。人間関係にしろSNSにおいても感じることで、それを曲にしたいとずっと思っていて、ようやく形になりました。
──ある意味、人間関係への諦めの含まれているような感じですか?
GeTO:そこでいくと、サビの頭では〈シナリオ通り〉と謳っているんですが、ある種の運命論的な解釈をすることで、諦めるにしても少しは気分が楽になるような内容で表現しています。
──人間関係の希薄さを楽観的に表現する感覚ですね。そうした意味もあってか、曲の方は軽快でリズミカルで聴きやすいと思いましたが、いかがでしょう?
GeTO:どうしてもGeTOの特性上、暗い楽曲が多くなっちゃいますが、そもそも僕が目指したいのは、みんなで歌える音楽を表現したいということで、そのやり方を「風来人」では模索したんです。曲調も明るくして、バランス感にこだわりながらアレンジしていきましたね。だから、これまでの自分の曲を知っている人からしたら、「どうしたの?」ってくらい明るい曲に聴こえると思います(笑)。

──ある意味、チャレンジした楽曲にもなったと思います。さて、GeTOさんは、今後どういう活動をやっていきたいですか?
GeTO:大きく分けて2つあるかなと思います。1つ目は、身体的な表現をもっと増やすことですね。今年からMVに自分が出演しているんですが、そういった機会を増やしてライブに繋げていきたいと思いますし、その場でオーディエンスが熱狂している空間を提供できるようになりたいと思っています。どのようなライブができるアーティストなのか、そこに向かってどう舵を切るのかってことを色々と考えている最中です。
──仰る通り、ライブは非常に楽しみですね!
GeTO:ありがとうございます。2つ目はポピュラーミュージックとはどういうものなのかってことを追究して、それをどう自分が表現できるのかっていう出力の仕方を模索していきたいと思います。その先に、「GeTOってこうだよね」っていうジャンルを構築していきたいです。
Interview&Text:Ryo Tajima(DMRT)
Photo:Taio Konishi