GEZAN初のドキュメンタリー映画『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』が公開される。本作は、バンドのアメリカツアーを追いかけたドキュメンタリー映画でもあるが、もっと大きな主題を含んだ、観客に問いを突きつける映画でもある。
Qeticでは、本作が初の劇場公開作となる監督の神谷亮佑(かんだに・りょうすけ)と、プロデュースをつとめたカンパニー松尾の対談を実施。彼らはなぜ、本作を映画にしようと思ったのか。アメリカで直面した問いに対してどのように向き合い、どんな答えを出したのか。
『Tribe Callerd Discord:Documentary of GEZAN』予告編
Interview:神谷亮佑×カンパニー松尾
USツアーの衝撃を経て、事前に描いていたものとはまったく違う展開に
ーー映画『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』は、松尾さんが映画化を提案したんですよね。
神谷亮佑(以下、神谷) 松尾さんにそう言われた時、あまりの驚きで腰があがらなくなりました。というのも、映像はまだマヒト(マヒトゥ・ザ・ピーポー、Vo.)にしか見せていなくて、この映像がいったいどういうものなのか自分でもわかっていなかったんです。人に見てもらうことがうまく想像できなかったし、まさか映画になるなんて……。いまだに、実感が沸いていないのかもしれません。
カンパニー松尾(以下、松尾) そもそも、なんで今回の映像を撮ろうと思ったの?
神谷 まず、GEZANのアメリカツアーが決まっていて、一緒に来ないかという話をいただいたんです。でも、お金がなかった。考えた末に、クラウドファンディングを使うことにしたんです。僕はその時、GEZANが再始動するまでのドキュメンタリー映像を撮っていたので(※2016年8月にドラマーのシャーク安江が脱退。半年間の活動休止を経て、石原ロスカルが加入)、それをまとめた映像集をリターンとして売ったりして、お金を集めました。
松尾 じゃあ、最初は確固たる目的があってアメリカに行ったわけではなかったんだ。
神谷 そうですね。レコーディング風景やツアーの様子をDVDにしようか、くらいの話はしていたけど、固まってはいませんでした。初日のライブあたりまでは、いわゆるツアービデオのテイストが強いと思います。
松尾 あれは普通の住宅街でやってるんだよね?
神谷 そうなんです。そこからどんどん不思議な空間に迷い込んでいきました。
松尾 現地でコーディネートしてくれる人はいたの?
神谷 ボブという、ライブハウスを押さえてくれる人がいました。後で知ったんですけど、ボブはメキシコ系の移民なんです。そういう背景もあったからこそ、いろんな場所に連れて行ってくれたのかもしれない。
松尾 ボブがアレンジしてくれた場所がいろんな問題を孕んでいる場所だったんだね。だからまずは、USツアー自体が自分たちの思った以上に有意義なものだったということだよね。
神谷 そうですね。予想していたものとは違いました。僕個人としては海外に行くこと自体初めてだったし、英語もまったく喋れない。メンバーもほぼ喋れなくて、拙い英語でなんとかコミュニケーションを取っていましたね。
松尾 逆に言えば、初めてだったからこそのハイな感じと、逆にそれが反転したネガティブな感じの両方が出ている。俺もアメリカには何年も行ってないから実際はわからないけど、根深い問題があるよね。人種差別とか、LGBTの問題とか。
神谷 そうした問題はもちろん日本にもあったのに、気付けていなかったんです。だからアメリカに行って視点がだいぶ変わりました。
「なかったことにはできない。見なかったことにはできない」
ーー日本に帰ってきてから、神谷さんは編集に行き詰まってしまいます。なぜそうなってしまったんでしょう?
神谷 「なんで自分が彼らの言葉を編集できるんだろう?」と思って、泥沼にハマってしまったんです。だって、僕には彼らのような状況に陥った経験がないから。それを理解できるのか? いやできないだろう、と。
ーーでも、最終的には立ち上がって、やるわけですよね。
神谷 みんなが助けに来てくれたことが大きいです。それから、マヒトが映画のなかで言っていたように「なかったことにはできない、見なかったことにはできない」ということ。あの言葉に助けられたと思います。
ーー何をもってして「完成した」と思えたのでしょう?
松尾 実はね、この映画にはもうひとつのバージョンが存在するんです。
ーーそうだったんですか!
松尾 そのバージョンでは、神谷くんがマヒトくんにハッパをかけられて「もう一度編集しよう」と決意したところでエンディングにいく。僕としては、それでじゅうぶん面白いと思っていたんです。だって映画が完成したということは、彼がもう一度立ち上がってちゃんと編集したという証だから。だけどその後に、GEZANからの『全感覚祭』というアクションがあった。そして、どうしても『全感覚祭』のシーンを入れたいと神谷くんから申し入れがあった。
神谷 めちゃくちゃ試行錯誤していたんです。かなり時間もかかっていたし、GEZANとも微妙に距離を取ってしまっていたし。自分の方にばかり目が向いていて、松尾さんに「お前、ちょっとドキュメンタリー病になってるぞ」と言われました。
ーードキュメンタリー病?
松尾 というのがあるんですよ(笑)。さっき彼が言った「理解できるはずがないのだから、編集できない」という発言も、人間的にはわかるんだけど、こっち側から見れば、はっきり言ってあまちゃんの発言なんです。そんなことを言ったら僕らは何もできないわけで。わからないかもしれないけど、どうやって人に伝えるか。それを考えなければいけない。なのに終わりばかり探してしまう。
神谷 そういう時に、「GEZANは今何してるんだろうな」ということに立ち返ったら、ちょうど『全感覚祭』に向けての活動をしていたんですね。
松尾 <全感覚祭>自体は以前からやっていたものだけど、今回は規模を拡大して場所も変えて、彼らは新しいチャレンジをしていたんですね。それはアメリカで体験したことに対する彼らなりの見事なアンサーだった。そのおかげでこの映画は生き延びたというか、次のフェーズに行けるチャンスを得たんです。編集に時間がかかったことが幸いしたんですね。もし神谷くんがもっと手早くまとめていたら、まったく違う映画になっていたと思う。いろいろ変なシーンを入れてたしね。人に見せられないようなの、たくさんあったでしょ。
神谷 もう本当に病気でしたね(笑)。
松尾 今だからわかるだろうけど、あれは本当にダメだよね。当たり前のようにマヒトくんと2ショットで喋ってるシーンなんかもあったよね。
ーーそのシーンでは何を喋っていたんですか?
神谷 それは……内緒でいきましょう(笑)。
松尾 まあ、曲のこととか偉そうに喋ってたよね。
神谷 言っちゃうんですね……。
この映画には普遍的なものが入っている
ーー松尾さんがこの映像を映画にしようと思った決め手は何だったのでしょうか。
松尾 音楽モノというのは、元来はファンが見ることが多いですよね。ライブ映像をノーカット版で出すことはよくあると思います。でもこの映像は、神谷くんも含めたGEZANチームによる、ある種の青春的なドキュメンタリーだったし、世界に出たことによって何をどう受け止めて帰って来たのかという普遍的なものが入っていた。だから単にGEZANのファンだけに向けたものではなく、もっと広く、GEZANを知らない人にも観てほしいと思ったんです。
ーー映画化にあたって、松尾さんは具体的にどう関わったんでしょうか? プロデュースを引き受けることはリスクを一緒に負うことでもあると思うのですが。
松尾 全然そんなことないですよ。だって、やるのは神谷くんだから。プロデュースなんて大したことはしてない。ただ、神谷くんにはまだ経験がないから、きっとミニマムな世界に陥ってしまうだろうなとは思っていました。それを広げてあげるとか、ちょっとしたアドバイス的なこと。それだけですね。具体的に画をいじるわけでもないし。構成から何からビシッと全部やる人もいるけど、あんまり俺はそういうことはしないな。そこは監督の自由に任せたい。僕も監督をやっているんで、監督がいちばんしんどいということはわかってるし。
ーーそもそもの始まりは、幻冬社plusに掲載されていたマヒトさんの文章を読んだことがきっかけなんですよね。
松尾 『眩しがりやが見た光』という連載の「政治の話は人々の血でできている」という題の回ですね。僕とマヒトくんって、そんなに親しいわけじゃなかったんです。どついたるねんとかハバナイ(Have a Nice Day!)とか、うちの会社がドキュメンタリーを撮っていたアーティストと同じようなところで見かけるバンドのひとつというイメージだった。ぶっちゃけ、あいつらちょっと怖いなと思っていましたよ(笑)。なんとなく気軽に話しかけづらい雰囲気を感じていて。でもあの連載を読んだ時に、すごくピュアな人だなと思って。文章も良いしね。それでマヒトくんに「あの連載で書いていたUSツアーの映像ってあるの?」って聞いたら、あるって言う。編集しているか聞いたら、今やりかけてるところだと。じゃあ一番最初に見せてくださいね、という流れでした。
ーーその時点では、松尾さんと神谷さんは知り合いだったんですか?
神谷 いえ、全然。初めて会っていきなり「映画にしないか」だったから、もうパニックですよ。
松尾 ちょっとインチキっぽいよね(笑)。おいしい話を持ちかけていざとなったらハシゴ外す、みたいなことも多いからね。でも気を付けろよ、映画業界には詐欺みたいな奴もいるからな。映画なんていくらでも潰れるんだよ。話聞いているとひどいよ、上映してやるから金出せって言う人までいるから。
神谷 怖……。松尾さんでよかった。
ーーこの映画が公開されたら、そういう人が寄ってくるかも……。
神谷 でもこんな部屋に住んでいて明らかに金持ってないから、なんか大丈夫そう(笑)。
ピュアな人たちがつくったピュアな映画
ーー完成した映画を最初に見た時、松尾さんはどう感じましたか?
松尾 まあ、いろいろ過程を見すぎているので、正直あんまり客観的には見られなかったですね。でも『全感覚祭』のシーンを入れたことで良くなったとは思った。メッセージが明確になったし、安心しましたね。
神谷 いろんな人に完成バージョンを見ていただいて、良いお返事をもらって。めちゃくちゃ嬉しくて、夜中の3時とか4時にマヒトに電話して「こんなこと言われたよ!」って報告して。もう俺、喋りながらずっと「ヤッター!」って叫んでました(笑)。
松尾 神谷くんは、まれに見る感激屋なんです。
神谷 そうなんですかね?
松尾 そうだよ。だからこの映画は、ピュアな人たちが作ったピュアな映画なんです。そういうピュアさが出ていると思う。僕みたいに長いことこの仕事をやっていると、そういう感覚って失ってしまうんですよね。マヒトくんは「ピュア」という言葉を嫌がるかもしれないけど、GEZANのメンバーはみんなピュアだと思う。わからないことはわからないとちゃんと言うし、考えるべきことはちゃんと考える。そういうことができる人って、減っていると思うんです。多くの人が、ネットで調べてほんの数秒読んだだけで理解した気になって、流してしまう。
神谷 僕の感覚では、マヒトって切り替えがすごく早い人なんですよ。メンバーとケンカしても10分後にはケロッとしている。そのマヒトが、帰国してからしばらく落ち込んでいて。
松尾 それだけアメリカでの出来事が大きかったってことだよ。『全感覚祭』や、帰国してからリリースしたアルバム『Silence Will Speak』がそれを反映している。そういう意味では、僕から見ればGEZANチームはすごく真面目で、そのピュアさに心を打たれたところがあります。たとえばさ、恋人を殺されたネイティブアメリカンの件は、詳細については映画のなかで検証していないよね。ふつう、ああいうものを映画で表現する時、もうちょっと多角的に検証するものなんだよ。それをせず、ある種、一方的に彼らの悲しみを描いている……というバランス感覚が働くはずなんだよね。
神谷 そうなのか……言われてみればたしかにそうかも。
松尾 でもそれを描かないで自分たちが感じたことをダイレクトに出している。それが良かったんだよ。映画を観ながら「俺はもう、こんなふうに素直には感じられないかもしれないな……」と思ってしまった。きっとこの映画に対して、これからいろんな感想が出てくると思う。「どこかで観たことのある映画」とか「ちょっと展開が弱い」とか。でもそういう感想を持つ人たちって、もしかしたら、素直さを受け入れられなくなっているのかもしれないね。
神谷 素直さを受け入れられない、ですか……。
松尾 ある個人やバンドがああいった現実に直面して何かに昇華していく姿というのは、たしかにこれまでにいろんな人が経験して、いろんな作品が語ってきたことかもしれない。でもそれを変にスッと乗り越えるのではなく、ちょっと立ち止まって考えて、もう一度自分たちの活動と照らし合わせる姿勢は、非常に貴重なものだよ。やっぱりみんな、本読んだりニュース映像見たりして、わかった気になっちゃうから。
神谷 そうですよね。そうやって知ったことと実際に体験することは、全然違うことだと思います。
「あなたはどう?」という問いかけ
ーー細かい話なんですけど、ネイティブアメリカンのコミュニティスペース「PROTECT THE SACRED」から外に出た時に、画面が白飛びしますよね。あれは、わざとですか?
神谷 いや……ミスですね(笑)。
松尾 あのホワイトアウト、良かったよね。
ーーめちゃくちゃ良いですよね。世界が一瞬、真っ白で見えなくなる。そうしてまた見えるようになると、これまで見えてなかったものまで見えてくる。
松尾 ファインダーも見ずに、なおかつ絞りも変えずにそのまま続けたっていうのは、まあ、偶然ではあるかもしれないけど、あれは良かったよ。
ーーこの映画の明確な転換点になっていました。また、これも野暮を承知で聞きたいんですが、映画の最後の方に出てくる天使、あれは何ですか?
松尾 それは、すごく良い質問だね(笑)。
神谷 そもそもはUSツアーのあいだにMVを撮るつもりでいて、カメラとは違う目線の世界を撮ろうという意図がありました。だから最初からあの天使は本編に入れるつもりでカメラを回していました。編集で付け足したものではないです。ラストカットの天使は想像にお任せします(笑)。
松尾 あの天使のアイデアは良かったよ。
挫折してなお諦めきれずにいる人や、引きこもっている人に
ーー試写会の挨拶で、神谷さんは「見えない戦争が日本にもある」と言っていましたよね。
神谷 日本でふつうに生活しているなかでも、いろんな軋轢がありますよね。それこそ、試写会に来てくれたある人に「この映画を観て、嫌いだった上司の違う部分を見られるようになった」と言われたんですけど。
松尾 え、あの映画を見たことで?
神谷 そうです。
松尾 ……あの映画を見て?
神谷 (笑)。
松尾 それは不思議な感想だね。嫌いな上司のことは、やっぱり嫌いだけどね(笑)。
神谷 許容とまではいかないけど、みんなそれぞれに正しさがあるんだからもっと別の視点で見てみよう、と思ってくれたみたいで。そういう感想はすごく嬉しい。
ーーつまり、この映画のネイティブアメリカンたちの状況は、ある意味わかりやすい例ではあるけど、本質的には同じことが日本でも起きている、ということですか。
神谷 そういうことです。
ーー「日本、中国、沖縄、みんなひとつだ。でも、白人だけは違う」というセリフは、やはり考えさせられるものでした。
神谷 一見矛盾しているように聞こえるけど、彼らにとっては矛盾していないんですよね。あの言葉、けっこう何回も繰り返していたんですよ。それを聞いているイーグル(タカ、Gt.)の顔もすごかった。あんな顔、見たことないですね。なんとも言えない顔をしていて。そういう仲間の知らなかった表情を見ることができたのも面白かったです。マヒトが語っている時の、ため息をついた時の顔とか。GEZANとは友だちになってから10年近く経ちますけど、それでも見たことのない顔でした。
ーーいよいよ映画は公開されるわけですが、どんな人に観てもらいたいですか。
神谷 音楽が好きな人はもちろん、そうじゃない人にも観てほしいと思っています。この映画に出てくる人って、当てはまる人が案外いると思うんです。何かに挫折して、でも諦めきれない人。性のことで悩んでいる人。僕みたいに、こうやって汚い部屋でひとりで悩んで、誰とも連絡取らずに引きこもっている人。そういう状況の人たちに観てもらいたいです。
松尾 いつからか、ミュージシャンが政治的・社会的メッセージを発することはまったくなくなってしまいましたよね。昔のロックにはそういうところがあったと思うんだけど。なんだか、おじさんみたいな言い方になってしまうけど、今の若い人たちは非常に平和主義的で、直観力も高くて、物事を瞬時に理解できて、お行儀も良いけれど、何をしたら良いかわからないんだと思うんです。政治的なイデオロギーって何なのか。なぜここで戦争が起きているのか。そういうことを頭ではわかっているのかもしれないけど、じゃあ自分たちはどうするのか、ということがわからない。まあ、俺たちの世代がやってこなかったからこうなっているんだけど……。そういう点からもこの映画を観てもらいたいですね。同時代のGEZANというバンドが、こういうアクションを起こしつつあるということを含めて。
Text by 山田宗太朗
Photo by Kazma Kobayashi
『Tribe Called Discord:Documentary of GEZAN』
6/21(金)よりシネマート新宿にて上映決定
監督:神谷亮佑
プロデューサー:カンパニー松尾
主演:GEZAN(マヒトゥ・ザ・ピーポー、イーグル・タカ、カルロス尾崎、石原ロスカル)、神谷亮佑
キャスト:青葉市子、 テニスコーツ、原田郁子、THE NOVEMBERS、行松陽介、UC EAST、imai、踊ってばかりの国、HIMO、呂布カルマ、やっほー、他
製作:十三月
音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
配給・宣伝:SPACE SHOWER FILMS
©︎2019 十三月/SPACE SHOWER FILMS