高校在学中から活動を開始し、最新作『What Chaos Is Imaginary』でサウンド、キャリアの両面において更なる飛躍を遂げたLAのインディー・ロック・デュオGirlpool(ガールプール)。ベース/ボーカルのハーモニー・ティヴィダッドとギター/ボーカルのクレオ・タッカーの2人からなるこのデュオは、2014年にセルフ・タイトルのEPをリリースして以降、常に進化を続けている。
すでに3枚目となる今回のアルバムは、キャリアとは裏腹に20代前半の無邪気さやあどけなさを残った内容に。昨年、性転換のためのホルモン治療を開始し以前とは違う声になったクレオ・タッカーのボーカルや、結成以来初めて離れた場所で生活し別々に作曲に臨んだことで、今回のアルバム制作には様々な試みが取り入れられている。そんな2人の成熟がサウンドと歌詞の両面を通して感じられた。
初の来日公演となった今回は、最新アルバムのイメージとは打って変わって、メンバーの2人だけというミニマルなセットに。曲によっては互いの楽器を交換しながら、和やかな雰囲気で進行していくステージ。最小限の音で奏でられることでメロディー・ラインがいっそう美しく響き渡り、駆けつけたオーディエンスを魅了する至福の時間が流れていた。
初のジャパン・ツアーを成功させた彼らに、結成の場所から最新作に込めた思いまでを語ってもらった。インタビュー内でもあった彼らの「2人でひとつ」という言葉に疑いはない、と思えるほど親密な彼らの姿は、気取らない中にもピュアな熱情が宿るサウンドを裏付けるようであった。
Interview:Girlpool
──まずは2人が音楽を始めたきっかけを教えてください。
クレオ・タッカー(Gt.&Vo. 以下、クレオ) 8歳ぐらいだったと思うんだけど、その頃ギターを弾き始めて、毎週火曜、学校終わりにギター教室にも通っていて。それでものすごく夢中になったんだ。
ハーモニー・ティヴィダッド(Ba.&Vo. 以下、ハーモニー) 歌うことに興味があって、子供の時に合唱団にいたのが最初かな。13歳のときに、叔父さんが私の名前の入ったギターをプレゼントしてくれたことがきっかけでギターを弾き始めた。今でも持っているよ、修正液で名前がペイントされたギターなんだ。
クレオ クールだね。
──2人ともかなり幼少期から音楽に触れていたんですね。バンドを組むことになるのは自然な流れだったんでしょうか?
クレオ もともとティーンエージャーの時は別々のバンドをやっていて、その後ライブで出会って一緒にやることになったんだ。
──お2人はLAのThe Smellという場所で出会ったと聞いたのですが、その場所とそこにあるコミュニティについて教えてくれませんか?
ハーモニー The SmellはとてもDIYなスペースで、お酒を飲む場所もないようなところだよ。だから、ティーンエージャーとか若者が多く集まっていたんだ。だけど、大人もいたし、どんな人でもウェルカムな場所でクールだったわ。素晴らしいコミュニティよ。昔、私もそこでボランティアとしてライブのブッキングをしていたの。そこで、演奏したり働いたりすると若い自分でも自立できていると感じることができた。The Smellは私たちを啓蒙してくれるような場所だったわ。
──インターネットが発達してリアルなコミュニケーションがなくても社会が成り立ってしまう今だからこそ、そういったDIYのコミュニティという存在は価値を持つと思います。ワールドツアーを回るようになった現在でも、そういったDIYのコミュニティと関わっていきたいと思いますか?
クレオ もし自分たちだけで決めることができるのなら、もっとクールで小規模のライブをやりたいけど、今は色々ルールが増えて、チケットの売上げとかの関係で決まった場所で決まった時間にしかライブができなかったりする。
一緒に仕事をするチームができて、人数も増えると動く金額も大きくなってくるし、どんどん難しくなってくるけど、メンタリティの部分ではDIYであり包括的でありたいと意識してる。ライブを観に来てくれる人には、みんな心地よくいてほしいね。
ハーモニー DIYは人に力を与えてくれるものだと思うけど、社会には私達にそう思わせてくれないことがたくさんある。少なくともアメリカの社会の中では「私はなにかを大きいものを作り出すことができる」って考えることは難しいの。ルールや政治、社会が目の前にあって「大学にいかなくちゃいけない」「何かを創造することは難しい」って思わされたり、乗り越えないといけないものがたくさんある。今の産業界の構造は人々から力を奪っていくと思うわ。
DIYがすばらしいのは、人がすぐそこにいて、皆つながっているから、何かを作れば人前にすぐ出せるし、ブッキングすればすぐに実現できること。今はソーシャルメディアが大きくなっているからこそ、コミュニティや居場所をつくり続けることはとても大事なことだと思うの。
例えば、Facebookが流行った時に自分がものすごく孤立しているように感じた一方で、DIYなコミュニティやライブに遊びに行くと、そこにはリアリティや実体があった。まさにいま目の前で起こっていることを直接見たり、誰かと一緒に何かを作ったりすることこそが私自身にいろんなものを与えてくれたの。おかげで色々変われたし、心理療法みたいなものね。脳が回復したわ。
──昨晩のステージでは、ふたりの姿がとても近い存在に思えて、そういったところにDIYのメンタリティが表れている気がしました。次に、新しいアルバムについてお伺いします。今回のアルバムではこれまで以上に様々な楽器が使用されていますが、アレンジに関してはどのように決まっていったのでしょうか?
クレオ 今回のアルバムに収録されているほとんどの楽曲は、別々にデモを作ったんだ。部屋でシンセをいじってギターを弾いて完成したデモを聞くと、お互いのことはもう知り尽くしているし、理解しているからどんなサウンドでどんな完成形に向かっていくのかが大体わかる。デモ曲の段階で2人ともほぼ完成に近い状態で仕上げるから、もし変えたいところがあったら「これの代わりにこれはどう?」みたいに提案するくらい。でも、いろんな楽器があるスタジオにいる時は、かっこよさそうな音をどんどん足していったよ。
Girlpool – Full Performance(Live on KEXP)
──今回クレオはテストステロンによるホルモン治療をおこなっていたそうですが、治療による声の変化は作曲やアレンジに影響はありましたか?
クレオ 声が変わるにつれて声の出し方を学ぶ必要はあったけど、作曲に関してはハートだからね。髪色が違っても中身は同じ人間なのと同じさ。
──作詞作曲をする時に、何からインスピレーションを受けますか?
ハーモニー いま目の前で何が起こっているか、コンセプト、アイディア、感情とかすべてよ。人生って曲に書けることで溢れていると思うの。何かを遮断することはしないわ。逆に人生ではありえないようなことだって美しいしね。
──なるほど。ライブで聴かれることやアルバムを通して聴かれることを想定して制作するんですか? それとも感情を表現することを最優先しますか?
ハーモニー なにかアイデアがあって曲を作るのも楽しそうだけど、私はあまりやらない。その時々で私にとってリアルなものを書くことが多いの。
Girlpool – “Minute In Your Mind”
──今回のアルバムは、全体を通してとても綺麗な流れがあるように感じました。これまでの作品と新しいアルバムを比べてどう感じますか?
ハーモニー ただ単純に、作品ごとにその時、私達がいた場所が表れているんだと思う。私達はその曲を作っている側だから作品の外側には住んでなくて、だから自分の作品を客観的に評価するのは難しいんだよね。
クレオ そうなんだよ。例えば自分に甥っ子がいて、6歳のときに一度会ってから10年越しに16歳になったその子にまた会うとこっちは「わお!」ってなるけど、本人からしたら「なに?」って思う。だって、本人は毎日鏡で自分のことを見ているからね。音楽も同じで、アルバムを聞いたら、甥っ子に「大きくなったねえ!」って思うみたいに「全然違って聞こえる!」って感じ(笑)。
──表題曲“What Chaos is Imaginary”の一説《Build Yourself Some Boundaries》はお互いの個性が強調された今回のアルバムを象徴するような歌詞かと思います。「自分が自分であること」というのが2人の中でこれまで以上に重要になっているのでしょうか?
ハーモニー 「Boundaries(境界線)」にはネガティブな意味合いがあるけど、その言葉にはちゃんと意図があるの。世の中には「あなたはこうあるべき」「あなたはこうなりなさい」っていうステレオタイプのようなものになぞって、あるべき姿を期待されることってあるでしょ。この一節はそのことを歌っているの。
私達は世の中に決められた何かをやるべきだと教えられて、自分が望む方へ探求させてくれない。だから、「Boundaries」は人間関係でも大事だし、時にはためになると私は思っている。「Individuallly(個々に、個別に)」であるというのも私達にとって、とても大事なことだと思う。いまこうして私達が飲んでいる飲み物が違うのだってそう。
クレオ 違っていいんだよ。私達は2人でひとつだけど、それぞれ独立している。
Girlpool – What Chaos Is Imaginary(Live on KEXP)
──今回のアルバムの制作にあたって、2人は初めてLAを離れて、別々の場所で生活したそうですが、楽曲との向き合い方やお互いの関係性に変化はありましたか?
クレオ そうだね、でもすごく落ち着いていたよ。何かを目論んだわけでも、ドラマチックな展開があったわけでもないし普通に生活して、ツアーもたくさん回って、西海岸にも長くいたんだ。とにかく、それまでが忙しかったから、お互いのアパートでそれぞれが曲を書いていたっていうだけ。それから、お互いに曲を聞かせあって、いい曲が何曲か溜まったから「また集まってアルバム制作に取りかかろうよ」ってね。
──かなり自然なことだったんですね。 NYとフィラデルフィアでの生活はそれぞれどうでしたか?
2人 楽しかったよ(笑)。
クレオ 騒がしいし、賑やかだったね。NYでは毎晩、街に繰り出していたよ。
ハーモニー 私もフィラデルフィアではそうだった。いろいろなことが違っていたよ。
クレオ LAも都会ではあるけど、どっちも好き。でもやっぱり地元っていうのは特別で、つながりも感じるからホームって感じがする。
──今作も前作『Powerplant』と同様に〈ANTI Records〉からのリリースですが、レーベルメイトとの交流などはあるのでしょうか?
クレオ 交流はあるよ。ずっと忙しかったからあまり会えてないけど、会おうと思えばもっと会えると思う。レーベル内で出会ったアーティスト達はみんな良い人達だったよ。ウィルコ(Wilco)とはツアーをするよ。
──その他に仲の良いミュージシャンはいますか?
クレオ 親しいアーティストは結構いるよ。ジェイラ・トンプソン(zsela thompson)は素晴らしいアーティストだよ。あとはポーチーズのアーロン・メン、イアン・スウィート(Ian Sweet)のジリアン・メドフォード(Jilian Medford)かな。
──普段はそういう人たちとも遊んだりしているんですか?
ハーモニー そうだね。でもミュージシャンじゃなくてアート関係の友達がもっと多いかも。LAは色々な芸術家で溢れていて、そういうコミュニティがたくさんあるの。
──世界中をツアーした後、なにか予定はありますか?
ハーモニー 新曲にとりかかっていて、レコーディングをしているよ。
──では最後に、日本のファンになにかメッセージはありますか?
ハーモニー またいつか日本に来るよ! 次はフルバンドセットとかでね。
クレオ 日本はとても楽しいよ!
Photo by Kodai Kobayashi
Text by Kentaro Yoshimura