2022年に入ってから、who28とのシングルリリースの共作が続くGokou Kuyt。これまでも、ぼく脳や愛染 eyezen、4s4ki、そしてTohjiやSleet Mageといった<TOKIO SHAMAN>界隈のアーティストとの交流はもちろんの事、Moment JoonやOnly U、そしてBilly LaurentからBABY NBEやgummyboy、はたまたやKim TaehoonやMinchanbabyなどなど非常に幅広いアーティストたちとの交流を数多く行ってきた。どれも積極的に話題性を狙って、双方が意識的にコラボをしてきたと言うよりは、自然発生的に行われてきたのがこのGokou Kuytの特徴の一つと言えるだろう。

そんな中、昨年コロナ禍の9月にリリースされたGokou KuytのEP『U DESERVE IT!』では、意外にもアートワークやMVなどを始め、クリエイティブ面で本格的に外部の人と手を取り合ってはじめて作品を制作。他人と共作することで、広がった表現の幅と深さを見せ切ることで、一つの境界線を超えることに成功した作品となった。

EP『U DESERVE IT!』ではまず、『水曜日のダウンタウン』のOPをはじめ、『テレビ千鳥』や『オールスター後夜祭』など数々の人気バラエティ番組のヴィジュアルデザインやフワちゃんのスタイルブック、スピードワゴン小沢などの芸人やYouTuberたちの番組デザインを担当する榛葉大介にアートディレクションを依頼。

そのイラストに、近年ではCreepy Nuts×ウルフルズのツーマングッズやベッド・イン、BAND-MAID、人間椅子、ももいろクローバーZ、そして漢 a.k.a. GAMIらの作品/グッズのイラストを描く鈴木旬が参加した。また、音源のマスタリングは塩田浩SALT FILED MASTERING)が手がけた。

EPには5曲が収録。榛葉大介と鈴木旬が手がけたパッケージには5人のキャラクターが登場する。この5人は5曲を擬人化したようなものであり、それぞれ詳細な設定があるという。EPからは2曲のMVが公開されており、その物語の片端を確認することができるはずだ。

リリースパーティーを始め、ツアーなども予定されていたものの、昨今のコロナ禍により全て延期となったEP『U DESERVE IT!』のクリエイションは全てInstagramのDMからはじまったという。本来は、リリースイベントに合わせ公開予定だった本稿の当事者同士による座談会は今改めて掘り起こしてもクリエイターたちにとっても普遍的な貴重な記録となった。Gokou Kuytと榛葉大介の初対面の場所・EBISU BATICA、アイコニックなイラストが生まれた鈴木旬の作業場で、ジャケットワークやMVが完成していく座談会の記録をここに公開。

INTERVIEW:Gokou Kuyt×榛葉大介×鈴木旬

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左から鈴木旬、Gokou Kuyt、榛葉大介
※本座談会は2021年年末に安全対策を行った上で行われました。

──今回のEPはこれまでの総括的な作品になっていたと思います。リード曲として発表され、MVも公開された“Type Beat & SoundCloud”は自分のキャリアへのラブレターのようなだと感じました。この曲はどういった経緯で制作されたのでしょう?

Gokou Kuyt いまは少し変わってきたんですけど、この時は曲を作るにあたって、他の人が歌っていないトピックを探すところから始めていました。自分にしか歌えないものを整理するメモを作っていて、タイプビートやサンクラのことは誰も曲にしていないと気づいたんです。そのテーマも、完成度も単純に気に入っていたし、自分の色が一番出ている曲だったので、絶対にMVも作った方がいいなと。

──EPからもう1曲、“Suginami Town”のMVが公開されています。これまでも高円寺や中野を歌う曲がありましたが、曲名通り、杉並区はカイトさんにとってどのような街なのでしょうか?

Gokou Kuyt 単純に住んでるだけですが、「自分がいる場所」という意味です。今回EPのために作られた5人のキャラクターを見たときに、“Type Beat & SoundCloud”は圧倒的なメインヒロインで、“Suginami Town”は2番手でメインヒロインには負けちゃう感じ、というイメージがあって。“Suginami Town”こと杉並区は住んでいる場所、という点から発展して「幼馴染のキャラクターが映えるのでは?」って(笑)。

Gokou Kuyt – Type Beat & SoundCloud

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“Type Beat & SoundCloud”キャラクターイラスト

リリースパーティでの出会い

──楽曲が完成する前からキャラクターがいたんですか? それとも後ですか?

Gokou Kuyt 5曲が先にあって、後からキャラクターの世界観を当てはめいきました。リード曲が“Type Beat & SoundCloud”になることが決まっていたので、そこを軸に考えていきました。でも、5曲のなかでもメッセージやサウンドも違って、まさに性格の違う5人のキャラクターに重なるよう作られています。

──ではここから今回のEPでアートワーク、MVを一緒に担当された榛葉大介さんと鈴木旬さんにもお話をお伺いしていきます。今回このような形でプロジェクトに参加した経緯をお聞かせください。

榛葉大介 そもそもの出会いはSoundCloudですね。適当に曲を聞いているとき、たまたまGokou Kuytさんの楽曲に出会ったんです。凄く気に入って。それからしばらくして、EBISU BATICAで開催されたEPのリリースパーティに遊びに行きました。そのときにインスタでライブの動画を上げたら、Gokou Kuytさんからコメントを頂いて、自己紹介も兼ねてDMを送り合いましたね。それが2019年の夏頃。それから2年近く経って、またご連絡頂いて今回の話に繋がりました。

Gokou Kuyt 最初はストーリーにタグ付けしてもらっていて、ほとんどの人にお礼を返していたんですけど、榛葉さんの返信を見たら自分の好きな番組の仕事を沢山やっていて「えっ!? この人が来てたの?」って(笑)。

榛葉大介 お話を頂いて嬉しかったし、もちろんやりたいなと思いました。それと、決め手の1つは過去に無料配信していたEPのジャケにバナナマンさんを使っていたことですね。曲も好きだったし、ラジオやお笑いなど同じカルチャーが好きな気もしたので勝手にシンパシーを感じていて、制作もしやすいなと。

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鈴木旬との合流──90年代アニメな方向性へ

──なるほど。旬さんとはどう知り合ったのでしょう?

榛葉大介 3、4年前にスゴくいい絵を書く人だなと思っていて、知り合ったんです。以前、KATYさんのゲームアプリを制作したことがあって、そのときにセーラームーンなどの少女漫画的な方向性で、2人で制作を進めたんです。そのこともあり、今回も旬さんにお願いしました。

──最初から少女漫画的な方向性でやるという案があって旬さんに依頼したということですが、この方向性に決まったきっかけはありますか?

榛葉大介 いくつか案は出していたんでしたが、速攻この案になりました(笑)。楽曲を女の子にしていくのが一番イメージしやすかったです。旬さんのイラストはノスタルジックかつ色使いなどが今っぽかったりしている所がスゴく好きで、それがハマるかなと思いました。1つのキャラクターを作るのに物凄い量の資料を渡しましたよね。

鈴木旬 そうですね(笑)。資料があると立体的に作れるので助かりました。

──どんな資料があったのでしょう?

榛葉大介 自宅でGokou Kuytさんと鈴木健さん(Gokou KuytのA&R)の3人で集まり、長い時間をかけながら、それぞれのキャラ設定とか語り合って、さまざまな要素をプラスしていったんです。イラストを描きやすいように、参考になるものはいろんな資料にしましたね。

※テーマが見つかったときもただ単に”ぽかったらいい”ではなくて、リアリティをひたすら追求したという。キャラ設定1つとっても、「この子はこういうことをしない」という風に解像度を高くする作業は朝まで行われたよう。

榛葉大介 その辺りで気持ちが乗り過ぎて、一人一人適当に扱いたくないなって(笑)。

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「ねぇねぇてか何聞いてるの?」「いや、別に」

──MVに登場するのは2人だけですが、残りのキャラクターについても想像できる奥行きがありますね。具体的に、どんなキャラクターなんですか?

榛葉大介 “曲ができない”は一緒にコミケ行くみたいな子ですよね。“Teen Dream Forever”だけ年上で、童顔の先輩というか(笑)。“CLUTCH”は育ちがいい。エッセンスとしてはトリンドル玲奈さんです。実際のMVを作ったのは2人だけだったんですけど、全員MVにできるくらいの設定があります。たとえば、どういうデートするとか(笑)。

──そういう話を聞くとどんどん愛おしくなってきます。

榛葉大介 そうですね。希望として、みんなに推しを作って欲しいなという気持ちはあります。

Gokou Kuyt 結構みんな誰が好きとか言ってくれます。一番人気は“曲ができない”でした(笑)。

榛葉大介 僕も一番好きですね(笑)。

鈴木旬 僕も“曲ができない”か“Suginami Town”ですかね。似せてはいないですけど、頂いた資料の女優さんや実際の人をアニメ化するような感覚で臨みました。他の仕事でも仮想モデルを設定して描いたりしてます。

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“曲ができない”キャラクターイラスト

榛葉大介 そうですよね。別に似顔絵じゃないですけど、雰囲気というか、この人って「きっとこういう性格なんだろうな」という設定が入っているというか。

鈴木旬 やっぱりそれがあると一気に描けるようになるんですよね。

──MVの主人公はGokou Kuytという設定なんですよね。

榛葉大介 めっちゃモテモテなんですよ(笑)。

Gokou Kuyt ストーリーやシチュエーション、このキャラクターとの接し方とか、詰めていきましたよね。

スタッフ (メモを読み上げる)高校一年生、帰宅部、週三くらいアルバイトしている、トリンドル玲奈、テラスハウスの立ち位置のまま、ハーフ、育ちがいい、メガネキャラ、童顔の先輩、きゃりーぱみゅぱみゅ、赤木晴子……隣の席、音漏れ注意されて、そこから先生に見つかる「ねぇねぇてか何聞いてるの?」「いや、別に」……。

鈴木旬 この指定の仕方がメチャメチャ分かりやすかったです。赤木晴子は分かりやすかった(笑)。このメモを貰った段階で誰がどの曲なのかはっきり分からなかったから、トリンドルとかきゃりーって名前をつけて分けてましたね。

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──“Type Beat & SoundCloud”と“Suginami Town”だけふわっと決まっていたとのことですが、実際アニメーションになってきて見たときにカイトさんはどう思いました?

Gokou Kuyt 単純にビックリというか、「スゴっ」て感じでしたね。話したことが全部実現されてて、ヤバいなと。

鈴木旬 あと僕はPCゲームのパッケージを模したジャケがすごく好きです。CEROのところとか細かくて。実際にモノにしたいですよね。

榛葉大介 本パッケージの色合いとテイストはかなり悩みましたね。最初はデザイン性のあるものを作ろうとしたのですが、絵が強いので派手にしすぎず、調整しました。

スタッフ タイプビートも実際にパッケージは売ってないんですけど、デジタルでああいうジャケットで売られているんですよね。

榛葉大介 そうなんですよね。はじめにその資料を見せていただいて。結構上手くハマったと思います。

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『U DESERVE IT!』ジャケットワーク

Gokou Kuyt – Suginami Town

──一番大変だったキャラクターは?

鈴木旬 “Suginami Town”が一番大変でした。髪型をなかなか決められずで。髪の結び方を可愛く見せるのにかなり苦労しました。

榛葉大介 ポーズも大変で、体操着の手の上げ方とか意外と難しくて。TikTokを見せて「これです!」みたいな感じで。全体的にモーションは難航していて、誰にどんなポーズをさせるかとかは悩みました。カラーリングは80、90年代のイラストテイストに今っぽい色を合わせるのが好きで、その組み合わせが上手くいきました。

それと、MVを上げたとき、一緒に仕事した40代くらいの方から「花火が打ち上がるときの表情って、あのゲームの確定演出のときの表情と同じ影のつけ方なんですよ」とか言われてびっくりしました(笑)。見た人が色んなサンプルを思い出す感じが良いですよね。

鈴木旬 他の絵の仕事もそうなんですけど、顔が「よし!」となったら進めるんですよね。普段は一枚絵が多いですが、今回は設定から色々な着合わせを考えて描きました。オレンジの髪というのもあって、私服はポケモンのカスミをイメージしたりしましたね(笑)。“曲ができない“のキャラクターは、最初に制服だけのパターンを描いて、その上からパーカーを着せたのですが、セーラー服にオーバーサイズのパーカーを着こなすのが難しくて一番手間がかかったかもしれません。

榛葉大介 資料を探しても、ブレザーは色んな着崩しがあるんですけど、セーラ服は全然なかったので、どうなるんだろうかと。

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〜鈴木旬 作業場〜

──鈴木旬さんの作業場に移動してきました。ここでさまざまなイラストが誕生したと思うとこみ上げてくるものがあります。こちらでひたすら作業されていたということですが……みなさんはコロナ渦以降、マインドで変わることはありましたか?

Gokou Kuyt コロナでライブができなくなったときは、結構ガクってなったんですけど、なんだかんだ制作に関してはそんなに変化はないかなって。

──煮詰まった時とか気分転換とかされますか?

Gokou Kuyt 俺はゲームとかっすね。

榛葉大介 自分は散歩かシャワーぐらいの一般的な感じですね。ゲームやると完全そっちハマるんで作業できなくなっちゃうんです。散歩は引くくらいしますね(笑)。10kmくらい? 次の日足が壊れるんで作業しなきゃいけないみたいな。作業はそれ自体が一番楽しいので、気分転換とかはないかもです。ずっとそれだけやる。

鈴木旬 近所ですけど、自分も散歩です……(笑)。

──ありがとうございます(笑)。一年ほど前に手掛けられていた、KATYさんのゲームを制作する仕事(『ゾックゾクアドベンチャー かてぃの元カレデストロイ』)が今回に生きてきた部分はどういった点だったのでしょう?

榛葉大介 あれは実際にゲームにしてるんですけど、その仕事で作り方はだいぶ分かったんです。今回はゲームにするわけじゃないので、すこし調整すればいいと。それに普段の仕事よりもコミュニケーションを取り合っていたので、不安はなかったです。ゲームを作るノウハウがあったから、パーツの作り方なども分かっていたのでスムーズに進みました。直前には東海オンエアさんのゲームを作ったんですけど、それはもう、イラストが大量にあったんですね。

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鈴木旬 あれは自分も他の人に作業を振ったりしました。でも、人とやるのっていいなと思いましたね。それからいまは、チームで物を作ることも意識的に考えるようになりました。

Gokou Kuyt オレは意見を言ってるだけで、本当に色々やってもらってありがたいって感じですね(笑)。

「チームGokou Kuyt」

──今回のジャケットやMVもそうですし、「チームGokou Kuyt」というリリックがありました。そういった意識があったということでしょうか?

Gokou Kuyt いままでは完全に1人で完結していました。ジャケットでも深く話し合うことはなくて、MVも自分で適当に動画拾ってきて作ったりとか。ミックスやマスタリングも全部自分でやって、他の人と作業する感覚がなかったんです。でも今回のEPはジャケットやビデオ、マスタリングもやっていただいた。

マスタリングに関しては、ずっと最終調整の音を自分で判断していたんですが、今回はお願いした塩田浩さんっていうプロの方に決めてもらおうと思ってたんです。本当に驚いたのは電源1つとっても普通の家では出せない電圧だったり、いま買うととんでもない額の機材を持っていたりしていて、まずそういうことから圧倒されました。実際に出来上がったものに関しても、質感が全然違うものになっていると思います。これまではイヤホンやスピーカーなど小さい音で聴く環境に合わせていたんですけど、しっかりクラブなどで聴く大きい音でも映えるように設定してもらいました。

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スタッフ お二方ともある程度形を作るのは結構早くて、そこから先の詰めが全然違うなと言う印象でした。

榛葉大介 そこから先が自由にできる部分で、ニーズに合わせてから最後のブラッシュアップというか。それができると楽しいんですよね。

鈴木旬 要素を調べたり、小ネタみたいなものを入れるのが好きなのでそれを考えたりするのも時間がかかりますね。

榛葉大介 一日置いて冷静になってみると違かったりします。時間を置くと愛着も湧くので。

タッチと色使い

──なるほど。ここで、お二人のクリエイティブの源泉について教えてください。

鈴木旬 僕は水木しげる先生ですかね。自分よりももっと前の世代の60〜70年代のアニメや漫画の絵が好きで、それを真似して描いたりはしていました。それから大人になって80年代のタッチでも描いたりするようになってきて、そして今回のように90年代風と、大体20年くらい前のタッチを追い続けてきました。自分にとって原体験となるものがようやくいま流行ってる感覚があります。

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榛葉大介 自分はピンポイントで「これ」というのはあんまりないんですけど、幼い頃、親に見させられていたアニメがディズニーのかなりマイナーなものやDVD化もされていないようなアメリカのアニメだったり、そこで見たものの影響は少しあるのかなと。それこそ少女漫画は元々好きで読んでいました。女の子の気持ちが分かればモテるだろう、みたいな感じだったんですけど(笑)。でも普通に面白くて、『カードキャプターさくら』とかも姉の影響で見ていて、総じて色使いが印象に残っていました。参考とまではいかないけど、どういう気持ちで配色していたのか、とか。あと少女アニメではないんですけど、『湘南爆走族』のアニメの色使いがとても好きでどういう感覚で配色しているんだろうと。ピンクや紫の色使いが特に印象的で。

鈴木旬 『セーラームーン』もその辺は本当凄かったですね。

──カイトさんはどうですか?

Gokou Kuyt 自分はゲームをやってました。PSPの『アマガミ』や『ドキドキ文芸部』をやったり、ゲーム版『俺の妹はこんなに可愛いわけじゃない』とか。 あと、中三くらいで『涼宮ハルヒの憂鬱』のラノベとかを借りてハマってました。でもそのくらいの時期って、ラノベ読んでるとダサいみたいな感じがあって、家でこっそり読んでました(笑)。

──ちなみにいままでのYouTubeやサンクラのサムネで『セーラームーン』などを使ったりしていますけど、そういった90年代のアニメとかに思い入れはあったりするんですか?

Gokou Kuyt 色合いとか絵柄が単純に好きです。本当はダメなんですけど、自分でビデオを作るときにGIFとか引っ張って世界観を伝えやすいのが90年代のアニメだったり、質感が合ってていいなと。

Gokou Kuyt x who28 – Fancy Cozy(Prod. Laptopboyboy)

趣味と営業から繋がるキャリア

──お二人がこのお仕事を目指したキッカケとかあるんですか?

榛葉大介 先生になろうとしてたんですけど、大学とかは行かなくなって。でも絵を描くのは好きだったので、グラフィックデザインって言葉すらも知らないレベルで専門学校に行きました。ロゴやグラフィティとかも書いていたので、自分が元々好きだったものはそういう名前のものだったんだと。それこそSKATETHINGさんとか見て「カッケー」と思ってて。番組のタイトル作るときの文字とかもそれに寄せてった感じで。ほぼ独学に近いのでコンセプトやロジックはもちろん大切にしますがそれよりも見た時のインパクト、楽しさ、制作している時に自分がいかに楽しむかを意識しています。

元々いた会社がテレビ番組とかを受けていて、やる人がいないから自分がやりますって感じだったんですけど、それでやれることがどんどん増えてきて、いつの間にか色んな仕事をするようになりましたね。ウェブやMVを作ったり、どんどん幅が広がっていった。でも全部楽しいので、調べながら意外とできるなと。

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鈴木旬 自分は小さい頃から漫画家に憧れていて、中学校くらいまでは目指してもいたんですけど、漫画は描いてなくて(笑)。高校生くらいではじめて道具を使ってみたら、全然使えないし、話も作れないし「あれ? これはもしかしてなれないのでは?」って思ったりしました。でも、自分の絵が使われたり喜ばれるのは一番嬉しくて、なんとなくそういう場面のある職場を転々としたんですけど、イラスト一本で食べていくと腹を決めたのは遅かったと思います。フリーになったのは4年くらい前です。極端なことを言うと、イラストレーターを仕事にするのは向いてないといまでも思ってます。そのときのテンションで描けたり描けなかったり。でもなんとか続けられてる。

自分はDMとかあまりないですけど、ライブにイラストを描いて持って行ったりしましたね。趣味と営業もかねて。たとえばベッド・インのファンアートを採用していただいて公式グッズになったり。アーティストグッズ系はそこからスタートしています。

榛葉大介 自分は逆に手伝わせてくださいみたいな感じでDM送りますね。そこにはあんまり抵抗はなくて、それで仕事を取るってよりもお金とかもいいのでいつも楽しませてもらっているお礼がしたいという。ハマってるYouTuberとかに送ったりします。それでEvisjap(エビスジャップ)さんのチャンネルのEDとか企画でトゥクトゥク作った際のデザインとかしましたね。めちゃくちゃ派手なトゥクトゥクをデザインしました(笑)。

トゥクトゥク買ってみた!

──DMから境界なくつながっていって仕事が生まれる事例は増えていきそうですね。

榛葉大介 たぶんカイトくんにInstagramのDMが来るのも1つの連絡手段なだけで、電話やほかとはあまり変わりはないのかなと。なので、DMだからって特別感はないかもですね。でもInstagramだと相手がどういう人か分かるのでそれはいいかもです。

鈴木旬 Instagramで仕事が始まるのは夢があるなと思いました。ただ、いまInstagramで自分の絵はうまく出せていないなと思っていて。前に榛葉さんに見せ方がもったいないInstagramがあると言われて気付きました。背景や比率がバラバラで並べた時に統一感がなかったりして。タッチがバラバラでもせめて顔の部分だけでもサイズ揃えてトリミングしたりしようかなとか、もしくは自分の作品って分かるように枠みたいな物を作ろうかなとか思ったりしていて。

榛葉大介 それでいうと、僕はInstagram用にデザインを作りますね。タイトルや背景もです。でもそこはやはり趣味の部分で、自分が作ったものが並ぶとアガるので、逆にそれが中途半端だとガッカリするんです。他人に見せようとする気はあまりなくて、あとで見返した時にテンションが上がるので作っている感じです。

──ちなみにお二人は幅広い分野でお仕事をされていますが、音楽系とそれ以外で変えているところとかありますか?

榛葉大介 MVのような仕事の場合だと、普段やらないこともあります。ただ好きな人だからできるということは大きいので、普段の仕事と違って趣味でもあり、若干遊びに近い。もちろん普段の仕事も楽しいですけど、より楽しいし。曲をリリース前に聞けるので、それが一番テンション上がりますね(笑)。

鈴木旬 アーティストさんとはグッズのイラストをやることが多いです。その人をイラストにすることが多くて、似せるのはもちろんですが、客観的にその人のぐっとくるところをなんとかイラストで捉えようとしている感じです。「この人を描きたい!」と思ってやるので楽しいんですけど、グッズはサイクルが早いので、儚さを感じることもあります。MVはそのアーティストの内面を具現化したり、より世界観に寄り添う感じがするので全然違うなと思いました。

※エイプリルフールに鈴木旬が描いたファンアート

作品が世に出ること

──お三方とも表現を世に出していくお仕事だと思うんですけど、一番最初に世に出したときの気持ちとか覚えていますか?

Gokou Kuyt SoundCloudかニコニコ動画に上げて、再生数とか0ではないんですよ。誰かが聴いてるんだなと。誰だか分からないんだけど、誰かは再生したんだというのが超不思議でした。嬉しさもあったけど、不思議。Twitterでエゴサーチしてみると何人かはシェアしてる人がいて「なんなんだろうこの人たちは?」と。

一同 (爆笑)

Gokou Kuyt 「どうやってたどり着いたんだろう?」という怖さもあったんですけど、聴いてくれる人もいるんだなと思ってやる気出て頑張ろうと思いました。

──榛葉さんはどうですか?

榛葉大介 デザイナーとしても社会人としてもおぼつかないときで、デザインについては最初、あまり詰められてなかったですかね。テレビのロゴとか出ても、普通の人は誰が作ってるか、気になんないと思うんですよ。だから自分が見られている意識も反応もなくて、別に「見られてないな」と思いながらも、自分が納得するものを作ってました。そしたら徐々に反応を貰えるようになって「それが好き」って言ってもらえたりして。「好きな番組、榛葉さんがやってるんです」とか、学生の人から「そういう仕事したいんです」みたいに言われたり。こういう反応を貰えるのはとてもいいなって思い始めましたね。

──最初にそういう反応貰ったという作品はどれでしたか?

榛葉大介 一番デカかったのはやっぱり『水曜日のダウンタウン』です。OP作ったときすごく反応があって、それから知ってくれる人がいまだに多いです。

──旬さんはどうですか?

鈴木旬 最初、地元の鳥取でゲゲゲの鬼太郎のグッズとかをやってる会社に就職したんですけど、そこで鬼太郎のイラストをやったのは嬉しかったです。小さい会社だったのでデザイナーやイラストレーターとして入った訳でもなく、「イラストが描けるから」という流れでやらせて貰いました。好きで描いたりもしていたので、それを公式で描けたのは夢が叶ったようでしたね。いまも好きなアーティストさんのイラストを描けたりすると、すごい嬉しいです。

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鈴木旬が背景作画を担当した映像作品『17CLub』のイラストガイドブック

17クラブ

──プロとしてやっていく決心ができた瞬間とかはあったりしますか?

鈴木旬 一昨年くらいを振り返ってみると、なんとかイラストで食えたんですよ。それがそう思った瞬間かもですね。逆にこの先大丈夫なのかなって不安はずっとあります(笑)。

榛葉大介 自分はあんまり「ここ」みたいなポイントはないんですけど、2年前に独立して。それまでもその会社でプロとしてやってましたけど、独立してからは全責任が自分にあることがプラスになったように感じます。今までは会社に仕事がきていたのが、独立してからは自分を指名して仕事を依頼してくれるとか。感謝や有り難みもあり、そのことを2年前から感じますね。

──カイトさんはいかがですか?

Gokou Kuyt プロとかはあんまり考えたことなかったですけど、はじめて4曲入りにEPを配信したときに、単純にこれで生活できるかもと思って。それまではサンクラとかに無料で聞けるものしか出してなかったんですけど、EPでまとまった形で、はじめてTuneCoreを使ってApple MusicやSpotifyで配信したとき。こんなに聴いてくれるんだなと。頑張ればもっと聴いてくれる。これまでもやってやるぞという気持ちはあって、説得力のない謎の自信だったんですけど、それがちゃんと見えたんですよね。

Gokou Kuyt – Cinderella

Gokou Kuyt「これまでのイラストは、広島在住の専門学校に通っているファンの子で、インスタに上げている絵がスゴく良くてお願いしました」

──そのリリースパーティに榛葉さんがいらしてたと……! 最後に、今後の展望を教えてください。

榛葉大介 今後やりたいことはたくさんあります。今も身近な人に配っているアパレルをもう少し展開していったり、フィギュアが好きなのでオリジナルのフィギュアも作りたいですね。あとデザインと関係ないですが最近友人と ラジオをやろうと動いていたりします(笑)。最終的にデザインの楽しさを教えたり、共有できる教室的なものができたら最高です。

鈴木旬 さっきのチームでやりたいという話と繋がってくるんですけど、他の職域の人と絡みたいというか、自分の描いた絵をデザイナーさんに壊してもらったり、そういう体験をしたいです。自分が好きな範疇だけで描いてると、どうしてものびしろがなくて面白くないなと感じてて。想像もしてない使われ方をして瞬間「え??」って思っても、冷静になって見直すとすごく良かったりすることが多いので、そういう体験を積極的にしたいですね。今回のMVにしても、まさかギャルゲーの絵を描くことになるとは思いませんでした。

Gokou Kuyt 旬さんに結構似てるかもですが、自分も人と曲作りをしたりですね。いままでは一人で部屋に篭って作ってましたけど、違う環境でやるのも楽しいし、人に「いいじゃん」って言われたら、それで良くなる。それにタイプビートばかりだったから、人とコミュニケーション取りながら一からビートを作ったり、いままで自分のビートでは2曲しか出てないんですけど、これからは自分でもビートを作っていきたいなって。いろいろ頑張りたいです。

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取材:髙野虎
撮影:VOIDハヤシ

PROFILE

Gokou Kuyt

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InstagramTwitterYouTubeSoundCloudAll LinksNew Single:Gokou Kuyt & who28 “Bandit”

榛葉大介

1989年 静岡県生まれ。有限会社ODDJOBを経て2020年独立。「水曜日のダウンタウン」オープニング製作、「お笑いの日」「テレビ千鳥」オープニング・タイトル製作などTV番組のヴィジュアルデザインを手掛け、その一方で、YouTuber芸人フワちゃんのスタイルブック、CDジャケット・ウェブサイトのデザイン製作など見る人の網膜に楽しさを焼き付けるクリエイションを提供している。

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鈴木旬

1986年鳥取県鳥取市生まれ。
2013年より東京都在住。
懐かしく新しく、ユーモアあるタッチでイラストレーターとして活動中。

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New EP『U DESERVE IT!』

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All Lyrics by Gokou Kuyt
All Mixed by Gokou Kuyt
All Masterd by Shiota Hiroshi(SALT FIELD MASTERING)
Design:Daisuke Shinba
Illust:Shun Suzuki

配信はこちらから