『覚醒』でのメジャー・デビューから20年。そんな節目とも言うべき2017年に、GRAPEVINEが通算15作目となるニュー・アルバム『ROADSIDE PROPHET』を完成させた。
20年の深い年輪とこれからの未来に思いを馳せる歌詞と、勇壮に鳴り響くホーン・セクションの祝祭的なサウンドがストレートに心を打つリード・シングル“Arma”。20周年にうってつけの華々しい幕開けから始まる全11曲だが、そこに過剰な気負いや余計な感傷は一切ない。彼らはこれまでと何ら変わらないまま飄々と、しかし真摯に音楽と向き合い、ただ純粋にまだ見ぬ世界を求めて旅を続けている。
そこで今回のインタビューでは、特に音楽的な側面にフォーカスを当てつつ、デビュー作『覚醒』から最新作『ROADSIDE PROPHET』に至るまで、20年に渡るバンドの歴史を振り返ってもらった。
Interview:GRAPEVINE
——今年はバンドの20周年ということで、5月に対バンツアー<GRUESOME TWOSOME>がありました。ユニコーン、Dr.StrangeLove(長田進 / 根岸孝旨 / あらきゆうこ)、clammbon、STRAIGHTENER、OGRE YOU ASSHOLE、NICO touches the Walls、麗蘭、UNISON SQUARE GARDENと、先輩・後輩入り混じって、いろんなバンドと対バンしてきましたが、このツアーはいかがでしたか?
田中和将(以下、田中) とても楽しかったですよ。「20周年記念ライブ」って銘打ったワンマン・ライブをやらずに、いろいろなゲストを呼んで対バン・ライブを組んだんですけど、我々の演奏も最後までダレなかったし、結果的にはより「20周年記念」感が出せたんじゃないかな。20年の間で関わってきた人たちと一緒にステージに立つことができて、改めて自分たちのキャリアを実感できました。
——また、先日は<FUJI ROCK FESTIVAL ‘17>(以下、フジロック)にも参加していました。<フジロック>でのライブは3回目ですが、今回のステージはいかがでしたか?
田中 過去に出た中でも一番良かったんじゃないですかね。僕らが始まってすぐに土砂降りになって雨宿りのために屋内に入ってきた人たちも「良いやん」と思ってくれたみたい。<フジロック>のお客さんはライブに慣れてる方も多いと思うんで、ああいう反応は嬉しかったですね。
——今年6月にアルバムに先行してリリースしたシングル“Arma”は20周年記念にも相応しい、ストレートな歌詞とサウンドになっています。この曲を作っている時には、「20周年」はどれくらい意識していたのですか?
田中 アルバムに向けてレコーディングを始めて、その中からシングルに選んだ曲なんですけど、その時点ではまったくそういう意識はないですね。ただ歌詞を書く際には自分たちの20年のキャリアのことはだいぶ意識しました。
——この曲では、ホーン・セクションが印象的に使われています。これまでのGRAPEVINEには、ほとんどホーン・セクションを使った曲が無かったと思うんですが、この曲でホーンを使うというアイデアはどこから生まれたものですか?
田中 キーボードやってくれてる高野さんが「ホーンでも入れてみたらいいんじゃないか」と言い出して。高野さんがシンセでフレーズを作って、最終的に生に差し替えました。セクションとしてホーンを取り入れたのは初めてなんですよね。一本とかで入れたことはあるんですけど。
GRAPEVINE – Arma(Music Video)
——ジャム・セッションで曲を作るようになってから、ここ最近のアルバムはずっとセッションから生まれた曲と、亀井さん作曲の曲が半々くらいのバランスとなっていましたが、今回の新作『ROADSIDE PROPHET』はバンドが作曲クレジットになっている曲は2曲(“これは水です”“レアリスム婦人”)だけで、あとは田中さんと亀井さんの作曲になっています。今回こういうバランスになった理由を教えてください。
亀井亨(以下、亀井) 珍しくプリプロの段階で曲がたくさんあったから、っていうだけですね(笑)。レコーディングの時に曲がない場合に、じゃあジャム・セッションで曲を作ろうかって話になることが多い。
田中 亀井くんがたくさん曲を持ってきてくれたんで、やることがたくさんあるわけですよ。大体そういう作業の隙間でジャム・セッションをするんですけど、今回はそういう機会もあまりなかったですね。
——やはりジャム・セッションから曲を作っていく方が時間はかかるんでしょうか?
亀井 ジャム・セッションをするだけでも、二時間くらい回しっぱなしでやりますからね。そこからチョイスして、構成して……ってなるんで、時間はかかりますね。
——田中さんが作曲した楽曲は、『真昼のストレンジランド』以来だと思います。前作のタイミングで、田中さんは「家で曲を作らなくなった」というようなことを仰っていましたが、今回また作曲をし始めたのはなぜでしょうか?
田中 僕、あんまり宅録とか向いてないタイプなんですよ。「自分色」があんまり楽しくなくて、どんどん冷めてくるというか、「これ、何がええの?」っていうのが分からなくなったりするタイプで。だから、あまりバンドに持っていかないっていうだけなんです。今回は持ってかなあかんかなっていうプレッシャーを感じたんで、持っていったっていうだけの話ですね(笑)。
——今回のアルバムは、高野寛さんがプロデュースに4曲参加した前作から、またセルフ・プロデュースに戻っての製作となっています。ただ、これまでのセルフ・プロデュース作がかなり密度の濃い作品になっていたのに対し、新作は良い意味で力みがなく、オープンなサウンドになっているように感じました。
田中 まぁ、曲によりけりかなぁ。でも、雰囲気はオープンになってきているとは思いますね。ここ数年の作品もそうですけど、作り込み方の種類も変わってきていると思います。曲によったり、その時によったり、ケースバイケースなんで、一概に言うのは難しいですけど、すごくリラックスしてやれているのは間違いないです。
——例えば、“Arma”はどういう風に作り込んでいったんですか?
田中 亀井くんが持ってきた曲なんですけど、結果として“Arma”に関してはすごくシンプルにやろうと。別に原点回帰とかそういう意識は一切ないですけど、90年代のそれこそオアシスみたいに、最初から最後までギミック無しでやるのが潔いんじゃないかっていう発想から始まりました。
西川弘剛(以下、西川) でも、そこまでの間でかなり苦労はしてますね。いきなりそんな選択をすることはまずないんで、その選択肢に至るまでに相当苦労してます。
亀井 どうしても、何かやりたくなる性質なんで。でも、何年かに一回とか何曲かに一回くらい、これはストレートにやろうみたいなのが来ますね。
田中 そう、たまにあるよね(笑)。
西川 こんな構成の曲って、多分今までやったことないくらいなんですよ。ここまで単純な構成で、2コーラスで終わりみたいなのって。相当珍しいです。
田中 これをシングルにするんであれば、歌詞に20周年感みたいなものを匂わせたらお客さんも共感してくれるんじゃないかという気持ちもありつつ(笑)。かなり意識して書いたっていう感じですね。