作曲家、蓜島邦明。ドラマ『世にも奇妙な物語』シリーズや、ゲーム『クーロンズゲート』、アニメ『MONSTER』『GUNDAM Mission to the Rise』などの名作奇作の音楽を数多く手がけてきた。近年は『仮面ライダーアマゾンズ』や三宅唱が監督した『呪怨:呪いの家』といった話題作での仕事が知られている。

ホラーやミステリー作品において多くの印象深い名曲を残してきたことから、「怖い音楽」の名手として知られている。しかし、実際の作曲スタイルはまさに変幻自在。荘厳なオーケストラもあれば、エキゾチカやガムラン、アフロ、ミニマル、ノイズ、インダストリアルと多彩だ。

テレビ、映画、アニメといったフィールドで活躍してきた蓜島だが、スターダンサーズ・バレエ団の振付家として知られる鈴木稔とのタッグでバレエ音楽も作っている。そのなかの一作である、2002年にドイツ・ハイルブロン市立劇場から招聘されて上演されたバレエ作品「Degi Meta go-go」が2023年3月2日(木) 、3日(金)に東京芸術劇場で上演される「MISSING LINK」で再演される。激しいノイズ、インダストリアルサウンドが全編に渡って鳴り響くこの異色作を今再び上演する意図とは? そして「MISSING LINK」の第一部として書き下ろされる新作について、話を聞いた。

INTERVIEW:蓜島邦明

奇才作曲家、蓜島邦明インタビュー|「MISSING LINK」で新たな挑戦“作品が生まれる裏側” interview230214_haishima-02

21年前の作品が現代にフィットしていて面白いと思った

──今回の「MISSING LINK」は、第二部が「Degi Meta go-go」の再演、第一部は新たに書き下ろした演目になるとのことですが、「Degi Meta go-go」を再演することになった経緯を教えてもらえますか。

「Degi Meta go-go」は21年前にドイツ・ハイルブロン市立劇場などで上演した作品なんですが、久々に聞いてみたらハイの強いノイジーなサウンドが現代にフィットしていて面白いと思ったんですね。今ならではの解釈でできるんじゃないかということで、鈴木(稔)さんに相談したんです。

──蓜島さんと鈴木さんは最近でも「クーロンズゲート」(※)のライブで共作されていますね。お二人の出会いは?

飯田譲治さん原作のドラマ『NIGHT HEAD』(※)の劇伴を聞いた鈴木さんが、バレエ音楽をやってみないか、と誘ってくれたんです。その後、何度も共作してきたんですが、作風はどんどん過激になっていきましたね。ある時、かなりインダストリアルなサウンドのプログラムを皇室の方がご覧になったことがあって、冷や汗をかいたこともありました(笑)。

あの頃はインダストリアルな音を劇伴に使うことはほとんどなかったんです。最近でこそハリウッド映画ですら当たり前になったけれど、パーカッションやリズム主体のサウンドを映画に使うことは、欧米でも少なかったと思う。

──メジャーな世界でのお仕事が多いので、理解を得るのが大変な場面もありそうですね。

昔、『世にも奇妙な物語』でそういうサウンドの曲を納品したら全部ボツになっちゃったことがありました(笑)。当時は打撃のシーンですらメロディーの曲をつけてほしいと言われることが多くて。そうすると音が厚くなってしまって映像と合わないんですよね。

でも、最近やった三宅唱監督の『呪怨:呪いの家』はとてもおもしろい仕事だった。あの作品では基本的に3つの音しか使ってないんです。プロデューサーが一瀬(隆重)さんだから、音の使い方をよくわかっている。逆に余計なものは一切求めない。だからすごく映像が見えてくる。おばけより人間の怖さを表現する作品なんですが、音の使い方もすごく効果的だった。三宅監督はすごいですね。

※『クーロンズゲート』:伝説のカルトゲームとして人気を誇る1997年に発売されたプレイステーション用ソフト。ライブイベント<クーロンズ・ゲートコンサート2016 九龍夜奏繪>にて鈴木稔がバレエ演出を担当した。

※NIGHT HEAD:フジテレビ系で1992年10月9日から1993年3月19日まで放送されたSF特撮テレビドラマ。豊川悦司や武田真治らが出演。

『呪怨:呪いの家』予告編 – Netflix

──「Degi Meta go-go」は特にインダストリアルミュージックに振り切った音楽になっているわけですが、どうやって作曲や録音をしていったのか憶えていらっしゃいますか?

正直、あんまり憶えてないんだよね(笑)。僕の作曲は、使う機材に左右されるんですよ。機材の音を聞いてそれがインスピレーションになる。「Degi Meta go-go」みたいなインダストリアルっぽいサウンドで初めて作曲したのが『NIGHT HEAD』だった。アフリカのリズムにノイズ的な音を乗せていくようなスタイルですね。

──欧米以外の音楽を取り入れているものも多いですね。

『南海奇皇(ネオランガ)』のときはとにかくガムランをやってみたくてトライしたわけだけど、それを聴いた大友(克洋)さんが面白がってくれて、『スプリガン』をやりなよといってくれた。それが大友ガンダム(『GUNDAM Mission to the Rise』)での仕事につながっていくわけです。『童夢』の実写版もやるはずで、大掛かりなロケも参加していたんですが、結局作品にはなりませんでしたね。(※)

※パイロットフィルムの製作のみで上映はなかった

奇才作曲家、蓜島邦明インタビュー|「MISSING LINK」で新たな挑戦“作品が生まれる裏側” interview230214_haishima-08
奇才作曲家、蓜島邦明インタビュー|「MISSING LINK」で新たな挑戦“作品が生まれる裏側” interview230214_haishima-09

却下された後、初めて「ソウル」というオファーをもらった

──なるほど。「MISSING LINK」の第一部では書き下ろしの曲が使われるということですが、こちらはどんな内容になるのでしょうか?

実はソウルミュージックなんですよ。生バンドの演奏を一部使って、1970-80年代あたりのソウル、ディスコサウンドです。

──予想外の内容で驚きました。蓜島さんがソウルミュージックを作曲するのは初めてですよね?

もちろん。鈴木さんがやりたいと言ったから、劇伴の作曲家としてはそれに応えないといけませんから(笑)。最初は鈴木さんから「一人の人間の人生」というテーマをもらったんです。だから、僕のなかで宇宙からやってきた人が地球の自然の中で生まれて、成長して都会に出ていく、という設定を考えて作ってみたんですね。大コーラス編成で作ってみたんだけど、それを聴かせたら却下されて(笑)。そこで初めてソウルをやってくださいというオファーをもらったんです。

──蓜島さんご自身はそういったジャンルに触れてきたのでしょうか。

ディスコに遊びに行ったりはしていなかったけれど、いざ作ってみると頭のなかからソウルやディスコの王道フレーズだとか、聴き馴染みのあるサウンドが結構出てきて。面白いなと思いながら作っていたんだけど、こういうジャンルってやっぱり一曲が3分で終わっちゃうんですよね。心持ち的に。なので今回は短い曲が組み合わさった構成になってます。

──ダンサブルなサウンドなんでしょうか?

イントロダクションは静かでコズミックな感じで始まって、次第にダンスビートになっていきます。オーソドックスなソウルやディスコのフォーマットに沿いつつ、変拍子の部分があったり、素直に踊れるものばかりではないかもしれません。そういうひっかかりは面白さを出すために意識して作っていますね。とはいえ、とてもわかりやすい音楽だと思いますし、そこが重要だと思っています。砕けた感じのシンプルで楽しいものとしてバレエを表現する作品になると思います。

──蓜島さんにとってのわかりやすさとはどういうものなのでしょうか。

この間、フジコ・ヘミングさんに会いに行ったんですよ。神奈川県民ホールのコンサートに呼ばれて。フジコさんは今90歳なんですが、今の演奏はすごくシンプルなものに変わっているんですね。終演後にお話させてもらったら、昔は自分流の弾き方にこだわっていたけれど、今は古典的でシンプルな弾き方がしたいんだと。強い弾き方が特徴の人だったけど、今はすごく柔らかいんです。選曲もみんなが知っている曲を選んでいて、すべての人たちが音楽を楽しめるように作られている、愛があるのです。

万人にピアノの良さを伝えるという境地でやっているんだなと、とても勉強になった。音楽は、作っている最中にエゴだとかそういった類の邪念が入ると良くないんです。そんなのはいらなくて、シンプルになることがいかにすごいことか。幼稚とわかりやすさは違うんですね。

──蓜島さんはアニメ『MONSTER』で使われた“Make it Home”でフジコ・ヘミングさんをボーカリストとして起用されていました。

“Make it Home”はフジコさんに歌ってもらいたいということでオファーをしたら、パリに来てくれたらいいわよとおっしゃるので、4日後にパリに飛んだんです。すごく良い歌が録れましたね。

──蓜島さんの作品はインストゥルメンタルが大半だと思いますが、“Make it Home”やデイヴィッド・シルヴィアン(David Sylvian)が歌った“For The Love Of Life”といったボーカル曲もありますね。今回の「MISSING LINK」では歌は入るのでしょうか。

ソウルミュージックのパートは入りますよ。声を作るのが一番苦労しました。生歌を録音するのではなくて、エミュレーターのなかにあるサンプルから、これだ! という音声を見つける。そうすると曲ができるんです。作曲において、音色に左右される部分は大きいですね。イメージに合う音色をまず見つけないことには曲が作れないんです。イメージに合った音色のフレーズやリズムを集めて重ねていって、最終的な作業はそこからどんどん音を抜いていく引き算の作業です。

──蓜島さんは、彫刻家を目指されていた時期に素材の出す音に魅了されて作曲家に転身したというエピソードが有名ですが、現在でも音のテクスチャーを大事にされているんですね。

そうですね。「MISSING LINK」は客入りから生演奏から始まって、そのまま暗転して開演していくような演出になる予定なんです。始まるまでの時間を気持ちよくお過ごしできるような音楽にできればと。

素材の音っていろいろな印象で捉えることができると思います。例えば列車の連結部分が走行時に軋むときの音ってあるじゃないですか。あれって生き物の叫び声みたいにも聞こえるし、性的な印象の音にも聞こえる。

劇伴の作曲においては、音の組み合わせによって新たなイメージをつくることができる。その音が持っている元々の文脈とは無関係なロケーションの音を映像と組み合わせると、映像自体が違う世界になって面白いんです。音の捉え方を個人個人の感性で考えるようなアプローチが良いんです。聞き手たちを似た場所に連れていくことはあっても、捉え方は限定するようなことはしたくない。アンビエントミュージックが最近盛り上がっているけれど、このジャンルが面白いと思うのは音の捉え方にそういう部分があるからですね。

奇才作曲家、蓜島邦明インタビュー|「MISSING LINK」で新たな挑戦“作品が生まれる裏側” interview230214_haishima-03

音を探していると、
ある瞬間に声が聴こえてくる

──なるほど。蓜島さんは「怖い音の名手」と言われることも多いですが、実はそうではない色々な世界観の作品もたくさん作ってきています。ホラー作品の劇伴も、いわゆるおどろおどろしい音というものではなく、もっと根源的な恐怖感に触れてくる音で、まさに素材となる音の響かせ方によってなせる技がそこにはあるように思います。

おどろおどろしい怖さっていうのは譜面上で表現できるものですよね。それではつまらない。もっと音や音色を切り詰めていくと、すごいことになるんですよ。今ってソフトシンセを使うと、これまでは出なかった領域の高周波まで出せるんだけど、しっくりくる音を探していると、ある瞬間に声が聴こえてきちゃうの。

──声ですか?

そう、本当に。これはやばい、危ないっていう音域に当たる。音も電波だから、どんどん周波数を上げていくと、ある瞬間になにかと同調して声が聞こえてきちゃう。嘘みたいだけど、本当にあるんですよ。アナログシンセでは届かない高周波にそういう世界があるんですよ。

──理屈を超えた「怖い音」ですね。

結局、気配なんだよね。気配を作るってことなんだよ。気配を感じるって怖いでしょ。それを匂わす音って、譜面では表せられないものを含んだ音だったりするんです。でも、今は現実世界が怖いものになってしまったから、そういう根源的な恐怖を表現するホラー作品って生まれにくくなったかもね。僕はホラー映画では『エイリアン』とか『シャイニング』、『アザーズ』みたいな作品が一番怖いと思う。気配というものを本当に上手く表現している。

──蓜島さんが一番好きなサウンドトラック作品を教えてもらいたいのですが。

(フェデリコ・)フェリーニの『カサノバ』とか『8 1/2』(※)はすごく好きで。特に「カサノバ」の音楽はすごく影響された。これはすごいと思ったよ。

※『カサノバ』、『8 1/2』をはじめ、多くのフェリーニ作品の音楽はイタリアのクラシック作曲家 ニーノ・ロータ(Nino Rota)が担当した

──蓜島さんがSpotifyで公開していたプレイリストでは、クシシュトフ・ペンデレツキ(Krzysztof Penderecki)やリゲティ・ジェルジュ(György Ligeti)を選曲されていました。

ペンデレツキは自分の感性にとても合ってると思っていて。ホラーにも合ってると思ってるんだよね。でも、普段家で聴くわけじゃないよ。ペンデレツキが食事中にかかっていたら嫌でしょ(笑)。普段よく聴くのはマーティン・デニー(Martin Denny)とかラテン音楽とか。マーティン・デニーのレコードはほとんど持っていて大好きなんだよ。ジャケットデザインもすばらしい。

──マーティン・デニーの音楽はまさにイメージの世界の音楽ですね。

そう。結局、あれも本当の土着音楽ではなくて、白人が想像して作ったイメージの音楽。この間、ジョン・ウィリアムス(John Williams)のコンサートをBSで見たのですが、それは彼の映画音楽以外の曲をやるというプログラムで。正直に言って、あまり楽しめなかった。やはり彼は映像作家なんだなと。映像があってこそ彼の才能は活かされるんだと。それは僕もそうだから。同じだと思って安心しました。そういうお題がないなかで作る曲っていうのは、要素を詰め込みすぎてしまうんだよね。

──最後に、「MISSING LINK」を観にくるお客さんにメッセージをいただけますか。

鈴木さんのバレエ作品の劇伴をやるのは10年ぶりです。コンテンポラリーの要素もあるけれど、決して小難しい演目ではないから気楽にきてほしいですね。あと、ストリートのダンサーの人たちが観たら面白いかもしれない。ソウルミュージックだし、バレエダンサーの技術のすごさを知る良い機会になるんじゃないかな。第一部は心地良いダンスミュージック。第二部は完全にコンテポラリーで激しいインダストリアルミュージック。ダンサーにとってはとても疲れる内容の演目だと思いますが(笑)、わかりやすい、楽しい作品になると思います。ぜひ多くの人に見てほしいです。

奇才作曲家、蓜島邦明インタビュー|「MISSING LINK」で新たな挑戦“作品が生まれる裏側” interview230214_haishima-05

PROFILE

蓜島邦明

HPFacebook

INFORMATION

奇才作曲家、蓜島邦明インタビュー|「MISSING LINK」で新たな挑戦“作品が生まれる裏側” interview230214_haishima-07

スターダンサーズ・バレエ団公演<MISSING LINK>

2023.03.02(木) START:19:00
2023.03.03(金) START:18:30
東京芸術劇場 プレイハウス(東京/池袋)
演奏(第1部):蓜島邦明、高木和弘(バイオリン)
チケット料金(全席指定・税込):S席 ¥8,000(SDBフレンズ会員価格 ¥7,000)/A席 ¥5,000/B席 ¥3,000/学生席(座席指定不可) ¥2,000
※未就学のお子様のご入場はご遠慮ください。

詳細はこちら