HARLEY-DAVIDSON®とGraphersRockのコラボレーションプロジェクト<SEEK for FREEDOM>が、<RE_SEEK for FREEDOM>として新たに始動。昨年は、GraphersRock/岩屋 民穂氏が独自の世界観から生み出したオリジナルデザインのIron 1200™を披露。世代や性別、さらにカルチャーの壁を越えて大注目を集めた。
2020年もまた岩屋氏とタッグを結成。今回は『ストリートロッド(XG750A Street Rod®)』のデザインに挑み、なおかつ台数限定で販売するという仕掛けを用意した。
その新プロジェクト名に冠された“RE”が意味するのは、Reply(リプライ)=返答。果たして<RE_SEEK for FREEDOM>は、1年前のプロジェクトに対してどんな返答を発信しようとするのか? アートディレクターの岩屋氏本人にその真意をたずねた。
昨年のプロジェクトで若い世代に何かしらリーチすることができた
──まずお聞きしたいのは、ハーレーのオリジナルデザイン・プロジェクトを今回も担当する感想です。率直にどんな気分ですか?
世界的なブランドから2年連続でオファーをもらえるというのは、かなり珍しく、それだけに非常に光栄なことだと感じています。自分なりにその理由を推察してみると、前回の<SEEK for FREEDOM>の目的の一つだった、ハーレーとの縁が薄かった若い世代、つまり僕のデザインが届いていると思われる層に向けて、何かしらリーチすることができたからだろうと、そんなふうに考えています。とは言え非常に高価なプロダクトですから、昨年のアイアン1200を見てすぐにハーレーを購入するというのは稀かもしれません。ただ、彼らの中にハーレーの記憶が宿り、「いつかは!」という思いが刻まれたのであれば、プロモーションとしても成功ですよね。加えて、オリジナルデザインのハーレーをつくるだけでなく、僕と親交が深いゲストを招いていただいたお披露目イベントも企画され、総合的にハーレーの新しい表情が発信できたことも、このプロジェクトが再始動した原動力になったんじゃないでしょうか。
──昨年のプロジェクトを経て、岩屋さんにはどんな影響がありましたか?
昨年の<SEEK for FREEDOM>お披露目イベントが終わった後、同世代の知り合いがハーレーを購入しました。あれはうれしかったなあ。それ以外だと、こうしてまた今年もお声がけいただいたのが最大の影響と言えるかもしれません。困った、というわけではありませんが、PUMAに続いてハーレーというビッグネームの仕事が連続したことで、変に巨匠っぽく見られるようになってしまいました。新しい仕事のオファーも、間接的に探りを入れるような形で入ったりして……。僕自身は特に変わっていないので、できればこれまで通りシンプルに、むしろ雑に扱ってほしいと、この場を借りてお願いします(笑)
自分が手掛けた製品が誰かの一部になる価値
──今回のプロジェクト名には「RE」がつきました。返答を意味するReplyですが、その意味について教えてください。
ハーレーをデザインしてお披露目するというのが昨年のプロジェクトの流れでしたが、それですべてが終わった感じにはなれませんでした。なぜそんな消化不良のような気分が込み上げたかというと、流通するプロダクトモデルにはできなかったからです。計画の当初では製品化の話も出ました。しかしその時は世界に1台のコンセプトモデルの完成を目指すことになった。もちろん異論はありませんでした。デザイナーとしてあれほど特異なデザインを許してもらえる機会は滅多にあるものじゃないですし。けれど、マスプロダクトに落とし込めなかったことが個人的に気がかりだったのは事実です。
──製品化にこだわるのはなぜですか?
Text:田村 十七男
Photos:Masato Yokoyama