ライフスタイルブランド・koeが渋谷・宇田川町で展開する、“stay, art, fashion, food & music for new culture”と掲げ、さまざまなコンテンツが楽しめる複合型ホテル・hotel koe tokyoの2周年イベントが、2月7日(金)~2月9日(日)に渡って開催された。これまで1階のベーカリーレストラン/イベントスペースを使って、週末を中心に多彩なイベントを開催してきた同所だが、今回は“new culture fes”と題し、2階のショップも使っての2フロア仕様に。地域のクラブやライブハウスで活躍するアーティストやDJ、トップチャートにも顔を出すアクトまで網羅した豊富なラインナップだけでなく、限定メニューの提供やアート作品の展示、フロアを歩きながら読めるオブジェのようなマガジン『月刊koe』のローンチなど、いつにも増してその魅力が堪能できる3日間となった。そこで、今回はイベントを仕掛る中心人物でもあり、“音”からkoeの魅力を伝える音楽イベントプロデューサー・runpeにインタビューを行った。
Interview:runpe
──2年前にhotel koe tokyoがスタートしたときのイメージを、runpeさんが担当する“音楽”の視点から話していただけますか?
渋谷の真ん中、公園通りとオルガン坂が交わる十字路に面したロケーションが象徴するように、“クロスオーバー”という言葉がもっとも大きなポイントになっています。渋谷を作ってきた人たち、今の渋谷を牽引する人たち、そしてこれからの渋谷を担う人たちをボーダレスにブッキングすることでオリジナリティを打ち出して、遊びに来てくださるみなさんに、新たな人や音楽、カルチャーとの出会いを提供したかったんです。
──そして毎週末を中心にイベントを手掛けられて2年が経ちましたが、振り返られてどんな感触をお持ちですか?
最初は、僕やほかにもいるキュレーターが、シンプルにおもしろいと思うことをどんどんやっていこうって、そう話してました。でも、これだけ目立つ場所にありながらも、週末にイベントを開催していることがすぐに根付いたかというと、そうではなくて……。
──立ち上げた頃から、たくさんのお客さんで賑わっているイメージはありましたが、まだまだだったということですか?
それは出演してくれたアーティストやDJの自力に頼っていたというか、僕らが仕掛けていることが認知されていたわけではなかったように思います。なので、オリジナルな“クロスオーバー”というよりは、既に認知されているDJやパーティを運営している人たちにお願いしたり、活動範囲やバックグランド、世代が近い人たちをまとめてブッキングしたりするほうが、お客さんが集まったんです。それから1年が経ち、最初の周年を盛大にできて、地道にやってきたことにいい変化を感じるようになりました。
──確かに、2年目に入って“koeっぽい”みたいなイメージが定着してきたように思います。
そうですね。田中知之(FPM)さんとtofubeatsの2マンをやったことがあるんですけど、わかりやすい例なんじゃないかと。クラブカルチャーを創成期から知る田中さんと、まさに今を創造するtofubeats、二人のDJ/プロデューサーの感覚やスキルがいい感じで混ざって、どちらを目当てに来たお客さんにも刺激になったように感じましたし、“なんか今日のkoeおもしろそう”みたいなノリで来てくださったお客さんや、通りすがりの人たちもすごく楽しんでくださったんで、嬉しかったですね。
[DAY1] hotel koe tokyo 2nd anniversary special week “new culture fes”
──世代を跨いだアーティストのパワーと、koeというベニューの魅力がクロスしたんですね。
おしゃってくれたような“koeっぽさ”みたいなブランド力が付いてきて、出演者の力と交わることで生まれる、ここでしか起こらない瞬間が1年目より明らかに多く見られるようになったと思います。なので、3年目はこれからの渋谷を作っていくアーティストやDJを、koeから生んでいきたくて。その新たな一歩としてまずは<NEXT UP>というイベントを立ち上げました。初回は2月13日にZIN、ASOBOISM、ZIW、FKDのライブと、DJにTOSHIKI HAYASHI(%C)とji2kiaに出てもらって、おかげさまですごくいい感じでしたね。3月はKick a Show、RUNG HYANG、西恵利香、ニューリー、Sam Is Ohmとseaでやる予定で告知も出したんですけど、コロナウイルスの影響で延期になってしまい……。また同じメンバーでできるように調整する予定です。
──その“ブランド力”や私が感じている“koeっぽさ”を言葉で説明すると、どうなりますか?
僕はもともと音楽とファッションが好きで、最初はライブハウスやレコード店で働いていたんです。そのあとセレクトショップに入って、ファッションを軸に、音楽や映画、民藝などの文化を扱う仕事を経て独立して今に至ります。koeもファッションが中心にある“ライフスタイルブランド”ですから、感覚的には今までにやってきたことと近い部分はあります。なんとなくでもはっきりとでも、あるじゃないですか。ショップやブランドごとに、背景にある音楽の色って。
──はい。そこで言うと、koeは特定の音楽ジャンルを可視化したようなファションとは違って、ニュアンス的な部分が大きいですよね。
ちょっと大雑把でありがちな言い方にはなりますけど、“ごった煮”とか“ボーダレス”とか、そういう感じですね。例えば、これも大雑把ですけどレゲエとラスタとか、ヒップホップやパンクもしかり、ルーツを掘り下げて、アイデンティティやバックグランドを服でも表現する人たちって、たくさんいますよね。すごく深くてカッコいいし、僕もレゲエがルーツにあって、いろんなジャンルの芯を持った人たちへの憧れが原点にあります。その一方で、今はファッションや音楽、ほかにもいろんなカルチャーに、もっとカジュアルに接する多趣味な人たちも、すごく魅力的になってきてるように感じてるんです。“深い”に対して“浅い”みたいな構造では割り切れないというか。koeに関しては、後者における新たなスタンダードを築きたいと思っていますね。
──そういう感覚をチームで共有することは、簡単なことじゃないですよね。
いえ、そんなことないですね。僕以外のイベント制作メンバーも、ジャズだったりロックだったり、自身もDJをしているメンバーもいますし、それぞれにはっきりと特化した背景を持ちながら、ここまでに話した“クロスオーバー”にもすごく積極的。だから僕が全体的にでもイベント単位でも、指針みたいなものを示せば細かいことを言わなくても理解してくれます。そして、koeに籍を置く、飲食やファッション、それぞれのエキスパートの感性やアドバイスももちろん入ってきますから、既にその段階でかなりおもしろいミックスが生まれてるんです。
──なるほど。出自の異なる人たちの化学反応こそがkoeだと。
あと“koeらしさ”についてもう少し補足するなら、クラブって特定のジャンルに秀でたパーティや、それらがクロスオーバーしたパーティもたくさんあると思うんですけど、僕のイメージとしては“エッジィ”とか“最先端”。僕らはそういう場所で吸収したことを、hotel koe tokyoの魅力を踏まえて体現しているんです。それは、いわゆる“シティ・ポップ”という音楽の文脈と重なる部分もあれば、また異なる部分もあります。食、ファッション、ステイ、さまざまなコンテンツを複合的に体験できる場所だからこその“シティ感”ですね。そこは実際にイベントの現場を体験していただければ、伝わるんじゃないかと思います。
[DAY2] hotel koe tokyo 2nd anniversary special week “new culture fes”
──そのうえでの2周年イベントをやってみてどうでしたか? 今回はふだんイベントを開催している1階だけではなく、2階のショップにステージを設けての2フロアでの展開でしたが。
ぶっちゃけ大変でしたね(笑)。でもやった甲斐があったと思います。これまでのkoeを支えてきてくれた演者のみなさん、これからのkoeに協力してもらいたい人たちを、メンバーそれぞれが挙げた時に、とてもじゃないけど1フロアじゃ足りないくらいのラインナップになって、だったらできる限りの人たちに出てもらおうと、3日間の開催にして、うち2月8日(土)と9日(日)の2日間は、時間も広くとって2フロアにしました。それでもぜんぜん足りなかったんですけど、ありがたい悩みですよね。だから、koeにはまらない人なんて1人もいない。いかに楽しくパフォーマンスしてもらうか、そしてなによりお客さんに楽しんでもらうか、そこは僕らのタイムテーブルの組み方や空間の見せ方にかかってました。もっとできたんじゃないかとか反省点はありつつも、想定する最高の結果は出せたと思います。
──ここから3年目に突入するにあたってのビジョンを聞かせてください。
次の段階として、イベントそのものをビジネスとして成立させたいんです。今まではkoeの広告塔というか、そういう意味合いで入場無料だったんですけど、3年目に入って、自社主催のイベントに関しては、エントランスでファーストドリンク代として1000円をいただくことにしました。あとは通常のメニュー価格で食べ物も飲み物も楽しんでもらえたら嬉しいですね。
──イベントは入場無料にしたからといって人が集まるわけではないことも、無料だから来てくれる人がいることも、どちらも身に染みていると思うんです。そこで1000円を払ってもらうことに踏み切ったのはなぜですか?
がっつり入場料をいただくわけではないですし、ホテルのゲストはもちろん、2階のショップで買い物だけをしたい人は払わなくてもいい導線を確保しています。そのなかで、イベントを楽しみたくて来た人には“チャージを払ってもらう”という工程を設けることで、音楽の占める割合が高まると思いますし、僕らもそれに見合った企画/運営をしなきゃいけない。少しでもイベントと直結する利益を発生させることは、イコールお客さんとの信頼関係を深めたいという気持ちからなんです。お互いが今まで以上によりリスペクトし合える次元で、いろんなことをやっていけたらと思っています。
[DAY3] hotel koe tokyo 2nd anniversary special week “new culture fes”
今や渋谷の新たなランドマークとしても機能する「hotel koe tokyo」。3年目はどんな楽しいことが待っているのだろうか。また、同所は昨年末より、離れた場所からもその魅力を味わってもらえるようにSpotifyの公式プレイリストを展開している。基本的にこれまでに出演したアーティストが月替わりでセレクターを務めているが、今回はrunpeとイベントを制作するキュレーターのなかから、Yoshijiro SakuraiとTAISHI IWAMIが担当。それぞれのルーツが垣間見える、“hotel koe tokyoがより楽しくなる”リストとなっているので、以下よりぜひチェックしてもらいたい。