昨年、およそ4年ぶりの4thアルバム『Beyondless』をリリースした、デンマークはコペンハーゲンを代表するロック・バンドICEAGEが1年ぶりに来日を果たし、東京・渋谷のWWWにて一夜限りの公演を行った。

2011年のデビュー以来、アルバムを作るたびに音楽的な進化を遂げてきた彼ら。スカイ・フェレイラも参加し話題となった『Beyondless』では、ホーン・セクションなども大々的に導入するなど、もはやパンク〜ハードコアのカテゴリーでは語りつくせない音楽的な広がりを見せていた。今回の来日公演でも、新メンバーを迎えたより厚みのあるアンサンブルを展開し、かけつけたオーディエンスを魅了していた。

今年で結成11年目に突入したICEAGE。今回のインタビューでは、ティーンエイジャーだった当時を改めて振り返ってもらいながら、これまで彼らがしてきた「重大な決断」や、デンマークと日本の国民性の違い、読書家であるエリアス・ベンダー・ロネンフェルト(Vo、Gt)が最近読んで感銘を受けた作品のことなど、さまざまなトピックについてざっくばらんに語り合ってもらった。

Interview:ICEAGE

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──最初にお聞きしたいのですが、キャスパーさんは正式メンバーなのですか?

キャスパー・フェルナンデス(Gt) うん。去年のクリスマスあたりからバンドに参加してる。バーで話し合っているうちにそういうことになったんだ。

ダン・ジャエール・ニールセン(Dr) 「もう一人ギタリストが欲しい」という話は以前からしていて、だったらキャスパーが適任だとみんな思っていたから、彼をバーに連れ出して酔っ払わせてメンバーに入れた。

キャスパー ほんとはもうロックは辞めてフラメンコ・ギターに転向しようと思っていたんだよね。だけど酒を飲まされ嫌とはされない状態になって、気づいたら日本まで来ていたよ(笑)。

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──よろしくお願いします(笑)。ええと、昨年リリースされた最新作『Beyondless』に関するインタビューは、前回の来日公演の際にやらせてもらっているので、今日は改めてバンド結成当時の話や、皆さんがこれまでにしてきた「重大な決断」についてなどを聞かせてください。

全員 OK。

──キャスパー以外の4人は中学生の頃から「オシャレな不良」として有名で(笑)、音楽を始める前から仲が良かったそうですね。実際どんな少年時代を過ごしたのですか?

ヤコブ・ツィリン・プレス(Ba) 俺とエリアスは幼馴染みで、後の2人は共通の友人がいて一緒に遊びはじめた。

エリアス・ベンダー・ロネンフェルト(Vo、Gt) 若い頃は誰しも自分のアイデンディティを探すのに夢中で、同じような環境や価値観、メンタリティを持った者どうしがくっつくだろ。そんな感じで仲良くなっていったんだ。ダンはドラムが叩けるし、ヨハンはギターが弾けるし、俺は歌うのが好きだったということもあって、ごく自然な流れでバンドを組んでいたね。しかもヤコブの親は神父だから、教会の地下にある部屋を自由に使えることができた、当然のようにそこがリハーサルスタジオ兼、溜まり場となっていったわけ。

ダン 楽しくて続けていたら、いつの間にかオリジナル曲まで出来ていたというね。

──オリジナル曲を作り始めたのは、当時のフラストレーションを解消するためでもあった?

ヤコブ その質問について、今なら素直に「イエス」と答えられるけど、当時の自分たちならきっと否定していただろうね(笑)。もともと、あまり演奏能力がなかったからカヴァーすらマトモに出来ず、自分たちで好きなように演奏するためにはオリジナルが必要だったというのも理由の一つだったかな。コペンハーゲンには、俺たちが魅力を感じるバンドも全然いなかったし、「だったら自分たちが聴きたい音楽を自分たちで作るか」というモチベーションがあったことも事実だよ。

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──なるほど。Iceageは結成して今年で11年目に入りましたが、活動を続けていく中で何か「重大な決断」をしなければならない局面はありましたか?

ヤコブ うーん、どうだろう。「人生の選択」って色々あったと思うけど、ほとんどが自然の成り行きというか。「これだ!」みたいな決断をしたことがないし、どれもさほど難しい選択でもなかったし、特にそれで後悔もしていないかな。

ダン そう考えてみると、その時は「重大な決断」だと思っていたことも、実際には大したことなかった場合が多いよね。バンドを続けるためには学校を辞めなきゃならなかったり、次の展開に向けてバンドの方向性を決めなきゃならなかったり色々あったけど、どれも先のことを見据えながら計画的にやってきたわけでもないし。

エリアス 俺とヤコブはファースト・アルバムを出すタイミングで高校を退学したのだけど、それさえも特に難しい決断じゃなかったな。遅かれ早かれ、結局のところ辞めてたような気がするしね。

ヨハン・ウィート(Gt、Ch) うん、俺も特にこれといって思い浮かばないな。

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キャスパー 僕はこのバンドに加入することが、最近では最も大きな決断だったかな。そのおかげで今こうして日本でインタビューされたりしてるんだからね、数ヶ月前には想像もしてなかったことだよ。

──日本では、人と違う生き方をするのにとても勇気が必要だったり、足並みを揃えない人に対する同調圧力がとても強かったりします。高校を途中で辞めて、ミュージシャンとして生きていくことへの不安などはありませんでしたか?

ヤコブ デンマークは福祉がとてもしっかりしているから、そういう点では日本と少し違うのかもしれないね。もし俺が今から学校に戻りたいと思えば、いつでも戻って学び直すことが出来る。なので、日本人ほどストレスや不安を感じずにいられるというか。

エリアス それでも俺は、チャンスがあるなら掴みにいけと日本のみんなに言いたいけどね。夢を追求するのにタイミングってすごく大事だし、色々やってみた方が、きっと後悔のない人生を歩めると思う。日本でだって、学校にはいつでも戻れるわけだしね。

──エリアスは読書家で、様々な本から楽曲のインスピレーションを得ているそうですね。最近はどんな本を読みました?

エリアス サム・シェパードが書いた『A Lie Of The Mind』という戯曲はすごく面白かったな。恋人を殺してしまったと信じ込んでいる男の話で、実際には彼女を暴行で脳死させていて、それに対してお互いがどう折り合いをつけていくのか? という。かなり悲しくて難解なラブストーリーなんだ。

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──そういう本はいつも、どんな基準で選んでいるのですか?

エリアス その本は親父から譲り受けた。誰かに薦められて読み始めることもあれば、本屋に足を運んで面白そうな音を適当に選ぶこともある。音楽と一緒だよ(笑)。

──そういうインスピレーション元みたいなものは、他のメンバーのみなさんにもありますか?

ヤコブ それこそ音楽でも映画でも、見聞きした全てのものから無意識に影響されていると思うよ。

ダン 様々な体験や思考、インプットしてきた情報が、「自分」というタンクの中でいっぱいになって、そこから溢れ出たものがクリエイティブな創造物になっているのだと思う。あらゆることから影響を受けているから、「これとこれとこれ」みたいに3つ選んで並べることはとても出来ないよ(笑)。

しかも、俺たちがこれまで生きてきた人生に加えて、100年くらいある音楽の歴史というか積み重ねがあった上での「影響」だからね。そこはすごく抽象的な部分だし、自分でもあえて分析してみようとは思わない。謎めいたままでいいんじゃないかな。ただ、実際にアウトプットされたものを検証してみると、「あ、これってあの曲からの影響が反映されているな」と感じることはあるよね。

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──以前のインタビューでエリアスに、デンマークが常に「世界の幸福度ランキング」で上位なのは何故かと尋ねたところ、「世界で一番プロザック(抗うつ剤)を飲んでいる国だからだ」と返ってきたのがずっと印象に残っているんですよ(笑)。もちろん、ブラックジョークなのは分かっているのですが。

エリアス うん、その時のことは俺も覚えてる。もちろん君の言うように、あれはブラックジョークだったし、事態はもっと複雑だ。

少なくとも、デンマークが世界で最も幸福な国の一つだとは思ってないな。「幸福度ランキング」の調査がどのように実施されたのか分からないけど、きっとデンマーク人の穏やかな国民性からして、「幸せかって? まあ、そうだね」みたいな答え方をみんなすると思う。これが南米のような、ものすごく情熱的な国々だと「めちゃめちゃ幸せだよ!」か、「とんでもない国だ!」のどちらかに振り切ってしまうんじゃないかな(笑)。

ダン 実際、デンマークには難民もいるし貧困層も存在していて、そういうところにまで調査が行き渡っているのか疑問だよね。

──なぜ今回、再びこのことを尋ねたのかというと、日本では「北欧はいい国」「見習うべきは北欧」という意見がとても多く、社会制度も人口も全く違う国を単純に比較できるのだろうか? とずっと違和感を抱いていたからなのです。

エリアス 日本の労働者が働き過ぎだという話はよく聞くけど、他の国を見習う必要なんて全然ないと思うよ。その国にはその国での幸せの見つけ方があるわけだし、幸せかどうかは他人と比較して決めることではないんじゃないかな。

ダン 日本人が北欧を羨ましがったり、見習うべきだと思ったりするのと同じように、僕らからすれば東欧のシンプルな生き方や考え方が羨ましかったり、見習うべきじゃないかと思ったりするからね(笑)。「隣の芝生は青い」っていうだろ?

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Text by 黒田隆憲
Photo by 小林光大

Beyondless

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Release

2018.05.04(Now On Sale)

TRACKLISTING

1. Hurrah
2. Pain Killer
3. Under the sun
4. The day the music dies
5. Plead the fifth
6. Catch it
7. Thieves like us
8. Take it all
9. Showtime
10. Beyondless

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