「HIPHOPってどんなイメージ?」と街行く人たちに聞いた場合、今はどんな答えが返ってくるのだろう? 一定層でいわゆる“悪そう”とか“ブリブリ”なイメージを持つ人たちはいるだろうし、実際にそのイメージを体現するアーティストがHIPHOPのベースであり魅力となっていることは事実。ただし、HIPHOPはそれのみでくくれるほど単純な音楽ではない。このジャンルの中でもさまざまなスタイルが存在し、とりわけ近年、日本のリスナーに共感を得ているのが“Chill”なHIPHOPだ。
2016年に始動した〈Chilly Source〉はそれを体現するクルーであり、ライフスタイルレーベルだ。ただのレーベルではなく、“ライフスタイル”レーベル。彼らの活動はChillで気持ち良い音楽をテーマに、楽曲制作はもちろんラジオ配信、アパレル制作、空間プロデュース、イベントの開催と多岐にわたる。そしてそれを支えるのが、アーティスト、DJ、ビデオグラファー、デザイナーなど約30名からなるクリエイターチームだ。
そして〈Chilly Source〉の中心メンバーであり、昨年のKOJOEのアルバム『here』へのビート提供などでも注目を浴びるillmoreが、11月7日(水)に1stアルバム『ivy』をリリース。同レーベルの15MUS、そしてKOJOE、BUPPON、BASIといった“西のパイセン”、さらにCHICO CARLITOやSHOHEY(from THREE 1989)、おかもとえみなど、ここ数年でillmoreが培った繋がりから幅広いアーティストが参加している。
今回は、illmoreと〈Chilly Source〉の代表であるDJ KROのふたりに『ivy』誕生秘話、そして〈Chilly Source〉が目指すものについてたっぷり話を伺った。
Interview:illmore×DJ KRO
Chilly Sourceはそれぞれのチルなものを
表現する集団であってほしい(DJ KRO)
——まず、illmoreさんが〈Chilly Source〉に所属するきっかけから伺いたいのですが。
illmore まず僕は大分出身で大分の大学に行ってたんですけど、KROさんはその大学の先輩なんです。そこで知り合って、最初はKROさんがやっていた〈ICE BOXXX〉っていうイベントでDJをやってたんですけど、1年ぐらいしたらKROさんは卒業していなくなって。僕はそこからいろいろなことを経てビートメイクするようになり、大学を卒業してからもKROさんとはちょいちょい会ってて、「何か面白いことできたらいいね」とか話してたんです。
DJ KRO 僕は東京、illmoreは大分だったので、お互い離れて活動してたんですよ。そのころ、illmoreが毎日ビートを上げてるのをFacebookで見て。僕は東京でDJをやってたんですけど、そこでもなかなか芽が出なくて、たぶんお互いもがいていた時期だったんです。そこから「じゃあいっしょにやってみよう」って始めたのが、ブレイクスルーレコーズ。
illmore 前身があったんです。僕とKROさん、あとChilly Source RadioのパーソナリティをやってるYASでブレイクスルーレコーズというのを始めたんですが、1年間、何もせずみたいな。
DJ KRO やっててあんま意味ないなってなっちゃって。うまくいかなかったけど、それでもまた何かやりたいと思って、僕は東京、illmoreは大分で仲間を見つけて、“地域を離れても一緒にやっていく”っていうので始まったのがChilly Sourceです。
——HPを拝見したところ、実際にChilly Sourceが動き出したのは2016年7月。そのころのメンバーは誰だったんですか?
DJ KRO 僕とAKITOとillmore、YAS、SAMRAIT……あと今はいなくなっちゃった人もいて、全部で8人ぐらいですね。
illmore 僕はそのころ、まだ東京の人たちのことを知らなくて。逆に大分にはケンチンミンっていうラッパーがいて、僕もあんまクラブに行くタイプじゃなかったんですけど、そいつは僕がこそこそビートを作ってたのを気にかけてくれていて。僕はそのケンチンミンと、いとこのKureinoっていうアーティストを連れてChilly Sourceに合流しました。
DJ KRO そうだね、東京はほぼDJだった。まず活動の軸として、「ラジオMIXを1週間に1回上げていこう」っていうのがあって。そうすれば活動が止まることはないっていうので、DJが多かったんです。逆にビートメーカーやラッパーは大分勢が多かった。
——illmoreさんが最初にChilly Sourceの話を聞いたときはどんな印象でしたか?
illmore ビートメイクをひとりでやるのは限界あると感じてたし、しかも大分だとホントに仲間が少なかったので、そういう面ではみんなで動いた方が広めやすいと思ったし、純粋に楽しそうだなと思いました。あまり先のことは考えてなかったですね。
——Chilly Sourceのコンセプトも、illmoreさん的にしっくりきましたか?
illmore そうですね。メンバーの遊び方も朝までパーティーハードして、飲みまくって、潰れて……とかでは無いので。ヒップホップみんな好きなんだけど、いわゆるヒップホップ、ちょっと怖いみたいな感じじゃない。自分のスタイル的にも合ってるし、居心地はいいですね。
DJ KRO Chilly Sourceは名前の通りチルの源(=Source)なんですけど、それぞれのチルなものを表現する集団でいたいなと思っていて。みんなチルに対する考え方は少しずつ違うんですけど、基本的に「パーティーハードじゃないよ」っていうことだけは共通してる。
illmore 時にはパーティーハードもするんだけど、いつもそれではないって感じです。
illmore – Chilly Source
OLIVEさんとKOJOEさんがいなかったら、
僕はビートメイクしてなかった(illmore)
——illmoreさんはChilly Sourceとしてラジオやイベントなど多岐に活動しながら、昨年はKOJOEさんのアルバム『here』へのビート提供などを経て、11月7日に待望の1stアルバム『ivy』がリリースされます。制作はいつからスタートしましたか?
illmore 明確にはわからないんですけど、2年前ぐらいからアルバムは出したいと思っていて。最初の1曲目ができたのは去年の12月とかです。
——2015、16年とかは〈BEAT GRAND PRIX〉(ビートメイクの大会)に精力的に出ていたときなので、そのあとぐらいから実際に制作はスタートしたのかなと思いました。
illmore そうですね、確かに。いろいろなことがあり過ぎて、最近わからなくなるんですよ。
DJ KRO この2年でめちゃくちゃリリースしたもんね。
illmore 『ivy』に関しては大体1年ぐらいの期間で作った感じですね。
——ビートメイカーの方は溜まっているビートもあるでしょうし、はっきりここから制作期間っていうのは難しいですよね。客演陣は馴染みのメンツと初めましての人、それぞれいるように感じるのですが?
illmore はい。当初は誘うって考えてなかった人もいますね。おかもとえみさんは、たまたま彼女が大分に来ていたときに、僕らがイベントをやっていたので誘ったんですよね。以前に曲を一緒にやる話もあったんですけど流れちゃって、どこかで会いたいなとは思ってたんです。そこで「曲やりたいね」っていう話になったので、ほんと……奇跡のような感じで決まりました。BASIさんは去年に「曲やりたい」って連絡をいただいたんですが、僕がまったく知名度の無い4年前ぐらいのときから連絡してくれていたんです。フリーで出したビートテープとかもBASIさんは聴いてくれていて、その流れで「オファーしていいのかな?」って感じで声をかけてくれました。
——時は来たと言いますか、それはめちゃくちゃ嬉しいですね。
illmore そうですね……嬉しかったです。あとKOJOEさんは元々、〈BEAT GRAND PRIX〉でOLIVE OILさんと繋がったところからで。〈BEAT GRAND PRIX〉の第1回は初戦で負けちゃったんですけど、そのときにOLIVEさんが「ヤバかったから自分を曲げずに頑張ってね」みたいに話しかけてくれて、僕はそれですごく救われたんです。実際に数ヵ月後、Oil WORKSのイベントで福岡に呼んでもらったんですけど、そこにKOJOEさんがいて。たまたまその前に、OLIVEさんからKOJOEさんとの作品のアカペラを投げてもらっていて、そのリミックスをYouTubeに上げていたのをKOJOEさんは聴いてくれていたみたいで、「ああお前か!」みたいなのが出会いです。そこからKOJOEさんがその3ヵ月後に大分に来ることになって、デモを2枚ぐらい渡したら「アルバムを2人で作ろう」って話になって。ワクワクする話をたくさんさせてもらって……ようやく去年『here』っていうアルバムに6曲参加させてもらいました。KOJOEさんは誰よりもお世話になってるし、すごく気にかけてくれる先輩。それに、OLIVEさんとKOJOEさんがいなかったら、僕はビートメイクしてなかったと思います。
——文字通り“人生を変えてくれた”先輩ですね。あと、CHICO CARLITOさんは住んでいる距離的にも元々繋がりがあったんですか?
illmore それも〈BEAT GRAND PRIX〉でSweet WilliamといっしょだったことからPitch Odd Mansionと繋がって、その流れでCHICOとも知り合いました。
——以前にCHICOさんが1stアルバムをリリースしたときにインタビューさせてもらったんですが、そのときからの経緯を踏まえて今回の“Compass”を聴くとグッとくるものがありました。
illmore 僕も曲が届いて「おお……」ってなりましたね。オファーしたときはCHICO的にも悩んでる時期だったみたいで、あの曲で次への葛藤が聴けたし、誘って良かったなと思いました。
——あとこれは苦労したとか、時間をかけたという曲はありますか?
illmore やっぱMVが上がってるSHOHEYくんとの“Parade”ですかね。ビート自体は4年ぐらい前にできていて、KOJOEさんも一度聴いたことがあるんですよ。そのあとも沖縄のラッパーとかも挑戦したことがあったんですけど、いろいろな理由があって形にならなかったビートなんです。「もうこれ出せる機会が無いのかな……」と思っていたときに、SHOHEYくんと福岡のイベントでいっしょになって。ケンチンミンともともと知り合いだったんですけど、そのあとにテラスハウスを見てたら「あれ!?」と思って、「あのビート……SHOHEYくんなら完成させてくれるかも」と思ったんですよね。がっつりR&Bの曲はやったことなかったですし、今回ミックスとかマスタリングも自分でやってるんですけど、自分の中でプレッシャーも感じて。ただ4、5年越しに、自分の想像を超えた曲ができたと思います。
illmore – Parade feat.SHOHEY from THREE1989
“ツタ”(=ivy)のように広がる人脈から
生まれた曲たちでできあがった(illmore)
——『ivy』を制作するにあたって、Chilly Sourceのメンバーに相談はしたんですか?
illmore Chilly Sourceの全員というよりは主にKROさんですね。アルバムに限らず、KROさんには報告して、相談に乗ってもらっています。
DJ KRO みんなが同じ動きをするわけではなく、アルバムとかアーティスト関係は主に僕が中心で動いているので。
illmore 今回はビートアルバムというよりは、ラッパーやシンガーを客演に迎えたアルバム、それも全国展開の1stアルバム……みたいなアバウトな感じで最初は相談してたと思います。
DJ KRO 2018年の最初にChilly Sourceでミーティングをしたときに、「今年はみんな一個アルバムを作ろう」っていう目標を立てたんです。
illmore 『ivy』は最初から「このコンセプトでやろう」って決めていたわけではなく、自分の動きの中で、アルバムのタイトルにもなってる“ツタ”(=ivy)のように広がる人脈で生まれた曲たちでできあがったアルバムです。ただ、音楽的にも人間的にも気の合う人たちと作った曲ばかりなので、アルバムとしての一貫性はあると思います。
——Chilly Sourceはアルバムのジャケットを見てもデザイン性の高さを感じるのですが、本作も洗練されていて、紫のカラーも都会的なChillに合っていますね。
illmore そうですね。それにちょっと闇がある感じもするじゃないですか? illmoreって名前も、めちゃめちゃネガティブなわけではないんですけど、ちょっと病みがちというか。「何にも悩みもなく幸せだな〜」っていうChillじゃないんですよ。
——アルバムに収録されている曲も、それぞれ何かを抱えながらのChillを表現した曲が並んでいる印象でした、特に後半。それは都会に住む人には共感しやすいし、あとChillの瞬間っていろいろあるんだなと、このアルバムを聴いて気づきました。
illmore いろいろありますよね。人それぞれ。
DJ KRO 僕としても“情景”が浮かぶ曲が多かったです。BUPPONさんの曲とかも。
illmore BUPPONさんの曲は、聴いてて泣きたくなるのが多いんですよね。
——BASIさんとの“Drunk”も、恐らくChilly Sourceとのある一夜をリリックにしていて、その場にいないのに情景が浮かびました。
illmore あるイベントでのひとコマを歌ってくれて。
DJ KRO あの曲はすごい嬉しかった。
illmore あのときは朝までベロベロになって。15人ぐらいにテキーラ奢んなきゃいけないのに3000円しかないみたいな。ケンチンミンが「ギャラで……」みたいなこと言って、最低だなって。すごい楽しい一日だったんです。
——Chilly Sourceがこれまでのクラブカルチャーへのカウンター的な要素を持って生まれたのを踏まえても、この曲がこのアルバムのこの位置にあるのがいいなと思って。基本はChillだけど、時には……あるよみたいな感じが。
illmore 確かにそうですね。
DJ KRO それで最後の曲は“Chilly Source”で終わるっていうのがまたいい。
illmore 『ivy』を作ったことで生まれた出会いもあるし、いま新たにやってることもある。このアルバムをきっかけに“ツタ”がさらに広がってほしいなと思います。
RELEASE INFORMATION
ivy
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illmore
TRACK LIST
1.ivy
2.BOYS! feat.サトウユウヤ
3.Bullet Proof feat.KOJOE
4.思い出す feat.おかもとえみ
5.Nonfiction feat.JIVA Nel MONDO & kiki vivi lily
6.怒らないで feat.15MUS
7.Rain feat.18scott
8.Parade feat.SHOHEY from THREE1989
9.Potpourri
10.Infinity feat.BUPPON
11.Still Living feat.MuKuRo
12.Compass feat.CHICO CARLITO
13.Drunk feat.BASI
14.Chilly Source
interview&text by ラスカル(NaNo.works)