渋谷を中心に、DJ BAR BRIDGE、Contact、VISIONなどを経営する
(株)グローバル・ハーツの村田大造がプロデュースした新店舗 DJ BAR HEART
渋谷を代表する大規模クラブ「SOUND MUSEUM VISION(以下、VISION)」やクオリティの高いパーティーで知られる「Contact Tokyo(以下、Contact)」を始め、都心で多くのクラブやバーを運営する(株)グローバル・ハーツ。代表の村田大造さんは、約10年前コアなファンに惜しまれつつ閉店した西麻布「Space Lab YELLOW(以下、YELLOW)」や、80年代後半の文化人の巣窟「P.PICASSO」といった伝説のクラブをいくつも手がけ、日本のクラブシーンを数十年にも渡り牽引し続けている重要人物だ。
そんな村田さんが昨年11月、新宿に「DJ Bar Heart(以下、Heart)」をオープン。これまで渋谷エリアを中心に店を展開していた彼が、「東京の入り口」新宿に社名にも込められる“Heart”なる場所を、2020年を目前に誕生させた理由とは。
まだ新築の香りが漂う店内で、硬派なキャリアとは裏腹に柔らかな物腰の村田氏に、たっぷりとお話いただいた。
INTERVIEW:村田大造
――30年近く東京のクラブシーンの渦中にいる村田さんですが、ここ最近のクラブの客層や音楽が、当時と比べてどう変化していると感じますか?2000年代でいうと、若者のクラブ離れとかもあると思いますが。
クラブ離れというか音楽離れかな、どちらかというと。例えばCDやレコードの売り上げが落ちている。お金とか時間の使い方の変化が大きいですよね。やっぱりインターネットの普及で、そこに費やす時間とお金が音楽から変わって行ったので。
――それでも2010年以降にオープンされたVISIONやContactは若い人たちも中心に盛り上がっていますよね。継続的に、クラブに来て楽しんでいるのはどんな人たちなんでしょう?
マーケットで考えると、一般層含めて全体でいうと多分クラブの層は15%とか多くて20%ぐらい、そんなもんなんですよ。それはどういう層かというと、いわゆる“イノベーター”っていう新しいものを作り出すような人たち。企業でいえば100人中2人、2%くらいの人たちと、それを追いかけている、今の時代でいうとインスタグラマーやインフルエンサーが10%〜12%ぐらい。つまり新しいものを作って、それを広める人たちで構成されているのがクラブシーンかなって僕は思っているんですよね。
――なるほど。確かに業界以外でクラブ行く友達って少ないです(笑)。
我々の世代は第二次ベビーブームで人口も多かったけど、その後少子化を迎えて、僕らの世代から考えると今は多分1/3くらいに減っている。そういった意味で対象となる人の数が減っていますよね。日本の数だけでね。音楽を聴く人も減っているし、若い人の数も減っている。そこにインバウンドってことで海外の人たちを取り込んで、その数を補おうとしているのが今の日本。クラブもまさにそう言う状況です。
――やはり、ハウスやテクノがかかっているようなクラブには欧米人率が高かったりしますね。
ただインバウンドで海外から来る人たちにしてもやっぱり、全体層からいうとクラブで遊ぶ人がそんなに多いわけじゃないんだよね。でも日本に比べれば、ヨーロッパはテクノやハウスみたいな音楽性のものが多いし、アメリカはHIP-HOP層の方が多かったり。そういった人たちが色んな形で日本に来たとき、世界標準的に見て遊べる場所を提供して行きたいというのがあります。世界標準がどういうものなのかというのを日本の人たちにも知ってもらいたいし、そういうことをやって行くのがうちの会社、グローバル・ハーツがしていくべきことかなと思って続けてきているので。
――日本人ももっと多様な音楽に触れる機会が増えるといいですよね。音に関してはどうでしょう?どんな音楽が求められてきていると感じますか?
90年代はまだインターネットも発達してなくて、情報はすごくアナログで届いていた。例えばDJ呼ぶにも当時はカセットテープでレコーディングしたものを聞いていたし、今ならYouTubeで音と映像を見ながらどんなDJなんだろうって確認もできるけど。そうやって伝え方が変わってきていて、場所とか地域とかあまり関係なく色んな情報が飛び交っているけど、昔はアメリカはアメリカ、イギリスはイギリス、ドイツはドイツそれぞれの国ごとにコミュニティがあって、そこで生まれてきたものが一つずつ国内に入ってきた。それが、同じ国内で違う音楽性のものが混ざり合ったりしながらつながって。例えばハウスビートにレゲエのラガマフィンがのったりとか、そういう人種が混血していくような現象が起きて、新しい音楽が生まれた。それがもっと加速して、色んな文化がミックスしているような状況に音楽の方も向かっている。よりボーダーレスというか国とか世代とか関係なく、そこでみんなが楽しめる音楽が求められている感じはするかな。
――「世界標準的に遊べる場所を提供したい」とおっしゃっていましたが、これまで麻布や、特に渋谷を中心にお店をオープンしてこられたのにはどういった意図があるのでしょうか?
渋谷を中心にしていったのはいくつかの理由があって、ひとつは元々西麻布の「PICASSO」からスタートして、まだアンダーグラウンドと言われていたものを少しオーバーグラウンド、つまり一般の人たちにも見せたいと思って渋谷に出したお店が「CAVE」なんだけど。CAVEを作ったときには既に「YELLOW」を作る構想があって。とにかくアンダーグラウンドな少数派、14%ぐらいしかないものをできるだけ、そのエッセンスだけでもいいから広く人に伝えていく作業をするのに渋谷に出てきたのが最初のきっかけで。
――結果、渋谷が東京のカルチャーの発信地としては定着しているし、VISIONやContactも極近距離で運営されていますよね。
お店はやっぱり生き物なので、手間暇かけてあげないと良くはならなくて。自分自身、できるだけ近くで見切れる範囲内で作ってきたっていうのが一番大きな理由かな。大阪も、札幌もなんとかしてあげたいって思っていたんだけど、6年前にオリンピックの開催も決まって色々と東京に集中してくる。まずはその日本の中心都市である東京の、こういった文化とか新しいものが出てくる渋谷をどこまで引き上げられるかが、日本全体のイメージにも関わるし、日本全体のイメージがアジア全体のイメージにも関わってくる。だから分散させず、よりいいものを作っていくのにうちのスタッフや自分自身の能力を集中させたくて、渋谷を選んだっていうのもありますね。
――そんな中、今回Heartを新宿にオープンされたのはなぜでしょう?
新宿は東京全体を良くしていく上でも地方から来る人の玄関先だし、海外から来る人のハブになっている。ホテルの数も渋谷の1.5倍〜2倍程あるし。だから新宿に海外の人たち、特に中国とか韓国とかアジアの人たちが多いんだけど、そういった友達が来たときに、アートとか音楽にこだわっている人たちが集まる場所が少ないんじゃないかと感じたし、上京してきた若い子にしても、最初から渋谷区や港区には住めないので、新宿区とか中野区とかそういう家賃が安いところから入って来て、ちょっと遊ぼうかなって思ったときに身近にこういう場所があればいいなって。外国人がいて、ゲイの人たちもいて、クリエイティブなことが好きな人たちが集まれる環境があれば、そこから何か生まれるかなと。それがこのHeartを作った理由でもありますね。
――アットホームというか、一人で来ても気軽に友達ができそうなお店ですよね。イベントについて、平日はレギュラーDJを設置されていますね。
レギュラーDJは、基本は平日の隔週で入っています。2〜3ヶ月やってみて、相談しながらプログラムも変える可能性もあるけれど、基本は今のペースで進んでいきます。レギュラー陣が自分だけでプレイする日もあるし、他のゲストを呼んで、一緒にやる日もあります。あとフロアを真ん中で分けて、DJブースを二箇所にすることもできます。レギュラーイベントをやっている一方で、別のフロアでは誕生日パーティーをすることもできるんです。
――クラブと違って少し早い時間にオープンするし、Barということもあって、ユニークなドリンクメニューがありますね。エントランス1000円で1ドリンク付きなので、ドリンクを頼めば音楽がついてくるみたいな、お得な感じがありますよね。
そうそう。気軽に来てもらえることも狙いです。あと、例えばスピーカーはレイオーディオ製の中でも最上級クラスのものを設置しています。NHKのメインスタジオや世界中のトップクラスのスタジオが使っているもので、2000万くらいします(笑)。みんなでシェアするなら最高のものがいいという、うちのどこのお店も同じ考えでね。
――1000円でお酒とレイオーディオが享受できるなんてうれしすぎます(笑)!通常音量はどのくらいなんですか?
その時々なんですけど、早い時間は抑えめで会話がある程度できるくらい。夜になって人が入ってきたら、人のエネルギーに負けないように、徐々に音量を上げて、クラブ状態になりますね。
――通常クラブのオープンは23時ころで、盛り上がる時間は深夜2時とか3時だから夕食を終えた後、クラブに行く前に寄って、気持ちを盛り上げていくのにも便利ですね。
そうですね。自分もそうなんだけど、食事が19時とか20時、食べ終わるのが遅くても22時くらいで。だけどその時間にクラブに行っても空いたばっかりで人いないし、いつも困っていて。食事をしてからクラブに行く間の時間を過ごせる場所も必要だったので、渋谷BRIDGEもそうですが、こういったDJ Barスタイルのお店を作ったんですよ。
――2020年を迎え、オリンピック開催時には、たくさんの人が日本に来ると想像しますが、注目されているナイトタイムエコノミーは日本のクラブやお店にどう影響すると思いますか?
もともと日本でナイトタイムエコノミーが注目され始めたのは、オリンピックが決まったときに、「おもてなし」っていう言葉があって。日本はそのとき風営法も変わっていなくて、「12時過ぎたら踊っちゃダメ、騒いじゃダメ、楽しんじゃいけない」と言われているようなものだった。それは日本がやっぱり戦争で負けて、焼け野原から立ち上がっていくには、12時過ぎに飲んで騒いで楽しんでいたらだめで、「明日の仕事のためにさっさと帰って寝なさい」と。そういう歴史的背景もあり、一方で遊び方がまだわからない、慣れていない日本の国民に対して、徐々に徐々に、ということも含めて、そういう法律になっていたんだけど。それも時代錯誤で、海外からゲストが来るのに、「みなさんもう夜12時なんで寝てください、遊び場所はありません」って、それではダメだろうということで風営法を変えて、遊んでいいよ、遊ばせていいよ、ということになったけど、今度は足がない。電車は止まっているし、24時過ぎたら朝までいないといけない。それこそ仕事もできないし、だから交通網を変えたりとか、環境の整備も含めて、やらなきゃいけない。あとは、日本は島国で単一民族なので、どちらかというとアジアのタイとかベトナム人より英語が話せなかったりとか、英語のメニューがなかったり。そういった表示や、コミュニケーションが取れるような環境も整えるべきだし、政府が考えているナイトタイムエコノミーは、これまで死んでいた時間をいかに活用してお金を生み出すことができるのか。その「おもてなし」という部分でいうと、我々のような業態に、少し期待を寄せられている部分もありますね。
―実際、今村田さんのところでは、それを受けて何か動きをされていますか?
今は実験的なことが多いですね。補助金が出て、例えば<SHIBUYA ENTERTAINMENT FESTIVAL 2019>という渋谷のクラブが集まった回遊型のイベントを開催したりとか。そのときは外国人が何百人と来たので、どういうところに住んでいて、どこで情報を得ているのかなどのレポートを取って。そういったリサーチをするのに、今はお金を使っている感じですね。来年に向けて、それも活かしていこうとは思っています。
――ナイトタイムエコノミーの取り組みでインバウンドの方はもちろん、日本人の意識も変わって夜遊ぶ人が増えて、もっと活性化するでしょうね。2020年のオリンピックの開催中は、何か特別なことを企画されていたりしますか?
みんなで協力し合ってやることやろうよ、という動きにはなっていますね。もしかしたら、来年にもう1つ、箱を開けるかもしれなくて。
――それは楽しみですね!どのあたりになりそうですか?
やるとしたら、渋谷かな。ただ、アンダーグラウンドというよりは、もう少しオーバーグラウンドなイメージかな。今まで、うちはVIPぽいものがついたクラブってやってないんだけど、座れば女の子がついてくるようなVIPじゃなく、ダンスのショーだったりアートだったり、大きなラウンジとクラブが組み合わさったような、箱を1つ作ろうかなと思っています。
――Heartにこれから遊びに来る方に、楽しみ方を教えてください。
基本は一人で来ても楽しめるように作っているつもりなので、誰が来てもそれぞれ居場所があるはず。“Heart”っていう、名前の由来でもあるんだけど、気持ちのいい人が集まってくれるといいね。そういう人たちが友達を作ったり、何かを持ち帰ってくれるといいかな。音楽を聴いて、お酒を飲んで、楽しんで帰ってください。
Text by Nao Asakura
Photo by 前田学
INFOMATION
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