3月5日(土)に公開が迫っている『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』。プロデューサーを務めたレベッカ・メイズルスが公開を前に父親・アルバート・メイズルス監督と製作したこの作品について語った。

アルバート・メイズルス監督の名は、“ダイレクト・シネマ”(1960年代にアメリカで始まった、撮影と同時に録音し、ナレーションを入れずに手掛ける手法)の先駆者として既にご存知の方も多いだろう。初のノンフィクション長編映画『プライマリー』を製作、ビートルズがアメリカでツアーを行った際の映画『ホワッツ・ハピニング!ザ・ビートルズ・イン・ザ・U.S.A.(原題)』(64)、『ローリング・ストーンズ・イン・ギミー・シェルター』(69)、ジャクリーン・ケネディ・オナシスの叔母と娘の関係をつづった『グレイ・ガーデンズ(原題)』(70)などは、ドキュメンタリー映画史上最も重要な作品とされている。2015年オバマ大統領から名誉勲章を受章したばかりだったが、惜しくも同年3月5日にマンハッタンの自宅で膵臓がんのため88歳で亡くなった。

娘が紐解く、父でありドキュメンタリー映画の祖の遺作 film160219_ilisapfel1

今作『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』では、アイリス・アプフェルにフォーカス。NYパークアベニューの自宅で、ハイブランドのジャケットに、ヴィンテージアクセサリーや民族衣装を合わせ、即興でコーディネイトを披露するアイリス。1950年代からインテリア・デザイナーとして活躍、美術館やホワイトハウスの内装を任され、ジャクリーン・ケネディを顧客に持つというキャリアの持ち主だ。アイリスの”成功の秘訣”に迫るべく、展覧会や老舗百貨店でのディスプレイ企画、売り切れ続出のTVショッピングなどの舞台裏に潜入する。

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Interview:レベッカ・メイズルス

——父アルバート・メイズルス監督は、“米ドキュメンタリー映画の祖”と呼ばれていますが、娘から見てどのような父親でしたか?

レベッカ・メイズルス(以下、レベッカ) 父とは非常に強い親子の絆で結ばれていました。一緒に仕事をして、彼のそばにいることが大好きでした。人に優しく、冒険心に対して寛大な人でした。好奇心も非常に旺盛で、クリエイティブ力のある人だと思っていました。とても単純な事にも胸を躍らすような人です。自分の周りにいる人が何をしていて、どんな人生を過ごしているかということに興味を持ち、面白がるような性格でしたので、一緒に仕事をしていて楽しかったです。もう父がいない事がすごく寂しいです。

——彼の代表作となる、ビートルズやローリング・ストーンズのドキュメンタリーを手掛けていた1960年代から近年にかけて、彼の手法や映画制作に対する考え方の変化などはありましたか?

レベッカ 父は弟のデイヴィッドと何年も一緒に仕事をしていました。彼らは兄弟で働く事を好み、素晴らしいコンビでした。年齢を重ねるに連れて仕事の経験も増えていくので、変化があることは当然だと思っています。私にとって叔父であるデイヴィッドが先立ち、父はたった独りで仕事をすることが増えたように思います。デイヴィッドの死後、沢山の映画を作り続けていました。カメラマンである父にとって、カメラは必要不可欠で特有の存在であり、カメラを自分で作り上げることもしていました。父はいつも技術というものに関心を持っていました。高い技術への探求心は生涯続いていたと思います。技術が進化し始めた時には非常に興奮していました。デジタル時代に突入し、カメラが今までより軽く、手頃な価格になった時、彼は本当に嬉しそうでした。カメラのサイズと重量を、ここまでコンパクトにした技術の発展に感激していました。
ほとんどのアーティストがキャリアの中で変化するように、彼の作品も長い時間をかけて変わっていきました。しかし彼の精神や、他者への深い思いやりはずっと同じままでした。私の父は寛大で、好奇心旺盛な人でした。常に落ち着いた性格でありながら、カメラマンとしては鋭い観察者として、高い集中力で打ち込める人でした。そのような感覚をキャリア人生の最後まで持ち続けていました。彼は「全ての人間が、どんな相手とでも共通点を見出すことができる」という信念を持っていました。自分が関係できる何かが、きっと他人の中にもあるという考えです。人の事を理解できれば、自分自身の事ももっと理解できると信じていました。そのような他人への思いやりや、他者を理解をしようとする感覚が彼の作品にも表現されていると思います。映画に登場するキャラクターを愛することは彼にとって非常に大切な事であり、この映画にも表れているはずです。

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