——監督とあなたは、いつごろからアイリス・アプフェルを知っていましたか?

レベッカ 面白いことに、父もアイリスもこの映画が始まるまで、お互いの事を全く知りませんでした。私達がアイリスに初めてお会いした時は、アイリスの友人であるジェニファー・アシュ・ラディックが監督とプロデューサーのローラ・コクソンに声を掛け、映画の主題にアイリスを、と提案してくれたのです。全員が初めて出会った瞬間から、すぐにうまが合うことが分かりました。ハーレムのオフィスで長時間ミーティングをしましたが、この映画には素晴らしいケミストリーが生まれることを、会議室にいる全員が確信しました。

娘が紐解く、父でありドキュメンタリー映画の祖の遺作 film160219_ilisapfel5

——なぜこの映画を制作しようと思ったのでしょうか?初めからあなたも関わっていたのですか?

レベッカ 監督は、アイリスに出会った時から意気投合しましたが、私もこの企画に交わったら非常に面白い事ができる予感はしていました。始動時に、この作品がどんなものになるのか、確固たる理解が出来ていた人は一人もいなかったと思います。しかしアイリスが面白い人で、ダイナミックで、クリエイティブで、勤勉であることは理解していましたし、監督とローラにとっては最も重要視していたことです。最初はアイリスが参加する様々なイベントに同行して撮影するところから入り、次にアイリスが毎年学生に教えているテキサスのクラスへと向かいました。父はアイリスに「私達はただあなたの周辺で起こっている出来事や、あなたが過ごしている日常を撮りたいんだ」と常に言っていました。このように映画撮影が始まり、撮影スタイルも決まってきたのです。アイリスも監督も非常に忙しく、常に予定が詰まっていたので、撮影日は散在的で、継続して撮影しているわけではありませんでした。少人数の撮影クルーで仲良くやっていました。撮影に行くと、必ず自分達も楽しんでしまうため、撮影中は心地よく、特別なひとときとなっていきました。アイリスと監督は良好な関係を上手く築き、お互いに安心感を抱いていました。

——映画の準備期間、撮影期間、合わせた制作期間はどれくらいでしたか?

レベッカ 4年以上です。全体の長さでは200時間、撮影をしました。長い時間、ずっとカメラを回し続けているわけではなく、何か月も撮影をしない時もありました。私達は少ない人数で撮影を行いますが、アイリスと監督がとてつもなく忙しい人達だったので、スケジュール調整が大変で、撮影日はカレンダーの中で散在していました。撮影できる日は出来るだけ長く撮影したいと思っていましたが、アイリスも監督もエネルギーに溢れ、その日中にしなければならない撮影も、あえてその日中に終わらないようにしていた時もありました! 撮影は朝から始まると、毎回遅い深夜まで行っていました。編集には一年以上かかりましたが、撮影している時期と編集している時期が被っていたこともあります。

——劇中のアイリスはめまぐるしく働きまくって驚かされます。彼女の日常を密着して、監督は映画を通して、アイリスの何を伝えたいと思われたのでしょうか。

レベッカ 私達が最も興味を持ったところが、アイリスのクリエイティビティと体力です。いつも何かに興味を持ち、調べていました。アイリスのそんな性格も、私達にとっては大事なポイントでした。彼女がよく働き、仕事に集中していること、また同時にいかにアイリスがその事に愛情を向けているかを映すことに全力を注ぎました。アイリスの働くことへの姿勢には、本当に感心しました。勤勉なだけでなく、全ての仕事を完璧にこなす独自のスタイルを持ち、驚かされました。アイリスにとって重要な事は、ただ面白い洋服を着た人だと他人に思われないかどうかでした。この点については非常にセンシティブで、我々も同意しました。彼女が関わっている全ての企画や、これまでの歴史、長年の仕事のパートナーであり、夫であるカールとの関係にも驚かされました。こういった全ての要素をきちんと撮影する事が、私達のテーマでした。

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——劇中アイリスとカールの夫婦愛も感動的でしたが、アイリスと監督の友情関係もあたたかく微笑ましかったです。どのようにして信頼関係を築いていったのでしょうか。

レベッカ 監督とアイリスは、本作で一緒に仕事をするまでは面識がありませんでした。しかし、出会いからすぐに打ち解け、良好な関係を築いてきました。私から見て、アイリスが監督を信頼したように思います。監督の仕事への取り組み方や、一生懸命さをアイリスは心から尊敬していました。一方、監督の方も、アイリスに対して同じように感じていました。お互いに深い関係を築けると確信したのだと思います。二人ともかなりの高齢で、人生が続く限り働き続け、自分の得意とするものをしっかりと持っていました。自分達が愛する物事をやり続ける、ということは普通は中々出来ないことで、特にアメリカではそのような人は少なくなってきています。自分の好きな事を仕事と直結してできていることが二人の共通点でした。監督はアイリスに興味津々で、カールとの夫婦関係も尊敬し、一緒に撮影することを楽しんでいました。

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