——監督はこの映画の撮影後も他のプロジェクトに取り掛かっていたと聞きましたが、彼がやりのこしたことがあるとすればなんだったのでしょう。次に彼がやりたかったことが何だったのか教えてください。

レベッカ 監督は本作と並行して、複数のプロジェクトに取り掛かっていました。最後のプロジェクトとなった一つには『Transit』という映画があります。アメリカの電車内にいる人々をテーマにした作品です。その作品はずっと前から彼がやりたかったもので、完成の最後の時間まで楽しんでおり、亡くなる最後の年に無事完成させました。

——撮影した映像でカットされた映像など、秘蔵映像素材はありませんか?

レベッカ 映画の尺は1時間ちょっとなので、実際には使わなかったシーンが山ほどありました。

娘が紐解く、父でありドキュメンタリー映画の祖の遺作 film160219_ilisapfel3

——様々な映画祭での上映や、アメリカ、イギリスなど各国で上映されていますが、観客の反応はどうでしたか。また、それをどう受け止めましたか?

レベッカ 非常に長い制作期間でした。とてつもない時間と労力を費やしてきましたので、作品が好反応だと聞いた時は感激しました。また沢山の人から、映画の中のアイリスを見ていたら、自分の家族の誰かを思い出したと聞き、嬉しくなりました。多くの観客がストーリーを楽しみ、アイリスという人物を見て、知る事を楽しんでくれたと思いますが、沢山の監督ファンにとっては、監督本人が少し映画に登場したことも嬉しかったようです。監督のスピリットがこの映画には詰まっていると思います。
私はこの映画を誇り高く思っています。素晴らしい人たちが集結してチームとなり、誰もが一緒に働ける事を楽しみ、沢山の事をお互いから学び合っていました。いい仕事をしただけでなく、同時に楽しんだ時間だったと思います。映画制作において、これまで当たり前だと思っていたことがありました。一緒働く誰もが自然でいられ、お互いに気楽に仕事ができる、そんな制作環境は実は滅多にないのです。しかし、私の父である監督は驚くべき着眼点があり、撮影時は常に穏やかでした。そのことを私は彼が亡くなるまで気付いていませんでした。私がこの映画で最も好きな点は、そんな父のスピリットが詰まっているところです。アイリスのことを撮影していながら、父の存在というものを、この映画では感じられます。そんな映画の一面は、私にとって大変刺激的でした。

アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー


監督・撮影監督:アルバート・メイズルス 『ローリング・ストーン・イン・ギミー・シェルター』
原題:IRIS/2015/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/80分/
配給:KADOKAWA ©IRIS APFEL FILM, LLC. 

オフィシャルサイト Twitter Facebook

text by Qetic・Ayako Nakanome