ドイツというとテクノ、エレクトロ、メタルというイメージが圧倒的に強いだろう。しかし実際のところ、ドイツは決してテクノとメタルだけの国ではない。そんな私たちの凝り固まったドイツ音楽に対するイメージを払拭してくれるジャーマン・ポストパンク/インディロック・バンドこそアイソレーション・ベルリンだ。
今年2月23日にリリースされた2ndアルバム『Vergifte dich』はドイツのオリコンこと「Offizielle Deutsche Charts」にて初登場30位を記録。英語で「Poison Yourself」、日本語で「毒を持て」を意味するアルバムに込められたメッセージが、年齢、性別を超えジャーマンリスナーの心をグッと掴んでいる。というのも、アイソレーション・ベルリンの楽曲には、どこか自分の感情、人生と被る瞬間があるのだ。そのメロディ性から本国ドイツではいわゆる鬱バンドとも呼ばれているが、その何十にも重なった繊細な音の層の中心にいたって前向きなエネルギーが込められている。
ライブバンドとしての評価もすこぶる高い。5月上旬に開催されたベルリンでのコンサートは1,300人超えを達成。会場の空気が最高潮に達した終盤、ボーカルのトビアスがオーディエンスにダイブ。彼らの人気がいかに確実なものかを証明する素晴らしい一夜となった。
怒涛のリリースツアーを終え、これから開催される様々な夏フェスへの出演を控える中、フロントマンのトビアスとギターのマックスとともに公園へ。ビールを片手に話を聞いた。
Interview:アイソレーション・ベルリン
(トビアス・バンボーシュケ、マックス・バウアー)
——リリースツアーお疲れ様です! 2人の出会いはもちろんベルリンですよね?
マックス・バウアー(ギター、キーボード。以下マックス) もちろん。2010年にベルリンへ移って、それからトビ(トビアス)に会ったよ。高校時代の友達がトビと同じ演劇学校に通ってて紹介してくれたんだ。
トビアス・バンボーシュケ(ボーカル、ギター。以下トビアス) 演劇学校内のバーで開かれたパーティーでマックスと初めて会った。お互いバンドを組みたいと思っていたから、それじゃ2人で始めようってなったんだ。自分で曲を作ってドイツ語で歌いたくて、ちょうど前のバンドを辞めたところだったしね。
——アイソレーション・ベルリン結成前はそれぞれどんなバンドをしていたんですか?
トビアス 色々やってたけど、ザ・ラヴァーズって名前のガレージ系バンド。ホラーズ(The Horrors)に招待されて、ロンドンのCave Clubでライブしたこともあった。
マックス 僕は友達のバンドでタンバリンを担当してたよ。バンド名はドイツ語だけど、英訳するとザ・バッド・ラバーズ(笑)。
——恋人と悪い恋人、偶然ですね(笑)。最初は2人でスタートしたんですね。
トビアス 最初の3年間は2人だね。あの頃はいつもメンバーを探していたんだ。
マックス 2012年に初めてライブをしたんだけど、そのときのメンバーはニュージーランド人のオルガン、スペイン人のドラム、チリ人のベース。これまでドラマー8人、ベースは3、4人変わったかな。最初はトビがベースをしようとしてたくらい。2013年にベースのディヴィッド(ディヴィッド・シュペヒト)、ドラムのジミー(ジミヨン・コスタ)が入ってからようやく今の体制になったよ。
——そもそもバンド名はなぜアイソレーション・ベルリン?
トビアス ちょうどマックスとバンドを始めた頃なかなかうまくいかない時期で、周りとも距離を置いて気分も落ちてて。この状態を表す言葉を探していたんだ。そんなとき“アイソレーション・ベルリン”が頭に浮かんだんだよ。初期の曲もこの感情から生まれているし、それじゃバンド名にしようってなった。
——アイソレーション・ベルリンのインスピレーション源とは?
マックス 主に古い映画やシャンソン、50-60年代のギターロック、初期ロカビリーにインスパイアされてる。
——今年2月23日にリリースされた2ndアルバム『Vergifte dich』について教えてください。
トビアス 全ての曲に人や社会の中にある毒、ダークな部分が含まれてる。ある1人の人生、自伝的な内容の前作に対して、今作はダイアログ(対話)、短編小説集かな。
マックス かなり害のあるアルバムだよね(笑)。実はタイトル曲でもある“Vergifte dich”はバンドを結成して一番最初に作った曲なんだ。
——先行リリースされたリードシングル“Kicks”はドイツのカレッジチャート3位にランクイン。実際にベルリンのラジオやロックイベントでもよく耳にします。ライブでもかなり盛り上がっていましたよね。
トビアス “Kicks”は日常の危機から抜け出す曲。何も満足できない日常、自分を変える新しい起爆剤(Kicks)が必要って歌ってるんだ。一見ネガティブにみえてかなりポジティブなんだよ。政治的な意味合いで捉える意見も聞くけど、特にそういうつもりはないかな。政治も生活の一部ではあるからそう捉えることもできるけど。
マックス スタジオリハーサル時に生まれた曲。最初はDAFみたいなジャーマン・ニューウェーブをイメージしてたけど、プライマル・スクリームのレイブ感を加えた感じになったよ。
Isolation Berlin – Kicks
——ポストパンク全開の“Kicks”とは一転、同じくリードシングル“Marie”はバラード調の曲ですよね。
トビアス “Marie”は昔の恋人に自分のことを忘れてほしいという曲。ある意味実体験でもあるかな(笑)。誰でも別れるのって大変だから。MVはノーカットで撮影した作品。舞台となる部屋は、何千もの絵、写真、本、映画が散りばめられている。この部屋はたくさんのものからインスピレーションを受けて今作を制作した僕たちの頭の中そのものなんだ。
Isolation Berlin – Marie
——個人的に好きな曲はありますか?
トビアス 1曲目の“Serotonin”。新しい曲はいつも最高、新しい彼女や恋愛みたいにね。この曲は1stアルバムのリリースツアー後に生まれたんだ。多忙なツアーから急にベルリンの日常へ戻って、何だか燃え尽き症候群だったというか。日中は毎日1人でPfhandflaschenauomat(ドイツのスーパーに設置されたペッドボトルや瓶の自動回収機)へ行ったり、1人で公園へ行ったりするんだけど、退屈というか空っぽで。日が暮れると友達に会ったり、バーで飲んだりするから楽しく感じるし、何より落ち着くんだ。そんなときに浮かんできた曲。
マックス 4曲目の“Melchoirs Traum”かな。歌詞も好きだし、ライブ向きの曲だね。
トビアス この曲はドイツの劇作家フランク・ヴェーデキントの“春のめざめ(原題:Frühlings Erwachen)”がベースになってるんだ。内容は省略するけど、罪悪感を感じながら生きる主人公メルヒオールは毎晩悪夢を見るだろうと想像したシンボリックな歌詞だよ。
——作詞を担当するトビアスは、昨年は本を出版し作家デビューを果たしていますが、いつから書くことを始めたんですか?
トビアス 8歳からポエムダイアリーを書き始めたのが最初かな。父が本、特にポエトリー好きで、小さい頃はよくおとぎ話を読み聞かせてくれてた。家にもたくさん本があって、本がとても身近だったんだ。演劇学校に入った理由も、俳優になりたいんじゃなくて、書く、話す、伝える、パフォーマンスといった部分を学びたかったから。
——なぜ英語ではなく、ドイツ語の歌詞にこだわるのですか?
トビアス 母国語だから。英語だと上手く表現できないんだ。単純なポップソングを英語で書くのは簡単だと思うけど、完璧に言語を知らないと自分が伝えたいことを表現できない。母国語だとよりディープなところまで掘り下げることができるからね。
——だから母国語であるドイツ語へのこだわりが強いんですね。トビアスとともに作曲を担当しているマックスはいつから音楽を始めたんですか?
マックス 8歳のとき、叔母にピアノをもらったのがきっかけ。最初はクラシックミュージックから入って、14歳からベースとギターを始めた。あまり音楽一家ではなかったから、学校の友達からの影響が大きかったかな。ちょうど16歳くらいから、ベルリンへ行ってバンドを始めたいという思いが強くなって。今でも覚えてるんだけど、ある日学校へ行く前にTVでリチャード・ヘルのドキュメンタリーを見たんだ。当時は彼のこともNYパンク・シーンも知らなかったんだけど、ドキュメンタリー内で彼が学校を辞めた後、NYへ出てバンドを結成したという経緯を聞いて。もちろん彼の場合は60年代だし現代と比べたら余裕だったと思うけど(笑)。そのときハッと気づかされたんだ。それから学校を辞めて、18歳のときベルリンへ出てきたよ。
——そこから実際にバンド結成できましたし、いい決断でしたね。そんな2人が影響を受けた、好きなアーティストはいますか?
トビアス ニーナ・ハーゲン(Nina Hagen)。とにかく声がいいし、彼女のストーリーもいいね。特にアルバム『Nina Hagen Band』は最高。アイソレーション・ベルリンで彼女の“Fall In Love mit mir”をカバーしたけど、まだ本人に会ったことないや。あと、女優・歌手のイングリット・カーフェン(Ingrid Caven)。彼女はエディット・ピアフ(Édith Piaf)の歌をドイツ語で歌ってるんだ。ボブ・ディラン(Bob Dylan)もシンガーソングライターとして好き。作家だとベルトルト・ブレヒト(Bertolt Brecht)、ヘルマン・ヘッセ(Hermann Hesse)、マーシャ・カレコ(Mascha Kaleko)。彼らの言葉は素晴らしいよ。
マックス ギタリストだとザ・スミスのジョニー・マー(Johnny Marr)。17歳からギターに没頭していて、彼の存在は大きかった。彼のギタープレイにはパンクのアティチュードがあるけど、他のギタリストと比べてよりテクニカルで表現力がある。ザ・スミスのアルバムは『Strangeways, Here We Come』が好き。ベルリンへ移った当時はテレヴィジョン(Television)とリチャード・ヘル(Richard Hell)が大好きだった。ドイツのミュージシャンはトビから教えてもらったよ。
トビアス 2人が共通で好きなのは、リチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズ、ネオン・ボーイズ(The Neon Boys)、ジーザス&メリーチェイン(The Jesus and Mary Chain)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(The Velvet Underground)。マックスに会うまでザ・スミスは好きじゃなかったな(笑)。
マックス 僕も最初はあんましだったよ(笑)。
——好きな日本人アーティストはいますか?
マックス 幾何学模様。偶然YouTubeで見つけて聴いたんだけど、すぐ気に入って、去年ベルリンであった彼らのライブを見に行ったよ。あと最近だとTAWINGSもクールだね。坂本龍一のサウンドトラックも好き、全体的に漂うどこか悲しい雰囲気とか。
トビアス 日本人じゃないけど、アメリカ人作家のリチャード・ブローティガン(Richard Brautigan)。彼は日本に滞在して日本での生活についてたくさんの詩を書いたんだ。彼は日本語をあまり喋れないのに日本について書いてるのが面白いね。
——音楽だけでなく、2人は映画好きでもあるとか。好きな映画や影響を受けている作品があれば教えてください。
トビアス 1970年代のドイツ映画、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー(Rainer Werner Fassbinder)の作品が好き。例えば『何故R氏は発作的に人を殺したか?(Warum läuft Herr R. Amok?)』、『不安は魂を食いつくす(Angst essen Seele auf)』とか。あと、ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)の『ベルリン・天使の詩(Der Himmel über Berlin)』。これを見た後に“Isolation Berlin”のミュージックビデオのストーリーが浮かんできて書き下ろしたんだ。映像もオマージュした作品になってる。
DER HIMMEL ÜBER BERLIN Trailer Deutsch | 4K restaurierte Wiederaufführung ab 12. April 2018 im Kino!
Isolation Berlin – Isolation Berlin
マックス たくさんありすぎて1つに絞れないけど、フランス映画『突然炎のごとく(Jules et Jim)』とか。昔の映画の雰囲気が好きで、曲に取り入れるようにしてる。もちろん『クリスチーネ・F(Wir Kinder vom Bahnhof Zoo)』も外せない。バンドとは関係ないけど個人的に好きなのはアルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)。彼のサウンドトラックを担当しているバーナード・ハーマンは天才だよ。
Christiane F. – Wir Kinder vom Bahnhof Zoo (Trailer)
——ドイツといえばテクノやメタルのイメージが強いですが、現在のジャーマン・ミュージック・シーンについてどう思いますか?
トビアス 全体的にいうと、キッズの間ではヒップホップが流行ってるし、もちろんエレクトロ、テクノがメインストリーム。いくつかいいギターバンドがいるけど、やっぱリ少ないしシーンにはなってない。でも、少しずつよくなってるかな。もっとドイツ語のギターバンドが増えればいいよね。
マックス バンド結成時はあまりドイツ語で歌うバンドがいなかったんだけど、最近は新しいドイツ語バンドが出てきてるよ。例えばスヴッチャー(Swutscher)、インターナショナル・ミュージック(International Music)とか。現行のジャーマン・ギターロック・バンドとしてよく一緒に挙げられるディ・ナーフェン(Die Nerven)も。あとドイツはギターロックの流行りが少し遅いんだと思う。アメリカ、イギリス、日本、ドイツの流れで回ってくる印象があるかな。
——なるほど、まだまだドイツのシーンはマイナーですが、今後注目すべきシーンとなる日も近そうですね。11月はアジアツアーに行くそうですが、次にツアーで行きたい国は?
2人 日本!
マックス ドイツ語の歌詞は英語と比べて難しく思われがちだけど、どんどん外に出ていきたいと思ってる。
——ぜひ来日してほしいです! 日本に来たら何をしたいです?
マックス もちろんライブ。日本のオーディエンスの反応を見てみたいんだ。あと居酒屋と大阪のAlffo Records(アイソレーション・ベルリン国内取扱店舗)に行きたい。
トビアス 詩など作品を書きたいかな、リチャード・ブローティガン(Richard Brautigan)みたいに。
国内取扱店舗