20歳という若さで完成度の高い楽曲を制作するトラックメイカー・pavilion xoolがインディー・ポップバンドであるI Saw You YesterdayのRemixをリリースした。Remixは最新EPに収録がされている“Topia”を使用し、pavilion xoolの手で全く別の楽曲へと変貌を遂げている。

こうしてトラックメイカーがバンドをRemixすることは増えているが、それぞれどんな風に互いの楽曲を受け取っているのだろうか? 今回はpavilion xoolとI Saw You Yesterdayに登場していただき、Remixの楽曲を軸に互いの制作過程の違いや共通点について語っていただいた。

Interview: pavilion xool&I Saw You Yesterday

——pavilion xoolはSIRUPをフィーチャリングに迎え、8月に楽曲をリリースされましたが周りからの反応はいかがでしたか?

pavilion xool あまり僕の音楽を聴いていない層が楽曲を通して、聴いてくれるようになりましたね。あとはイベントに来てくれる方が増えたことが一番嬉しかったです。

——今回はI Saw You Yesterdayがコラボしましたね。I Saw You Yesterdayはコラボしたことに対してどう思ってますか?

下田 英雅(Vo/Gt) そうですね、僕たちはバンドっていう制約だったり、インディーバンドのイメージから、あまりリスナーの垣根を越えづらいなと感じていました。だからこうやってコラボすることによって違う層へアプローチできたらいいなって思ってます。

pavilion xool そうですね。僕ははじめてI Saw You Yesterdayを聴いたとき、トゥー・ドア・シネマ・クラブ(Two Door Cinema Club)やThe 1975のような、纏まって音数の少ない構成の練られたバンドの印象を受けたんです。僕もその辺りはすごく好きだったので、Remixするときに意識しました。

——pavくんはバンドも好きなんですね。ちなみにコラボするきっかけはどういう感じだったんですか?

下田 自分たちのリリースパーティーに出てもらったのがきっかけですね。

鈴木 一繁(Ba) コラボしたいと思ったのはpavくんのトラックメイクって割と俺らと似た要素があったんです。pavくんのトラックメイクって、マスに向けて聴きやすいものを作っている印象があったんですよね。

下田 楽曲に対してテーマがあるんじゃないかな。トラックメイクについては詳しくないけど、音入れたくなる人ってきっと極限までいろんな音入れてることが多いと思う。でもPavくんの場合はテーマがあって、意識的に聴きやすいものを作ってる気がするんだよね。多分それって僕たちのバンドが印象的なフレーズを中心に展開して聴きやすいものを作っていることに似てるから、だから、ある意味自分たちに近いんじゃないかな。

pavilion xool そうですね、多分、僕が現場から音楽を聴いたタイプじゃないからかもしれないです。僕はイヤホンで育った世代なので、クラブミュージックを部屋で1人で聴いて盛り上がりたいし、通勤中に聴く音楽を作りたかったんですよね。

下田  ある種の共通点って言ったら、どこにでも溶け込む音楽とか、聴くシーンを選ばないというか。通勤中にさらっと聴けるような音楽っていう所とか、考えていることが一緒なんだと思う。

I Saw You Yesterday “Topia” (Official Music Video)

――共通点が多いからこそ、今回のRemixが完成したんですかね?PavくんはI Saw You YesterdayのRemixをしてどうでしたか?

pavilion xool 僕は映画や本、イラストとかが好きで、色とか匂いとか、具体的な風景をまず大事にしたくて、結構バッサリ変えちゃうことが多いんですね。前にバンドのRemixをした時はボーカルも切って、ギターもベースもドラムも切って、ステムデータにあった、リバーブの裏の部分しか使わずにコードだけ合わせてました。で、今回はループして使いやすい部分があったので、結構、ギターとかそのまま使ったりしたんですけど、Remixしててめちゃくちゃ楽しかったです。

——どんなことをイメージして作ってましたか?

pavilion xool 制作がどう転ぶか自分でもわからなくて、最終的には最初作り始めた時と最後の帳尻合わせて、じゃあこういう感じの世界観にしようとすることが多くて。だから、最初からこれにしようと決めていることはないんですけど、絶対に聞きやすいポップなものにしようとは思いました。

——オリジナルの楽曲の中で最も印象的なAメロや轟音のサビをあえて削除した理由は?

pavilion xool ボーカルだけを使って流れはそのままにするRemixもやってみたかったんですけど、今回もうちょっとエッセンスを感じるように、ギリギリじゃないけどある程度、I Saw You Yesterdayの音質やその世界観を感じるけれど、全く違う楽曲にしてやろうと思って抜いてみました(笑)。

内城 悠(Dr) 確かにがっつり違う曲になった感はあるよね(笑)。

鈴木 “Topia”を知っているけどRemix音源であることを人に聴かせたら、きっと最初は全然違う感じに聴こえるけど、途中から入るボーカルやギターのリフとかで、“Topia”だって気づいてもらえるような感じはあるよね。

pavilion xool そうですね、あとはRemixで最初から最後まで作ると言うよりは、匂いを残して、そのまま消えたい感じにしたかったので、ちょっと曲的には短くしました。でもやれることをやれて楽しかったです。

——気に入ってるポイントとかありますか?

pavilion xool 気に入ってる部分は、裏に入ってたボーカルがすごい良くて、ここをちょっとメインにしてみようと、その部分を主体に作っていったら、削れるものがどんどん消えてっちゃって。僕がすごい好きなスクリューっていう技があって、要はボーカルをめちゃくちゃいじってLOWにしたりとか、オートチューンを変えて違う声にしたりとか、そこでトラックメイカーじゃないですけど、僕のテリトリーに入る部分で主体のメロディはそれにしようかなと思っていて。裏に入ってるボーカルをメインで流せるような感じで作りました。

——なるほど。AメロやサビがなくなってI Saw You Yesterdayはどんな風に感じましたか?

下田 実はpavくんがRemixで使っているBメロはデモの段階では元々存在してないメロディで、皆でスタジオ合わせていく中で出来た箇所で。個人的に気に入っている所だったんです。Aメロやサビを削除することで、一番バンドとしてのケミストリーが起きたBメロをフィーチャーしているんですよね。それが嬉しかったです。

村上魁(Gt) あの箇所って、デモが送られてきて唯一いじった場所だよね。

下田 みんなで作れるところが僕はバンドの良いとこだと思ってて。やっぱり自分で作ってると煮詰まって結局何が正解なのかわからない瞬間ってあるし、しかも結局いくら自分が頑張っても自分の期待値を超えられないから大体想定の範疇に収まるんですよ。自分で一番最初にただのコード進行だったりとか1つメロディを作った時点で、だいたい構成やどういった空気感の楽曲になるか想像がつくんですよね。でもそうやって1人でやっていると結局突き抜けない感じがあって。ある意味“Topia”もそうだったんですけど、スタジオでやっていく中で皆で色んな部分をそぎ落としていったりとか、各々が手を加えると全く自分が想像してなかったものに化ける瞬間っていうのがバンドにはあるんです。

pavilion xool それはすごい特権ですね。

村上 でも俺らはギター、ベース、ドラムで各々ひとつずつしか役割を与えられてないわけで、できることっていうのは自分の楽器を使って、下田が想像してた通りのことをするか、それとも下田が想像していないことを提示して、下田にこれは最高だって気に入ってもらえるかの2択。それは別にどっちが正しいとかじゃなくて、下田が、想像してた通りの提示をしてそれが最高になるパターンもあるし、違うものを出して違うパターンになることもあるんだけど、結局、俺の使えるアイテムはギターしかないし。一繁はベースで、内城がドラムなんだけど、Remixをするとたった1人で根底から何処までもいじれるよね。

pavilion xool 各々の感情を全く無視して、好きにできちゃいますよね。

村上 それがすごい面白いよね。一番俺たちが楽しかったんだと思う。自分たちが作ったものがこんな風に帰ってきたっていうのが。

——pavくんは“Topia”をRemixして何か自分での気づきってありましたか?

pavilion xool 僕は声にいつも飢えてるんですよ。それで今回は声質がめちゃくちゃ良かったんで、使いたいなと思ったんです。声ってごいんですよやっぱり、引力が。1つかっこいい音の何倍にもなるぐらい、声って1つあったらあまりわかんない意味合いの声でも最後まできけるんですよ。今回Remixをしたことで、その声に対するモヤモヤ感に気づいて、今後も声を使っていきたいなと思いました。

鈴木 電子楽器とかキーボードとか入ってるバンドが周りにもいるんだけど、そういうバンドってRemixしやすいのかな?

pavilion xool 電子系が入る部分は僕が作っちゃいたいかな。

——Remixをしてもらったことで、バンドとして気づいたことは?

鈴木 僕らは本当に生の楽器しかないから、Remixに縁がないんだろうなってずっと思ってたんですよね。でも今回してもらったことで新しい気づきが多くて勉強になった。

下田 今回のRemixは本当にpavくんとのコミュニケーションだなって思った。自分で気づいてないところを褒められた気分になるよね。

鈴木 このRemixをすごいいいものに感じてるから、愛を感じるよね本当に。

内城 そういう意味で楽しかった。

下田 僕らには作れないものに仕上がったから、僕らを聴いてこなかった人たちにも聴いてもらえるようなものになったと思うし、逆にPavくんにとってその逆もあるのかなって思ってて。最初に話したようにRemixでお互いのリスナーの幅が広がったらいいよね。

——もし今よりも更にコラボすることによって幅を広げるとしたら、どんなことを一緒にしていきたいですか?

鈴木 イベントとかで一緒にできたらっていうのは一番かな。

村上 それがきっかけだし、pavくん自身もいろんな人とコラボすることが多分仕事だし。僕らとだけじゃないから絶対。

pavilion xool そうですね、僕が主体のイベントを一回もやったことないんで、もしそれをやる時は、ちゃんと生の音をやって、やっぱりセットで1人だけじゃなくて、ベースの部分を生で弾いてもらったり、ドラムをやってもらったりだとか、そういうのでなんかやってもらいたいなと思ってます。

下田 ザ・ポスタル・サーヴィス(The Postal Service)とかめっちゃ好き。そういうのがやりたいな。

pavilion xool 僕それ知らないんですよ。それ何ですか?

下田 これね、すごいのよ。ザ・ポスタル・サーヴィスの由来も、デス・キャブ・フォー・キューティー (Death Cab for Cutie)のベン・ギバードとトラックメイカーのDntelがDATを送りあって完成させたアルバムなんだよね。Dntelがベースになるトラックを考えて、それにベン・ギバードが歌やギターを重ねていったとか。

pavilion xool 共作しましょうか? 共作したいですね。何かアイデアあったらください、僕も送るんで。

下田 ちょっと一曲やってみようか!

——(笑)。Remixをすることになった時もこんな感じでポンポンポンって決まったんですかね?

pavilion xool 確か。

鈴木 Remixを作ってみたいって思ってたんですけど、頼めるトラックメイカーってあんまいないし、トラックメイカー自体を全然知らなかったので、どういう頼み方すればいいのかって全然わからなかったんです。で、そんな時にリリースパーティーに出演してもらったpavくんのライブをみて、あとライブ前とかに話してみて、結構音楽的にわかりあえる部分があったので、頼もうってなって、即決だったよね。

——共通点がでも多いからこそ、今回のRemixが完成したのだと改めて思いました。I Saw You Yesterdayとpavくんの話を聞いてると、バンドとトラックメイカーがコラボすることは無限大の可能性がありますね。

pavilion xool あると思いますそれは。

——フィーチャリングの楽曲も楽しみにしてますね。ありがとうございました。

下田 ありがとうございます。

RELEASE INFORMATION

Topia – Pavilion Xool Remix

Remixをする理由と共通点|トラックメイカー・pavilion xoolとバンド・I Saw You Yesterdayインタビュー interview_isyy-pavilion-xool_1-1200x1200
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