2019年5月20日、渋谷WWW Xにて2度目の来日公演を行ったMichell Zaunerによるソロプロジェクト・Japanese Breakfast。悲しみや母との死別をテーマにした前作『Soft Sounds from Another Planet』は現在もロングセラーが続き、2018年にはコーチュラ・フェスを筆頭に全米の音楽フェスからのオファーが殺到している。
ライブ当日、どこか懐かしいローファイ・ドリームポップなサウンドに彼女の華やかで胸の奥をくすぐるような歌声、そして彼女の音楽の世界を隅まで引き延ばすようなバンドサウンドは、音源とはまた異なる一面を見せてくれたように思う。さまざまなフェスに引っ張りだことなり、各地で高い評価を得たこともあってか、余裕のある圧倒的なパフォーマンスには目を見張る。2017年よりも遥かに飛躍した彼女の魅力をたっぷりと感じられる、素晴らしい一夜となった。
今回は、約2年ぶりのリリースとなった“Essentially”について聞きながら、日本でもじわじわと人気を集めている彼女の魅力をインタビューで紐解いていく。
Interview:Japanese Breakfast
――前作から、新曲の“Essentially”がリリースされるまでの2年間はどのような日々を過ごしていましたか?
とにかくツアーをたくさんしていたかな。他には、『Sable』というゲームのサウンドトラックを作ったし、VICEの『MUNCHIES』という料理番組のシリーズにも出演したし。Better Oblivion Community CenterやCharly Blissのミュージックビデオを作ったりね。今は、ちょうど本を執筆しているところ。少し前にThe New Yorkerに寄稿した『Crying in H Mart』というエッセイを基にした私小説を出版をする予定なの。
――音楽以外にも、かなり色々なプロジェクトに携わっていたんですね。かなり忙しそう。
確かに、忙しい毎日だった。今思えば、与えられた機会をなるべく利用するようにしていたんだと思う。今回リリースした“Essentially”はずいぶん久しぶりの作品なんだけど、このアジアツアーが終わればオフの時間がたっぷりあるから、やっと次のアルバム制作に取りかかれそうで、今からすごく楽しみにしているの!
――それはうれしいお知らせですね。新曲“Essentially”は、どのようにできた曲なんですか?
あの曲は、バリのWホテルに到着してから書いたの。今までは完成した曲を持ち込んでレコーディングをすることが多かったんだけど、今回は滞在しているうちに新しい曲を作りたくなってね。スタジオがエレクトロ向けの設備だったこともあり、いざ目の前にしたらもっとアップビートで踊れる曲を作りたくなって、できた曲が“Essentially”だった。
私のなかで、次のアルバムを作るのを少し恐れている部分があったの。なぜかというと、最初の2枚のアルバムが「悲しみ」をたくさん歌った作品だったから、次に進んで新しいものを作り始めるのが怖かった。悲しみを手放す準備ができていなかったのかもしれない。でも、本の執筆を通じて気持ちと記憶の整理をしたことで、やっと前に進む準備ができたの。次はもっとアップビートなものにしよう!ってね。なのに、何も悪いことが起こらない生活のなかで曲を書くのって結構大変で(笑)。ここ3年くらいはかなりポジティブな気持ちで過ごしていたから、新しい曲を作るのはチャレンジでもあるの。
――では、“Essentially”は、前に進むための大きなチャレンジになったんですね。
そう。“Essentially”は、「また音楽に惚れ直す」っていう、その新しいチャレンジについて。音楽には今までたくさん救われてきたけど、今は私の仕事にもなっているし、パーソナルな部分をたくさんの人が見ているから、少し気持ちが離れちゃっていたのかも。だから、また音楽に惚れ直すことが重要で、今はじっくり時間をかけて、また次の作品を作ることに純粋にワクワクしたいと思っているの。これまでは、リリースとツアーを繰り返していたけど、次ははっきりと理由を持って作品作りに挑みたい。周囲に期待されているからとか、仕事だからとか、レーベルに言われたからとかではなくてね。よりパーソナルなものを作りたいし、伝えるべきことを持っていたい。“Essentially”は、そのプロセスを見つけ出すことについての曲なの。
Japanese Breakfast – Essentially(Official Audio)
――Japanese Breakfast以前に、Little Big Leagueというバンドもやっていると思うのですが、制作をしていくなかで、新たに発見したバンドとソロの相違点はありますか?
以前にもバンドを組んだことはあったけど、初めて真剣に打ち込んだのがLittle Big Leagueだったの。主に私が曲を作るけど、みんなそれぞれのパートを作るっていう作曲方法だったから、他のメンバーが納得していたら、気に入らなくてもOKって言うしかなくて。他にも、アーティスト写真や物販、アルバムジャケットとか……話し合うべきことはたくさんあるけど、妥協や衝突が多かったかな。その点、Japanese Breakfastは、私がプロデューサーであり、制作者であり、ビジュアルも含めたすべての世界観の責任者でいることができる。Japanese Breakfastがより多くの人の心に響いているのは、統一した見せ方を徹底しているからだと思う。このプロジェクトの方が、衝突も少なくて、楽しめている気がするの。ひとつのプロジェクトに対して4人全員が大切に思うことって素晴らしいことだと思っているし、人と共同で何かを作ることもたまに恋しくなるけど、バンドはよくも悪くも民主主義だからね。
――2018年は、コーチュラ・フェスを筆頭にさまざまなフェスに出演されていましたが、普段の公演とはどこが違いましたか?
音楽フェスは本当に大好き!好きな理由のひとつとしては、セットリストの組み方が普段とは違うこと。普段の公演は、もっと長いセットを通じて来てくれた人のさまざまな感情を導かなければいけないけど、フェスはずっとワオ!ワオ!っていう明るい感情だけでしょ?盛り上がる演出が好きだから、フェスってすごく楽しいの。見栄を張って一番よく見せようとしている部分もあって、自分の幅が広い曲のなかから盛り上がるセットにして、突き抜けて楽しむことができるし。サウンドチェックの時間が短かったりして、たまにカオスなときもあるけどね!(笑)でも、そういう衝動的なのも含めて好き。
――自身が楽しんでいるからこそ、お客さんにも楽しさが伝わったのかもしれないですね。普段の公演以上に、大勢の前で演奏した体験はどうでしたか?
大勢の前で演奏するのも好き! これまで出演したどのフェスも、たくさんの人が見てくれたことも本当にラッキーだったと思ってる。有名なバンドの裏になってお客さんが誰もいなくて残念な気持ちになることもあるっていうけど、私たちはなぜかいつもいい位置で、かなりラッキーだったの。すごくいい経験になったと思う。
――最後に。先ほど、現在は次回のアルバムを制作中と言っていましたが、どのような作品になりそうですか?
今はまだわからない!(笑)いざ、スタジオに行くと足が撃たれたようにフリーズしちゃって。どこを目指したいか、っていうアイディア自体はあるんだけど……。私にとって一番の試みは、悲しみや母を失ったことについてをテーマにした2枚のアルバムだったから、3枚目はもっとアップビートでハッピーな作品にしたいと思っているの。でも、実際にスタジオに入ってみるまでどうなるのかわからない。
――また、新しいJapanese Breakfastの側面を見ることができそうですね!今から楽しみにしています。
多分私は、以前よりも自信に満ち溢れたソングライター・プロデューサーになったから、もっと鮮やかで堂々とした作品を作るために、自分の背中を押してあげられると思う。だから、アップビートでフェスっぽいものをできれば作りたいね。全曲フェス!みたいな(笑)。
Text by あたそ
Photo by Kazma Kobayashi