神聖な均整を壊すには
音楽ブログがインディーシーンを定義していた 2011年、その時代感覚を代表する音楽ブログ「Gorilla vs Bear」に紹介されたJesse Ruins(ジェシー・ルインズ)は、音楽性はもちろんのこと、個人かグループなのかも分からないその名前の持つ匿名性と、情報の少なさによる実体の不明瞭さが時代の空気と要請に見事に合致し、瞬く間に世界の注目を集めることになる。
その後 UKの〈Double Denim〉からファーストシングルをリリースすると、その頃、最も人気のあったインディーレーベルの一つである USの〈Captured Tracks〉がJesse Ruinsと契約したことを発表する。そして翌2012年同レーベルは『Dream Analysis』を EPとしてリリースする。
その当時、世界のインディーシーンに目を向け、レコードを買っていたものにとって〈Captured Tracks〉というのは特別なレーベルであった。そこから日本人がレコードを出すということは、それも奇をてらったものでもなければ、テクノのようなインストでもなく、ボーカル入りのポップソングとして正面から挑んでやり遂げたということは、喩えるなら身体能力や環境に差のある日本人選手がNBAのトップチームで活躍することくらいの快挙だったのではないだろうか。
とは言え全てが順調に推移していった訳ではない。2012年に〈Captured Tracks〉より出る予定だったファーストアルバムは既に制作されていたにも関わらずレーベル側の都合によりキャンセルされ、2013年になりレーベルを〈Desire〉に変えリリースされることになる。しかし〈Captured Tracks〉との契約ができず結局アルバムを出せなかったバンドもいくつかあるなかで、レーベルを変えたにせよアルバムをリリースできたことは、この熱しやすく冷めやすいインディー界隈において、一時のハイプに終わらず、アルバムを出すに足る実力があると認められたということではないだろうか。
このように世界基準で活動を続ける東京の孤高のバンド・Jesse Ruinsが、ファーストアルバム『A Film』のリミックス EP『Fractured Holy Symmetry』をリリースする。この機会に、ファーストアルバムのこと、本作のこと、そして自身の立ち位置である海外と日本のインディーシーンについて曲作りの全てを担当するNobuyuki Sakumaとボーカルとシンセサイザーを担当するNahに聞いた。
Interview:Jesse Ruins
Nobuyuki Sakuma[Bass]、Nah[Vocal/Synth]
ーーまず初めにファーストアルバムについて教えてください。ファーストアルバム『A Film』で目指したかったことは何でしょうか。
Nobuyuki Sakuma(以下:S) 『Dream Analysis』が世に広まったときに、ぼやっとしていて、どうしようかなと思っていた Jesse Ruinsの世界観をこういう感じでいこうと決めて。気分が変わってもその雰囲気でアルバムとして一つの作品としてまとめようと思ったんです。
Jesse Ruins “Dream Analysis”
ーーアルバムをリリースしての手応えはどうですか。
S EPのときよりもアルバムの方がコンセプトがしっかりしているから、あ、Jesse Ruinsってこういうことをやりたいんだっていうのは伝わったんじゃないかなって思う。
Nah(以下:N) 一連のアルバムのライブが終わった時に手応えというか実感しました。色々な意見を頂いたりして、アルバムの捉え方は人それぞれだと思うけれどやりたい事は伝わっているのかなと。
ーーメロディーから日本の叙情性や日本性を感じる。それについては意識していますか。
S 意識半分、無意識半分。好き半分、嫌い半分ですかね。自分のメロディー感に対してちょっと日本人っぽすぎるから嫌だなと思うところもあるんですよ。もっと海外の人みたいな感じにしようかなとか。その反面、なんかこれで海外で出しているというのもありなのかなって、そのせめぎ合いというか。今の気分でアルバムを聴いたらダサい気もしたんですが、そう思うってことは逆にこれは良いかもって思いました。めちゃくちゃなこと言ってますが。
ーー洋楽が好きで洋楽を作ったが、できたものは日本人にしかできないものだった。そういうところがJesse Ruinsが海外でもオリジナルとして支持されている理由なのかなと思います。
S 日本人か韓国人か中国人か誰がやってるのか分からなくても、いいんじゃないかって作ってたけど、やっぱりできたものは日本人っぽさがあるし、なんかこいつ 90年代にテレビでJ-POPをちょっと聴いてただろってのはある。そういうのができちゃうってのはやっぱり日本人だなっていう。日本人ってのを全面に押し出している訳じゃないけど、日本人として世界でやってるってとこは意識としてある。
N アイデンティティを隠して外人に寄せてもそれは何か違うんじゃないかなという気がします。隠せるものでもないし、隠す必要もないと思うので。
S ま、結構自然体です。なんかそこで戦略立ててやってる訳じゃないし。