–––ボーカルについてはどうでしょう?
どうやってより「ダイレクト」に聞こえるかが分かってきたというのかしら。ボーカルをできるだけありのままにしたし、より前面に押し出したの。今までは他の人にダイレクトに自分の声を響かせることがちょっと怖い側面もあったから、そのチャレンジは自分には大きかったし、それが出来て嬉しかったわ。
–––今作は前作に比べてより「あなた自身」が感じられるように僕には聴こえました。この意見についてはどう思いますか?
どの部分がそう感じさせたのかは分からないけど、私自身人生のライフステージが変わったし、自分にもより自信を持てたということかもしれないわね。自分自身をより理解できたことがアーティストとしても進歩することに繋がったのだと思う。
–––シャーデーはあなたにとってずっと重要なインスピレーションであると思います。今作のいくつかの曲はシャーデーの『ラヴァーズ・ロック』を思い起こさせました。
有り難う! それは嬉しいわ。
–––アルバムを作るうえで何か参考やインスピレーションとなった特定のアルバムはあったりするのでしょうか?
シャーデーはずっと大きな存在だけど今作で特別参考にしたということはなくて、プリンスだったりフランク・オーシャンのアルバムにインスパイアされたわ。ただ必ずしも彼らのようなサウンドにしようという意味ではないけれど。後はフリートウッド・マックとか……
–––具体的にはどのアルバムですか?
『噂(Rumours)』(1977年発表)ね!
Fleetwood Mac – “Second Hand News”
–––なるほど。さっきも話してくれた通りこのアルバの「ポップさ」はプロデューサーであるベンゼルがもたらした部分が一番大きかったと言ってましたよね?
勿論! 彼らが一番ダイレクトに仕事をした相手だったから。私は「ポップ」っていうのは「どうインパクトを与えるのか」という部分が大事だと思っていて、俗に言う「ポップ・ソング」を極めたかったという訳ではなくて、もっと「良いポップ・ソング」のエッセンスを取り込みたかったということなの。キャッチーであることとか自信に満ちたヴァイヴみたいなものをこのレコードでは表現したかった。
–––他にも今作では多くのコラボレーションをしています。“Say You Love Me”でエド・シーランと、“You&I(Forever)” と“Champagne Kisses”ではミゲルと曲を書いています。彼らとの仕事を通じての一番大きな収穫は何だと思いますか?
他のアーティストと同じ部屋で一緒に曲を書いたことからはプロデューサーから学ぶこと以外にも色んなことを学べたし、面白かったわ! どうやって自分に自信を持つかということをミゲルからは学んだし、ベンゼルからはどうやって楽しむかを、ジェームス・フォードからはどうやって冷静さを保って、仕事を遂行するかを学んだわ。『Devotion』でも仕事をしたデイブ・オクムとまた仕事をしてもっと彼を大好きになったし(笑)、キッド・ハープーンとのクリエイティブな作業もとても楽しかった!
Jessie Ware – “You & I(Forever)”
–––彼らとどんな音や曲を作りたいか、事前に明確なイメージは持っていましたか?
う~~ん、そんなに固まってはいなかったと思うわ。ただアイデアを持ち寄ってスタジオで何が起こるかを見てみたという感じね。
–––ところで『Devotion』の時も精力的にアメリカ・ツアーをしていましたし、新作でも既にアメリカのいくつかのTV番組でプレイしています。あなたにとってアメリカというのはどんな意味合い、重要性を持っていますか? アメリカには多くの素晴らしいR&Bアクトが居るので、成功を勝ち取るのはとても難しいことでもあると思いますが。
私にはアメリカという場所はとっても魅力的で、とっても大きなマーケットよね。私はアメリカをツアーするのは大好きだけど、たとえアメリカでビッグになれなくても落ち込むというようなものではないと思ってるの。まず私は自分自身のために音楽を作っているし、勿論同時にオーディエンスのためでもあるけど、それは例えば「ポーランドのオーディエンスのために書こう!」っていう風に書いているわけじゃないし、(ビッグになるかどうかは)ただ身を任せるしかないことだから。ただツアーをして自分の音楽を披露している限りは気に入って欲しいし、気に入ってくれる人がいたらそれで十分満足なの。
–––あなたはよく「報われない愛」について歌っていますよね? しかし、必ずしもいつもあなた自身の体験を歌っているわけではなく、時には他の人の体験を歌っていると思います。なぜあなたは人間の「関係性」におけるそうした側面に着目をするのでしょう?
それが人々から求められているように感じるからだと思うの。私自身もそうした(感情の)テンションが好きだし、人って愛については曲の中では出し惜しみをしなくなる側面があると思う。それに(「報われない愛」を過去に経験したことがある人は)皆、今現在がハッピーでもそうでなくてもそうしたストーリーに自分を関連付けることができるし、そのために歌うという行為を私は楽しんでいるんだと思っているわ。
–––時間切れなので最後の質問です! あなたはこれからアーティストとして単に「R&B/ソウル」と括られる音楽よりももっと広く「ポップ・ソング」を書きたいという思いはありますか?
そうね、ポップ・ソングの素晴らしいところって「人々のために作られる」っていうところだと思う。もし自分がこれからも自分自身のためだけでなくて、人々のための曲を書いていくことができたら、それは素晴らしいキャリアになると信じているわ。
Jessie Ware – “Cruel”(Live at the Barbican)
(text&interview by Keigo SADAKANE)