3月12日に「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」で開催された<Yellow Lounge Tokyo 2019>。コンサートホールを抜け出してクラブを始め、様々な会場で実施している新しいコンセプトのイベントの日本での第二回目の公演には、世界中で6000万人とも言われるフォロワーを持ち、もっともストリーミングされているコンポーザー/ピアニストのJoep Beving(ユップ・ベヴィン)をはじめ、村治佳織、伊藤ゴロー、Mari Samuelsen(マリ・サムエルセン)を招いて、ごく少数の観客とともに新鮮かつ静謐なライブ空間を共有することになった。

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今回、4年の歳月をかけて完成した3作目となるアルバム『HENOSIS(ヘノシス)』を4月5日にリリースするユップ・ベヴィンのインタビューを、公演翌日に実施。公演では『ヘノシス』から“1つの世界”、“アニマ”、“アナムネーシス”をいち早く日本のファンの前で披露。「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」に展示されている作品『人々のための岩に憑依する滝』とのコラボレーションについてや、自身の音楽が国境を超えて人々の癒しとして作用している理由などを語ってもらった。

Joep Bevin / Into The Dark Blue

Interview : Joep Beving

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ーー<Yellow Lounge>での公演、非常に面白かったです。普段とは違う環境だったと思うんですが、率直にあのスペースとのコラボレーションはいかがでしたか?

本当に素晴らしい体験でした。もともと音楽というのは雰囲気で部屋を埋め尽くすというのが目的なんですが、それに加えてあの様な映像があるというのは素晴らしかったと思います。ただ、残念ながら私は鍵盤を見ていなければならなかったので、あまりそれらの映像を楽しむ余裕はなかったんですけど、あの場で公演をできて、とても光栄に思っています。

ーーユップさんの新作『ヘノシス』は内面の宇宙に向かっている内容ですが、昨日はほとんど暗闇に近い状態で演奏されていて、何かシンクロする部分はありましたか?

ちょっと難しい質問ですね(笑)。ある意味、ちょっとチャレンジングな場ではありました。というのも、楽器にアンプをつないでいなかったものですから、部屋の大きさに比べてピアノの音の大きさが小さくなってしまうようなこともあったので。ただ、ああいう環境で音楽に入りやすいということはもちろんあると思います。以前にも森の中で演奏したこともあったのですが、周りの自然の音が聴こえてきて、その中で演奏をする。そういったことは常に面白い挑戦だと思いますし、大きなことでもあります。

ーー観客はクッションに座って、しかも位置もデザインされて座っていたのですが、見た瞬間どう思われましたか?

繰り返しになりますが、光栄な気持ちでいました。私自身、ステージの上ではなくてお客さんと同じ床の上で弾くというのはとても好きですし、観客との距離感が近いという演奏方法もすごく好きです。

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――最初の村治佳織さんのギターの音はピアノよりさらに小さく聴こえたので、集中して聴いてたんですね。それからヴァイオリン、ピアノとだんだん音量は大きくなりましたが、観客が集中している感覚はありましたか?

みなさん集中して聴いてくださって。そもそも日本人の方は一生懸命聴いてくださるので素晴らしいと思います。理解しようと集中してくれる。例えばオランダだと「オランダ病」といっていいか分からなないけど、演奏が始まるとお互い会話し始めてしまう、勝手に喋り始める、それは演奏者に失礼に感じることも多いので、そういう意味で日本の観客は素晴らしいと思います。

――teamLabの映像は事前にどれぐらいご覧になりましたか?

もちろん見たのですが、「深く理解しよう」とか「意味を見出そう」というほどじっくり見る時間があったわけではないんです。でも本当に触ると反応したり、素晴らしいものであるということで、すごく心に感じるものがありました。

――デジタルですが自然を感じるような映像と、ユップさんの昨日のプログラムは関係していると思いますか?

私が昨日演奏したものは、あの環境と関係性があればいいなと思いながら演奏したんですが、ピアノというもの自身が自然とリンクしている部分があると思います。例えば森の中を歩いていると、その静寂だったり美しさだったり、心の中で親近感を得られると思うんです。それはやはりピアノも同じようなものだと思います。心地よいと感じるもの、自分が気持ち良い、親近感を感じるものという点で、ピアノと自然には関係があって、そういうところが昨日のイベントの中でも感じられたのなら良かったな、と思います。

――基本的なことなのですが、ユップさんはteamLabの存在やクリエイションをご存知でしたか?

以前聞いたことがあったんですが、改めて昨日見て「ああ、こういうことだったんだ!」と理解しました。

――あの展示そのものをどう感じましたか?暗闇の中を歩くこととか。

森の中で迷子になるような感覚というのは非常に面白いし、好きな感覚です。ちょっと感覚が混乱するようなところにいるのは面白いと思うし、あの様な場所は総じてパラダイス、理想的な空間だと思います。4時間程いたのですが、だんだん居心地がよく、家にいるような感じがしてきて。そういうものを人間が作れる、作ったということは凄いと思います。

ただ、近い将来か遠い未来か分かりませんが「あの様な環境の中で自然を経験するということが人間にとって普通になっていくのか?」、「技術やテクノロジーを使って居心地の良さを作っていくのだろうか?」とも感じました。逆に、テクノロジーを使わないとそういう感覚になれないということも、それはちょっとどうなのだろう? と。今ある本来の自然も大切にしながら、テクノロジーも両方うまく共存していけばいいな、と思いますね。

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――反語的に、そういうことをもしかしたらクリエーターも意図を込めているのかもしれないですね。

そうですね。そうだろうと思います。

――昨日のプログラムは『ヘノシス』からはピアノソロの曲を、そして過去の楽曲も演奏されていましたが、選曲はどのように決められたんですか?

昨日は3曲を新しいアルバム『ヘノシス』から紹介したかったのと、あとはセカンド・アルバムの『プリヘンション』から自分が一番好きな2曲を選び、あとは上手く曲が繋がるように考えて作りました。非常に短い時間の中で組み合わせるというのは難しいことですが、先週の土曜日にオランダのギャラリーで同じセットで演奏できる機会があって。やってみたら非常に上手く繋がって良いセットリストにできたので、今回もそれで組んでみました。

――1曲、ヴァイオリンのマリさんとブライアン・イーノ(Brian Eno)の“By This River”のカバーをされていて。個人的にも好きな曲なんです。

マリさんとはマネージャーもレーベルも一緒なのでやりやすい部分があるんです。今回、カバーしたのもとてもシンプルで印象に残るメロディで、これだけ少ない情報の中で残る、力強い演奏ができたのはいいことだったと思います。

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――ユップさんより上の世代の方にとってリアルタイムのアーティストかと思うんですが、イーノはどういう存在ですか?

もちろん尊敬していますし、本当に色んなアバンギャルドな音楽や様々な音楽をやっているので好きなんです。その中でも彼の音楽は観客を落ち着かせる要素があって、そこには「私はアーティストなんだ」っていう強いエゴとか個性を押し付けてこない。あくまでも観客が聴いて、気持ちいいと感じるものを提供している。そういう部分では非常に共感する部分があって尊敬する音楽家でもありますし、今回取り上げた理由でもあります。

――では『ヘノシス』について伺います。ユップさんはキャリアの初めにエレクトロニックな音楽表現をしていましたが、ピアノソロのシンプルな音楽性から、今回、オーケストレーションやエレクトロニックも入った音楽表現をしています。その主な理由とは?

そもそも、ソロピアノで一作目を作る前はエレクトロニックなものを使った音楽を作っていたので、むしろ一作目は原点に戻った部分があったんです。そこから今回の『ヘノシス』ではエレクトロニックなものを入れたり、色々なアレンジメントを入れたのですが、2作目の『プリヘンション』を作った時に、ストリングスを入れたり色々なサウンドデザインをやりたかったんですが、なかなかうまく合致できなくて。自分の好奇心を実現すること、チャレンジすることができなかったんです。

それをいよいよ今回の『ヘノシス』では纏まって導入することができた部分はあります。ただ、作曲の方法は変わらなくて、まずはピアノと向かい合って、そこから色々な要素を足していく。ちょっと話は変わるのですが、1作目から2作目はピアノだけ、そこからだんだん世界が広がっていくというイメージで。1作目は本当に個人というか内なる世界で、今回の『ヘノシス』はもっと宇宙に向けるというか、ズームアウトしたような音楽にしたかったので、それを表現するにはストリングスやシンセサイザーがある方がより表現がしやすかったというのが理由ですね。

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――ユップさんの音楽は世界何千万人の人にとって癒しの音楽であるわけですが、どちらかというとダークなトーンだと思うんですね。今の世界の人々にとって明るい音楽よりもどちらかというと落ち着けるというのはなぜだと思いますか?

いい質問ですね(笑)。まず一つには、メランコリックな感情というのは多分人間の感情のデフォルトにあるものだから。ほんとに圧縮された悲しみの感情というのは人間の一番心の中にあるものだと思うので、気付いた時に初めて信頼という感覚が生まれて、そこから落ち着いたりリラックスしたりという感覚を深いレベルで感じられるのだと思います。

もう一つは、暗闇という部分を理解する事で更に強くなれる、それを克服することができるから。暗闇があってこそ光に感謝して、気づくことができるという部分があると思います。

――では最後の質問です。今回はユニークなシチュエーションでの演奏でしたが、今後どンなシチュエーションでの演奏やコラボレーションをしてみたいですか?

プロジェクトはいくつかあるんですが、まだ言えないものもあるんですよ(笑)。色々言えないことが多いんですが、他にもアートとのコラボレーションも今後予定されています。詳しいことが言えなくてごめんなさい(笑)。

――もしどこででも演奏ができるならどこで演奏してみたいですか?

そうですね……富士山とか(笑)。

――(笑)。頂上は意外と狭いですよ?

じゃあ、もうちょっと下の方で(笑)。

Joep Beving & Mari Samuelsen & Kaori Muraji | Yellow Lounge – Live Stream – 12.03.2019, Tokyo

RELEASE INFORMATION

HENOSIS

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Joep Beving
2019年4月5日(金)発売
CD 2枚組 483 5209 オープン・プライス / 輸入盤
LP 3枚組 479 9875 オープン・プライス / 輸入盤

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Joep Beving

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