――どんな子供時代を過ごしましたか?
怖れが全てだった。いつも怖がっていた。四季の移ろいも鮮明に覚えている。小さなミシガンの町で育った。とてつもなく巨大なミシガン湖の近くに家があってね、雪はたくさん降ったし、つららはいつも美しかった。たくさんの恐れと、田舎の風景。夏の夕暮れに外でサッカーをしていると、ホタルがたくさん顔を出した。
――家族とは仲が良かったですか?
母親は20年前に肺ガンで死んだ。ある意味では仲が良かった気がする。でも難しい関係だったよ。僕は自分がゲイであることに悩んでいたし、母親は僕のことをあまり知らなかった。両親にうまく言えることができなくて、大変だったんだ。
――カムアウトしたのはいつだったんですか?
25歳のとき。遅いよね。
――2012年にあなたはHIVを患っていることをステージ上で告白します。ご自身がHIVポジティブと診断された時の瞬間を覚えていますか?
酷かったよ。一月の真冬の1日だった。ちょうどスウェーデンでの暮らしを始めるところだったんだ。僕はスウェーデンに一人しか友人がいなかった。彼女が世話をしてくれたよ。スウェーデンに到着するちょっと前に電話で知らされたんだ。新しい家にたどり着いたら、すぐに医者を見つけなければいけなかった。スウェーデンの一月は常に真っ暗で、雪に囲まれていて、とにかく暗い日々を過ごしたんだ。
――その時の心情はどうでしたか?
それは僕にとって目覚めの一撃でもあったんだ。テストを受けて検査結果に恐怖するなんて、僕は今までに何度もなんども味わっていた。もし「YES」だったらどうしようってね。だから実際に「YES」を聞いて、不思議に安心感を覚えたんだよ。もう心配する必要がないんだって。そう、何だかホッとしたんだ。変な気持ちだった。
――目覚めの一撃というと?
いままでの破壊的な行動について考え直すことができたんだ。例えばセックスと愛情について。僕はセックスに何を求めていたんだろう? 相手から本物の愛情を得ることができていたのか? アルコールやドラッグと一緒のように、逃げのためにオモチャのように使っていただけなんじゃないかって。セックスから愛を経験することはできなかった。僕にとってセックスはスポーツや、逃げの道具でしかなかったんだ。色々考えるようになって、ポジティブに向かったこともたくさんあったんだよ。素晴らしい人たちと、もっと良い関係が築けられるようになったし、いままでの自分の破壊的な行動を見直すことができたんだ。
HIVを持っているってこと対して、大げさになりたくなかった。僕の人生は波乱に満ちていて、もうドラマはウンザリだったんだ。もうちょっと大人に、冷静になって、なぜそれが起きたか、原因をちゃんと考えることができた。何千万人ものアフリカの子供がHIVをもって生まれてくる。彼らにはコンドームをするかしないかなんて、そんな贅沢な選択に悩んだり、破壊的な行動をする余地もないんだよ。だったらなんで僕は自分がどうでもいい存在と考えたり、自らを危険な状況に追いやったんだろう。
(HIVポジティブであることは)もしかしたらそんなに悪いことでもないのかもしれない。自分に起きたことを正当化しようってわけじゃないよ。今の状態に満足しているわけじゃないんだ。でもこの世には薬では解決できないことや、もっと難しい問題だってたくさんある。
――なぜステージでオーディエンスに伝えようと思ったのですか?
とにかく頭の中で色んな考えを巡らせていたんだ。人をあっと驚かせたいから? ただ注目を集めたいから? 違う、それは考えすぎだ。今からHIVについての歌を歌うんだ、じゃあなぜそれを伝えてはいけないんだ、なんで避けなくてはならないんだ? きっとそれは、HIVは「恥ずかしいもの」と信じられているからなんだ。僕は汚いし、いけない人間なんだと。ホモセクシュアルを忌み嫌う人たちはそれを神の天罰だと言う。そういう人に僕は「じゃあガンは何なの? それもホモに下る天罰? どちらかといえばクリスチャンの病?」って言ってやるんだ。バカバカしい。もっとオープンに話さなくてはいけないんだよ。
――年をとることについてどう思いますか?
僕が年をとることで唯一嫌なことは、若い時に若さを大事にすることが出来なかったことだ。いつも恐怖と隣り合わせだった。僕の中で何が起きているか、うまく対処することができなかったんだ。でたらめなことばかり聞かされて、子供だからすべて鵜呑みにしていた。今では怒りさえ覚えている。でも年をとるのもネガティブなことばかりじゃないよ。身体は変化するし、簡単に疲れるようになる。でも自分はどういう人間なのか、もっと分かってくるんだ。僕が僕であることに、もっと安心していられる。やっぱり残念なのは、若い頃は自分の見た目も大嫌いだったこと。いま自分の写真を見てみてもさ、そんなに悪くないんだよ。そう、最初から心配することは何もなかったんだ。あの時、もっと自分を大事にできれば良かったのにな。
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