INTERVIEW

Jon Spencer

Text by TAISHI IWAMI
Photo by Kohichi Ogasahara

     

Jon Spencer Blues Explosion(ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン)の個性について語ろうとしたとき、そのバンド名以上の言葉が思いつかない。1950年代~60年代のオーセンティックなブルーズ/R&Bへの愛と、1970年代後半~80年代のパンクやハードコア、ニューヨークのノーウェーヴ、ヒップホップなど、さまざまなカルチャーの誕生とそのアティチュードに感じた衝動を、ベースレスのギタリスト2本、タムやクラッシュシンバルのないシンプルなセットのドラムで音にして爆発させる。プリミティヴな魅力はそのままに、ガレージでできることの限界を強引に突破しようとする、ワイルドな攻撃性が生む唯一のサウンドは、90年代のオルタナティヴ・ロック・シーンにおいてひときわ輝く個性を放っていた。

以降も、00年代のロックンロール・リヴァイヴァル期にはその元祖的な存在として新作や旧作が注目を集め、インディペンデントなロックンロールが商業的な数字やシーンの規模感としては明らかに失速した10年代においても、そんな流れとは関係のない異次元の新作をリリース。また2017年に公開された映画『Baby Driver』のオープニングを飾った彼らが、1993年にリリースしたシングル“Bellbottoms”でその存在を知った人たちや、色褪せない魅力を再認識した人たちも多かったのではないだろうか。

BABY DRIVER – 6-Minute Opening Clip

そして2018年、バンドのフロントマンであるJon Spencer(ジョン・スペンサー)は初のソロ・アルバム『Spencer Sings Hits』をリリース。彼がJon Spencer Blues Explosionを結成する前に率いていたバンドPussy Galore(プッシー・ガロア)を象徴するサウンドの一つであるメタル・パーカッションをあらためて採り入れたり、ニューヨーク・パンクに直結する曲があったり、持ち前のファンクやヒップホップからくる自由且つ腰の据わったグルーヴが炸裂したりと、自身が積み重ねてきたことを、キャリア史上もっともポップな感覚でアウトプットした作品となった。

そんな同作とともに、約3年半ぶりに来日したJonにインタビュー。先に述べた90年代のオルタナティヴ・ロックや、00年代のロックンロール・リヴァイヴァルといったビッグなムーヴメントの波をどのように感じていたのか、ロックの転換期と彼の歩んだ歴史を振り返るとともに、今後のヴィジョンについても話を聞いた。

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Interview:Jon Spencer

―Jon Spencer Blues Explosion(以下、JSBX)が結成されたのは1991年。Sonic Youth(ソニック・ユース)のサーストン・ムーアが“The Year Punk Broke” = “パンクがメジャーを壊した年”だと言ったように、シアトル発のグランジが大ブレイクし、後のオルタナティヴ・ロックの隆盛に繋がった、ロックが大きな転換期を迎えた時期でした。その頃のシーンに、あなたは何を感じていましたか?

JSBXを結成したのはちょうどNirvana(ニルヴァーナ)の2ndアルバム『Nevermind』が世界的にヒットした年だった。でも、アメリカでパンクがもっとも熱を持っていたのは90年代ではなく、それより前だと思う。

―ハードコア・パンクのことでしょうか。

そうだね。俺は1985年くらいからJSBXを結成するまでPussy Galoreというバンドをやっていた。当時のアメリカのアンダーグラウンドには、一つの大きなシーンがあったんだ。まずはルーツとして、Ramones(ラモーンズ)やNew York Dolls(ニューヨーク・ドールズ)、Velvet Underground(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド)もそうだと思うんだけど、60年代や70年代のニューヨークのパンクは大きかったと思う。ハードコアは70年代の後半くらいから80年代にかけてのムーヴメントで、ニューヨークやロサンゼルスだけではなく、アメリカ全土に広がっていったんだ。音楽的には俺の好みのすべてではなかったけど、10代や20代の若者がDIY精神で自分たちのシーンを作っていたその姿勢に大きな刺激を受けて、目がカッと開いたような感覚になった。「バンドってこうすればいいんだ」、「こうやってパーティが開けるんだ」、「頑張ればツアーだってできる」って、熱い思いに駆られたんだ。

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―ハードコアのDIY精神がPussy GaloreからJSBXを結成し現在に至るまでのあなたの核にある。

俺が音楽をやっているのはとにかく演奏したいから。ツアーがしたいから。Pussy Galoreの頃は、アメリカをツアーで回っているといろんなバンドと出会って、近い考え方を持った仲間との繋がりを感じることができたんだ。俺たちのやってる音楽は主流ではないアウトサイドだけど、とにかくエキサイティングだった。だけど、JSBXを始めた頃から、あまりそういう繋がりを感じられなくなってしまったんだ。それは、単純に俺たちが年を取ったからかもしれないし、俺たちの音楽はいわゆるオルタナティヴにカテゴライズされていた多くのバンドと違って、アメリカのルーツ・ミュージックに傾倒していたからなのかもしれない。だからと言って、それからも俺たちは何も変わらなかった。

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―グランジやオルタナティヴ・ロックが隆盛を極めたことは、バンドに影響しなかったのでしょうか。

特に意識はしてなかったけど、Nirvanaが商業的に成功したことによってすべてがぶち壊しになったとは思ってる。石を持ち上げるとたくさんの虫たちがちりちりばらばらに逃げていくだろ?ちょうどあんな感じ。彼らがヒットしたことで、シーンにたくさんの企業や金持ちが乗り込んできて散々な状態になったんだ。そのせいで、これまでにいたアーティストの多くも、後に出てきたアーティストも考え方が変わってきた。バンドをやったら金になるとか、ロックスターがどうだとか、そんな話ばかり。すごく悲しかったね。

―80年代の商業的なハードロックに対するアンチでもあったオルタナティヴ・ロックに商業ベースが移った。その在り方によっては本末転倒ですよね。

俺は有名になりたいとか、プールのある家に住みたいとか、そんな夢を抱いて音楽をやっていたわけではなかった。ただの音楽に憑りつかれてどうしようもなくなったバンドマン。なのに、頭の上に$マークが見えるような奴らが湧いてきて、主流を壊したものがその対象と同じような主流になっていったんだ。JSBXのメンバー、Judah(Judah Bauer)もRussell(Russell)もそうだけど、俺が真の友達だと思ってる仲間は、Nirvanaの成功によってできた環境を「これこそ俺たちの求めていた世界だ」とは決して思わなかった。あれは俺たちが望んでいる世界じゃなかった。

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―そこであらためて、バンドのサウンドについて話し合あったことはありましたか?

いや、なかったように思う。ツアーのスケジュールとかブッキングとか、そういうことはもちろんよく話してたけど。みんな言わずとも思いはわかっていたし、音楽的なことは考えるより勘で貫いていたんだ。

―あなたらしい答えだと思います。

そう言うとカッコいいけど、今になって過去の作品を振り返って聴いてみると、周囲の動きに対して、俺自身やJSBXが理想とするものからブレたくない、俺たちのなかにある真実をだけを突き詰めていきたい、そういう気持ちがかなり強く出ているようにも思うけどね。

―時代は繰り返すもので、90年代後半から00年代にかけては、商業化したパンクやラップメタル、そしてポスト・グランジなるロックが流行し、インディペンデントなロックは厳しい時代に入ります。そこから00年代に入って、ガレージ・ロック・リヴァイヴァル、ポスト・パンク・リヴァイヴァルといったパンクやオルタナティヴ本来のエッジを持ったロックが再び広く世界からの脚光を浴びることになりました。Jon Spencer Blues Explosionは日本からの目線だと2000年に<SUMMER SONIC>のトリを飾り、2002年にはアルバム『Plastic Fang』を、2004年にはアルバム『Damege』をリリースします。これまでのキャリアと時代の流れが噛み合って、いい追い風が吹いていたと思うんです。

うん、言ってることはわかる。

―しかし活動を休止します。ここまでの話しからすると、休止の理由と今私が話したムーヴメントとは、関係ないですよね?

その通り、関係ない。さっきも話したけど、JSBXはPussy Galoreのように、ほかのシーンやバンドと繋がりを感じていたわけではなく、パーソナルな音楽への情熱だけが心を覆っていたから、俺たちの信じた道を止まることなく走ってきた。腕を磨くことこそが重要で、ゴールド・レコードになんて何の興味もなかったんだ。流行の入れ替わりなんて、いつの時代にもあって、君が言った商業的なパンクだとGreen Day(グリーン・デイ)がその引き金になった。Chemical Brothers(ケミカル・ブラザーズ)のようなエレクトロニック、DJミュージックがヒットした時にも「ロックは死んだ」って言う人がいたよね。00年代にインディペンデントなロックが流行ったことも、潮流の一つでしかない。ニューヨークだとThe Strokes(ザ・ストロークス)やYeah Yeah Yeahs(ヤー・ヤー・ヤーズ)、ほかにもThe White Stripes(ザ・ホワイト・ストライプス)やThe Hives(ザ・ハイヴス)もそこに入れるべき存在だよね。ロックンロールがクールだって時代になったのは、いいことだと思ったよ。でも、でもそれによって自分たちが大きなオーディエンスを獲得できた実感はなかったし、彼らと何かコラボしたわけでもない。俺たちは85年からロックンロールをやっていたし、今さらそこに出て行ってああだこうだ言うものでもないとも思っていた。

―そして2015年にはかつてのニューヨークがもっていた文化的エネルギーへの憧れを示すタイトルのアルバム『Freedom Tower: No Wave Dance Party 2015』をリリースしました。また今回のソロ・アルバム『Spencer Sings Hits』には、Pussy Galore期に今の感覚でアプローチしたような曲もあります。あなたは今、過去をどうとらえているのでしょうか。

この2作は過去を認めルーツを確認するようなアルバムになったと思う。でもノスタルジーでもなければ今の時代を否定しているわけでもない。俺が憧れるカルチャーがそうであったように、常に前進していきたいんだ。

Jon Spencer – I Got The Hits

―『Spencer Sings Hits』は、あなたの特徴であるベースレスの低音がアップデートされています。その強さや太さ、野性味がよりはっきりと聴いて取れる、まさに”前進”を象徴している部分だと思いました。

『Spencer Sings Hits』とJSBXやBoss Hog(ボス・ホッグ)との違いは、ソロという文字通り自分一人で曲を書いたこと。Pussy Galoreも初期はそうだったんだけど、かなり昔の話だし。バンドでリハーサルをして曲を作り上げていくのではなく、まずは自分自身で曲を完成させることが先だった。アルバムの制作はSam CoomesとM.Sordと一緒だったけど、できあがったパートを渡してるから根本的にこれまでとは違う。彼らに自分らしさを出してもらえるように幅は持たせてるし、それぞれの個性も出てはいるけどね。君が褒めてくれた低音もソロだからこそ出てきた発想の一つ。今まで使ってきたエレキ・ギターではないし、エレキ・ベースも入ってない。ストリング系ではなくシンセを使いたいと思ったんだ。

Jon Spencer – Do The Trash Can

―弦では出せない低音。それは時代感として今を意識したんですか?

そう取ることもできると思うけど答えはノー。Devo(ディーヴォ)やKraftwerk(クラフトワーク)、The Residents(ザ・レジデンツ)、自分が昔から好きなバンドへの敬意や愛情が溢れてきたことが、シンセを使った理由だね。

―今回はソロ名義での作品を初めてリリースしましたが、これからあなたはどうなっていくのでしょう。

JSBXは、俺のなかではもう終わってる。正式に発表はしないけどね。未来はわからないから。<Freedom Tower: No Wave Dance Party 2015>のツアー途中でJudahが病気になって、キャンセルした公演もけっこうあったんだ。今はもう大丈夫なんだけど、まだ再びツアーができるまでには回復していない。JSBXはJudahとRussellと俺の3人意外には考えられないバンド。だからここ1、2年はずっと悲しかった。2017年に映画『Baby Driver』で俺たちが94年に出した“Bellbottoms”が大きくフィーチャーされた時も、まさかの引きがあったのに3人で演奏はできないことが辛かった。Boss Hogのアルバム『Brood X』も出したけど、Boss Hogは「俺たちのバンド」と言えるものとはニュアンスが違う。ミュージシャンとして一歩前に踏み出したいけど踏み出せない状態が続いていたんだ。そんな気持ちに区切りをつけて前進するには、JSBXは終わったと考える必要があった。今はようやくソロ・アルバムを作り終えて、こうして日本にも来られるようになったことが嬉しいんだ。この先のことはおいおい考えていくよ。

Jon Spencer 「Spencer Sings The Hits」

This Is Jon Spencer Blues Explosion

text by Taishi Iwami
photo by Kohichi Ogasahara

RELEASE INFORMATION

Spencer Sings The Hits

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Jon Spencer
2018年11月7日発売
SICX-114E/¥2,400(税別)
Sony Music Japan International

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