――あなた自身もスタンダードなジャズに新しい要素を加えたり、ジャンルを越えて様々な音楽にアプローチしてきたアーティストだというイメージがあります。そういう人がビリー・ホリデイをカヴァーすることは、彼女の音楽に触れたことのない人にも広がるという意味で、とても重要なことのように思えますね。
ありがとう、そう言ってもらえるのは本当に嬉しいよ。でも今回は、それほど意識はしていなかったと思う。なぜなら、バスケット・ボールに詳しくなくてもマイケル・ジョーダンはみんな知っているのと同じことで、僕は「ビリー・ホリデイを知らない人はいない」と思っているからね。だから、今回はむしろジャズのコミュニティ自体に対して、こういう作品を知らしめたいという気持ちがあったのかもしれない。日本は違うように思うんだけど、ジャズの世界には、お堅い人が多いんだ。僕の前作『ホワイル・ユー・ワー・スリーピング』(ギターで作曲し、ロックやエレクトロにアプローチした)も、UKのジャズ評論家からはものすごく嫌われて、レビューをすることすら拒否されるような感じだった。たとえば日本だったら、「今回はこういうことをやっているけれど、なぜそうしたの?」と制作の背景を訊いてくれるけど、他の国では「何でそんなことをしちゃったの?」という感じでね(笑)。音楽ファンなら、アーティストがやっていることを理解しようとしてくれたら嬉しいんだけどね。何か新しいことをやっても、そのアーティスト自体が変わったわけではないんだから。
それに、ジャズの世界ではトリビュートも含めて色々な作品が出ているけれど、その中にはアーティストにとって深い意味をなしていないものも沢山あるように感じられるんだ。だから今回は、自分にとって深い意味のある曲を、ちゃんと知ってもらいたいという気持ちで作ったんだよ。僕は自分にとってこれだけ意味があると思えるものは、他の人にとっても意味深いものであるはずだと信じているからね。だからジェイソン(・モラン)やジョン(・パティトゥッチ)、エリック(・ハーランド)、そしてドンもそうで、この作品に彼らが関わっているということも、とても意味のあることだったんだ。
――なるほど、よく分かりました。最後に、様々な音楽に詳しいあなただからこそ、最近の音楽の中で好きなものやいいと思えるアーティストを教えてもらえますか?
去年よく聴いていた作品というと、ベックの『モーニング・フェイズ』とビヨンセの『ビヨンセ』だね。<グラミー>のことでちょうど問題になっている2人なのでアレだけど……(<グラミー賞>の年間最優秀アルバム部門発表の際、賞を受賞したベックのスピーチの邪魔をしようとカニエ・ウエストが登壇するそぶりを見せ、その後「あの賞はビヨンセにあげるべきだ」と発言したもの)。でも本当に、僕はどちらの作品も大好きだし、この2つは’14年によく聴いた作品なんだ。ベックの『モーニング・フェイズ』は、ストリングスの使い方が素晴らしい。ディアンジェロの『ブードゥー』以来、最高の音を出している作品だよ。バンドの音も、プロダクションもとても素晴らしいと思う。そしてビヨンセのアルバムは、あれほどメジャーなアーティストにもかかわらず、シングルとして正式に発表するものもなしに、とてもパーソナルなものをするっと出してしまうという……。そういう自分ですべてのクリエイティヴ・コントロールを持って作られた作品だということにとても感銘を受けた。だからこの2枚がちょうどお気に入りで、よく聴いてアーティストとしても勉強しているところなんだ。
Beck – “Blue Moon”
Beyoncé – “Yoncé”
(text&interview by Jin Sugiyama)
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