半蔵門ANAGRAにて開催された原 淳之助による個展<≃>(ニアリーイコール)。
デカルトは間違いない事実を探した結果「われ思う、ゆえにわれ在り」と残している。自分が考え思っていることだけは疑いようがない。本展では、自分が見ているものは本当に他人にもそう見えているのか。その見え方は正しいものなのかということをコンセプトに、Instagramの#workout(筋トレの自撮り)などを基にしたグレートーンの展示が行われた。SNSの解釈を問うアートは多くあるが、その中でもかなりシュールな個展だったはずだ。
彼は物事をどう捉えているのだろうか。現在大学で助手業をしながら、作品を制作しているという原 淳之助に話を伺った。
ーー現在の作風について教えてください。
私たちとイメージとの関わりや、ものの見方をテーマにした作品を作っています。最近作っている立体物は、鑑賞者だけでなく、カメラからの見え方を考えて、
ある一点にカメラを置いた時以外は波打つように歪んだ形状に見えるようにコンピュータ上で計算し、
計算結果を3Dプリンターで出力しています。
立体物の中に、鑑賞者以外の視点、カメラの視点を織り込むことで、
それら複数の視点からの見え方を重ねる運動を起こす場を作ることを試みています。
ーーなぜ、今のようなスタイルになったのですか?
学生の頃から、あまり自分のこれってスタイルがずっと無くて、あちこちに手を出しながら色々な実験みたいなことをやっていました。でも、去年の夏ぐらいに今の作品のやり方を発見しまして、自分でも手応えを感じられたので、珍しく続けています。
ーーご自身のスタイルに影響を与えたと思う人はいますか?
ネットサーフィンや、展示をまわっているときに見た作品だけではなくて、友人との会話や、テレビゲームや映画など、日常の色々なところで影響は受けてると思います。
今回の作品では、オリバー・ラリックの作品の影響が大きいです。
ーー今最も気になっているモノ・コトは?
よく気になるのは、何かと何かの間です。例えば、「遠い」「近い」って感覚の境目はどの辺かってことが気になったりします。
ちょっと立体を作るのに疲れたので、以前実験で作った「I’m Sorry」っていう謝罪してる総理の顔が自分の顔に
入れ替わっている映像を発展させられたらと思ってます。
自分が見ている人間は誰なのかわからなくなる感じがすごくいいなと思ってます。
ーー挑戦したいアイデア・テーマはありますか?
顔を入れ替える動画を作る時に「Fake Porn」の技術が気になって試しました。
ポルノ動画の女優の顔を、ハリウッドセレブの顔に入れ替えた、
いわゆる「アイコラ」の動画版で、海外で流行っちゃって問題になったみたいです。
でも、そのおかげで元々あった顔を入れ替える機械学習の技術を「Fake Porn」作成用に
誰かがパッケージングしたり、チュートリアルをあげてくれたり、
すごく使いやすくしてくれてるんです。
おかげで自分レベルの技術力でも試せました。
ーーInstagramについて何か思うことはありますか?
Instagramという媒体に合わせて文化が発展しているのが面白いなと思ってます。
それで良いことも良くないこともあると思うんですが、
変化を見るのは楽しいですね。
作品は、「インスタ映え」をやたらと叩く人たちを見て、嫌な気持ちになったことがきっかけですね。
「インスタ映え」を気にして現実の行動が変わったりするのって、
興味深い事象だと思うので、頭ごなしに否定するのではなく、
何かそこから拾えるのではないかと思って制作しました。
ーー今後の未来、SNSというメディアはどうなっていくと思いますか?
自分が高校生の時、mixiやモバゲーが流行っていたけど、
今はもう廃れているように、またInstagramもどっかで廃れて、
新しいプラットフォームができてっていうのを繰り返すと思います。
その度に、そのプラットフォームに合わせた変化が起きるのが楽しみです。
ーー原さん自身は、SNSをどのような気持ちで使っていますか?
他の人がどう使ってるかわからないですけど、
自分はその媒体に合わせて自分が変わることを楽しみながら使ってます。
ーー好きなもの・趣味・ハマってるモノ・コトを教えてください。
テレビゲームは大好きです。最近、オープンワールドのゲームが多いから特にですけど、
みんな同じ敵キャラに苦戦した話をして盛り上がる時があっても、
それぞれ違うステータス、違う装備、違う操作で戦ってるから、
違う体験をしているんだなと気づいて、面白いなと思いました。
「Detroit:Become Human」ってゲームは特にストーリーの分岐が多くて、
人と話した時にめちゃめちゃ面白いです。
展示準備で積みゲーがいっぱいあるので、これからずっとゲームする期間に入りたいです。
ーー今後、どうなっていきたいと考えていますか?
今回の作品のスタイルは気に入っているので、まだ続けるつもりですけど、
あまりスタイルを定めずに、色々なことをやっていきたいなと思ってます。
年寄りになっても完全新作を作れるような作家でいたいです。