ヒップホップアーティスト/ラッパーであり、現代日本の新しいポップアートを牽引する旗手・かせきさいだぁによる新作個展<KASEKI POP 2023〜SUMMER TIME〜>、および氏が影響を受けた東京のクリエイターを紹介するPOP UP展<TOKYO POP by KASEKI CIDER>が8月20日(日)より渋谷elephant STUDIOの1Fと2Fにて、同時開催される。POP UP展は『ドラゴンヘッド』や『ちいさこべえ』で人気の漫画家・望月ミネタロウ、東京のPOPを代表するイラストレーター・白根ゆたんぽの二人を迎え、かせきさいだぁの作品も交えてのグループ展となる。

2023年夏、かせきさいだぁが展示する新作で着目されるのはプール。イギリスの画家、デイヴィッド・ホックニーの某作品をテレビゲームの背景のようなタッチの絵に変えてしまう、“かせきポップ”が抜群に効いている。ポップアップ展はかせきさいだぁの絵と彼が影響を受けた2人の作品と並ぶことで、かせきさいだぁの新たなポップの文脈を堪能できるはずだ。

本記事では、かせきさいだぁと彼が所属するWATOWA GALLERY代表・小松隆宏のインタビューをお届けする。展示に足を運ぶ前にぜひ一読してほしい。

INTERVIEW:
かせきさいだぁ

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巨匠を“かせきポップ化”する

──今回の新作個展について教えてください。どういった経緯で実現したのでしょう?

小松隆宏(以下、小松) かせきさんはうちの所属作家の1人で、1年に1回個展を開催していこうと話をしていました。去年の個展後、今年どうするか相談していて「かせきさいだぁといえば夏でしょう」とまとまり、今夏に開催となりました。

かせきさいだぁ 夏ということで、今年はプールで行こうと。今まで人の絵のカバー的な取り組みをずっとやってきたんですけど、今回は初めてゲームのキャラクターを入れました。最初にデイヴィッド・ホックニーさんが描いた絵を僕がサンプリングして描いたのですが、少し寂しい。そこで、小松さんに「何か、かせきさいだぁ的な何かを付け加えてみては?」と言われまして。雑なことを言うなって思ってたんですけど、僕自身ナムコで働いていたこともあるくらい大好きなパックマンを描き加えたら、確かにすごい可愛いくなって。展示ではその最初の絵とパックマンの敵キャラを加えた絵を並べてます。

小松 かせきさんはラッパーでもあり、ヒップホップのベーシックな手法としてのサンプリング(アート的にいうとアプロプリエーション)、つまり誰かの作品を引用しながら何か付け足すことで新しい作品にする。これが1つの文脈になっています。かせきさんはヒップホップの感覚で自然と何でも可愛くしちゃう癖があって、それでタイトルも毎回「KASEKI POP」。かせきさんの作品自体をポップにすることに意義があるんです。だからデイヴィッド・ホックニーという1960年代のポップの巨匠をさらに“かせきポップ化”する、さらに可愛くしてポップアートにしちゃう。さらに、日本を代表するゲームのキャラクター、パックマンを乗せる。海外の人でも有名でMoMAにも収蔵されてるこのキャラクターが入ることで、さらに日本的に、かせきさんなりのリクリエーションを行ったのがこの作品のシリーズになりました。

かせきさいだぁ この頃のホックニーさんの絵の特徴として、水以外は水平垂直が多い。それで自分が描いてみたら横スクロールのゲームの背景みたいになった。その視点が良くて、勝手に人の絵をテレビゲームの背景みたいにしちゃう面白さがありました。

小松 かせきさんの絵は全体的にカクカクで、ある意味それがかせきポップの一つのあり方で、ゲームに見えたのもかせきさんの感覚。ゲーム好き、可愛いもの好き、フィギュア大好きなかせきさんだったからこその感性でだから「ここに何かキャラクター入れないんですか?」って。

かせきさいだぁ 自分がちょっと困ってる時に、雑にいろんなこと言ってくれるんですよ(笑)。でも、やってみたら面白かった。

小松 この展示はゲームでいうと全部横スクロールで面が進んでるという見え方にもなりますよね。

かせきさいだぁ ねぇ。そんなゲームすごくやりたい。この面はホックニーで、こっちはモネとか、そういうゲームがあって作れたらめちゃめちゃ面白いですよね。昔ゲームの絵を描いてたので、そういう気持ちを思い出しました。

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引き算、そして引用に宿る作家性

──ホックニーさんの作品を復習してから展示を見るとより楽しめそうですね。次にポップアップ展について教えてください。望月ミネタロウさんと白根ゆたんぽさんのお2人を迎えられて、3名のグループ展となっています。どういったアイデアからポップアップ展を開くことになったのでしょうか?

かせきさいだぁ ポップアップ展も小松さんのアイデア。僕が影響を受けた人の絵を一緒に並べたら、かせきさいだぁの絵の文脈の一つが見せられるからどうでしょうと言われて、望月さんと白根さんにご連絡しました。

──かせきさいだぁさんは望月さんや白根さんの絵にどういった魅力があると思いますか?

かせきさいだぁ ミネタロウ先生は細かく描いてるんですけど、構成はとてもシンプルで都会的、洗練されたデザインになってる。僕も細かく描くのは好きなんですけど、あんなに線や構成を少なくして魅せられるのはすごい。それに和を感じますよね。日本の作家は、僕もそうですけど、黒いラインを描いてる。アートに黒いラインが入るのは浮世絵とか、日本文化のものなんですよね。アートに黒いラインが入るのは。学校でアートを勉強すると西洋のアートから入るんですけど、黒いラインを入れるとめちゃくちゃ怒られてたんです。でも学校を卒業したらもう、黒いライン入れまくり。それは浮世絵の影響で、日本の文化だと思う。漫画やアニメも全部黒いライン入ってるじゃないですか。漫画など描き込む魅力もありますが、イラストだったりシンプルに描いてる人たちには、そのシンプルさに驚かされてます。

僕は桑沢デザイン研究所という専門学校に通っていたんですが、ゆたんぽさんは同級生なんですよ。それで学生時代はスチャダラパーや音楽チームと一緒になっていたからゆたんぽさんとはそんな話をしてなかったんですけど、僕も絵も描くようになって、ゆたんぽさんにいろいろ教えてもらいました。当時からゆたんぽさんはすごく応援してくれたんですよ。そして、絵が仕事として成り立つようになるまでを見てくれてた。

ゆたんぽさんは昔は違う質感の絵を描いてたんですよ。それから急に可愛い感じの女の子を描き始めていた。その絵をインターネットで見て、最初はゆたんぽさんだと思わなかったんですよね。その作者をよくよく見たらゆたんぽさんだった。そのテイストの絵の初期の頃の展覧会に行って、僕も色々相談して。人物を描くときにどこまで省略するかとか、技術的なことじゃなくて「この感じだと誰かの作風と被っちゃう」とか、ということも教えてもらった。ゆたんぽさんはとても博識で、オリジナルの作風を追及できました。絵だけじゃなくて、そういった部分も引き算的ですよね。

──そのお二人に加え、江口寿史さんにも影響を受けているとお話をお伺いしました。

かせきさいだぁ 江口先生は一番最初に、漫画画なのにその引き算をやって見せてくれた人で。例えば『ストップ!! ひばりくん!』もすごく今に通じるものがあるし、今の作品もそう。いろんな線を減らして、しかもとてつもなくおしゃれにしてる。我々の世代はみんなものすごい影響を受けていると思います。ミネタロウ先生やゆたんぽさんも同じように、わかりやすく描くところは描いて、省略するとこは省略する。そのバランスがすごくいい。

──江口さんは音楽のジャケットワークなどもされているかと思います。音楽面から考えると、かせきさんは「黒いライン」など先ほどの話に出てきた日本的な要素をふんだんに盛り込んだ音楽を制作されていますよね。ちなみに、かせきさんは最近音楽制作などされているんですか?

かせきさいだぁ コロナ禍は新曲を出してもライブができなかったじゃないですか。その頃までは小さめのサイズの絵を描いて、個展を開いたりしていたけど、家にいる時間が長くなったそのタイミングでみんな絵を買ってくれるようになったと思うんです。それから絵もスケールが大きくなった。でも、音楽の気持ちもあって新曲を作ったりしてますよ。

小松 音楽もアートもトータルでかせきさいだぁというのが好きですね。ヒップホップ的に言ったらこんな引用の仕方をしてるし、アート的に言ったらこんな引用をしている、それが全てかせきさいだぁになっていく。今までは「絵描きは絵描き、ミュージシャンはミュージシャン」という認識が世界の主流だったと思うんですけど、その流れも変わった。かせきさんはその中の1人だと思うので。

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「売れてる人って出来上がりが可愛い」

──“かせきポップ”には世界性がありますよね。かせきさんのポップセンスはゲームなどからきているかと思うのですが、それ以外にもインプットしているものがあれば教えてください。

かせきさいだぁ 普段はとにかく映画とかアニメ、テレビも色々見てます。『所さんの目がテン!』とかで、それこそ「浮世絵を科学する」というテーマのものだったり。そういうのも子供向けの番組がわかりやすいので、そういうのをいっぱい見るんです。図書館で子供用の歴史の本を借りて読んだりしてる。かっこつけて書いてないんですよね。

日本の図鑑に載ってたのは、ゴッホは初期の作品とか普通に上手なんですよ。でも途中からこれぞゴッホっていう下手な絵で描くようになる。最近、ゴッホが弟さんとやりとりをしていた手紙が見つかって、その頃、弟さんに手紙で「僕が習ってきた西洋美術のスタイルだと、農家の人たちの生活が描けない」と相談したりしてる。あの人はいつも弟に手紙で相談していて、「俺はこうじゃないと表現できないと思ってる」と書いたりもしてる。だからわざと下手に描いてる。昔の画集は洋書が安く手に入りやすかったりしていたけど、今は日本の研究者がこういったことをちゃんと書いてくれていて、そういうのをブワーッと読んだりするのは良いですね。

──ちゃんとした意図があり崩して描いているという文脈が伝わるだけで全く違う視点で楽しめますよね。

かせきさいだぁ うん。それと、売れてる人って出来上がりが可愛いなって思って。ゴッホやピカソ、アンディ・ウォーホル、キース・ヘリング、バスキア、ホックニーも、出来上がりが可愛い。日本にもキティちゃんだったり、可愛いって言われてきた物はたくさんあるけど、出来上がりが可愛いと言えるのはアートも同じ。アートも可愛い方がいいなって。

──“ポップ”と“可愛らしさ”がキーワードになってくると。先ほどの図録じゃないですが、そういう視点で今回の展示の楽しみ方を教えていただけますか?

かせきさいだぁ 1階の展覧会は、西洋の影響を受けながら、それを日本人的にどう描くか、ということで、“東京ポップ”になってるんじゃないかなと思います。俺たちは結局日本人なんだっていう。

小松 ゴッホやモネなど印象派時代の人たちには浮世絵の影響を受けてる人が多いんですよ。葛飾北斎の模写をしたりしてるんですよね。

かせきさいだぁ 有名な話で、日本からフランスに輸出した陶器が割れないように浮世絵の漫画みたいなものをクッションにしたんですよね。それを向こうで開いてみたら「なんだこれ!?」って。

小松 それでパリ万博の担当者たちがそれを持ち帰って、西洋美術史に影響を与えていくという話です。それからジャポニズムが広がる。そのジャポニズムに影響を受けたモネとかの絵が日本人を魅了して、その絵も日本にやってくることになる。それに影響を受けたかせきさんだから、結局彼らの絵を描きたいと思うことにも繋がってますよね。そして今回はデイヴィッド・ホックニーという20世紀の作家に切り替わった。一気に近代に寄って、かせきさんの引用がどんどん現代に近づいてる。そういう展覧会でもあると思います。20世紀のものが21世紀に描かれるというこの流れが、もしかしたらまた新しい文脈になるのかもしれない。

かせきさいだぁ 去年描いたモネの作品は最初、元の作品と同じように青の背景で描いてたんですけど、銀と金色に塗ったら日本の屏風絵にそっくりになった。モネも日本のことを考えて描いていただろうし、文化が合体していくような感覚があった。今回もホックニーを自分流に描いてると思ったらテレビゲーム風になってたし、そうして文化が入れ替わっていくような面白さがありました。

──じゃあかせきさん流の新しいジャポニズムとも言えそうですね。最後に、絵や音楽を問わず、かせきさんの作品には夏をモチーフにしたものが多く出てくると思います。かせきさんにとって、夏はどんな季節ですか?

かせきさいだぁ 夏のイメージは大好きです。外に出ると暑くてゲンナリするんですけど、やっぱり 夏は楽しいものがいっぱいあるんですよね。それに、夏を表現する言葉はたくさんある。それに夏は生が強くて、エモい部分が多くなるというか。だから音楽や絵に関しても、そういうところがみんなに引っかかりやすいのかな。誰にも分からないのも寂しいし、みんなに分かってもらいたい気持ちもある。自分でも夏を自然と選んじゃっているのかもしれない。でも、やっぱりどこか寂しさもあるんだよね。

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INFORMATION

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KASEKI POP 2023〜SUMMER TIME〜
TOKYO POP by KASEKI CIDER

2023.08.20(日)〜09.03(日)※火曜定休/観覧にはご予約が必要です
12:00 – 19:00
elephant STUDIO 1F & 2F 東京都渋谷区渋谷2-7-4 elephant STUDIO 1F,2F
主催:WATOWA GALLERY(WATOWA INC.)
入場料:ドネーション ¥500〜
※08.23(水)、08.30(水)は観覧無料/アーティスト支援と国内アートシーンの活性化を目的としたアートアワード WATOWA ART AWARD 2023 EXHIBITION に寄付されます

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