ジャズ・ドラマー/プロデューサー/MCとして唯一無二の地位を築いているカッサ・オーバーオールKassa Overall)。待望となる彼の来日公演が、10月19日(木)に渋谷・WWW X(SOLD OUT)、20日(金)にBillboard Live Osakaでそれぞれ開催。また、21日(土)には<朝霧JAM 2023>にも出演する予定だ。

今年5月にリリースした3rdアルバム『ANIMALS』にはダニー・ブラウン(Danny Brown)にローラ・マヴーラ(Laura Mvula)、リルB(Lil B)、ヴィジェイ・アイヤー(Vijay Iyer)、ニック・ハキム(Nick Hakim)と、多種多様なフィールドのゲストが多数参加。その摩訶不思議かつジャンルが混濁しきったサウンドは大絶賛を浴びた。

この怪作『ANIMALS』、ひいてはカッサ・オーバーオールとは一体何者なのか。例えば『ANIMALS』リリース時のインタビューで、カッサはそのスタイルについて「ジャズ+ラップ+メンタルヘルス=自分」と端的に表現していた。様々な要素が合流する地点として、彼は積極的に動き回り、音を編み、今も己の内面と向き合い続けている。

今回は彼の言語的な感覚にフォーカス。この稀代のアーティストがいかに言葉と相対し、言葉を紡いでいるのかについて聞いた。前日に日本へと到着したばかりのカッサへ、まずはリリースされたばかりの新曲“2 Sentimental”に関する話題から、その創作の源流へと迫った。

INTERVIEW:Kassa Overall

「リリシスト」Kassa Overall、インタビュー|怪作『ANIMALS』を育んだ言葉への誠実さと人間性への考察 interview231018-kassaoverall-4

──まずは昨日リリースされた新曲“2 Sentimental”について聞かせてください。サリヴァン・フォートナー(Sullivan Fortner)と2018年に作ったデューク・エリントン(Duke Ellington)の楽曲の再構築とのことですが、どのような経緯でリリースに至ったのでしょうか?

彼(サリヴァン・フォートナー)がリビングに置いてあるグランドピアノで“In a Sentimental Mood”を弾いていたんだ。素材にドラムやベースを足したり、細かい調整を加えて、5年後の2022年に完成した。ふとした時にリリックが思いついたりして、それを乗せたりもしたよ。ただそれで作業が終わったわけじゃなくて、実は1ヶ月くらい前にスタジオのピアノでもう一回レコーディングをしたんだ。だからピアノから始まって編集して編集して編集して……そして最後にもう一度ピアノを録ったことになる。大きな円を描くみたいにね。

──この曲はアウトキャスト(OutKast)“Git Up, Git Out”の象徴的なフレーズから幕を開けます。なぜこのラインを引用したんですか?

《get up, get out and get something》だね?……正直なぜかはわかんない(笑)。ただ、リリックで言いたいことやフィーリングについて考えているときに、“Git Up, Git Out”が自分の中で呼び起こされたんだ。別にあの曲の引用から書き始めたんじゃなくて、曲にフィットする言葉を考えていたら、昔から聞いているアウトキャストを思い出した。そこと繋がるものを見出したんだよね。

2 Sentimental

Outkast – Git Up, Git Out(Official Video)ft. Goodie Mob

──表現したかったメッセージやフィーリングはどういったものだったんですか?

……最初にリリックを書き始めた時、自分のキャリアと新しく曲を作ることについて、とても落ち込んでいたんだ。ライターズ・ブロック(注:新しい作品や創作への意欲が低下してしまう状態)に陥ってた。それで、何も良いものが生まれてこない状況で、《get up, get out and get something》というアウトキャストのラインを思い出したんだ。ここから抜け出して、何かを作らなきゃならない。ヒットソングでなくても、サバイブするための何かを作る。そうやって自分を奮い立たせるために、また書いていったんだ。

──“2 Sentimental”の《tryin’ to light the gloom/I gotta write a thing》というラインからは、そういったポジティブなメッセージを感じました。

そうだね。ポジティブなものはネガティブから生まれるんだ。

──ライターズ・ブロックに陥っても言葉を書き続けるほど、リリックに意欲的だったということでしょうか?

言葉だけじゃなくて、サウンドに関してもそういう状態だったんだよね。ただ自分の場合、インストゥルメントの部分は出来上がっているのに、そこにどういう言葉を乗せていいのかわからなくて詰まることが時々あるんだ。それで考え続けてダメになる時もあるし、言葉に合わせてトラックを変えることもある。ハマらなくてボツになることもあるよ。それくらい言葉を紡ぐのは大変なんだ。

「リリシスト」Kassa Overall、インタビュー|怪作『ANIMALS』を育んだ言葉への誠実さと人間性への考察 interview231018-kassaoverall-11-1

──楽器だけでも曲が成立する場合もあるとは思うんです。それでも、そこにリリックを乗せるのはなぜでしょうか?

インスト曲も作るし、もちろん好きだよ。ただ、僕は長い間ドラムばかりを演奏していて、リリックは全く作っていなかった。自分の声で表現することを特別視していたんだ。言葉はサウンドよりも意味が明確に表現される。だから自分が100%納得できるものを乗せたくなるんだ。

──最初にリリックを書いたのはいつですか?

4歳の時かな(笑)。

──それから歳を重ねるにつれて、どのような言葉に影響されて今に至るのでしょうか?

魂から出ている言葉。スピリチュアルで、エモーショナルで、信用に値する言葉。そういうものに惹かれたんだ。

たとえば、ボブ・マーリーのリリックにはそれがある。《説教師は「天国は地面の下に在る」なんて言わない/君は人生の本当の価値を知らない、僕はわかってるよ》(“Get Up, Stand Up”)。意味がわかるかい?簡単には理解できないリリックが好きなんだ。それが難しくても、解読の作業をするべきだよ。

Bob Marley – Get Up, Stand Up(Live at Munich, 1980)

──このアルバムには自身の言葉のみではなく、今作『ANIMALS』には多くのラッパーが参加していますよね。ダニー・ブラウン(Danny Brown)、ウィキ(Wiki)、リル・B(Lil B)、シャバズ・パレセズ(Shabazz Palaces)たちの言葉が収録されています。彼らへの印象を教えてください。

彼らはユニークなアーティストであり、思想家だ。そして僕のレコードに参加しているアーティストは、みんなコミュニケーターなんだ。彼らには一切ディレクションをしていない。唯一無二の存在で、彼らの参加によって従来の視点とは異なった世界観がアルバムにもたらされる。自分には表現できないことを彼らは表現してくれるんだ。

──客演陣のリリックに初めて触れた時は、どのような印象を抱きましたか?

興奮したよ! 自分でコントロールできない物語が立ち上がって、それが転がっていくんだ。映画を見てるみたいだったよ。

「リリシスト」Kassa Overall、インタビュー|怪作『ANIMALS』を育んだ言葉への誠実さと人間性への考察 interview231018-kassaoverall-6

──ラッパーの他にも、『ANIMALS』には多数のシンガーが参加しています。これまで以上に、言葉が重要な役割を占めている作品であるように感じました。アルバム全体のリリックのコンセプトを教えてください。

制作の過程で、コンセプトは意識していなかったんだ。それぞれが繋がりのない、別個の曲として『ANIMALS』は作っていった。だから、もしコンセプトをアルバムから読み取ったならば、君の潜在的な意識が働いて物語を暴いたのだと思うよ。

ただ、客演のボーカルを録って編集している時には、アルバム全体の共通点を探して作るようにしたんだ。ビートの上で誰かがラップをしたり歌ったりして、僕がそれを全体の流れに沿うように作り直す。彼らの表現に反応して、それをフィットさせる作業が必要になるんだ、パズルみたいにね……(苦笑)。

「リリシスト」Kassa Overall、インタビュー|怪作『ANIMALS』を育んだ言葉への誠実さと人間性への考察 interview231018-kassaoverall-12

──その共通点とは、一体なんですか?

『ANIMALS』とは「僕たちがお互いにどういう扱いをしているのか」ということのメタファーなんだ。アフリカン・アメリカンとして、そしてセンシティブな一人の人間として、僕はサーカスや動物園の動物、もしくは野性の動物のような気分になることがある。つまり、これは「人間性の基準が様々である」ことの考察なんだ。同じ人間でも、その基準には高低差がある。その中で、僕らは互いにどう接するのか。そういった人間の関係性を描いた巨大な絵画こそ『ANIMALS』なんだ。

──ありがとうございます。最後に、これから開催する日本でのショーについて教えてください。どういった編成のライブなのでしょうか?

僕はドラムとボーカルとエレクトロニックを担当する。トモキ・サンダースがサックス、ドラムマシン、パーカッション、ボーカル。ベンジー・アロンスがコンガ、ドラムマシン、ボーカル。イアン・フィンクがキーボードをそれぞれ演奏するよ。マルチジャンルの音楽的な実験さ。アルバムに近いような音だけど、どんどん押し広げて、アバンギャルドで超実験的なことをするよ。覚悟してね(笑)。

「リリシスト」Kassa Overall、インタビュー|怪作『ANIMALS』を育んだ言葉への誠実さと人間性への考察 interview231018-kassaoverall-3

取材・文/風間一慶
撮影/Yohji Uchida
編集/船津晃一朗

INFORMATION

「リリシスト」Kassa Overall、インタビュー|怪作『ANIMALS』を育んだ言葉への誠実さと人間性への考察 interview231018-kassaoverall-10

東京公演 *SOLD OUT
2023.10.19(木)WWWX
OPEN 18:00/START 19:00
前売 ¥7,000(税込/別途1ドリンク代/オールスタンディング)
※未就学児童入場不可

大阪公演
2023.10.20(金)Billboard Live Osaka
開場/開演(2部制)
1部:OPEN 17:00/START 18:00
2部:OPEN 20:00/START 21:00
チケット:S指定席 ¥8,500/R指定席 ¥7,400/カジュアル席 ¥6,900

朝霧JAM’23
公演日:2023年10月21日(土) – 22(日)
会場: 富士山麓 朝霧アリーナ・ふもとっぱら
MORE INFO: 朝霧JAM 2023 – It’s a beautiful day
https://asagirijam.jp/

「リリシスト」Kassa Overall、インタビュー|怪作『ANIMALS』を育んだ言葉への誠実さと人間性への考察 interview231018-kassaoverall-9

label:Warp Records
artist:Kassa Overall
title:ANIMALS
release:2023.05.26

詳細はこちら配信はこちら