2021年以降、音楽や映像、アート作品などのエンターテインメント分野でNFT(Non-Fungible Token:ノン・ファンジブル・トークン)の人気が急速に高まっている。

NFTブームが起きた2021年には、デジタルアーティストのBeepleのNFTアート作品が約75億円、ミュージシャン/DJの3LAUのNFTアルバムが約12億円で落札されるなど、高額でNFTが取引されたことも注目を浴びた。

またNFTコレクションの「Bored Ape Yacht Club」が人気を博し、新たなアートのムーブメントが生まれるなど、NFTは現在、先述のような既存の著名アーティスト以外の新興アーティストにとっても、アートシーンへの参入のきっかけを与えるものとして機能している。

そのような状況が世界的に広がるなか、日本を拠点に活動するカズシフジイ氏もNFTを通じて自身のクリエイターとしての可能性や活動の幅を広げている1人だ。

INTERVIEW:カズシフジイ

NFT×アート|クリエイター・カズシフジイが語る自身の価値観を変えたNFT interview220808_fujiikazushi_2

アート参入への障壁を崩すNFT

2021年にNFTに参入して以来、国内外のNFTランキング上位にランキングするほか、これまでに300点以上のNFTが完売するなど、この分野で目覚ましい活躍を見せているカズシ氏だが、元々はグラフィックデザイナー/コラージュアーティストとして活動。これまでにアドビ主催の国内外のコンテストにて多数の賞を受賞するなど、数々の実績をあげている。

以前から自分の仕事の宣伝も兼ねてコラージュアートのポートフォリオをオンラインで公開していたというカズシ氏は、NFTの存在を知り、自身のコラージュアート自体にも価値が出ることを前向きに捉え、世界最大級のNFTプラットフォーム「OpenSea」でMint(ミント)し、NFT化したという。クリエイターがNFTで自分の作品を販売するメリットについてカズシ氏は、こう語る。

「フィジカルのアート作品を商品として販売する場合は、そもそも作品のクオリティやそれを作るための技術自体の高さが求められます。またその条件をクリアして、販売するにしても、作品を販売してくれる業界の方と繋がったり、販売を委託できるイベントやギャラリーを探したりと、新規参入の敷居が高い。でも、NFTアートの場合はNFTプラットフォームに自分の作品を出品さえすれば販売できます。この点を考えるとNFTアートには、これからアートを販売したい人にとって、これまでの実績を問わず、誰でもどこからでも参入しやすいというメリットがあるといえます」

ファンコミュニティでの交流が生む新たなNFTアート

とはいえ、NFTアートの販売はフィジカルのアートのように誰かが販売してくれるわけではない。そのため、カズシ氏はフィジカル以上に自分で情報発信していく姿勢が求められるという。

「NFTアートは、SNSが得意なクリエイターの作品が売れる傾向にあり、購入してもらうためにはSNSを活用しながら自分のファンコミュニティを作っていく必要があります。僕の場合は、NFTアートを始めた当初からSNSのコミュニティに積極的に参加して、そこで情報収集したり、交流しながら自分のファンコミュニティを広げていきました」

現在、自分のNFTアートの購入者との交流を目的としたコミュニティを運営しているカズシ氏だが、そこでの交流は、従来のフィジカルのアートシーンには見られないユニークなものになっている。

例えば、NFTアートの購入者にカズシ氏のNFTアートを印刷して販売する許可を与えたり、またカズシ氏のNFTを購入した方がそのNFTにアレンジを加え、自身の作品にしたものをカズシ氏の個展に出展できるようにするといった取り組みも行っている。さらに購入者と一緒にNFTアートの企画を考えることもあるというが、最近では新たにファンコミュニティとの交流の一環として、これまでのNFT購入者にカズシ氏による5,000点の本格的なジェネラティブアート作品のホワイトリストを獲得できる権利を特典として付与するといった試みも実践している。

このような取り組みは、カズシ氏が自分のNFTアートを購入してもらうには、交流を通じてファンコミュニティに購入するメリットを示すことが重要だと考えているからだ。カズシ氏によると、そのような姿勢が今後の自身の活動へのさらなる支援に繋がっていくという。またこういったファンコミュニティとの交流は、フィジカルのアート作品よりもNFTアートの方が適しているとカズシ氏は考えている。

「NFTアートはDiscordなどのオンラインコミュニティを通じて盛り上がることが多く、離れたところに住んでいるメンバー同士でも気軽にオンラインで交流できるというメリットがあります。物理的な距離に縛られることなく、好きなクリエイターとの交流を通じて、支援できるところにもNFTアートの魅力があります」

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NFTを通して変わったアートに対する価値観

しかし、NFTアートに対しては、クリエイターからの否定的な意見もある。NFTアートを純粋なアートコレクションのためでなく、投機目的で購入する者も一定数いるからだ。そのようなNFTアートのある種のマネーゲーム性は、これまでにもNFTアートの課題として議論されてきたが、カズシ氏自身はそのことについては、柔軟に捉えている。

「投機目的のみでNFTアートを購入する人だらけになってしまうのは確かに問題です。ただ、投機目的でNFTアートを購入する人の中にも、コレクションとしてどうしても手に入れたいという純粋な動機で購入するという人は実は多い。僕個人としては、その場その場でNFTアートを購入する目的が違ってもいいと思っています」

そういった課題はあるものの、NFTアートには、アートシーン全体の拡大に貢献している面もあるとカズシ氏。

「去年まではNFTに参入するアーティストの数自体が少なかったこともあって、これまでの実績よりも、NFTアートそのものに対する期待が評価され、その結果購入に繋がるケースがよく見られました。そういった動きがあったことで、これまでアート市場に参入する機会が与えられなかったクリエイターたちにも活躍の場が広がり、結果的にNFTアートはアートシーン全体の拡大に貢献することになったと考えています」

またカズシ氏は、NFTにはアーティストに限らず、社会全体にポジティブな影響を及ぼす力があると語る。その理由は、障がいを持つ方々とコラボレーションしたNFTアートコレクション『Kawaii Girl Collage Eureka』を通じて、これまであったアートの障壁が取り払われたと感じたからだ。

「自分とのコラボを通じて、障がいを持つ方のアート作品を販売できる環境を作れたこともNFTだからこそ実現できたことだと思っています。また最近では地方創生とNFTをリンクさせる取り組みも見られるようになりましたが、NFTは使う人の工夫次第でリアルの世界にもポジティブな影響を与えることができると考えています」

カズシ氏は、自身のNFTアートを制作する上で「実績のあるコラージュアートでNFTアートを作ること」と「NFTはオンラインを通じて世界中で取引されるからこそ、自分のルーツである日本文化を感じる要素を取り入れること」を強く意識しているという。特に日本文化を感じる要素は、カズシ氏のNFTアートのウリになっており、そこが世界中にいるNFTコレクターをそそるポイントになっている。こういった他にはないオリジナリティを打ち出していくことが、世界を相手に販売できるNFTアートで成功を収める秘訣のようだ。

クリエイターが語るAdobeのSNS「Behance」の有用性

カズシ氏の作風であるコラージュアートは、アドビのグラフィックデザインソフト「Adobe Illustrator」と画像編集ソフト「Adobe Photoshop」を駆使して制作されているが、アドビが運営する、世界最大級のクリエイターのSNS「Behance」もカズシ氏の活動を支える上で欠かせない。

Behanceは、世界中のクリエイターが自身の作品を公開しているSNSで、クリエイターはそこで公開されている作品から刺激を受けたり、ヒントを得たりするだけでなく、自分の作品を公開して評価やコメントをもらうことも可能だ。

カズシ氏は、クリエイターに特化したSNSであるBehanceを利用するメリットについて、他のSNSよりもクリエイターが発見されやすく、そこでの発信を通じて、クリエイターを探しているクライアントと直接つながることができる点を挙げる。

またBehanceには、NFTアートのポートフォリオを公開する機能も実装されているが、この機能についてカズシ氏は「Behanceで公開しているNFTアートは、外部のNFTマーケットプレイスとも連動しているので、そこで興味を持ってもらえれば、NFTアートの販売にも繋がりやすい」とNFTクリエイター視点で利用するメリットを語る。

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アドビの吉原氏によるとこの機能は、コロナ禍で経済的な打撃を受けたフリーランスのクリエイターの経済的自立を支援していくことを目的に実装されたというが、Behanceには他にもクリエイター支援を目的にしたさまざまな機能が存在する。そのひとつが、Behanceに属するクリエイターを対象にサブスクリプション機能を導入したことだ。それによりクリエイターは自分のフォロワーから直接サブスク費用を受け取ることができるようになった。

さらに、デジタルアート作品が容易に盗用され、作品の真正性について社会問題になっている状況を受け、アドビはデジタル作品にクリエイターが自ら編集内容や権利関係の情報などを埋め込むことができるクレデンシャル機能を昨年Adobe Photoshopにベータ版として実装した。

この機能では、アーティスト名やデジタルコンテンツの制作来歴、データの編集内容を明示することができるため、NFTクリエイターは自分が作ったNFTアートが本物であることを証明可能になる。また購入希望者も、NFTマーケットプレイスで販売されるNFTアートの真贋の判定がしやすくなるなど、カズシ氏のようなNFTクリエイターにとっては、購入者との信頼関係を築く上で大いに役立つ機能になっている。

このようなクリエイター支援ツールもNFTアートの発展においては大きな役割を果たすようになるなか、カズシ氏は今後これまでよりも規模が大きいNFTアートのプロジェクトに自分発信で取り組みたいと語る。また、自身のNFTアートを通じて、これまで以上にクリエイター支援にも取り組んでいく構えだ。

「現在は、たくさんのクリエイターがNFTアートに取り組んでいます。しかし、その中にはSNSでの発信が得意ではなく、上手く自分の作品を広げることができないなど、伸び悩んでいる人もいます。今後は、『Kawaii Girl Collage Eureka』のようなコラボプロジェクトを通じて、そういった人の支援にも取り組んでいくつもりです」

さらに現在のNFTアートシーンについては、盛り上がりを見せてはいるものの、まだ参入しているのは一部のクリエイターに限られていると実感することもあるという。そのことを踏まえてカズシ氏は「今後はこのムーブメントがより広がりを見せ、長くクリエイターが活動していける業界になることに期待しています」と締めくくってくれた。NFTアートを通じて、より多くのクリエイターが持続可能な活動を行えるようになることに期待したい。

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Text by Jun Fukunaga

PROFILE

カズシフジイ

NFTクリエイター、コラージュアーティスト、アートディレクター。フリーランスで活動し、さまざまな分野のデザインを手がける。アドビ主催の国内外のコンテストで多数の賞を受賞。NFTでも国内外のランキング上位に入り、複数のコレクションを運営し、300点以上のNFTが完売。初のジェネラティブNFT5,555枚が即完売。現在も様々な企画を運営中。

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