KDDI (au 5G)渋谷区が手を組み、現実とバーチャルを繋ぎ合わせた新たな文化を創出するべく発足した『渋谷5Gエンターテインメントプロジェクト』。昨年9月から取り組みをスタートし、今年1月に本格始動した同プロジェクトが、もうすぐ1周年を迎えようとしている

『渋谷5Gエンターテインメントプロジェクト』は、コロナ禍の難しい舵取りを余儀なくされつつも、『バーチャル渋谷』の立ち上げ、バーチャル空間での大規模イベント<バーチャル渋谷au 5Gハロウィーンフェス>の開催など、大きな成果を残してきた。この一年間を振り返ってもらうべく、仕掛け人であるKDDI株式会社・革新担当部長三浦伊知郎さんにインタビューを敢行。三浦さんがどのようにKDDIと関わり、『渋谷5Gエンターテインメントプロジェクト』を推し進めていったのか。その経緯と込められた想いについて、話を聞いた。

INTERVIEW:
KDDI株式会社 三浦伊知郎

バックパックにフェス開催。
キャリアの礎となるカルチャー

<DIESEL XXX>、<バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス>の仕掛け人KDDI三浦伊知郎が 5G時代に描く未来とは interview201210_miura-03-1440x960

━━はじめに、三浦さんがKDDIという会社でエンターテインメント事業に関わることになった経緯を教えてください。

もともとKDDIという会社は他のキャリアに比べて、エンターテインメントに造詣のある会社だったんですね。早い段階からLISMOという音楽配信サービスを展開していたり、日本発のレイブイベントである<WIRE>に協賛していたりと、エンタメを理解しようとする姿勢やカルチャーが脈々とあったんです。そこで、イベント事業部に加わりイベントの事業化に力を入れていきたいという意向があり、これまで大小様々なイベントに関わってきた経歴のある私が選ばれました。

━━KDDIがエンタメ系イベントに力を入れようとした理由はどこにありますか?

今、携帯キャリア3社はどこも「5G」についての戦略を打ち出していますよね。とはいえ、まだ全国に十分普及しているとは言えない段階にあります。そこで、KDDIとしては現在を「5G時代」になるとこんなにも楽しいことが待っているんだということを伝えるティザーフェーズだと位置付けて、エンタメ方面を充実させていこうと動いています

━━三浦さんはKDDI入社以前から、様々なイベントやフェスの企画・運営に携わってきました。そうしたキャリアを志したきっかけは?

僕は親の代から渋谷のど真ん中生まれで、ずっと渋谷のカルチャーを感じて育ってきたんです。90年代に渋谷が世界有数のレコードの街だった頃には少しDJやっていて、ずっとテクノやエレクトロニック・ミュージックに影響を受けてきました。学生時代にはバックパッカーとして世界60カ国以上を放浪して、色んな場所のフェスや音楽イベントにも足を運んでいます。その経験が自分のキャリアの礎になっていると思いますね

━━KDDI以前に関わってきたプロジェクトをいくつか教えてください。

これまでにクラブでの小規模なものからフェスまで、何百本というイベントを企画・運営してきました。以前はDIESELというアパレルブランドにいたのですが、そこでは<DIESEL:U:MUSIC>というプロジェクトでグローバルな新人発掘イベントを取りまとめていました。また、2008年・DIESEL30周年の節目には、幕張メッセを会場にして<DIESEL XXX>という音楽フェスを開催しています。<DIESEL XXX>は世界18カ国の会場で時差に沿って行われたのですが、日本が最初の開催地になったんですね。そこで、せっかくやるのであれば、数百人を招待するだけのセレブパーティではなく、一万人規模のフェスをやろうと思い立って、イタリアの本社で開かれた会議で私が提案したんです。

━━DIESEL退社からKDDI入社までの間にも、多くの大規模イベントに携わっていますね。

DIESELを退社して少しの間、自分の会社を設立してフリーで活動していたのですが、その時期には<BIG BEACH FESTIVAL>の立ち上げにも関わりました。主にやっていたのは、企業の協賛などを取りつける代理店のような仕事ですね。そこで苦楽を共にした仲間が<Red Bull Air Race>を日本に誘致するということで、2015年の初年度には実行委員に加わっていました。

<DIESEL XXX>、<バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス>の仕掛け人KDDI三浦伊知郎が 5G時代に描く未来とは interview201210_miura-01-1440x2160

KDDIと渋谷。
エンタメでタッグを組む理由

━━KDDI入社後は、5G技術を使った新しいエンターテインメントの在り方を追求してきました。そもそも、KDDIが5Gをエンタメと組み合わせて打ち出したのは何故でしょうか?

まだまだ5Gが全国的に普及していない中で、KDDIとしては「5G時代」の期待感をわかりやすく伝えるための一つとして、エンタメ方面を充実させる動きになりました。まだ何に使えるのか周知されていなくても、とにかく楽しいことをやっていれば人は集まります。それに、エンタメであれば実験的なことを試すことができます。

5Gは通信システムですから、多方面で活用できる技術ではありますが、多方面に活用できるとアピールしても、結局何ができるのか、何が起こるのか分かりづらくなってします。そこで、あえてエンタメに特化して盛り上げようと立ち上げたのが『渋谷5Gエンターテインメントプロジェクト』です。

━━そこで渋谷区と組むことになった経緯を教えてください。

もともと渋谷は、区長自らエンターテインメント・カルチャーを発信する街と言っていて、エンタメ方面にオープンな区なんですね。一方で、私たちKDDIは5Gを使った実験的なエンタメを試せる場所を必要としていた。

そこで、KDDIが渋谷を壮大な実験場とすることによって、渋谷区のエンタメ発信源としてのイメージを確立する一翼を担えるのではないか、渋谷区の持つ諸問題・課題を解決する一助となれるのではないかとタッグを組み始めました。

━━具体的に、これまでどのような取り組みを行ってきたのでしょうか?

昨年9月から、渋谷のとある場所でARアプリを使うとアートが浮かび上がったり、曲が聴けるようになったりするようなイベントを毎月のように行ってきました。12月には、世界規模で開催されている電子音楽とデジタルアートのフェス<MUTEK.JP>を渋谷ストリームホールで実施。渋谷という街とデジタルクリエイティビティを組み合わせた施策を積み重ねてきて、本格的な始動となったのが今年の1月です。

━━今年1月に『渋谷5Gエンターテインメントプロジェクト』を始動させてすぐに、コロナウイルスが猛威をふるう事態となってしまいました。プロジェクトも修正を余儀なくされたそうですね。

修正せざるを得なかった企画として、『攻殻機動隊』とのコラボイベントがありました。そもそも、渋谷は街を回遊されにくいという課題を抱えていたんですね。皆、スクランブル交差点付近で写真を撮ったり、ショッピングを済ませてしまったりして、渋谷の他の場所に人が拡散していかなかった。

そこで、KDDIとNetflixが組んで企画していたのが『攻殻機動隊』のイベントでした。それは、渋谷の色んな場所に訪れてARアプリをかざすと『攻殻機動隊』のコンテンツが見られるという内容だったんですが、コロナの影響で実際に人を動かすことが出来なくなってしまいました。

━━どのような修正が行われたのでしょうか?

もともと、渋谷のスクランブル交差点付近は人が多すぎるため、バーチャル化した第二の渋谷を作るという『バーチャル渋谷』の構想も動いていたんです。そこにコロナ禍が重なって、スクランブル交差点にさえ人が集まらなくなるという事態になったため、1カ月半くらいで予定を早めて5月に『バーチャル渋谷』を立ち上げることにしました。『攻殻機動隊』のイベントも全てのコンテンツを『バーチャル渋谷』内で開催することになりました。

<DIESEL XXX>、<バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス>の仕掛け人KDDI三浦伊知郎が 5G時代に描く未来とは interview201210_miura-04-1440x960

リアルな場所の代替から、
ハイブリッドなプラットフォームへ

━━『バーチャル渋谷』では、10月末の<バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス>がかなり話題となりました。この企画を開催した意図を教えてください。

ここ数年、悪い意味でも話題になっていた渋谷のハロウィーンは、区の目線で見ると何とか解決しなければならない課題だったんですね。治安や警備の問題もありますし、例年のような状態だと会社としても踏み込みづらいイベントでした

ただ、今年はコロナ禍で例年のようなハロウィーンがより避けるべき状況にあったので、区と協議してバーチャル空間でハロウィーンをやりましょうという話になりました。「#StayVirtual」という標語のもとで区と歩調を合わせて、バーチャルの方に人を流すことで、リアルの人の動きを抑制でき、区が抱えていたハロウィーンの課題解決になる

一方で、我々としても『バーチャル渋谷』という空間を作り、どう活用していこうか検討しているフェーズだったので、街の課題を解決しつつお笑いや音楽の大規模なフェスを開催できる良いチャンスだと思い、実施に至りました。

━━<バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス>には、世界中から約40万人がアクセスしたそうですね。この成功の要因はどこにあったと考えていますか?

<バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス>をやる上で、コンテンツはカオスなものにしたいという想いがありました。やるのであれば、子供から大人まで、あらゆる層をカバーする内容にしたかったんですね。そうしたカオスなブッキングは、リアルでやろうとすると客層の分散によって人が集まらない可能性が高いですから、バーチャル空間だからこそ意義があると考えたんです

そこで、日程・時間帯ごとにNHKと組んだり、VTuberと組んだり、DOMMUNEと組んだり……と、リアルでは実現できないことを可能な限り詰め込んでみました。結果的には、カオスといっても「ビューティフル・カオス」になってくれたかなと思います。

━━今後の『バーチャル渋谷』の課題はどこにあると思いますか?

『バーチャル渋谷』は渋谷区公認のプロジェクトですから、全く実態と異なる渋谷にはできません。公共のプラットフォームとして、渋谷区の行事などが開催できる場所にしていかなければいけませんし、我々としてはライブやフェスなども積極的に行っていきたい。このような公共の場をバーチャル化する事例は日本で初めてですから、まだルールを作っていくフェーズにあると思っています。

区が公認する公共プラットフォームとして安心して利用できるように管理しつつ、自由に人が行き交う場所にしていくために、どのようなルールを設けて運用していくべきなのか? それはこれから考えていかなければいけない課題ですね。

━━『バーチャル渋谷』は、今後どのような場所になることを目指しているのでしょうか?

一つは単純に、イベント会場としての使い道を広げることですね。コロナ禍の最中にある現在においては、ライブハウスやクラブの代替として機能しつつ、コロナ禍が終わった後にはハイブリッドな相乗効果が生まれるプラットフォームにしていきたいと思っています。コロナ後にクラブに行ったら、生でもバーチャルでも楽しめるものになれば良いな、と。

他には、バーチャル下での広告ビジネスにも可能性があると思っています。今はイベント時にだけ人が集まるという状態なので、どうすれば常に人がいる状況にできるのかは今後の課題ですが、常に一定のトラフィックがある状態になれば、インターネット広告と同じようなバナービジネスも可能になるのではないかと思います。区としてもKDDIとしても、目指しているのはバーチャルでの体験をリアルの渋谷に反映させていくことですね。

━━最後に、三浦さん個人としての今後の目標を教えてください。

僕個人としての目標は、<auフェス>を開催することですね。バーチャルフェスを開催して分かったのは、やっぱり生が一番だということです。<バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス>を通してキッズ向けのコンテンツやVTuberとのコラボなど、自分の得意分野ではない内容も含めて掛け合わせるとどういう事が起きるのか、良いシミュレーションが出来たと思います。

バーチャルで色々な実験を試すことができれば、それをリアルに反映させることが出来る。今後もバーチャルの自由さを最大限に利用して、最終的にはリアルを追求していきたいと思っています

<DIESEL XXX>、<バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス>の仕掛け人KDDI三浦伊知郎が 5G時代に描く未来とは interview201210_miura-02-1440x960

三浦伊知郎

KDDI株式会社 革新担当部長
成蹊大卒。1996年よりNTT(日本電信電話株式会社)、Ogilvy and Mather、DIESEL JAPAN 広報宣伝室マネージャーを経て、PRコンサルティング会社立ち上げ。
その後2017年、KDDI株式会社にてイベント事業立ち上げとプロモーション等をメインとした領域の革新担当部長に就任し、2020年1月に、渋谷区と共に『5Gエンターテイメントプロジェクト』を立ち上げ、渋谷発の5G、テック&エンターテイメントビジネスの創出を主導。
現在50社を超える民間企業が参加中。日本初の自治体公認「バーチャル渋谷」の立ち上げを立ち上げる。
趣味と実益を兼ねて1995年より約5年間日本、オーストラリアにて大規模フェスティバルの立ち上げとプロデュースにも従事。また、学生時代より世界60カ国以上の旅して廻る会社員トラベラーとしての顔も持つ。

INFORMATION

渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

詳細はこちら