Qeticが新たにローンチするライブドキュメンタリー動画シリーズ「Keep A L1ve」。その第1弾として、異色のラッパー釈迦坊主が登場する。オープニングCGは、釈迦坊主のイベントにレギュラー出演するVJ、球根栽培が担当。彼のライブの魅力が凝縮された動画の公開と合わせて、この度インタビューを敢行した。
トラップを主軸にしながらも独自に音楽性を拡張させていく、釈迦坊主の妖艶で謎めいたラップスタイルは、ヘッズからギャルまで多様な人々を魅了させる。彼がオーガナイズするパーティ<TOKIO SHAMAN>は毎回満員になり、昨年は1,000人規模の恵比寿LIQUIDROOMで実施するまでに成長した。徐々にヒップホップ・シーンを侵食していく釈迦坊主本人にライブへの思いを聞かせてもらった。
Interview:釈迦坊主
釈迦坊主としての初ライブ
━━今回公開される「Keep A L1ve」の第一弾として撮影されるまでの流れを教えていただけますか?
きっかけは恵比寿Baticaの店長の鈴木さんがQeticを紹介してくれたことからです。僕はメディアと繋がるのが苦手なんですが、鈴木さんに導かれました(笑)。元々4年前にSoundCloudから出演オファーをいただいてから知り合って、<TOKIO SHAMAN>の前身となるイベントは一番最初渋谷nostyleで始めたんですが、途中から恵比寿Baticaで開催することになって、もう4年以上の付き合いです。
━━今や<TOKIO SHAMAN>はLIQUIDROOMという大きな規模で開催するに至っていますが、時を戻して、初めてライブしたときについて聞かせていただけますか?
釈迦坊主として活動する前にバンドをしていましたが、ライブの機会はありませんでした。スタジオに入ってオリジナル曲を演奏するだけで、人前で披露する前に解散しちゃいました。釈迦坊主としては、2012年に御茶ノ水のKAKADOという小さいクラブでの出演が初です。いろいろな曲をカバーするシンガーソングライター、他にもうひとり、釈迦坊主の3人というよくわからないイベントで、完全に駆け出しの頃って感じですね(笑)。
━━初めてのライブはどうでしたか。緊張しました?
緊張したけれど、やはり楽しかったですね。その時にライブをすることで本当の自分でいられる瞬間を掴み始めたというか、釈迦坊主として内なる自分を爆発させ始めたような。でも今まで自分を隠して生きてきたので、裸の自分を見てもらう機会がなく、丸裸すぎて恥ずかしいという意味で緊張をしていました。その時のライブの内容は、アンビエントなトラックにポエトリーリーディングをするスタイルだったので、今とはぜんぜん違うんですよ。
━━そこから今のスタイルに繋がっていくようなライブはありましたか?
始めてから6年間はお客さんがいなかったので、来てくれるようになったのは最近です。お客さんが自分のリリックをかぶせてくれるようになって、お客さんが来るようになってからライブの形が変わりましたね。今まではお客さんと繋がらなくていいという感覚でライブをしていましたが、最近はお客さんと一体になる楽しさもあるんだなって。こういうライブにしていこうと考えていませんが、自然にそういうライブの形になりました。
━━明確な方向性はないけれど、お客さんを沸かせたいと。
一番興味がなかった部分ですが、そうなっていますね。最初の頃はお客さんをどれだけシーンと、唖然とさせられるか、をテーマにしていて。お経を唄ったりしていました(笑)。最近、お客さんが大勢来るようになっても昔から来てくれてる人はずっと来てくれていて、それは芯となる音楽的なブレない部分があるからかなと考えています。女の子のお客さんが来るようになったのも最近ですね。途中からストリート系やヘッズの子がくるようになって、女の子もいるし、ビジュアル系や服飾系の人たちなど、クロスオーバーにいろいろな人たちが来るイベントになって、それが面白いです。
━━お客さんの数が増えてからライブの心構えは変わりましたか?
変わらないと言いたいところですが、変わりますね。自分の中では、人が大勢いるところで伝えたいことと、人が少ないからこそできる伝えたいことが違うんです。それはMCで喋る内容にも表れてます。例えば、Baticaでライブした時は、オカルトの日月神示やマヤ暦の話もできる。小さいクラブに来るのはコアなお客さんが多いので。ただ、リキッドルームのようないろいろなお客さんが来る場所ではそういう話はやめておこうかなと(笑)。
何事も直前に決まるライブ
━━自宅からライブの現場に向かう際に持ってくものはありますか?
なんですかねぇ。携帯電話と財布ですかね。
━━トラックの音源はDJに託しているんですか?
音源のファイルは事前に送っていて。いろいろ成り行きで成り立ってる。ブッキングやタイムテーブルも結構直前に決めるんです。事前に計画するのが一番苦手です。周りの人には迷惑かけているけれど、そうじゃないとできないっていう変なこだわりがあって。
━━なるべく当日に近い雰囲気を出したいという?
そうですね。曲も完成したら次の日に出したいぐらいです。だから、物事をあたためるのが苦手なのかもしれない。
━━バックDJの方と打ち合わせたりしますか?
ほぼしないですね。曲順も直前に決まるんです。これも怒られるんですが、「こういう大きいイベントは事前にセットリストを送らなきゃいけないんだよ」と言われていても、わがままはわかっているけれどギリギリじゃないとできないスタンスで押し通していますね。直前に“降りてくる”感覚を優先したいんですよね。なので、バックDJのHIGH-TONEにも、ライブ中に曲順を変えてもらうこともありますが、わがままを聞いてくれますね。
━━信頼関係があるんですね。
だいぶありますね。ちなみにHIGH-TONEは僕のバックDJだけでなく、色んなたくさんの友達のバックDJもしているんです。僕、クラブでよく携帯と財布なくしがちなんですが、HIGH-TONEは「釈迦さんそこです!」ってすぐ見つけてくれる。安心感がありすぎますね(笑)。それとHIGH-TONEは<TOKIO SHAMAN>が終わった後とかに、ロマンチックな言葉を言ってきますね。「みんなの背中を俺は後ろから見て本当に色々思うことあるよ」とか勝手にアツくなる。そういう気持ち悪いところも愛してます。
━━情熱の掛け方がラッパーとDJだと違うんですね。
みんなのことを考えてくれていますね。あとHIGH-TONEはいろんなクラブにめっちゃ知り合いいます。みんなに会いにいつもクラブで遊んでます。そういう可愛いやつですね。
注文ゼロのオーガナイズ
━━他にライブ中にコラボレーションする人はいますか?
フィーチャリングのラッパーかな? あとはVJを球根栽培さんに頼んでいて、視覚的にもかましたいというコンセプトがあるので呼んでいます。球根栽培さんとの初めての出会いは、たしか2013年頃にmixiで。たまたまマイミクになって当時は一緒に活動しませんでしたが、最近はよくお願いしています。不思議な関係でセンスがだいぶ好きですね。
━━映像に関して、釈迦坊主さんから「ここをこうしてほしい」っていう注文はしていますか?
何も注文していないですね。それだけでなく、イベントの出演者全員に「好きにしてください」ということを言ってます。「こういう風にして」「こういうのはやらないで」と言ったことはない。「好きに各々散らかしてくれ」というのがコンセプト。注文ゼロ。だから、VJもDJも含めた出演者には、イベントの空気を読まなくていいと話してます。各々が自分のセンスを個人的に爆発させているだけなので、みんなライブの雰囲気はバラバラ。まとまってなさ過ぎていて、逆にまとまっているように思える瞬間もある。それでいうと、今回の『Keep A L1ve』も、球根栽培さんとカメラマンのitaruさんにお願いしてますが、こうしてほしいということは何も伝えてないです。
━━釈迦坊主さんは<TOKIO SHAMAN>では出演者を選んでタイムテーブルを決めるぐらい?
ただそれだけです。オーガナイザーとして良くないんですが、面白いイベントを作ろうとか考えたことがなくて。基本的には自分たちでライブができる場所を作りたいだけなので、エンターテインメント性が低いかもしれない。始めた頃から、こういう風にしてお客さんを呼ぼうとか、今流行ってるゲストを呼んで集客しようという考えがゼロなんです。なので、自分もイベントを運営しているというより、自分がライブする場所を作っているだけで、そこに賛同してくれる奴らがいるだけ。
各々にとっての自分の居場所
━━ライブ終わった後にファンが集まってくるの見てるとやっぱりビックリしますね。
そうですね。こんなことになるとは思っていなかったので嬉しい。ありがたいです。デモ音源を渡すためだけに大阪から日帰りで来た奴もいましたね。でも、デモ音源を送ってくる人の中には「自分も<TOKIO SHAMAN>に出るのが夢なんです」という人もいますが、そうじゃねえんだよなあと。そもそも<TOKIO SHAMAN>の出演者は、自分から出たいと絶対言わないような奴ばかり。ブッキングは僕が無理矢理誘って、「うーん、出ますよ……」と言われる関係性で、僕が勝手に見つけたり友達の紹介で繋がった人ばかりです。
━━では、自分のスキルを磨くしかないですね。
この前地方の遠征で、既存のヒップホップ・シーンの上下関係が面倒くさいから若い子たちが自分たちで作った、っていうイベントに出させてもらって。初めてのイベントだったけれど、若い子たちでパンパンで、すごく盛り上がってて、楽しかったんですよね。その子らが「俺らは<TOKIO SHAMAN>を見て、自分たちの居場所は自分たちで作ろうと思ったんですよ」と言ってくれて、めっちゃ嬉しかったんです。だから、既存のイベントに出たいと思うより、各々で自分たちの好きな場所を作ればいいと思いますね。
━━お互いに居場所を作って交流して、自分の知らないコミュニティやシーンに参加できると面白い。
そうなんですよね。それが一番面白い状況だと。「<TOKIO SHAMAN>を見て、そういう風にやろうと思ったんです」っていう人から、ちらほら連絡来るんで本当に嬉しいですね。自分たちは言葉よりも体現していることで伝えたいので、そういうのが伝わってるなあと思って。若い子たちはそういうところを一番見てくれるのかなとも感じました。
━━いろいろ言いすぎて説教臭くなるのも良くないですからね。アウェイのイベントに出る時の心構えはありますか?
いや、ないですね。滑っても呼んだやつが悪い(笑)。いつも通りの釈迦坊主をやらせてもらっています。基本的に全部アウェイなので、俺はもう気にしないですね。
Photo by Masato Yokoyama
Photo by Masato Yokoyama
Photo by Masato Yokoyama
海外で堪能するトリップ感
━━明日からイギリスに行ってライブをする(インタビュー当日の3月17日は開催予定だった)という超アウェイが待ち構えてますが、なにか思いはありますか。どういったイベンントですか?
初イギリスで、今回10日間行ってきます。詳しくは聞いていないんですが、トラップとかが流れるアングラでコアなイベントです。以前Tohjiも出ていたイベントで、イギリスで活動しているバンドBo NingenのTaigen Kawabeさんの経由で出演することになりました。
自分のラップは、昔から何言ってるか聞き取れねえって言われていてそれでも成り立ってるんで、イギリス人がリリックが聞き取れなくてもいいと思っています。中学生の時に洋楽聴いた時に歌詞がわからないけどめちゃくちゃ泣いた経験があるんですけど、音楽は究極そういうことだと思ってるんです。歌詞がわからないけれど食らってくれるような音楽を体現したい。イギリスの空気感は全く見えないですけど、いつも通りやってお客さんの反応を見たい。
━━去年はインドに行っていましたが、旅行が好きなんですか?
好きになりかけていますね。トリップが好きなんです。インドに行った時も毎日飛んでるような状態だったので。今回のイギリスの旅も、ただトリップしたいだけなのかもしれないですね。なので旅行が好きっていうよりは、トリップが好きです。
釈迦坊主らしさを固定しないスタンス
━━では、最後に今後の活動は?
今アルバムを作っていて、今までやったことないことばかりチャレンジしています。生音を入れてみたり、全然関係ないいろいろなアーティストとのクロスオーバーがあったり。ちょっとネクストだよ、みたいなアルバムです。
ファースト・アルバムの『HEISEI』は、本当に平成だったわって感じで、もはや過去ですね。非公開にしてもいいぐらい粗が見えてしまう(笑)。細かい部分の粗が気になってるだけなので芯の部分では気に入ってるんですけど。次のアルバムは粗が見えないようにして。
それと釈迦坊主っぽいものを作りたくないんですよね。自分が飽きちゃうしパッケージ化したくないっていう。多面的でありたいですね。
━━多面的、いい言葉ですね。
SNSひとつとってもそうですけど、ひとつの側面だけで人を判断する世界は退屈で狭いです。面白くない。人間はもっと多面的なんで。「”Black Hole”みたいな曲作ってよ」とか、過去に作った曲を作って欲しいと言われるんですけど、そういうことを言われれば言われるほど絶対作りたくない! って思いますね。性格がひねくれているんで(笑)。求められると求められた事をやっちゃいけないなと考えてしまうんです。
自分はラッパーだけど、俯瞰的なんです。自分の主張が正しいと思いすぎないようにしてる。やはり一神教になっちゃうと、自分の考えに沿わない人間が全員悪になってしまうので。そういう考え方が活動にだいぶ影響を与えています。「誰の方がスゴい」「こいつの方がイケてる」とかがない世界に行きたいですね。こいつはこいつでいい。
━━そういう事を言うラッパーはなかなかいないですよね(笑)。
もしかしたらラッパーじゃないかもしれないですね(笑)。めんどくさいからとりあえずラッパーにしておこう、なんでもいいやって感じです。
━━最後にオマケで聞きたいのですが、Instagramのライブやゲーム実況などの配信をよく行っていますが、そこに対する思いはありますか?
配信は話をしたくなったタイミングで始めていますね。意図はないんですけど、子供の頃からゲームをしてる時も「みて!みて!」みたいな子で。学校のスピーチもみんなの前で喋るのが好きすぎる奴だったので、喋りたい欲求を満たすためにやっています。なので、配信中毒ですね(笑)。
あと、自分の中に自分が二人いるという感覚がいつもあるんです。高校中退して歌舞伎町でホストを3年やって、金と女とドラッグを覚えてしまって(笑)。その後、ネットラップという全然別ベクトルなアンダーグラウンドに参加しました。ネットラップは、ラッパーなのに引きこもりばかりというアングラな世界で、虐げられてきた闇の中で自分たちの葛藤を表現していて。歌舞伎町の闇とそのネットラップの闇ってベクトルが真逆ぐらい違うんですけど、同じ人間の共通するテーマはあると思っています。自分は、歌舞伎町でホストやってた頃は週7で歌舞伎町で遊んでたくらい家にいたくない奴だったんです。でも、ホストやめた後はその反動で引きこもりになりました。毎日家に籠って曲を作ってましたね。極端すぎるっていう(笑)。なんで、インスタライブをするのが好きな自分もいれば、そういうのが嫌いな自分もいるんです。友達と遊ぶのが大好きなラッパーの自分と、友達どころか人とすら関わりたくないトラックメイカーの俺がいつも喧嘩してます。
それもあって、ファンの中ではインスタライブをやめてアーティストっぽく立ち振る舞ってほしいと言う人もいたり、逆に配信してほしいというファンもいて、それがごちゃごちゃになっています。ファンとファンが言い争っているのを見てると、最低なんですけど楽しくなっちゃう時がある(笑)。でも、いつかひとつになれると信じているんで。今は言い争っているけれど、俺の音楽性もスキルも上がって大きくなっていったら、わだかまりもなくなっていつかはわかりあえると信じています。
Keep A L1ve – 釈迦坊主
Text:高岡謙太郎
Photo:Leo Youlagi
Live Photo:Masato Yokoyama
INFORMATION
shaka bose 釈迦坊主
和歌山県御坊市出身。ラッパー、トラックメイカー、ミックスエンジニア、
またある時は映像作家としても活動する東京在住のマルチアーティスト。
RELEASE INFORMATION
DRAGON
Now On Sale
shaka bose 釈迦坊主
Label:Tokio Shaman Records
All Tracks Produced by shaka bose.
Mixed and mastered by shaka bose.
Artwork by Ryu Nishiyama
Format:配信
Track List
01. Dragon
02. Shinjuku
03. Poo
NAGOMI
Now On Sale
shaka bose 釈迦坊主
Label:Tokio Shaman Records
All Tracks Produced by shaka bose.
Mixed and mastered by shaka bose.
Artwork by Ryu Nishiyama
Format:配信
Track List
01. Hideout
02. Supernova
03. iPhone 9 ft.OKBOY,Dogwoods
04. Bill Gates ft.Anatomia
05. 999 ft.Iida Reo
06. Alpha