TikTokに彗星のごとく現れ、2年と経たぬうちに240万人ものフォロワーを獲得したケチャップ。BGMの音に合わせて次々と場面転換する、「トランジション」というジャンルで活動している。

アパレルブランド「ケチャップマニア」や書籍の発売など様々な活動をする彼女は、自身が双極性障害Ⅱ型・パニック障害・自律神経失調症であることを明かしている。こうした病気と向き合い、発信を続ける人となりに惹かれるファンも多い。

今回、“次世代クリエイター”の1人として「ペプシ〈生〉」のCM制作プロジェクト(企画・制作:CHOCOLATE Inc.)に起用されたことを受け、Qeticではケチャップにインタビューを実施。彼女の表現のルーツやトランジション動画の制作過程、さらにはなぜTikTokがここまで急拡大しているのか、プラットフォームの特性に迫る話も伺った。

INTERVIEW:ケチャップ

“次世代クリエイター”はTikTokに何を期待していたのか──トランジショナー・ケチャップインタビュー interview211109_ketchup_03

TikTokがきっかけで、自分とも他者とも向き合えるように

──ケチャップさんが初めて表現活動をされたのは、いつ頃だったんですか?

中学生ぐらいの頃、ビジュアル系バンドにハマっていました。ビジュアル系のライブを見に行くお客さんって、普段街ではあまり見かけないような素敵な格好をしている人が多いんですよね。自分も、その中でより目立つ服装や自分の好きな服装で行くのが1つの楽しみだったんです。それが多分自己表現の第1歩だったと思います。

──ご自分のことをインターネットで発信し始めたのは?

ビジュアル系バンドを追っていた当時、前略プロフィールというものがあって。1番上の所に自撮りを載せたりするんですけど、その自撮りが盛れてるかとか、派手かとか色味がきれいかとか。そういうのが、見る人の目に留まるかどうかを決めるのかな、という意識は当時からありました。今は時代も進化していって、SNSも日常的に取り入れられる、1つのインフラみたいになっているわけなんですけど、「目立ちたい」っていう気持ちは変わってないんですよね。その追求は今も続けているかもしれません。

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幻の盛りギャルから厨二病へ #思春期でどれだけ変わったか

♬ Puberty hits differentttt – Elly✨🪐

──著書の中では、「協調性を取るか、個性を取るか」で、ご自身が長年葛藤されてきた話が書かれていました。これはどの世代の人にとっても、普遍的な悩みなんじゃないかなと思っていて。

子どもの頃は周りの目ばかり気にして過ごしていて、自分自身を客観的に見られるようになったのは、最近のことなんです。それこそTikTokでの活動がきっかけだったと言ってもいいかもしれません。私、脳が成熟するまでに、人よりも時間がかかったんですよね。多分それは、ひきこもりで他者との交わりがすごく少ない世界で生きてきたから。最近やっと自分の個性とも、他者とも向き合えるようになって、それで少し本当の大人になれた気がしています。

──TikTokって、投稿したものに対するいいねの数とかフォロワー数とか、注目度が数字で表されるじゃないですか。もちろんTikTokに限らず、SNSは基本的に全部そうなんですが、その点にプレッシャーは感じませんでしたか?

投稿を始めたのは、本当に興味本位からだったんです。自分の存在に気付いてくれればいいな、ぐらいの気持ちでした。そこに少しずつ数字が付いてくると、やっぱり「自分が存在している」っていう実感が湧いてきて。その数字が大きければ大きいほど、何か自分が存在している証明のような感覚にはなってきています。

──TikTokをユーザーとして見始めたのは2018年頃とのことでしたが、見る側としての最初の第一印象はいかがでしたか。

最初は音楽に合わせて、リップシンクをして楽しむ場所なのかなってイメージでした。トランジションというジャンルに出会ったときは、すごくかっこよくて感動したのを覚えています。日本人で最初に好きになったのは、もてぃ🌙☁️(_moty_tiktok_)さんというトランジショナーの方でした。

──そうしてユーザーとして見ていた所から、自分でも投稿してみようと思ったきっかけは何だったんでしょうか。

それもやっぱりトランジションなんです。一体このすごい動画はどうやってつくってるんだろうと思って調べてみたら、他の編集ソフトを通さずにTikTokだけで完結できるものだと知って、びっくりしたんですよね。むしろそれなら自分も試しやすいなと思って、撮ってみたのがTikTokを始めたきっかけです。

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トランジション動画づくりは「かなり手作業」 約8時間の工程

──トランジション動画をつくるときの工程を、簡単に伺えますか?

まずは使用する音源を選んで、1カットずつ撮りながら、同時に編集もしていきます。1回撮ったらうまく撮れているかを確認して、音源を聞きながら何回も同じシーンを撮り直して。それを繰り返して15秒分つくっていきます。そうしてTikTok上でできあがったら、編集も全部終わっている状態なので、そのまま投稿するって感じです。1本つくるのにだいたい8時間くらいかかっています。

夜の18時から撮り始めたとして、気付いたら日付変わってたなんてこともよくあります。時間は全然気にせずにやってるので、充電が切れそうっていうスマホの通知を見て「あ、もうそんな時間か」みたいな(笑)。

──私もトランジションについてはケチャップさんの動画を見て勉強中なんですけど、意外とアナログな工程なんですよね。道具を近づけてズームインのようにしたり、腕を振って転換にしたり、意外と自分の身体で頑張る部分が大きいというか。

おっしゃる通り、かなり手作業なんですよね。「編集すごいですね」って言われがちなんですけど、実は編集はそんなにしていなくて。なかなか言語化が難しいんですけど、撮り方でなんとか工夫してるんです。

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アイキャッチ🐦🔥 #transition #トランジション

♬ Haikyuu commercial breaks – Ronin 🇵🇭

──でも、1日8時間となると、もう会社勤めの方の定時と同じぐらいの時間をかけられてるってことですよね。

しかもたった15秒のためだけにその時間をかけているっていう。給料が発生するわけでもないのに……結構変態だと思うんですけどね(笑)。「楽しい」だけでやってます。

──ケチャップさんのトランジション動画には、様々な道具が登場します。トランジションに使いやすいものの特徴などはあるんでしょうか?

家にあるものは何でも使ってますね。カットとカットの間に、縦のラインや横のライン、円のラインを入れて、次のカットにスムーズに移行するきっかけにしてるんですけど、そういうラインが強調されたものだとすごくやりやすくて。直線なら机とかでもいいし、円ならリングライトとかヘッドホンとか……コップの底も使ったりしますね。多分、「これ使ってつくってください」ってお題出されたら、なんでもトランジションで撮れちゃうと思います。

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大暴走🐦🔥 #transition #トランジション

♬ BAZOOKA – Bruh moment

──そういう企画があったら、すごく面白そうですね。インプットとしてよく見るものはありますか?

それこそTikTokで、いろんな国のトランジショナーの動画を見るようにしてますね。新しい技がどんどん生み出されているジャンルなので、チェックしていないと本当に置いてけぼりになっちゃうんですよ。そういうトレンドを見て、自分も取り入れるようにしています。

TikTok関係なしだったら、自分はYouTubeで瀬戸弘司さんの動画を見るのが好きですね。瀬戸弘司さんはYouTuberの中で特に編集がすごいと言われている方で。あとSO-SOさんというビートボクサーがいらっしゃるんですけど、あの方のビートボックスが本当にかっこいいんです。SO-SOさんの音楽を聴くと、自分が撮るときのカットが浮かんできますね。

──ちなみに音楽を聴くときって、「この曲で動画をつくるとしたら」みたいな感覚で聴いちゃう所ありますか?

めっちゃありますね。聴く音楽自体も変わったかもしれません。バンドサウンドは昔と変わらず大好きなんですけど、それ以外にもリズムのはっきりしているEDMとか、パキパキしたサウンドも聴くようになりました。

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「Twitterより見てくれそうだと思った」

──著書で、「TikTokなら、Twitterよりも多くの人に見てもらえると思った」というお話がありましたが改めて、TikTokの方が見られそうだと思った理由を伺えますか。

Twitterって、仕組み的に「出会ったことのない情報に出会う機会」が少ないと思うんですよね。かなりリツイートされない限りは情報が埋もれてしまって。TikTokはおすすめ機能があって、自分の知らない動画とか興味のない分野とかに出会うきっかけになるんです。だから自分さえバズれば、知らない人に出会えるきっかけはTikTokの方が圧倒的に多いなって思います。今は結構、自分の好みの動画がどんどん流れるような仕組みになってきているんですけど。

──アパレルについては投稿を始めた時点で考えていたとのことですが、TikTokを始めた時点で、そういう可能性をTikTokというプラットフォームに対して感じていた、ということなんでしょうか?

そうですね……人数が集まらないとできないことが世の中に多すぎて。ファンが0人だと服をつくっても自分が着て終わりなんです。だけど、ファンが増えていくことによって、他の人にも共有できる喜びがあるんですよね。それを感じたいっていうのはありました。

──ケチャップさんの作品はクオリティの高いトランジションや青に統一した色使い、表情の変化といった表現が特徴ですが、ファンの方はケチャップさんのどういう点に惹かれているのでしょうか?

コメントなどを見ていると、動画に感動してくれている方がやっぱり多いですね。動画がきっかけで好きになってくださって、自分の病気の部分で共感してくださったり、少し頼ってみたいという気持ちになってくださる方もいるみたいです。

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♬ Akaruimirai – Mom

──配信や作品ではマスクをしていることが多いと思うんですが、その理由を伺えますか?

フルメイクしなくて良いっていう効率的な部分と、あとはアンチの数が圧倒的に減ると思っていて。やっぱり見た目的な評価ってまだまだあるし、それを言葉にしてくる人たちも多いんですよね。自分は歳を重ねることにあまり抵抗がないんですけど、それによって広がっていく周りとの意識のギャップみたいなものを埋めるためにも、マスクをしてます。

何より、日常生活が安心ですよね。顔バレして、街を歩いてるときに話しかけられたりするかもしれないと考えると……自分はパニック障害があるので、外に出るのが怖くなってしまったら、せっかく頻度が下がってきたパニック発作がまた再発してしまうおそれもあるんです。本当いろんな理由で、自分はマスクをしてる方が良いなって。

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案件を引き受けることで、自分の価値が変化しながら形づくられていく

──最後は、今回起用されているペプシ〈生〉の企画についても伺っていければと思います。企画内容を聞いたときの、第1印象を伺えますでしょうか。

シンプルにワクワクしましたし、すごく気合が入る内容でした。自分にとって、今回は初めてモノを使ってのご依頼だったんですよね。ペプシ〈生〉のペットボトルを使ってトランジションを撮るっていう。モノが1つあることでトランジションの発想もどんどん浮かんでくるし、いただいた要望を織り込むのも楽しかったです。自分って、依頼されたことに対してこうやって応えたりできるんだなっていう自信にもなりました。

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♬ SAW – Official Sound Studio

──依頼に応えようとすることで、自分も知らなかった自分を知れた面があると。ちなみにどんな要望があったんでしょうか?

シズル感を出してほしい」というオーダーがありました。今までは一度も入れたことのない要素だったんです。どういう風にすれば、水滴がついてる感じとか、おいしそうにシュワッとする感じが伝わるかなって考えたときに、iPhoneのスローで撮れる機能を使ってみたんです。普段のトランジションはむしろ2倍速で撮ることもあるぐらいなんですけど、それだと早すぎて、泡の余韻や質感みたいなものがうまく伝わらないんですよね。

──今回の制作で試してみたことが、今後の作品づくりにも活かされそうですね。

スロー撮影はすごく良かったので、今後も使ってみようかなと思っています。あと単純に「水分いいな」って思いました。自分の作品では使ったことなかったんですけど、たとえばお風呂とかシャワーとか、もっと使おうって。青とも相性良さそうですし、「自分っぽいかも」と思えたので良い収穫でした。

──ケチャップさんにとって普段は自主制作の場である、TikTokでCMをつくること自体の違和感はありませんでしたか?

自分としては、抵抗感も違和感もなくすんなりできましたね。私らしく動画をつくるには、やっぱり普段と同じ縦画面のスマホサイズが1番いいし、たとえばこれがYouTubeとかになると規格が違ってくるので。

トランジションを始めた頃は、こういう風に企業様とお仕事をさせていただくなんて全然想像できていなかったので、やってみて初めてその楽しさに気づきました。いわゆる「案件」みたいな感覚も全くなく、楽しんでやらせていただいています。

──確かに今回の動画を拝見すると、普段のケチャップさんの世界観はそのままあって、ペプシ〈生〉がうまく溶け込んでいるような感じですよね。

そもそも、ペプシとこんなひきこもりがつながることなんて、普通に生きてたらないんですよね。ただ消費させてもらう側なだけで。だけど実際に自分の個性と交わることで新しいものが生まれることがあるし、私自身にとっても、こういうチャレンジをさせていただくことで、自分の価値が変化しながら形づくられていくのがすごく面白いです。

──ありがとうございます。ケチャップさんの後にも新しいクリエイターがどんどん生まれています。そういう後輩たちを、どのように感じていますか。

いやぁ、怖いですよね。自分が始めた頃は、色のついたクリエイターって見たことがなかったんですよ。最近は結構イメージカラーを持つ人がTikTokの中にも増えています。自分みたいな人が違う色で出てくるかもしれないし、その人が自分よりトランジションがうまかったらどうしようとか……。すでに青色系クリエイターの方とか自分以外にもいらっしゃるので、一緒に面白いことできそうだなとは思いますけど。

──最後に、TikTokでファンを集めたケチャップさんがこの先どんな未来を描いているのか、長期的な展望を教えてください。

もちろんTikTokはずっと続けたいですけど、もしなくなっちゃったとして……一応YouTubeはやり始めているしInstagramもあるし、その2つが残っていればなんでもできるんじゃないかなと思っています。

トランジションというジャンルがなくなってしまったときのことも、実はいつも考えているんですよ。だからこそ今、できることをたくさん始めたい時期なんですよね。今ついてくださっているファンの方を飽きさせないように、いろんなことをしていきたいです。

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復活の儀🐦🔥お久しぶりです!皆様は元気に過ごされていますか?自分は暫くマイペースに行かせていただきます!#foryou #fyp #transition #トランジション

♬ Nicki Minaj “Pound The Alarm” – 백동욱 DongUk

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PROFILE

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ケチャップ

「ケチャップ」は、TikTokを中心に活躍するトランジション系クリエイター。同氏は、過去に躁うつ・パニック障害・自律神経失調症を患った経験から、自分らしさ・個性を発信していくことの重要性を実感し、TikTokでの動画投稿活動を開始した。現在では、200万人以上のフォロワーを擁するTikTokクリエイターである。そして活動はTikTokだけに留まらず「D2Cアパレルブランド「ケチャップマニア」のプロデュースやエッセイ「一人だけど孤独じゃない 中二病クリエイター、世界でバズる」の出版と活動の幅を広げている。

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