韓国インディー・シーンきっての鬼才、キム・オキKim Oki)。彼はサックス奏者/ソングライター/プロデューサーとしてジャンルレスな活動を展開しており、これまでリリースされた作品は2013年のデビュー作『Cherubim’s Wrath』をはじめとして20枚以上におよぶ。そのディスコグラフィーはアンビエントのニュアンスも色濃い『Saturn Meditation』(2018年)や、フリージャズ直系の『About Prejudice』(2021年)、ナクサルやDJソウルスケープが参加した『Everytime』(2021年)、イ・ハイなどのシンガーをフィーチャーした『Greeting』(2022年)など、まさに縦横無尽。ジャンルの垣根が曖昧な現代ジャズの潮流ともリンクした活動を続けている。

そしてこの3月、そのキム・オキが自身のリーダーバンドであるキム・オキ・サターン・バラッドKim Oki Saturn Ballad)で初のジャパンツアーを行う。各地のゲストに迎えるのは折坂悠太角銅真実角舘健悟maya ongakuShhhhhという個性的な面々。また、来日に先駆け、近作からセレクトした日本独自編集盤『Love Japan Edition』が配信(3月1日(金)解禁)とレコード(5月1日(水)発売)でリリースされる。こちらには比較的メロウな楽曲がセレクトされており、キム・オキのメロディーメイカーとしての力と現代的なセンスを感じ取ることができるだろう。

シーンの異端児、キム・オキ。その音楽世界に迫るべく、リモート・インタヴューを行った。

INTERVIEW
Kim Oki

出没自在のサックス奏者・Kim Okiが語る非凡なキャリアと沖縄の記憶 interview240301-kim-oki

[MV] 김오키 (Kim Oki) – 볕처럼 빛나는 (Shine Like a Sunlight) / Official Music Video

ダンサー時代の過去と沖縄の記憶

──音楽に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

もともとダンサーをやってたんですよ。アシッドジャズやヒップホップで踊ってたんですけど、そういう音楽には管楽器が出てくることが多いので関心を持つようになりました。そのころよく聴いていたのがキャノンボール・アダレイ(Cannonball Adderley)の『Somethin’ Else』。1曲目の“Autumn Leaves”が好きでした。この曲の最初のメロディーはマイルス・デイヴィス(Miles Davis)が吹いてるんですけど、トランペットの音をサックスと勘違いしてしまって。それで「この楽器を吹いてみたい」とサックスを手にしました。

──それはいくつのころですか?

兵役が終わってすぐだったので、23歳ぐらいだったと思います。

──ダンサーだったことを知って少し驚いているんですが、どんな活動をしていたのでしょうか。

ブレイクダンスから始まって、ハウスやタップダンスもやってました。クラブで踊ったり、ジェクスキス(Sechs Kies)やク・ボンスン(Koo Bon Seung)、トゥトゥ(Two Two)、イム・ソンウン(Lim Sung Eun)のバックダンサーをやったこともあります。

──えっ、ジェクスキスのバックで踊ってたんですか!

そうなんですよ(笑)。19歳から21歳ぐらいまでダンサーをやり、兵役に就き、戻ってきてからサックスを吹き始めたという流れです。

──では、どうやってサックスを学んだのでしょうか。

スクールで2か月だけ学んだあと、個人レッスンを受けていました。一番助けになったのは、クラブ的な集まりのなかで組んだグループでアンサンブルの練習をやったことです。そこにはもともと大学の音楽サークルでやってた人もいたし、実用音楽学科(註:プロフェッショナルなミュージシャンや作曲家になるための専門的なコース)を専攻してきた人もいたので、彼らから学んだことは多かったんです。あと、当時アメリカから英語教師として韓国にやってきた人たちが周りにいたので、彼らからも多くのことを学びました。

──その後にリリースされた2013年のデビュー作『Cherubim’s Wrath』には、2008年に旅行で沖縄を訪れたときの体験が色濃く反映されています。沖縄でどんな体験をしたのでしょうか。

人生で初めてのひとり旅として、2008年に沖縄へ行きました。それで那覇の国際通りを歩いていたら、カホンを演奏してる人をたまたま見かけたんです。自分も楽器を持っていたので、夜の8時ぐらいから朝まで一緒に演奏することになって。彼と仲良くなって、その2年後ぐらいにあらためて沖縄を訪れたんです。そのときは一週間ほどゲストハウスに宿泊していたんですけど、沖縄の伝統音楽をやってる人とも知り合いました。そこで初めて沖縄の音楽に触れたんですが、自分に合う感じがしました。『Cherubim’s Wrath』には“Orion Star House”という琉球音階を用いた曲が入ってるんですが、曲名は那覇のゲストハウスから取りました。

──沖縄の旋律のどういう部分に惹かれるんでしょうか。

映画の影響が大きいのかもしれないです。20代の頃に日本映画をたくさん観ていて、その中に沖縄を舞台にした作品があったんですよ。岩井俊二監督の『リリィ・シュシュのすべて』、土井裕泰監督の『涙そうそう』、中江裕司監督の『ホテル・ハイビスカス』とかですね。そこで流れる沖縄的なスケールが好きだったことも関係していると思います。

──オキというアーティストネームは「沖縄」から取られているという噂を聞いたことがあるんですが、本当ですか?

そうです、本当です(笑)。

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「ファラオ・サンダースがいなかったら今の自分はなかったんじゃないか」

─キムさんの音楽にはR&Bやヒップホップ、アンビエントなど多様な要素が混ざり合っていて、ジャンルの垣根がさらに曖昧になっている世界的な音楽の流れともリンクしているように感じます。

自分は決して新しい音楽を探して聴くほうじゃないんですよ。好きなものだけ聴き続けているというか。なので他のミュージシャンがやっていることはあまり把握していないんですよ。最近は何を聴いているのかな…ラヴィーナ(Raveena)は好きでよく聴いてますね。

Raveena – Mystery

──キムさんは自分のことをジャズ・ミュージシャンだと思っていますか。

そう意識したことはあまりないですね。もちろんジャズから学んだことは多いですが、ジャズ・ミュージシャンというとスタンダードやビバップを演奏している人というイメージがあるので。それに、自分はジャズ・シーンの外で活動してきたので、まだわからない部分もあるんです。

──一方でキムさんが吹くサックスのメロディーはブルージーで、どこか歌謡曲的なテイストも感じます。それは意識的なものなのでしょうか。

ジャズはもちろん好きなんですけど、自分は正統な音楽教育を受けたわけでもないので、ビバップやハードバップを突き詰めることで優れたプレイヤーになれるとも思っていなかったんですよ。その代わり、歌謡曲のようにメロディーがシンプルで抒情的なものを指向してきた部分はあるかもしれない。実際、歌謡曲を吹く練習もしてきましたし。

あと、僕はファラオ・サンダース(Pharoah Sanders)が大好きなんです。ジャズ・ミュージシャンとして優れているのは言うまでもないですが、ブルージーでスピリチュアルな彼の音楽のなかにはルーツ・ミュージック的なものも感じます。ファラオ・サンダースからの影響は強いと思いますね。

──2022年の9月にファラオ・サンダースが亡くなった際、インスタグラムに写真をアップして追悼していましたよね。

そうですね。ファラオ・サンダースがいなかったら今の自分はなかったんじゃないかと思うぐらい影響を受けましたから。もともと自分はジャズのスタンダードを中心に演奏していたんですけど、ファラオの“You’ve Got to Have Freedom”がきっかけで自分のスタイルが変わりました。

You’ve Got to Have Freedom

──実は、明日カデホ(CADEJO)のイ・テフンさんにリモート・インタヴューする予定なんです。カデホもソウルのインディー・シーンで活動していて、キムさんとも近いプレイヤーですよね。彼も決してスタンダードだけを演奏するジャズ・ミュージシャンではありませんが、ジャズから強い影響を受けていて、キムさんとの共通点も多いように感じます。

テフンは昔に比べるとずいぶんギターが上手くなりましたよね(笑)。彼が以前やってたヘリヴィジョン(Hellivision)のライヴを観たことがあって、それをきっかけに一緒にやるようになりました。彼もいわゆるスタジオミュージシャンとは違う自分独自の表現を突き詰めていて、音楽的にも常に開かれている。そこにシンパシーを感じています。

Cadejo(까데호) – Full Performance(Live on NPGR)

「音楽を始めたころから日本でツアーするのが夢だった」

──今回のジャパンツアーはチン・スヨンさん(ピアノ)、チョン・スミンさん(ベース)とのトリオであるキム・オキ・サターン・バラッドで行われるわけですが、このグループでテーマとしているのはどのようなことなのでしょうか。

サターン・バラッドは自分の活動のメインになっているグループといっていいと思います。この編成は自分が表現したいことを一番やりやすいフォーマットでもあるんですよ。

<「Onstage Onetake Concert」におけるキム・オキ・サターン・バラッドの「Cotard’s Syndrome」>
[온스테이지 원테이크 콘서트] #2 김오키 – 코타르 증후군, 우리 만나고 헤어짐이 이미 정해져 있지 않기를, 눈부시게 빛나는

──ドラムレスの編成にしているのはなぜなのでしょうか。

ドラマーはずっと探しているんです。現在の編成に落ち着くまで10人ぐらい加入と脱退を繰り返してきたんですけど、どうもうまくいかなくて。ドラマーの問題はいつも抱えていて、ファッキング・マッドネス(Fucking Madness)というもうひとつのバンドも、これまで13人から14人ぐらいドラマーが交代しました。

──それはなぜなのでしょうか。キムさんがドラマーに求めるものが高すぎるんですかね?

もともとダンサーだったこともあって、リズムに対して敏感ということも確かにあるとは思います。今までふたりだけしっくりきたドラマーがいて、ひとりは済州島に住んでいるということもあって、定期的に演奏することができないんです。もうひとりはファッキング・マッドネスで一緒にやっているキム・ダビンさんです。彼はカデホのドラマーでもありますね。

──サターン・バラッドはピアノとベースとのシンプルな編成ですが、曲によってはアンビエント的なニュアンスを感じることがあります。ドラムがいなくて、アンサンブルが空間的に構築されていることが理由のひとつであると思うのですが。

そこは少し意識しているんですよ。自分はアンビエントも好きですし、サターン・バラッドのときはアンビエント的な質感も少し意識しています。

김오키 뻐킹매드니스 KimOki Fucking Madness – Sea of Love

──もうひとつのリーダーバンドであるファッキング・マッドネスでは、アフロ~スピリチュアル系のジャズをやっていますよね。まさにファラオ・サンダースからの影響を感じさせます。こちらはサターン・バラッドとは違い、メンバーがかなり多いですよね。

基本の編成は8人で、大きなステージでは12人でやることもあります。ファッキング・マッドネスも今のメンバーに落ち着くまで4年ぐらいかかったんですけど、結成から現在にいたるまでほぼ練習をしたことがないんですよ。いつもライヴの場で集まり、ライヴをやることでバンドとしてのスタイルを固めてきました。ただ、最近新しいアルバムを用意しているので、練習をするようになりました。

──キムさん自身は、客演もたくさんやってますよね。セイ・スー・ミー(Say Sue Me)やCHS、イ・ミンフィ(Minhwi Lee)、ローダウン30(Lowdown 30)ともやってるし、最近ではペク・ヒョンジン(Bek Hyunjin)さんのバンドにも参加しています。ジャンルがとにかくバラバラで、これだけバラエティー豊かな面々と共演しているプレイヤーもなかなかいないのではないかと思います。なぜそんなにも多くのアーティストからキムさんのサックスが求められるのだと思いますか。

そもそも韓国のジャズ・シーンが小さいということもあって、ジャズだけやっていても食っていけないということもあります(笑)。そういうこともあってホンデのインディー・シーンに入っていったところもあって。ホンデでいろんなミュージシャンに出会ったし、自分の音楽的な幅も広がったと思います。30代の多くの時間をホンデのライヴハウスで過ごしたので、芋づる式に繋がりが広がっていったんですよ。

──キムさんにとってホームといえるヴェニューはどこなんですか。

しょっちゅう演奏していたのはストレンジ・フルーツとチャンネル1969です。

<キム・オキをフィーチャーしたセイ・スー・ミーの“To Dream”>
[M/V] Say Sue Me 세이수미 – To Dream 꿈에 (feat. 김오키 Kim Oki)

<キム・オキが参加するペク・ヒョンジン“Unreleased”>
[온스테이지2.0] 백현진 – 횟집(Unreleased)

──映像ディレクターとしての仕事もしているそうですが、どんなことをしているんですか?

まさに新作の映画作品を作ってるところなんですよ。もともと音楽よりも映画のほうが好きなぐらいで、音楽を作るときにも映画のイメージがどこかにあって。

──それはとてもよくわかります。

それで自分でも映画を作るようになって、最近長編を一本作り終えました。映画祭に出品することになったので、今度プレミア公開される予定です。

──なるほど。最後に、今回のジャパンツアーについてはいかがですか。

音楽を始めたころから日本でツアーするのが夢だったので、とても楽しみです。ヨーロッパで演奏する機会はあったんですけど、海外でライヴをやること自体はあまり好きではなくて(笑)。でも、今回のツアーは例外です。今まで行ったことがない街にも行くので、新しいメロディーやアイデアが浮かんでくるんじゃないかという期待もあります。今回のツアーの共演では、折坂(悠太)さんと演奏したことがあります。折坂さんギターとヴォーカル、自分はサックスで参加したんですが、すごくおもしろかった。やっていて合う感じがしましたし、今回も楽しみですね。

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Text, Interview:大石始

INFORMATION

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BAYON PRODUCTION presents
KIM OKI SATURN BALLAD
JAPAN TOUR 2024

2024年3月18日(月)東京 渋谷WWW|guest:maya ongaku / Shhhhh
2024年3月20日(水) 長野 上田映劇|guest:角銅真実
2024年3月21日(木) 金沢 辻家庭園|guest:折坂悠太
2024年3月22日(金) 京都 河村能舞台|guest:角舘健悟(Yogee New Waves)
2024年3月24日(日) 尾道 浄泉寺|guest:角舘健悟(Yogee New Waves)
主催:BAYON PRODUCTION
企画/制作:BAYON PRODUCTION / COW AND MOUSE / SHIBUYA WWW

詳細はこちら

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Love Japan Edition

2024年3月1日(水):デジタルリリース
2024年5月1日(水):12inch Vinyl
Kim Oki
Tracklist:
Shine Like a Sunlight
Bye [feat. LeeHi]
Moonlight
Story [feat. Samuel Seo] 
Fades Again
Death Stare [feat. Hippy was Gipsy] 
Universe [feat. Simun] 
Dopamine 
Trauma 
See you again tomorrow 
Cotard’s Syndrome 
Undecided Relationship
Bipolar Disorder
Kim Oki