KIRINJIの新作『crepuscular』を聴きながら、何度も息を呑む瞬間があった。堀込高樹のソロ・プロジェクトとなってからの最初のシングル“再会”(2021年4月)から、すでに強烈な印象はあった。前作『cherish』(2019年11月)から続くダンス・ミュージックとしてのスリリングな現代性に加え、コロナ禍という未体験の今を生きる者たちが見る夢とリアルを鮮やかに描いたストーリーテリングは、まさにKIRINJIだからできるものだった。
その“再会”をはじめ、先行で配信リリースされてきた“爆ぜる心臓 feat. Awich”(映画『鳩の撃退法』主題歌)、“薄明 feat. Maika Loubté”の3曲を含む全9曲。現実と夢の境目が曖昧になった時代をサウンド面では意識し、フィクションを歌いながら紡がれる言葉はいつになく時事的。シンガー・ソングライターとしての堀込高樹の眼差しがこれまで以上に鋭く突き刺さる。
ソロ・プロジェクトとして心機一転した「再始動」というより、自分の理想を貫いたからこそ自然に着地した場所がここにある。そして、コロナ禍の今だからこそ生まれた傑作『crepuscular』への道のりと、KIRINJIの現在地についてじっくりと話を聞いた。
INTERVIEW:KIRINJI
この時代を自分がどう生きているか、人々がどう生活しているかを作品に
──新作『crepuscular』はKIRINJIにとって2年ぶり、通算15枚目のオリジナル・アルバムと銘打たれていますが、堀込高樹のソロ・プロジェクトとなってからは初のアルバムでもあります。取り組まれた心境などは、やはり全然違うものですか?
いや、それが気分的にはあまりガラッと変わった感じはありません。というのも、前々作の『愛をあるだけ、すべて』(2018年6月)くらいから、スタジオで録った素材を持ち帰って家で制作する作業が一段と多くなっていました。一人で作業する時間がより多くなって、だんだんバンドとして音を作る時間の減少が加速していった流れがあるので、制作スタイルそのものがすごく変わったというわけではないんです。
──前作『cherish』(2019年11月)はバンド形態でのKIRINJIの最高傑作と呼ばれることが多かった。でも、実際にはその前から高樹さんの一人作業の度合いが増えていたというのは興味深いですね。
だんだんと僕がダンスミュージック的な、グリッドに対してピタッと合わせて音としてピントが合ってるものを求めはじめると、バンドとして音作りを考えることが難しくなっていきました。自分の考える音楽的な正解を突き詰めていくと、バンドという形態がちょっと難しくなってきてしまったので、ソロ・プロジェクトという活動形態を選びました。
──今年(2021年)の4月、この体制で最初のシングル“再会”が配信されて、最高のダンスミュージックだなと感じつつも、東日本大震災後にリリースされたシングル“祈れ呪うな”(2012年)を思い出していました。コロナ禍という時事性があり、高樹さんの心情を反映したような私感もあり、そこも含めてこういうアウトプットを待っていたという気持ちになったんです。
実は“再会”の前に映画『鳩の撃退法』用の曲として“爆ぜる心臓feat. Awich”が去年のうちに完成していました。当初はそれがソロ・プロジェクトとしての一発目になる予定だったんです。でも、これが最初だと、なんかハード路線になったと誤解されると思って(笑)。その前に、これまで通りのメロディやハーモニーに気を使った音楽で、『cherish』でやっていたダンスミュージック的な感触のあるポップスをやっていくよと示しておかないとまずいなと。それで“再会”を作って配信しました。
──そうなんですか。でも、“再会”は高樹さんにしか書けない歌詞ですよ。何事もなかったようにみんなが触れ合う光景を祝福感たっぷりに描いておいて最後にひっくり返るという展開も見事です。アルバム収録曲の歌詞にも、コロナ禍の今この時代に書かれたものだという意識が強く反映されていると感じました。
“再会”を書いたから、コロナに関する歌は自分ではもう気が済んだかと思いました。でもよく考えたら、こういうタイミングってなかなかない。だとしたら、この時代を自分がどう生きているか、人々がどう生活しているかを作品にしておくというのは面白いかもなと思ったんです。今、この2年間でしか書けないものをフィクショナルであっても残そうと思った。それはひとつあります。
サウンドに関しては、ここ最近、テーム・インパラ(Tame Impala)とか、ソフトなサイケ感のあるものを気に入って聴いていた影響があります。ダンスっぽくもあるけど、上物はふわふわしててちょっと変わった音像だったりする。それがコロナ禍の空気感とも合ってる気がしました。みんながマスクしてる光景とか、現実に起きていることなんだけど変な夢を見てるような気がする。そういう音と言葉の両方を走らせていって、着地点を探っていきました。
──逆に言うと、『cherish』はもう2年前でコロナ前のアルバム、と見ることもできる。今の高樹さんにとっては今回の『crepuscular』は、こういうアルバムにしかなりえなかったということなんですよね。
みんなどういう気持ちで作ってるのかなと思いますね。僕はやっぱり常にそのことが頭にあるので。それ以外のものを作るというのはできなかった。猫の歌を歌ってるけどなんか寂寥感が出たりするしね。そういうのが自分でも不思議とコロナっぽいんですよ。
完璧なだけではマジックは起きない
──グリッドがしっかりしたダンスミュージックを作りたくなっていた、という発言がありましたが、今回のレコーディングではやはりそこも突き詰めていったのでしょうか?
今回だと“曖昧me”はキックをサンプル用に録って、それを全部グリッドで貼っちゃって、あとはハットとスネアだけ生で叩いてもらったりしてます。“再会”や“気化猫”もそう。とはいえ、演奏してるミュージシャンなりのグルーヴは出ていて、グリッドにピタッとしてると言うより「タイト」という感覚ですね。リズムはタイトで上物がふわふわな感じにしたかった。
──そういう意味では、ひとりでオーガナイズする完璧主義に振れたというより、個々のプレイヤビリティを尊重するバンド的な部分はすごく残ってるんですね。
そうなんですよ。適任の人が最適な音を出してくれるからいいんであって、自分の思い通りにしなきゃいけないってことではありません。ミュージシャンのアイデアは結構反映されていると思います。最適じゃない音がそこにあると矯正したい気持ちが働くだけで、ミュージシャンとしての理解度や技術があるなら任せられるんです。
──今の高樹さんにとっては、このかたちがベスト。
そうですね。(録音も)早かったし。
──作業のテンポが上がっていくと、曲の仕上がりも変わっていきますか?
どうですかね? でも、曲をこねくり回さなくなりますね。いいテイクが10テイク目で録れるのか、4テイク目で録れるのか、それで活きのよさが違うんですよ。やっぱりフレッシュな状態で録れたものはノリがいい。テイク数が増えると、その後に他の音を録っていくのも辻褄を合わせた感じになっていく。10テイク目で完璧なドラムが録れたとしても完璧なだけでマジックは起きてない。
──“完璧なだけの完璧”じゃダメってことですよね。面白いですね。“完璧主義者”とは明らかに一線を画してる。
僕はめちゃめちゃ適当なんですよ。(完璧主義者と思われるのは)眼鏡のせいじゃないですか? 四角い顔のせいかな(笑)。
──今回のツアーでは若いシンリズムくんがギターで入りますね。
彼のことは昔から知っていました。今どんな感じかなと思ってちょっと調べて動画を見たら、どの楽器もうまい。おそらくいろんな音楽を聴いてるだろうし、KIRINJIの曲も弾けるだろうし適任じゃないかなと思ったんです。ライブのメンバーって、楽器がうまければいいというわけではないんですよ。音楽的なキャラクターというのか、その人の背景やストーリーが感じられる人がいいなというのが僕にはあります。
──うまいけど匿名的な人を求めてるわけじゃない。それって実は、ものすごく上質なポップソングを作るということよりも、そういうところがKIRINJIの音楽の信頼の肝にもなってる気がするんです。
特にライブだと、人を見に来てるという部分は相当あるので。人選は結構悩みますよね。「KIRINJI」という名前でやる以上、それぞれが魅力的であってほしい。「堀込高樹」で出てくるんだったら、バックバンドでうまい人を揃えて、僕だけにピンが当たるように設定すればいいけど、そうじゃなく全体として見てほしいというのがあります。
──しかし、アルバムを通してこれほどの時事性があるのは初めてくらいじゃないですか?
そうですね。「こんなに次々とコロナの歌ができるんだ」って思いました。1曲目の“ただの風邪”もそうですけど、気になるタームが周りにいっぱいあるじゃないですか。それがあればいくらでも曲ができると思って。
──そういう側面を見ると、高樹さんは世が世ならフォークシンガーでもあったんじゃないかと思ってしまいます。「キリンジ」名義の時代から「時代を超越したエバーグリーンな」みたいな形容詞がクリシェのように言われることが多いですけど、高樹さんの曲はむしろ時代や私感にこだわっているような印象が見え隠れしてました。それが今回ははっきりと具体的に提示されているなと感じたんです。
実際に僕自身がモデルというわけではありませんが、生活の中から着想は得るし、僕が曲を書いていくわけなので、自分のパーソナリティは遠回しだとしても外に出ちゃいますね。
──“first call”もそういう曲ですよね。音楽業界では、人気のあるスタジオミュージシャンのことを「ファースト・コール(1番に電話がかかるので)」と言ったりしますけど、そういうことも含めた言葉遊びの曲と思わせておいて、曲の最後では実際に困っている友達に連絡をして助けようという行動に出る。ああいう義侠心みたいなものも、すごく“らしいな”と感じるところなんです。
でも、実際そうすると思うんですよ、友達がそんな状況にいたら。人付き合いって「あいつ、マジやばくね?」とか言いつつも、「ちょっと電話してみるか」みたいな感じじゃないですか。からかいつつも愛する、みたいな感じ。それが出せたらなと思って書いた曲です。
『crepuscular』全曲解説
KIRINJI – 『crepuscular』
M1:ただの風邪
ちょっとファンキーなポップスで、ベニー・シングス(BENNY SINGS)みたいな感じがいいなと思って作り始めたんです。途中からパッと景色が変わるように極端にリヴァーブをかけました。現実と夢の境目があそこにあるようなふうに伝わらないかなと思って。歌詞に関しては、息子が実際に熱を出したことがベースです。コロナ禍なので、いろいろ病院に当たっても「自分で発熱外来を探して行ってくれ」って言われてすったもんだがあり。結局コロナではなく“ただの風邪”だったのですが、この感じって日本中で繰り広げられているんだろうな、これはもう歌にするしかないなと思いました。
──サビでの手のひらが蝶に見える幻想とリヴァーブの重なり合い。あのふわっと浮き上がる感じが救いに思えて最高でした。しかし、もしお子さんがコロナだったら、額に手を触れることすらできなかったわけですもんね。
そうなんですよ。
M2:再会
もうずいぶん前に作った気分がします。自分の中ではミドルチューンというかMOR(※)というか、すごく素直に作りました。テンションをすごく上げる感じじゃないけど、メロディアスで、聴いてるうちに気持ちが上向きになってくるサウンドだと思っています。
──ずいぶん昔に作った気がするというのは、新生KIRINJIの曲として早くもクラシック化してるということでもあるのかも。
いやいや、そこまでじゃないですけど(笑)。この半年間くらいはアルバムでバタバタしていたので。
※ middle of the roadの略。音楽のジャンルにこだわらず、ポピュラーにアレンジしたものなど気楽に聴ける音楽を総称に使われる。
KIRINJI – 再会 Meeting Again
M3:first call
キャッチーな曲がほしいと思って作りました。シングルとして“薄明”は用意してありましたが、ちょっと渋いかないう気持ちもあり、もう少しTikTokでバズらせなきゃいけないなと(笑)。ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)の“Happy”、NiziUの“Make you happy”、少女時代の“Gee”みたいなビートが昔から好きだったなと思い返して、ああいうこじんまりしててキャッチーでかわいい曲が作りたいと思って作りました。でも、周りにTikTokやってる人が誰もいないんだよな(笑)。
M4:薄明 feat. Maika Loubté
──Maika Loubtéさんをフィーチャリングしたきっかけは?
“薄明”のデモテープを作りながら、ちょっと困ってたんですね。こういう耽美的な雰囲気の曲を自分で歌ってもどうなのかなという気持ちがあって。その矢先にラジオを聴いてたら、ちょうど彼女の曲が流れて、すごく気になったんです。この曲は女性が歌ったほうがいいとも思っていたし、最近は海外のリスナーもいるから多言語にしたかった。そしたら彼女はフランス語もできるマルチリンガルで、ピッタリだった。「(この曲に加えるとしたら)何語がいいですかね?」と聞いたら「これだったらフランス語じゃないですか」と答えてくれて。それでフランス語と日本語で歌ってもらいました。
──最初の接点がラジオだったとは。
自分のつながりで探したら、僕は本当に狭いので(笑)。みんな知り合いばっかりみたいなアルバムは嫌だなと思ったんです。
──最近の若い人の音源とかもよくチェックされていると聞きますが。
普段はサブスクリプションが多いですね。あれって聴き終わった後でも次々に紹介してくれるじゃないですか。「今週のニューリリース」とかも洋楽・邦楽どっちも聴きますね。ラジオも車で移動するときにはよく聴いています。車を運転しているときって、不思議な集中力が出るというか、妙な感覚の研ぎ澄まされ方があるんですよ。運転に集中しているんだけど、別の何かが働いてる。歌詞をパッと思いつくこともあるし、集中しながら考え事もできる。前作のYon Yon(“killer tune kills me”)もそうですけど、ラジオで耳にして「この人いいかも」って思うのはありますね。
──ちなみに、アルバム・タイトル『crepuscular』(“薄明薄暮性”)は、この曲のタイトルからの連想ですよね。
聞き慣れない感じがしますけど、80年代のベルギーに〈Crepuscule〉というレーベルがあって、中学生くらいの頃から言葉として知ってはいました。“薄明”だけだと英語では「twilight」とか「dawn」とかで、あんまり面白いと思わなかった。「薄明光線」という雲の切れ目から差し込む光のイメージも希望を感じさせていいなと思って調べたら、この1、2年くらいでそういう言葉を使った作品がいくつか出てきた。やっぱりこのコロナの時代には、人はこういう言葉に心情を託すんだなと思いました。そんな感じでいろいろ知恵を絞っているうちに「crepuscule」にそういう意味があったことを思い出して、英語の『crepuscular』でいこうとなりました。
──僕も〈Crepuscule〉のことは思い出しましたね。
たぶん、今回のアルバムのサウンドもあのレーベルの作品の感じと遠からずだと思います。
KIRINJI – 薄明 feat. Maika Loubté
M5:曖昧me
現行ラテン・ポップのプレイリストをいっときよく聴いていて、最近流行のリズムパターンを真似しようと思ったけど、あんまりそうならなかった。やってるうちにだんだんカエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)とかブラジルっぽくなってしまって。そうじゃなくて、アメリカに住んでる南米の人の音楽みたいにしたいんだけどな、と思いながら作ってましたね。
仮歌でサビに《俺 今 いくつだっけ》というフレーズが乗ったんですよ。それがあまりにハマりがよくて逃れられなくなってしまいました(笑)。加齢してくると自分の年齢がひとつふたつわからなくなってくるじゃないですか。『cherish』は2年前の作品だけど、去年出したように思うことがたびたびあったり。コロナ禍もあって、年が1年失われた感覚がある。それも《今 いくつだっけ》につながっています。
M6:気化猫
──よくこんな新語を思いつきましたよね。
「猫は液体」説というのがネット界隈では有名らしくて。それを歌にしようと思ったのですが、猫は液体だけだとつまんないなと思って。液体ということは、いつかは気化して蒸発するんだろうと展開しました。「死」ということもそうだし、昔の家猫って1年くらいどっか行ったと思ってたら、ある日突然帰ってきたみたいなパターンもありましたよね。あれも蒸発してた状態じゃないかということを思い浮かべたりしながら作りました。
M7 ブロッコロロマネスコ
──角銅真実さんのマリンバが印象的で、フランク・ザッパ(Frank Zappa)みたいなインスト曲ですよね。
マリンバが入っていて、変なインストだと、たいていザッパみたいと言われますよね(笑)。ステレオラブ(Stereolab)っぽい感じもあると思います。“爆ぜる心臓feat. Awich”の印象が強いので、その前にインストでブレイクがあるといいかなと思って作りました。
タイトルは野菜の名前です。ブロッコリーとカリフラワーの間くらいの野菜なんですよ。ブロッコリーは房が丸いですけど、ブロッコロロマネスコは三角で、そのひと房を取ると中にまた三角がある。三角がいっぱい集まった三角なんです。この曲は同じフレーズを何回も反復させてフラクタル構造をイメージしていたので、その構造がブロッコロロマネスコと似てるなと思ってこのタイトルにしました。あと、カタカナにしたときに、中心が穴埋めしなきゃいけないマスみたいに見えるのも面白いなと。
M8:爆ぜる心臓 feat. Awich
曲は先にできていたのですが、映画主題歌ということで誰かをフィーチャリングしてほしいというリクエストがありました。あの曲に歌メロを乗せると単なるハードロックになっちゃうけど、ラップだったらあんまり聴いたことのないものになるかなと思って。レコード会社に候補を出していただいて、その中から彼女にしました。
──「爆(は)ぜる」という言葉が古くて新鮮です。
僕の前に浦上想起くんが今年“爆ぜる色彩”という曲を出していて。でも、一応言っておくと、僕は去年この曲を作ってるので。浦上さんの音楽はすごくファンですけど、真似じゃないってことだけは伝えておきたいです(笑)。
──「爆ぜる」は内側から破裂するみたいな意味合いで、栗とかに使いますよね。
ポップコーンとかね。前にも歌詞で使ったことありますね。曲調がこうなったのは、大きいスクリーンでバーンとなったときにアイキャッチーというかイヤーキャッチーになるように意識しました。
KIRINJI – 爆ぜる心臓 feat. Awich (Exploding Heart)
M9:知らない人
これは、アルバムを終わらせるために書いた曲です。初めは、ピアノとシンセだけだとジェイムス・ブレイク(James Blake)みたいになっちゃうなと思ったりもしたのですが、ギターとか他の楽器を入れたりしたら、やっぱり邪魔だなと思っていろんなものを削いでいって。結局、ピアノとシンセベースと歌だけになりました。この曲は唯一、詞先です。僕は、詞先のほうができるのが早いんですよ。
──そうなんですか。
メロディって可能性が無限じゃないですか。詞先だったら、ある程度歌いたいことを限定できる。その言葉数だけ音符が要求されるということでもあるし。でも、アルバムの最後に入れようと思って歌詞から書いたことは、あんまりなかったかもしれません。この曲の歌詞やサウンドでの「現実感がない」という感覚は、アルバムの通奏低音みたいな感じがしていたんです。子どものときに、親や兄弟の振る舞いの中に、自分の知ってるパーソナリティと違う側面が見えることってあると思うんですよ。「こんなお母さん知らない」みたいな。そういうとき、不安に感じたり、怖くなったりしますよね。その感覚をわりと覚えていて、それを歌詞にまとめました。知ってるはずだけど知らない感じになってるというのは、他の曲の歌詞とも相性がいい。“曖昧me”の時間が失われる感じとか。
──アルバム解説を振り返って、つくづく思いますけど、バンドになっても、ソロになっても、リリースのペース、落ちませんもんね。
そこは意識してやっています。本当はソロ・プロジェクトになったときに「じっくり腰を据えて」とも考えたのですが、「いや、腰を据えたら立ち上がれなくなるぞ」と思って(笑)。「駄作でもいいから出そう」みたいに考えることができたら、自然と勢いはついてくるんですよ。「今回はダメかもしれないけど次はいいかもしれないじゃん」みたいなね。焼き物の窯ってあるじゃないですか。あれって一回火を通すと全体に熱を行き渡らせるためにすごく時間がかかる。それは創作の意欲にも似ていて、一回クールダウンしちゃうと次に向かうのにすごくエネルギーがいるんです。だから、常に出しておくというのはわりと重要だと思います。
PROFILE
KIRINJI
1996 年堀込高樹、泰行の実兄弟で「キリンジ」を結成。 1997 年のインディーズデビューを経て、翌年メジャー・デビュー。
2013 年堀込泰行がキリンジを脱退。同年に新メンバー5 人を迎え バンド編成「KIRINJI」として再始動。
2021 年からは堀込高樹のソロ・プロジェクト「KIRINJI」として活動中。
自身の作品の他、様々なアーティストへの楽曲提供やドラマ、映画の BGM、 テーマソング制作等、幅広い分野で活躍している。
音楽への深い造詣に裏打ちされたジャンルにとらわれない曲作り、 アップデートし続けるサウンドプロダクション、ユニークな視点から繰り出される詞世界は、 音楽ファンのみならず多くのミュージシャンや著名人からも支持を得続けている。
RELEASE INFORMATION
crepuscular
2021年12月8日(水)発売
※デジタルは12月3日(金)先行リリース
初回限定盤(SHM-CD+DVD)UCCJ-9230:¥4,070(tax incl.)
通常盤(SHM-CD)UCCJ-2197:¥3,300(tax incl.)
発売・販売:ユニバーサル ミュージック
【収録曲】
ただの風邪
再会
first call
薄明 feat. Maika Loubté
曖昧me
気化猫
ブロッコロロマネスコ
爆ぜる心臓 feat. Awich
知らない人
初回限定盤DVD
〈Solo Live from KIRINJI ONLINE SAIKAI〉
ローズマリー、ティートゥリー
愛のCoda
クレゾールの魔法
再会
EVENT INFORMATION
KIRINJI TOUR 2021
2021年12月7日(火)なんば Hatch
2021年12月15日(水) Zepp DiverCity(TOKYO)
2021年12月16日(木) Zepp DiverCity(TOKYO)
OPEN 18:00/START 19:00