――寂しいですが、ツーリストもクラブで音楽を聴かないで女性をナンパしている光景を見る事は多々ありますよね。

勿論、出会いもあれば嬉しいのは確かですが、僕が基本ナイトクラブで求めているのは、「音楽を中心として、お店が醸し出すスリルやカッティングエッジな部分」。これはファッションでも同じで、自分が格好いいと思う音楽に浸れて、格好いいファッションを着飾って表現する場所として、クラブは最適だと思うんです。そんな人達が、いい音と美味しいお酒でいい感じになって、出会いもあり、粋に楽しんで頂けるのは大歓迎。そんな人達が集まれる場所を作るためにもDJをしています。

それに、海外の人が国内のクラブに来た時に、「日本にも音楽やファッション、社交会でも世界をリードしている場所があるんだ!」って感じて貰える箱を、DJとして作って行きたい。というか、「日本にもひとり位はそういうDJがいないと」っていう意識も持ってやっています。「日本は先進国だけど、やっぱり文化的には遅れているアジアの国のひとつだね」なんて思われたら最悪ですよね。

――海外で流行したクラブミュージックが国内でも流行り始める時期には、そういう兆候はありませんよね。例えば90年代ヨーロッパを中心にトランスが流行して、国内にもその波が訪れた時には、年数を重ねるごとにクラブから離れた場所でも注目を集め、音楽以外の楽しみを求めてくる人は多くなりました。またEDMなどでも、今の時代性からか海外の情報がより早く入ってくるので、カルチャーはすごい速度でクラブという枠を超えた流行となり、音楽だけではない楽しみを求めてくる人はさらに増えましたね。楽しみ方は人それぞれなので否定ではないですが。

流行となれば、それは商業文化になるので変わっていきます。2005年頃の、エリック・プリッズなどのアーティスト達に代表されるような初期のEDMの楽曲はカッコ良かったですし、プログレッシヴハウスと混ぜてかけていた時期も結構ありました。EDMの高揚感はLATE90’sのUSハードハウスに近い所もあるので全否定はしてないですし、しっかりと試聴もしていますが、今では月に1、2曲位しかいいと思う曲が無くて、PCのライブラリーに入っているその曲も残念ながら使う機会が全然ありません。


でも、今の流行している商業としての音楽と、これからを考えているカルチャーとしての音楽を比べても仕方ないと思います。例えば、ファストファッションとコム・デ・ギャルソンを比べた時に、「ファストファッションの方が売り上げ多いじゃん!」なんて風に比べても、勝負をしているベクトルが全く違うので比べても意味がないですよね。それと、クラブの特色やカルチャー、「ここに行けばこんな空間を味わえる」そういう独自の文化を持っている、個性のあるナイトクラブが減ってきたという感じもあります。そんな場所でこそ新しいファッションや音楽、違うジャンルのDJにも出会えたりするんですけどね。

――YELLOWがあった頃には何も決めていなくても、「とりあえず行けば格好いい音楽流しているだろうな。」そんな風に突発的に遊びに行きましたね。

そういうのが理想ですね。自分のお客さんと他のDJのお客さん。それと、クラブのカラーが好きで自然に集まるお客さん。特にYELLOWは箱付きのお客さんが沢山居たのが良かったですね。自分の理想は、自分のお客さん4割、お店の魅力で来ているお客さんが6割以上。自分を目当に来ているお客さんだけだと、自由に選曲出来ますが、予定調和の部分が多くなり、ルーティーンにハマりがちです。逆に「自分のお客さんじゃ無い人をどう魅了するか?」それって、自分のスキルを磨けるというか、腕試し的な感じでプレイをした結果、上手く行った時の満足感って大きいですよね。

DJとして30年、音楽の最前線で生きる。KO KIMURAが歩む軌跡 kk30_q_1_12-1

DJしてて楽しいと、自然に笑顔がこぼれます。

今だと箱付きのお客さんが圧倒的に減って、パーティーはプレイするDJ周りのお客さんばかり。だから自分のやっている音楽を手が届く範囲で流行らせる事は出来ても、別ジャンルの人に拡散しづらい。結果的に自身に興味を持ってくれる人の数を伸ばす事が難しくなる。特に最近はDJの内容ではなく集客力が一番に捉えられがちになってきたから、僕はある時からそういう風潮から一歩身を引きました。僕も少しでも沢山のお客さんに自分のプレイを聴いて欲しいのでSNSやWebで告知はするけど、パーティー前にひとりひとりメッセージを送ったり、個別で電話をするのは無理です(笑)。僕がやりたいのは、「現場でお客さんを見て、本当に格好良い曲を1番生かせる順番でかけて、それが解る人に届ける。」という事で、人気者になりたいわけじゃないんです。若手DJにとっては、集客だけが仕事のようになってしまって疲れている子もいるので、見ていると辛いですよね。


本来のDJブースって、格好良くて素晴らしい選曲が出来るスキルをDJが魅せて、それを「フロアの人が感じて反応して、それをDJが受け取って、相乗効果でより一層素晴らしい選曲が出来るようになっていくという場所だったのに、最近は選曲が二の次。「ガンガン盛り上げて目立てば良い」という風に変わってきてしまった印象があります。別にそういうのが好きで遊びに行かれる方も多いと思うので、それはそれで構わないんですけどね。少なくとも僕が遊びに行きたいのは、自己表現をバシバシに感じる場所だし、DJとしてやりたいプレイも崖ギリギリやナイフの刃の上を歩く様な、「ひとつ間違えば落ちてしまう=お客さんが踊らなくなってしまう。」そういうスリルを味わえる緊張感のあるDJ。勿論、朝までずっと緊張感しかない音だけだと疲れるので、時間と、お客さんの疲れ方に合わせてスイーツの様な甘い選曲も、緊張感の後にご褒美としてプレイもします。やはり起承転結のあるDJの組み立てはディナーコースの組み立てと同じだと思います。

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